ずうっと
本日は王宮の庭園の木陰で。
レオン王子は満足そうに膝枕されていた。
本当にデカくなっちゃったのね。
ミラはレオンを見下ろして思う。
家庭教師をしていたときも、膝枕をせがまれた。
膝枕して子守唄を歌うには大きすぎる子供だったが、甘えん坊の弟のようにも感じ、少し可愛いく思えた。
しかし、これでは可愛い弟にはみえないわ。
十二分にデカくなったレオンは黙っていれば、年上のようにみえる。
ミラの膝の上で幸せそうにまどろむ男は、ミラの知らない男だった。
6年の月日をちょっと寂しく思う。
くせのように、そっとレオンの頭に手をのせ、小さな声で子守唄を歌う。
異国の歌詞は今は亡き母親が教えてくれた。
歌い終わりレオンを見下ろすとレオンはじっとミラをみていた。
「おきていたの?」
眠ってしまったと思っていたのに。
レオンは微笑んだ。
「いつも、寝たふりをして起きていた。いつもミラの歌を聞いていた。ミラが大好きだ。ミラの歌も、大好き」
レオンは起き上がるとミラをぎゅうと抱きしめた。
苦しい。
伯母様のぎゅうも苦しかった。
伯母様もよく、ぎゅうぎゅう抱きしめてくれた。
伯母様の場合、腹出身のお肉がお胸に寄せられているため、そこに抱きしめられると、窒息しそうになる。
でもレオンは、ちょっと違う。
広く厚い胸板。力強い腕に抱きしめられると、窒息はしないけれど、やっぱり苦しい。
なんだか、大人になったレオンにちょっとどきどきする。
「あー可愛い。よかった。本当によかった。デートの邪魔しまくってよかった。お見合いつぶしてよかった。魔術修行がんばってよかった。あー幸せ」
「・・・・・」
口をひらけば、あいかわらずだったが。
空を雲がゆっくりと流れてゆく。
レオンはちゅ、とミラにキスした。
ミラは真っ赤になってうつむく。
6年前もレオンからキスされた。
キスをせがまれて、未来の旦那様にとってあるからダメと断ると、強引にキスをしてきて。
思いっきり得意げな顔をしていた。
「ミラからもキスしてよ」
子供のようにせがむレオン。
ミラは戸惑ったが、意を決して、ちゅ、とお返しのキスをした。
「あー、幸せ」
感極まった顔でレオンはいう。
大好きなミラと対等な大人となって。
デートして。キスされて。
「もう時間が止まっちゃえばいい」
レオンの言葉にミラはギョッとする。
「ええっ?」
もう、時間が止まるのはゴメンです!!
ミラの慌てぶりに気が付いて、レオンは笑い出す。
ごちん、とレオンはミラの額に自分の額をあて、言い直した。
「ずうっと、この幸せな時間が続きますように」
おしまい