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女の子にモテるために、樹はせっせと仕事する

「早く冒険者ランクを上げないとな……」


 樹は買ってきた朝食を食べながら呟いた。


『いきなりなんです? 名誉でも欲しいのですか?』


 唐突な樹に、ナレーションが疑問を投げ掛ける。

 冒険者ランクが高いのは、社会的地位も高くなることである。

 多くの仕事をこなし、社会貢献をした証拠なのだから当然だ。


「名誉はどうでもいい。ただ、ランクが高いほうが女の子にモテるだろ?」


 社会的地位があるので、当然のように女性が寄ってくることになる。樹はモテモテになる自分を想像しているのか、嬉しそうに笑っている。


『結婚したいなら、船で仲良くなった女性ならすぐに結婚してくれますよ?』


「オレは結婚にいいイメージがない。ネットの情報で軽くトラウマになってるんだ。ただモテたいだけだ。結婚は慎重に慎重を重ねて、もう10個ぐらい重ねて考えたい」


 樹は妻の不倫されたなどの記事を見て、結婚に対して前向きではない。

 しかし女の子は好きなので、モテるためには痛い思いも気にしない。これからも強敵に向かっていくだろう。


『結婚願望はあるんですね……』


「そりゃ~、可愛い奥さんがいたら幸せだ。不倫とかしない奥さんならな」


『この国では女性の浮気などに厳しいですよ。鑑定なんてできないので、誰の子どもか分からないような女性には、何の権利も主張できなくなりますから』


 財産の請求どころか、妻としてすら認められなくなり、子どもの認知もして貰えなくなる。

 女性が生涯できる仕事が少ない世界で、子どもを抱えて放り出されるのは、命に関わることだ。

 そんな状態で浮気や不倫をする女性は、極端に少ない。


「それなら安心か? 少し前向きに結婚を考えてみようかな」


『単純ですね。男性にもそれなりに責任はありますよ?』


 女性が妊娠した場合、その女性が他の男性と関係を持っていないと認められれば、女性側が望む通りにしなければならない。

 結婚したいと言われれば結婚の義務があるし、慰謝料を請求されれば払わなければならない。

 結婚しなくても、養育費や生活費を請求されれば、常識的な金額なら払わなければならないのだ。


「女の子を大切にするのは当たり前だ。手を出したなら責任は持たないとな。それが男のプライドってもんだ」


 樹は女性が好きなので、恋人や妻は大事にするつもりである。

 というか、普通の女性でも大事にするのが当たり前なのに、恋人や妻を大事にしない男は、樹にとって理解不能な人種なのだ。


「とにかくモテるために頑張って、その中から最高の女の子を選ぶぞ!」


 この世界では一夫多妻制なのだから、1人に決める必要はないのだが、樹はまだ知らない。

 だから結婚に失敗しないように慎重になっている。


「結婚には愛がないとな。愛もないのに一生を共に生きるのは苦痛だ」


『チャラいわりに真面目ですね』


「オレは女体だけが好きなんじゃない。女性そのものが好きだから大事にするんだ」


 なので樹は、付き合っていない女性とは肉体関係を持たない。女好きではあるが意外に純粋だった。


「そして最高の女性に愛されるには、自分を高めていく必要があるんだ。分かったな?」


『理解しましたけど……まずは食事をポロポロこぼすのを直して欲しいですね』


 樹は自分の価値観を告げるのに熱が入り、パンくずをこぼしまくっていた。


「すまんすまん。つい夢中になった。すぐ片付けるから怒るな」


 食事を終えて掃除をしたあと、樹は冒険者ギルドに向かった。

 潮風に少しウンザリしながら歩く。道行く女性を見るのに余念がない。

 特に獣人の女性を見て興味を示す。前に居たマリスハイト王国では、王の方針で亜人の扱いが悪かったので、数が少なかったのだ。

 この国では耳や尻尾を隠す必要がないので、樹はピコピコ揺れる耳と尻尾を楽しそうに見ていた。


「お嬢さん。冒険者ギルドの場所を教えて貰えるかな?」


『なんで幼女に聞くんです?』


 樹が道を尋ねたのは、道にしゃがみこんで、落書きをしていた5歳くらいの幼女だった。


「ほえ? 今のお姉ちゃんの声は、どこから聞こえるの?」


「姿は見えないんだ。面白いだろ?」


「うん! ヒマだから遊ぼ!」


 道を尋ねたのになぜか幼女と遊ぶ樹。

 この男には集中力がないのか、女性に集中しすぎて忘れるのか、すでにギルドのことは頭にない。


『なんで遊んでるんです? 脈絡がないと思いますが?』


「子どもなんだから仕方ないだろ? 地球でもきちんと会話が成立する子どものほうが珍しいんじゃないか?」


 この国でも、貧しい家庭の子どもは教育も受けられないので、地球よりは言語能力が発達していない。敬語を知らない大人もいるくらいだ。


「寂しそうな子どもは放っておけんさ。少し遊んでいくくらいでガタガタ言うな」


 木箱の中に隠れた子どもを捜し出し、今度は樹が隠れた。かなり分かりやすい場所に隠れていたが。さすがに子ども相手に本気になったりはしない。


 しばらく子どもと遊んであげた樹は、ようやく冒険者ギルドに到着した。

 この時間では冒険者の姿はなく、たいした依頼も残っていなかったが、朝と呼ぶには遅く、昼と言うには早い時間帯に、緊急の依頼が入ったらしく、ギルド職員が樹のランクを聞いて勧めてきた。


「どうでしょう? すでに兵士が討伐に行ったそうなのですが、倒せない相手なので街に入らないように囲んでいるだけなのです」


 疲れたような男性職員に詳しい事情を聞く。


「サハギンか。魚の値段が上がると困るな」


 サハギンは半魚人だ。おもに魚を食べるので、漁師たちが獲ってきた魚を目当てに、港にやってきたそうだ。

 樹は魚も好きなので、値段が上がることを懸念している。変なところで主婦みたいな心配をする奴である。


「分かりました。港に行ってきます」


「ありがとうございます!」


 心なしか明るい表情になった職員に見送られ、樹は港に向かった。

 樹が到着すると、兵士が港を囲んでいた。50人ほどしかいない。

 サハギンの数は300匹はいるだろうか、兵士が手を出せないのをいいことに、魚を麺類のようにスルスル飲み込んでいく。


 ギルド職員は兵士と手を組むのを前提に頼んでいたのだが、戦いにおいて非常識な樹は、自分1人で戦うつもりだった。


「ちょっと通してください。冒険者ギルドから派遣された冒険者です。オレが倒すんで、街に行かないようにだけしてください」


「冒険者の方ですか? お1人で大丈夫ですか?」


「任せてください。あのくらいの数なら問題ありません」


 ギャラリーからどよめきが起こる。

 樹は簡単に言うが、魔物の巣など、数百匹いる場合、普通は1人で戦わない。

 兵士が止める間もなしに、樹はサハギンに銃を撃った。


 眉間を撃ち抜かれて、次々と倒れていくサハギン。民衆は不思議な魔法だと騒いだ。

 普通の魔法は一般人にも見えるスピードだが、拳銃の弾は見えないので、不思議に思うのも無理はない。


「すげえ! 音がしたらサハギンが倒れていく」


「しかも両手で魔法を使ってるぞ! 名のある魔法使いに違いない!」


 ただ2つの拳銃を撃っているだけだが、両手から魔法を放ったと勘違いされていた。


「近くで見るとキモいな……」


 撃ちながら近付いた樹は、ヌメッとしたサハギンに嫌悪感を持った。

 目も飛び出してギョロギョロし、鋭い爪で樹に襲い掛かる。女性なら悲鳴を上げそうだ。


 爪を躱しながら銃で眉間を撃つ。

 銃撃が間に合わない時は、蹴りなどで倒してから撃ち抜いた。

 樹の苛烈な戦いを、民衆は息を飲んで観戦していた。

 女性も樹の応援をしているので、樹のテンションは上がりっぱなしだった。


「オレに近付くと火傷じゃすまんぜ?」


 変なテンションで決め台詞も吐いた。こちらの世界の女性には受けていたが。

 樹が格好つけるたびに、女性の黄色い歓声が上がり、さらに樹はノリノリに。

 10分ほどで全滅させた樹は、キャーキャー騒いでいた女性に手を振り、兵士の所へ戻っていった。

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