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メダリオン~白と黒の協奏曲~  作者: たんぽぽ
第一部 第三章 『現実化への一歩』
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第四十三話 『魔法と剣技~マナの重要さ~』

「やった……できたぞ!!」


 フレリアが見せた魔法ではない風の刃を再現することができた喜びに右拳を突き上げてオレは叫んだ。

 教えられたとはいえ、初めて手に入れた自分だけの技に完全なる手放し状態で騒いでいたオレに、一つの不満げな声が耳に入ってきた。


「ちょっと……セイリア君! 私が上にいたんだから危ないでしょ!?」


 珍しくほっぺを膨らませるレナ。しかし今回ばかりはオレに分があった。


「お前慌てすぎだぞ……フレリアが言ってたのは『それぞれのパーツを落とすこと』で、『頭まで攻撃する』じゃなかっただろ? 危うく大爆発だったらしいぞ……」


 それを聞いたレナの顔色が一気に青白くなっていく……自らのミスに気が付いたようだ。

 特に問い詰めるつもりもなく、オレはこのままフレリアたちに注意喚起は任せておくことにしようと振り向くと……


「そこがあなたの悪いところよ……」


 一足先にゴーレムの前に到着したフレリアがレナを見下ろした。そこに見える表情は……


「やっぱり予想通りね……実力が自分よりも上の存在がいたら、あなたは先走ってミスをすると睨んでいたけど……ピッタリじゃないのよ」


 呆れた表情だった。そんな顔をしていたフレリアは黒髪をくしゃくしゃといじっていると、レナが小さな声で問いかけた。


「……分かっていたの?」


「そりゃもう、あなたにそっくりな人を知ってんのよこっちは。全く……性格まで似ちゃ世話無いわよ……」


 フレリアは大きくため息を吐き出してから目を細め、レナに一つの忠告を与えた。


「昼間にミスったなんて考えてから、あなたは今汚名返上なんて考えてるみたいだけどね、『らしさ』を無くしちゃおしまいよ?」


「……らしさ?」


「そうよ! せっかく良い技量とセンスを持ってるのに、一人で全部片付けようなんて考えないことね……あなただってまだ経験が足りないのが見え見えなんだから!」


 オレの目には、リーダーシップで多くのプレイヤーを引っ張り上げていくリーダーの器としてピッタリな存在でありながら、持ち前の高度な剣の扱いで数多い実力者を倒していく強者だと思っていた。

 しかし、今のレナは昼間のアクシデントを自身の責任として背負い、過去の力が無いとはいえフレリアになすすべもなく一撃で負けた後に、焦ってフレリアの指示を無視しようとするほどに周りが見えなくなっていた。


 ――レナも完璧じゃなかったんだな……


 うつむいて目を伏せている様子は、今までに見たあのレナとは全く違っていた。

 だが、オレにとってはそんなレナの一面が見れたことでどこか取っつきにくさを感じなくなっていた。


 ――彼女だって一人の人間なんだ……オレなんかよりもずっとできていても、見るところから見れば欠点が分かる……


「それでもレナっちのさっきの技、すごかったにゃ! あのブレスレット……SSR装備だよね? どうして教えてくれなかったのにゃ?」


 遅れてやって来たエレノアさんが猫耳を動かして、目を輝かせてレナを見つめている。


「ええっと、まだ使いこなせていないし……他人に迷惑を掛けるような装備を使うのには抵抗があったんです……」


「なに言ってるのにゃ? レナっちのセンスなら練習すれば使えるだろうし、それでもダメなら他の誰にも使えないと思うにゃ! だから、わたしも手伝うにゃ!」


「えっ?」


 レナが顔を上げた。そこにはフレリアに未熟さを指摘されて視線を鋭く変化させていた時とは異なって、エレノアさんから言われたことが想定外といった様子で口が開きっぱなしだった。


「だーかーらーレナっちが困ってることは、ギルドの仲間だけじゃなくてわたしたちにも聞いてみると良いって言ってるにゃ。レナっちは確かに強いし、つよーいギルドだって引っ張るけど……それでも経験不足をうまく隠しているように見えてたにゃ!」


「でも、私とエレノアさんは一応は領主の座を争う敵……」


「そんなのわたしに関係無い! レナっちはまだこのゲームの……ううん、この世界のどれだけを知っているかにゃ? レベルもようやく五十を越えて、今まで自身の技術に頼っていたところがまだまだなのはよく分かったはずにゃ!」


 レナの顔にグッと近寄って畳み掛けるように言葉を発するエレノアさん。

 真剣モードのエレノアさんに圧倒されっぱなしのレナだったが、とうとう根負けしたのか、「わかりました」と小さく首を振るのを見たエレノアさんが表情を綻ばせた。


「それで良いのにゃ、わたしも先輩として役に立つのも仕事だし……領主候補とか関係無しに皆と切磋琢磨するのが大切にゃ!」


「……先輩として役に立つつもりなら、自分のグループのことを少しは気にかけたらどうですか? タケル君もエレノアさんに頼りたい時はあるはずですよ?」


「うにゃっ……」


 彼女がリーダーを務めているグループの副リーダーである、タケルのことを引き合いに出されて息の詰まるエレノアさん。

 すると、レナがゆっくりと立ち上がるところ場面を見ていたところで、


「セイリア君……私も話があるからちょっといらっしゃい」


「いやっ……ゴーレムどうするんだよ?」


 フレリアから襟首を掴まれたオレは、四肢を切り落とされて胴体と頭だけになって動かなくなってしまったゴーレムへの警戒心と危惧をフレリアに問いかけるも、


「四肢を落とせば術者からも、大気などの自然界からもマナを得られなくなるわ。勝手に頭部に貯められたマナも消費して動かなくなるから心配しないで」


 そう言われてオレはフレリアの後に続いて、誰もいない瓦礫の近くへと移動した。




「セイリア君……一応私自身の目で見たけど、問題の答えを聞かせてもらおうかしら?」


 腰に手を当てて笑顔のフレリアに、オレが同じような技を生み出した経緯を話した。


「まずはあんたとグレースの技に共通する点を探した。……それでも同じ風属性の魔法らしき技ってことしかたどり着かなかったけど……それで次はあんたのことを考えてみた」


「へぇ……私のことから答えを見つけたの?」


 大きく頷いたオレを見たフレリアが、手に持っていた剣を背中の鞘に納めて近くの瓦礫に腰を下ろす。


「ああ、あんたはオレの着ているコートから得られたマナの残りを、ルルのマナと血を触媒にした魔法で一時的にこの世に戻した状態だ。ということはマナそのものはルルのものがほとんどで、自分のマナがそこまで多くないということになる」


「それで……君は何にたどり着いたの?」


「攻撃魔法にしても、特殊な魔法にしても……魔法には自分のマナを核にした上で精製してから発動させることを最近知った。それなら、残り少ないマナをわざわざ魔法で使ったら活動時間が減るから、あんたはそういうことはしないと思った」


「ええ、ルルちゃんの力を過信して君に遺すべきことを伝える前に消えたら、何のためにルルちゃんが戦いに出してくれたのか分かんないわよね?」


「だったらあの風の刃は何なのか? グレースの爆発する風の矢は何か? 魔法じゃないけど、魔法に肉薄した力を再現できるオレたちの持ち合わせる力は何だ? ……答えにたどり着けば簡単だったよ」


「……前置き長いわよ?」


 苦笑するフレリアにオレは静かに答えを告げた。


「……マナそのものだろ? 魔法に必要なのはマナとSPと詠唱だ。オレはまだ、魔法には強くはないから詠唱がどんな役割を果たすのかわからないけど、少なくとも魔法要素のあるマナをそのまま使えば良いと思った」


「でも、私のマナは少ないのに、どうやって風の力を再現したのかしら?」


「魔法には核にするための自分のマナを使う必要があっても、マナだけを使うならルルのやつで十分だろ? 属性の変換もできるみたいだし、風属性にしてから使えば問題ないと思うけど?」


 オレが出した答えは正しいのか? そんな考えもあったが、たとえ間違えていてもオレ自身の技に繋がったから、結果オーライだろうなぁ……

 そう心に秘めてフレリアの結果発表を待っていた。


「そう……正解よ。私が君に遺すべきなのは、剣術よりはマナの扱いだと思ったからこんな問題を出してみたけど……案外思考力の高さと、与えられた力を工夫するのは得意みたいね」


 フレリアの手がオレの頭の上に軽く乗せられ、「良い考えしてんじゃないのよ」とお誉めの言葉を与あずかる。

 だが、


「そんなにマナの扱いって重要なのか? ルルからは、『魔法の扱いが下手だと、術者の体内のマナの流れが乱れます』みたいなことは言われたけど、オレらみたいな剣士はそこまで魔法を使わないだろ?」


 瓦礫に背中を預けて目を閉じると、ゆっくりと息を吐き出した。


「なんで私の問題に答えられて、こんな簡単なことに気付かないかしら? 君って変なところでおバカさんよね?」


「おっ……おい! そこまで言うこと無いだろ!?」


 顔が熱くなるくらいに力を込めてフレリアに反論してみるも、当のフレリアはかぶりを振るばかりだった。


「マナっていうのはね、命の根源から引っ張り出したエネルギーなのよ? 魔法にはもちろん、剣術に応用すれば君みたいなヒヨコちゃんにだって、黒曜石で造られたゴーレムの腕を真っ二つにできるくらいに強力なの!」


 眉を寄せてオレに指南をするフレリア。現実世界でマナなんていう概念すら存在しないのに、ゲームを一度もしてこなかったオレにいきなりマナについて理解しろと言われても困る。

 しかし、なおもフレリアの追撃は止まることを知らない。


「それに君はこの世界では好まれない魔法剣士を目指しているようだし、マナの扱いを上達させるのは避けられない事でしょ?」


「うっ……そうだな……」


 まだ旅を始めたばかりの頃にグレースやフーリエさんに宣言したことを思い出してしまった。


「剣士が魔法を使えないのは流石にあり得ないけど、魔導師よりも魔法が使えるようになるのだってあり得ない。それなら剣士だからこその魔法の扱いを模索するのが魔法剣士ってやつだけど、そんなアホみたいな考えするのは剣士のヒヨッコだからこそなんだから」


「フレリアまでこんなこと言うのか……」


 英雄にまでバカにされてしまい、うなだれてしまったオレの肩に手が置かれる感触が……顔を上げてみると、フレリアがなんともいえないような複雑な笑顔を見せていた。


「私も君くらいの頃にね、散々同じことを言っててバカにされてきたわ。それでも剣術と魔法の両立を追い求めていれば、私のような戦い方に……」


 そこまで語ったところで首を振ると、レナたちの場所へと歩き出して最後に一言残していった。


「違うわね……私を越えるものが得られるはずよ」


 その言葉はオレの体の奥底に一つの炎を灯した。真っ直ぐかつ折れない一つの芯を打ち立てた。


 ――間違っていなかったんだ……オレの目指したものは……


「……それじゃオレは……」


 奇しくも目指したスタイルがフレリアの志していた形であることを知り、無意識に笑みが溢れた。固めた決心を揺るがないものへと昇華させるべく、肺に目一杯の空気を吸い込んだ。


「あんたが目指したスタイルのその先に向かっていく! あんたよりも強い魔法剣士になってやる!」


 強く、しかしエレノアさんたちに聞こえないくらいの声を張り上げた。

 オレにとってはここからが一歩になる……今までのゲームの考えとは違っているこの世界のセオリーでは目指すものがいない魔法剣士になって……

 そんなオレの意思表示を天を仰ぎ、目を閉じたまま聞いていたフレリアは薄く目を開け、背中の剣を抜き出してオレの鼻先に突き出した。


「それじゃあ、私といつかは戦わないといけないわね……その時には私からの卒業試験っていったところかしら?」


 不敵な笑みでオレの目をひたと見据えるフレリアは、剣に生きた乙女なのだと強く認識させられた。

 英雄と呼ばれるまでに強く、気高く、そして強大な敵を前にしても絶対の安心感を多くの人に与えてきたその立ち振る舞いを……

 完全に気圧されてしまったオレは、急いで別の話題へと変えておくことにした。

 オレがフレリアと戦うに相応しい剣士になるまでどれだけかかるか及びもつかないが、避けられない壁なのは明白だ。


「そういえば、魔法剣士を目指すのはこのゲームでは難しいって、グレースに聞いたなぁ……」


 今もフレリアが言っていたが、アホみたいな考えだと彼女自身も言っている。オレはそのようなことは何度も聞いていたのだが、ここで聞いておかないと、ずっと聞く機会が無いような気がしたのだ。

 オレの問い掛けを聞いたフレリアは腕を組んで少し唸ってから、「そうね……」と前置きしてから頷いた。


「魔法を使うにはマナが要るでしょ? それと君たちの言う剣技スキルってやつ? あれに使う精神力……ええと、えすぴぃ……かしら? あれもマナに依存しているのよね」


「……どういう意味?」


「だから、君たちが使っているスキルを使えば使うほどマナが消費されているのよ。だから魔法剣士になりたいなら、マナの扱いを上達させて少しでも効果的に両立させるのよ」


 意外と難しい理由にまだ頭が付いていける感じがしないが……なるほど、スキルを使えばマナを消費していたのか。てっきり魔法だけがマナを必要としているのかと思ったら……


「武器を振るだけでさえマナが使われるのか……」


「だって生命体全てが持つ命の根源よ? 行動一つにも体力は使うでしょ? 勉強、戦い、運動……あらゆることにマナは関わるの」


「うぐっ……難しい……」


 絡まった言葉の糸をほどこうと、頭の中に入った思考回路を全力運転させるも付いていけない。

 そんなオレを見ていたフレリアは、レナたちの元へと足を動かす間に雰囲気を先程と同じような張り詰めたものに変貌させていた。


「それはそれで……そろそろ次の問題を片付けないといけない頃合いね」


「頃合い?」


 大きなため息の後にオレの方へと顔を向け、遠巻きにも確認できるゴーレムの残骸を示して、


「あの兵器を一体どこのどいつが差し向けたか? それを判明させなきゃでしょ?」


 そう言って歩くエレノアの後をオレは付いていった。

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