ごめんね、未来をみてしまった[3]
月曜日、出社するとオフィスには主任と玉地とみなみんがいた。
「おはようございまーす」
「おう、おはよう」
「はよ~」
「おはです~」
みなみんの横のデスクに鞄をおいて、PCをたちあげる。
玉地は今日は主任の横に座っている。
「あれ、今日の出社これだけか」
「ですね~。昨日招集されてたメンバーは在宅が多いですね~。
あれ、でもふゆちゃんも昨日在宅でしたよね?」
オレンジ色のブラウスを着こなすみなみんがシフト表を見て首をかしげている。
今日も原色カラーの彼女は太陽のようにまぶしい。
「あ~昨日の提案のことでちょっと玉地に教えてほしいことがあって、直のほうがやりやすいから来たんだよね」
「なるほどぉ」
話しつつスマホを取り出し、玉地の方を見ると「ぐっ」と親指を立ててこちらを見ていた。
「おう、ふゆたろがどうしてもっていうから来てやった」
「玉地はもともと出社にしてたでしょ」
すげなく返すと、玉地は大袈裟にのけぞった。
「そんな、俺はふゆたろのためを想って…あ、コンビニ行くの?
俺もいく~」
「おごってくれるん」
「なわけ。はらへった」
手を振って見送ってくれるみなみんに手を振り返しながら、玉地と連れ立ってオフィスをでた。
2人きりになっても、不思議と後ろめたさや焦り、恋しさが爆発するということもなく、穏やかな気持ちになるばかりだ。
それは昨日までに考えて、自分の気持ちを整理できたからかもしれない。
…玉地の事が好きだし、葵くんとは今後おつきあいできない。
二つの感情は全く無関係ではないけど、密接に関係しているわけでもない。
だから、以前のままの落ち着いた気持ちで、玉地と接することができる。
この感覚は初めてのことだけど、なんだか心地よい。
「―最近景気いい?」
「ん~まぁまぁやなぁ。よくもなく悪くもなく。
ふゆたろはどうよ」
「というと?」
オフィスと同じ階にあるコンビニの、”限定新商品”という言葉にくぎ付けになりながら、ぼやっと返事を返す。
「ん、いろいろ?
あぁ、彼氏とはどうよ。
放置プレイされてるっていってたけど、会えたか?」
「ん~」
”限定新商品”と書かれたチョコレートに手を伸ばしかけて、手をおろした。
「…まぁまぁ?」
「なんじゃそりゃ。せっかくこの俺が相談にのってやっているというのに」
玉地は栄養ドリンクと大福を手に取ると、私の横に並んでじっと棚を見つめた。
「まぁジェネレーションギャップがあるからあんまヒットしてないのかも」
「たった5歳差やろが。んなわけあるかい」
「てへぺろ」
はぁとため息をつくと、玉地は私が見ていた限定商品のチョコレートを手に取った。
私はダイエットを始めようと思っていたことを思い出し、カフェオレのカップと野菜スティックを手に取る。
セルフレジでお互いに会計をした後、玉地はまた話し始めた。
「まぁ、君のテンションからするに相変わらずの放置プレイということですかね」
「ん~まぁ、そんなとこ?」
てくてくと二人で静かな廊下を歩きながら、ぼんやりと濁して返す。
セックスをする前も後も、玉地には葵くんについてよく相談していた。
彼氏とうまくいっていなくて、という内容よりも、
葵くんが仕事についてよく悩んでいたから、男目線の仕事観を聞きたかったのだ。
だから曖昧に濁す私の態度をみて、察しのいい男は何かを感じ取ったらしい。
ぱしっと背中を一度叩き、さっき私が見ていたチョコレートを「ほい」と渡してきた。
「え、くれるん?」
「おん。やる」
「競馬勝ったん」
「んや。食いたいかなと思って」
「…ダイエット中なのに。
……でも、ありがとうございます。うれしいです」
ぺこりと頭を下げると、玉地はうむうむと大袈裟に頷いて、下げた私の頭にぽすっと手を置いた。
「まぁ、考えすぎるな。気楽にな。
そんで菓子の分までたくさん働きたまえ。
そして俺一本吸ってから行くから、七瀬さん誤魔化しといて」
「ありがとうございます。
でも、嫌です」
ふぇんと鳴きまねをしながら結局喫煙所へ向かう背中を見送って、私はため息をついた。
「…これって好きになる私が悪いのかなぁ」
まぁちょろい私が悪いよなぁ。
…はぁ




