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港町マルキアに到着

 マーレイ王国に向かう船の上、樹は今日も女の子たちに囲まれていた。

 最初はモテて嬉しいな、と喜んでいた樹だったが、女の子たちの必死な様子に、なんかおかしいなと思い始めていた。


 それもそのはず。この世界で行き遅れるとどうなるか、彼女たちは知っている。

 社会保障などない世界なので、行き遅れることは恐怖以外の何物でもない。


 平民の女の子は常に将来が不安な状態だ。なぜなら女性の仕事は少ない。

 ウェイトレスや受付などはまだいい。それなりに枠がある。

 しかし、それ以外で需要の多い職業となると娼婦などしかなくなる。


 だからこそ平民の女の子は必死になる。命に直結するからだ。

 大抵の仕事に若さが必要であり、結婚にも出産や子育てなど若さが重要なので、女の子たちはみんな焦るのも仕方ない。


 貴族や商人の娘などは、生活の心配は少ない。しかし家や血を繋ぐという役割があるので、それができない娘の扱いは悪くなる。

 貴族の場合も商人の場合も、家を繁栄させるための存在であることが多く、行き遅れると問題のある娘だと思われてしまうのだ。


 家族にも厄介者と見られたり、よその家にも疫病神のように思われてしまいかねない。

 結婚できないのは、病気か本人の性格に問題があるか、あるいは家を潰しそうな娘と思われてしまう。

 そうなると更に嫁の貰い手がなくなり、行き遅れスパイラルに(おちい)り、マトモな結婚など夢になってしまうのだ。


 それは平民の女の子でも変わらず、行き遅れるには何かしらの問題があると思われて敬遠されるのだ。それは必死にもなるだろう。

 まだこちらの世界に詳しくなく、それを理解していない樹からすれば、女の子たちの勢いに恐怖を感じるのだった。


 大体は10代の内に結婚できないと、戦える冒険者の女の子などでなければ、かなり焦ることになる。

 貴族だと15~16歳で結婚している娘も多い。そのためか樹に寄ってきていたのは、若い貴族娘が多かった。

 若いのに何を焦っているのかと思っている樹とは、価値観が合わないだろう。早くこの世界の事情を理解したほうがいい。


 やはり危険な世界なので、強い男の需要は高い。強いだけなら護衛に雇えばいいだけだが、樹のように乱暴でなく、見た目も清潔感のある男は結婚相手として望まれやすい。


 親からすれば、力がある男は成り上がりやすく、そうでなくとも稼ぎはいい。

 商人でも貴族でも強い婿は大歓迎なのである。女の子からしても、自分を守ってくれる男は好ましい。

 そして冒険者らしくない丁寧な物腰で、毎日清潔にしている樹は、強いわりに暴力の匂いがしないため、女の子たちを夢中にしていた。


 親からも結婚することによるメリットなどを説かれ、少々ウンザリしていた樹は、子どもたちといることが多くなった。

 必死に出し抜こうとアレコレしてくる女の子たちの勢いに疲れていた樹は、お兄ちゃんのお嫁さんになる! という無邪気な子どもたちに癒されていた。


 その子ども好きなところを見て、女の子たちは更に結婚相手として安心に思う。

 顔もよく、清潔で優しく、そして圧倒的に強い樹は、この世界では結婚相手として最高なのだった。


 そんな毎日を過ごしていると、子どもたちが陸地が見えたと騒ぎ出した。

 樹の部屋に子どもたちが呼びにきたので、樹も甲板に顔を出す。

 女の子たちも樹に寄り添い、甲板から陸地と、そこに広がる港町を眺めた。


 多くの船が港に繋がれ、漁師たちが忙しく働いている。

 魚を買いに来る主婦などもいる。樹は船での食事に飽きていたので、新鮮な刺身が食べたかった。


「イツキ様は街に着いたら、どうなさいますの?」


「家を借りて冒険者として暮らすつもりです。海賊退治も儲かりそうだ」


 今回襲ってきた海賊たちのアジトが近くにあるだろうと考え、取り調べでアジトが判明したら、退治に行こうと考えていた。


「イツキさんなら大丈夫だね! でも気を付けてね?」


「オレなら心配はいらないさ。海賊ごときにやられることはないよ」


 不死身だし、と内心で付け加えた。

 街の情報を女の子たちに聞いたりしながら、到着を待つ。数時間ほどで港に着いた。


 樹は船を降りると、さっそく浜辺のほうに向かった。女の子たちも付いて来ている。


「水着の女の子がいっぱいでいい場所だ」


 樹がデレデレしていると、女の子たちが樹に抱き付いた。


「それならご一緒に海水浴でもいかがですか?」


「私も可愛い水着持ってます! お父様のお店でも扱ってるんですよ」


「時間がある時にぜひ行こう。オレは家も探さないといけないし」


 遊ぶ約束をすると、樹は女の子たちと別れ、船で知り合った貴族に紹介して貰った不動産屋に向かった。

 宿に泊まるより、部屋を借りたほうが安上がりだからだ。

 保証人のいない者は、何ヵ月かの家賃を先に払わないといけないため、資金のない新人冒険者には利用しにくい。


 不動産屋で貴族からの紹介状を見せると、親切に応対される。

 樹の希望は海辺の家だった。女の子の水着姿がいつも見えそうという理由だ。

 樹の希望に合致する家を見せて貰い、1人で住むには少し広い家を選んだ。

 この家が1番浜辺に近いという理由だけで選んだ樹は、早くしっかり者の配偶者を見つけたほうがいいだろう。


 家具なども付いているため、すぐに住むことができた。

 樹はさっそく2階の部屋から、浜辺を見てデレデレしていた。


「やっぱり女の子はいいな。心がやすらぐ」


『他にすることがあるのでは?』


「女の子以上に大事なことはオレにはない! 世界が滅びるその瞬間まで女の子とイチャイチャするのが夢だ」


 完全無欠の女好きだ。社会人のくせに引っ越し後にするべきことをしないで、水着の女の子たちを、飽きることなく眺めていた。



 水着の女の子がいなくなるまで眺めていた樹は、家の近くに何があるかを確認していく。

 夕方なので夕飯の仕度をする匂いがして、樹の腹を刺激した。

 腹が盛大に鳴り出した樹は、食事のできそうな酒場に入った。


 まだ夕方だが、食事もできるため客は多い。ウェイトレスの女性に魚料理を注文し、チップを払う。

 こういった店でのウェイトレスの主な収入源はチップだ。基本給は少ない。

 だからか、ウェイトレスはチップをくれる客を、熱心に世話する。また来た時にチップを貰うためだ。


「お兄さん、チップを弾んでくれたから、お尻とか触っていいよ」


 樹の耳元で囁く。お兄さんと言っているが樹より年上だ。

 樹はせっかくなので、銀貨を胸の谷間に入れてみた。日本ではしないことをしてみたかったのだろう。


「銀貨だ~! 上の部屋に行く?」


「それは遠慮しておこう。たんに胸の谷間にお金を入れてみたかっただけだ」


 残念そうにするウェイトレスに、食事を持ってきてくれるように頼み、樹は店内を見回す。

 あまり上品な客はいない店だが、日本では味わったことのない雰囲気を、樹は気に入った。

 吐くまで呑む男がいたかと思えば、静かに呑む女性もいる。その女性にちょっかいを掛ける者も。


 樹も少しだけ酒を呑みながら、食事を楽しんだ。ウェイトレスが何度もお尻を触られに来たから楽しいわけではない。それも理由の1つだが。


「食事の旨い店だったな。ウェイトレスもサービスがいいし」


『チップに銀貨を出せば当然でしょうね。お金があるからと無駄遣いをするのは……』


 銀貨は日本円にして1万円ほどの価値がある。安酒場のウェイトレスにすれば、1日で稼ぐ金額より多かった。


「女の子に使うのは無駄じゃないのさ。オレにとってはな」


『樹は渋い声で言ったが、鼻の下が伸びているので格好が付かなかった』


「口の悪い奴だな」


 2人は夜の薄暗い道を、仲良く喧嘩しながら帰っていった。

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