ごめんね、未来を見てしまった[2]
「―はい、卯花からは以上です。」
『おけ。じゃ次鹿野の提案で。』
『はい。では鹿野から、工期管理表の自動化について提案させていただきます。』
マイクを切って、緊張した心を鎮めるためにコーヒーを一口飲んだ。
顔の見えないオンラインをいいことに、ノーメイク、適当シャワー後の濡髪スタイルでミーティングに参加している。
朝の散歩が思っていた以上に長引き、始業ギリギリになってしまったのだ。
議事録当番のためノートに記録を打ち込みながら、発表している鹿野ちゃんの的を得た内容、鋭い指摘に舌を巻く。
鹿野ちゃんは私と同い年の新卒入社組だが、研修チームが別だったので配属されるまで彼女と接点はなかった。
鹿野ちゃんは優秀だ。
他部署やクライアントとのやり取りは苦手だが、システム構築のための着眼点の良さは素人同然のわたしでも分かるくらいに飛び抜けている。
私も恋愛でもやもやしてばかりはいられない。
仕事のためにも、しっかりとしなければ。
『―以上です。』
『おけ。
これで大体今回ミーティングにあたって投げてくれた提案は以上だな。
俺と玉地と鏑木から必要だと思ったものに付け加えとフィードバックするから、各々今質問あればどうぞ。』
『―玉地からいいですか?
鹿野さんの提案について。』
リーダー陣と、副リーダー候補の玉地はこういう場では大抵フィードバック側に回る。
『工程管理表のそもそもの前提について、認識齟齬があると不味いので念の為確認するのですが―』
いつもの間の抜けた声とは打って変わって、玉地はハキハキと要点を述べていく。
画面はオフだが、鹿野ちゃんが相槌を打ちながらメモを打つ音はわずかに聞こえてくる。
『…そう…ですね。
認識不足でした。』
玉地の指摘は毎度鋭くて、リーダー陣の指摘並にドキリとする。
鹿野ちゃんは自分の認識齟齬に臆し、少し声が小さくなった。
『うん。でも齟齬はあったけど、鹿野の提案は充分実用するに足る内容だと思います。その部分だけ修正してもらえば、実用の方向で進められるね。
修正についても全然聞いてもらって大丈夫なんで、声かけて。』
『はい!ありがとうございます!』
ミーティングのときに少し冷たくなる声を和らげて、玉地はすかさずフォローに入る。
鹿野ちゃんもほっとしたようにいつもの明るい声に戻り、和やかな雰囲気に戻った。
『他に質問あるやついるか〜?』
進むミーティングを追いかけて、自分の提案についても大きな修正が入らないことにホッとしつつミーティングは終了した。
議事録をしばらく見直してからアップすると、5分後に玉地から個人チャットが飛んできた。
『ふゆたろ、今日の提案に指摘無くてちょっと不安でしょ』
『な、なぜ分かった』
『議事録みたりふゆたろの性格考えればそんくらい分かるよ。フィードバック今したろか?
5分くらい』
『お願いします』
仕事できて、周りの人間のこともわかるやつって、ずるい。
仕事と恋愛絡めるなんて馬鹿のすることだと思ってたのになぁ。
無理だ、これ。
恋愛の終わりと恋の始まりって、こうやって併存するものなんだな。




