海賊船
轟音が鳴り響く。海賊船から攻撃魔法が飛んできたのだ。だが、船の護衛兵が防御魔法で防いだ。障壁に当たり、炎を撒き散らした。
護衛の数は30人と少ないが、それなりに精鋭である。小さな海賊団なら負けることはないだろう。
しかし近付いてくる海賊船を見ると、かなりの大きさである。
樹が乗る船の3分の1程度の大きさだが、客船が大き過ぎるだけだ。海賊船も充分に大きい。事実、海賊船には200人ほどの海賊が乗っている。
「防御魔法は便利だな。オレにも使えるだろうか?」
海賊船の大きさを見て、ざわめいている護衛兵たちをよそに、樹は落ち着いたものだった。
樹は自分なら海賊に負けることはないと自信を持っているので、当然の反応だ。
『魔力はありますし、樹にも使えますよ。攻撃は樹の武器のほうが便利だと思いますが』
樹にもそれは分かっていたが、魔法を使ってみたかったのだ。
樹の武器も魔力で構成されているのだから、魔法を使っていると言えるが、樹は科学の力だと思っていたので、魔法を使っている実感がない。
息をするように使っているので、魔法を学んだらすぐに使えるはずだ。樹が実感できれば使い方を理解できるだろう。
海賊船からの攻撃魔法が収まる隙を突いて、客船の護衛兵からも攻撃魔法を撃ち返す。
海賊は防御魔法など覚えていないのか、攻撃魔法で撃ち落としていた。
魔法使いの数が違うのだから、客船の攻撃魔法は全て撃ち落とされ、海賊船の攻撃魔法が何発も命中していた。
明らかに攻撃する余裕などない。護衛兵たちは防戦一方だった。
「くそっ! 逃げ切れない!」
「追い付かれるぞ!」
魔力も無尽蔵ではないのだ。そのうち防御すらできなくなるだろう。
そうなるよりは、白兵戦を仕掛けたほうがいいと船長が判断を下す。
その命令はすぐさま伝達され、客船の向きが変わり、海賊船に向かっていった。
客船の進路が変わったのを見て、海賊たちがいきり立って武器を構えた。
客船の護衛兵たちも武器を構えて突入の瞬間を待つ。
樹はバズーカを出し、海賊船へ向けて放った。海賊船のマストがへし折れ、海賊に向けて倒れていく。
これは樹の殺意の有る無しに関係なく、潰されれば終わりだろう。
慌てて避けようとする海賊たちだが、客船が衝突した衝撃で転び、マストに何人も潰された。
「ちょっとグロいが、悪く思うなよ。これは戦いなんだから」
そう言い放ち、真っ先に樹が乗り込んでいく。
高低差のある客船から海賊船に飛び降りると、無事だった海賊たちが殺到してきた。
樹は恐れることなく海賊に肉薄する。樹に接近されて、武器が上手く振るえない海賊たちは、樹の拳を鳩尾に受けて、胃液と血を吐きながら崩れ落ちた。
「てめえらっ! たった1人を相手に、何やってんだ!」
頭目らしき男が怒鳴り散らす。
樹を無視し、鉤付きロープを投げて乗り込もうとする海賊は、護衛兵たちがロープを切って対応していた。
「お客様! 危険です! お戻りください!」
護衛兵の1人が少しずつ斬られている樹に声を掛けた。
「オレのことは気にしなくて構わない! 倒すまで持ちこたえてくれ!」
まとわりつくほどに接近している樹に対して、海賊たちは充分な間合いが取れない。
そのため、海賊たちの攻撃は、たいした威力を発揮できず、樹にかすり傷しか与えられなかった。
ダメージを受けてもすぐに回復する樹は、どうせ攻撃をくらうならと、あえて接近する戦い方を選んだ。
結果、大きな傷を受けることなく、樹の動きは止まることがなかった。
間合いが取れず、満足に武器も振るえない海賊たちは、樹の怪力を受けて倒れていった。
「なんなんだ、こいつは!」
「怪我しても怯まねえ!」
「もう嫌だ、こいつ! 不死身かよ!」
切っても突いても自分たちに向かってくる樹を見て、海賊たちは恐怖を感じ始めた。
「お前たちじゃオレは倒せないぜ? 降伏するなら痛い目に遇わなくてすむぞ!」
降伏しろと言いつつ、樹の手は止まらない。恐怖で体がこわばる海賊は優先的に倒される。樹はチャンスを逃すほど甘くはなかった。
というか、樹もわざわざ痛い思いはしたくないので、ラクに倒せる時に倒しておきたいのだ。武器を捨てない限り、樹の手は止まらないだろう。
『本当に不死身の肉体は理不尽ですね。戦い方はまだ下手なのに、この人数を圧倒できるのですから』
突然聞こえた声に、さらに怯える海賊。樹はラッキーだと思いながら殴り倒していった。
「待ってくれ! 降伏――ぶべ!」
「降伏なら武器を捨ててからするんだな。命乞いは聞かないぜ」
武器を握ったまま降伏を告げようとする海賊のアゴを、樹は容赦なく蹴り上げた。
血と折れた歯を吐き出す味方を目の当たりにし、海賊たちは震え上がった。
当たり所が悪ければ死ぬような威力だ。そして樹の戦い方はぎこちない。
パワーのある素人は加減も下手なので、運が悪ければ死ぬ。そのことに気付いた海賊から、武器を捨てていった。
「お、俺も降――ぐはあっ!」
降伏が遅い海賊は憐れだった。仲間からも憐憫の視線を向けられるほど、酷い状態になっている。
これから先の人生、死刑となって短いかも知れないが、面白い顔で生きていくことだろう。
「とにかく降参だ! 運がよければ強制労働ですむかも知れねえのに、歪んだ顔で生きたくねえ!」
頭目がすでにボコボコにされていたので、降伏するのが遅く、200人の内、163人もの海賊が倒れていた。
やはり上に立つ者が戦場で目立つべきではない。頭目らしき主張をしたせいで、かなり早い段階で樹にボコられていた。
そのせいで指揮する者がいなくなり、意思の統一が遅くなった。完全にアホである。まるでモブキャラのようなやられっぷりであった。
「よし。このへんで許してやろう。おとなしく捕まるんだぞ?」
「分かってるよ! ゾンビみたいなタフな奴と殴り合いなんてしたくねえからな!」
樹が睨みを利かせている間に、客船の護衛兵たちがロープで降りてきた。
すぐさま捕縛されて、海賊船の船倉に押し込まれていった。このまま海賊船を曳航する。
襲うために出掛けたために、宝は載っていなかったので、樹の報酬は討伐報酬と海賊船の売却益だけになるだろう。マストが壊れているので値引きされるが。
「イツキ様。お客様に危険な真似をさせてしまい、申し訳ございませんでした。討伐報酬しか出ないのも申し訳ないので、上に掛け合ってみます」
客と船を守って貰ったうえに、一等船室に泊まっている樹だ。変な噂が立つと商人としても困るだろう。船長の判断ももっともだった。
樹はもともと言い触らしたりするつもりはなかったが、口止め料を払うと言っているのだと解釈した。
「受け取ったほうが安心なら受け取りますが、別に言い触らしたりはしませんよ?」
「バレてしまうのは確実ですから、報酬を払わないとまずいのです」
客に守って貰ったこと以上に、報酬を払わないことが問題だという理由に、樹は納得した。
やはりというか、見ていた客がいたので、樹が倒したことはバレた。
「イツキさん、カッコいいです!」
「私のお部屋でお話しいたしましょう?」
「お金持ちのお嬢様に負けるか~。イツキさん。エッチなことでもしますから、私とお話ししてくださいっ!」
ご令嬢から平民の女の子まで、樹に寄ってきて秋波を送る。
商人や貴族からも、専属の護衛として雇いたいと話があったが、樹は丁重に断り、女の子たちと仲良くしていた。
あと1週間ほどで、マーレイ王国の港町、マルキアへと到着する。
樹は女の子と仲良くするのに忙しくなり、1週間など気にならなくなっていた。




