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メダリオン~白と黒の協奏曲~  作者: たんぽぽ
第一部 第三章 『現実化への一歩』
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第四十二話 『ゴーレム討伐~セイリアの新技~』

「でも、ここに来る前にゴーレムの胴体を真っ二つにしたんだけど、いつの間に再生してたんだな……」


 気が付けばフレリアが放っていた風の刃によって輪切りにされていた胴体は、その痕すらも完全に消え失せていた。


「術者だったら、傷つけられたことも察知は可能だから、すぐに直したと思うわ。でも、それももう無理だから早く片付けて皆を安心させるわよ」


「うにゃあ、ホントにあのゴーレムのこと、よく分かってるのにゃ……一体何者かにゃ?」


 フレリアの冷静な考察に、疑問を抱いたままのエレノアさんがポツリと溢すも、レナの鋭い声が未だに微妙な雰囲気を切り裂いた。


「エレノアさん! それは後にして下さい……ゴーレムが来ますよ!」


「それじゃ、皆はそれぞれのパーツをお願いね!」


 フレリアは声を出すが早いか、すぐに街をメチャクチャにした両手の振り下ろし攻撃の構えに入ったゴーレムの足元に潜り込むと……


「いっくわよ!」


 大きな声と共に、さっきみたいな剣に纏わせた風の刃がゴーレムの左腕を豆腐のように切り落としてしまった。


「ちょっ……うっそにゃ! わたしだってスキル何発か使って斬って、ようやく腕の一本を持ってったのにゃ……それをたった一撃なんておかしすぎだよぉ!」


 目を丸くしてフレリアがいとも容易くやってのけた芸当を見ていたエレノアさんだが、それに続くようにレナが飛び出した。


「あの人にできて……私にできないなんて……嫌なんだから!」


 アスリート顔負けの速度が与えられたダッシュの間に、下段に構えられたレイピアが橙色の輝きを放ち始める……橙色のスキルエフェクトは上位スキルの入り口に当たる、熟練度六百のスキルだ。

 威力もかなり高く、いわゆる大技に位置付けされるレベルの技となってくるが、その反面硬直時間も長い。PVP(対人戦)でも使うときは、フィニッシュに使われる技がほとんどだ。


 レナの後ろ姿はまるで流星のよう、レイピアのスキルエフェクトから発せられる光が、それを際立たせているようで……


「せやぁっ!」


 周囲の空気を震わせて飛翔したレナは右の膝辺りに狙いを定めると、下段から跳ね上がった刃が見事に黒色の脚を捉え、硬質の金属音を響かせた。


「へぇ……思ったよりもスピードはあるようね。でも、そんなんじゃあゴーレムの体は……」


 知らないうちにオレの隣に戻っていたフレリアの声は険しかった。そんなフレリアの予想通り……


「きゃあっ!」


 火花を散らして拮抗していた石と刃のせめぎあいは、ゴーレムの右膝にある程度切り込みを入れただけで弾き飛ばされてしまった。

 しかし、上手く着地したレナの剣に再び光が集まり始めている。普通なら硬直時間がやって来るはずなのに……


「あれ、スキルエフェクトなんかじゃないにゃ……手首のブレスレット?」


 エレノアさんの見ていたレナの左手首には、使わないと言っていたはずだったフィルトのブレスレットがあった。


 ――レナ、使うことにしたんだな……


 扱えない力は他人に迷惑を掛ける。それ故に使わなかったというレナが使った……ということは、きっと使わないとどうにもならない状態なんだろうか?

 しかし硬直時間は継続しているのだろう、レナは身動き一つ取ること無く、ゴーレムが振り上げた右足を棒立ちで見ているだけだった。


「レナ! 危ないぞ!」


 思わず声が出ていたオレに対して、遠くで見えたレナの瞳は、ずっと傷を与えたゴーレムの右膝を捉えていた。

 徐々にブレスレットから滲み出た光が剣を包み込んでいく。それはまるで……


 ――フレリアが見せた技みたいだ……


 それはオレが今から伝授してくれた本人に採点してもらう技の形そのままだった。刃を包み込み、生まれ変わった新たな剣となったかのように輝くそれは、夜の街を彩る一筋の光と化していた。


「何かよくは分からないけど……わたしだって負けてられないにゃ!」


 オレとフレリアから少し離れた場所に立っていたエレノアさんがそう呟くと、手に持っていた剣……オレの持っていた片手直剣と、レナのレイピアの中間くらいの比較的細身の片手直剣を持った右手を前にした半身の構えに変えると……


「今から、ちょーっと本気出すから……」


 その言葉の間に剣が深紅に輝きだし、エレノアさんの放つ雰囲気が一気に張り詰めたものへと変貌する。


「お二人さんは踏ん張っておくのにゃっ!」


 一つ(まばた)きをしたとき、その場にいたはずの愉快で奔放な猫耳の女性が蜃気楼となっていた。

 刹那、真後ろからの地響きがオレのバランスを崩し、危うく尻餅をつくのを防ごうと右手を後ろに伸ばしたとき、ヒンヤリした硬いものが倒れようとしていたオレの体を支えるための台となってくれた。


「なっ……何なんだ? 後ろには何も……」


 振り返ってみてオレがそれに着いていた手が更に冷え込んだ。そこにあったものは漆黒の岩……動いてはいないが、反射で持ち主であろう巨大魔導体に視線を向けた瞬間に、右手を包んでいた冷気が全身へと駆け昇っていく……


「どうして……これがこんな場所に……」


 ゴーレムの左脚が根本から完全に吹き飛んでいる。しかも切り口は丁寧で滑らかなものであった。


「んっふっふっ……これがわたしの得意技にゃ! セイリア君はあと半年もすれば覚えられるから、あえてスキル名は言わないでおくけど!」


 いつの間にかフレリアの後ろに立っていたエレノアさんがドヤ顔で剣を鞘に納めていた。


「えっ……今いなくなったはずじゃ……」


「やっぱりセイリア君は『経験』が足りないみたいね? あのスピードを見極められないようじゃ修業不足よ」


 エレノアさんを見失って周りをキョロキョロしていたオレは、フレリアの言葉に目の前が真っ白になった。


 ――経験が足りない?


「仕方がないのにゃ、セイリア君のレベルは限界の半分にも届いていない、ぺーぺーのヒヨッコにゃ!」


 ――ぺーぺー……ヒヨッコ……


「それでも、この子は私の見込んだ子だから将来性は十分よ……それより、セイリア君はそっちを向きなさい! レナが仕事するわよ?」


 もやがかかった頭の中をかき消しすようにフレリアの両手がオレの頭をゴーレムの方向へと向けさせる。

 すると、レナの剣が今までとは段違いの輝きを見せつけてきた。夜空の星々すらも霞むような、いや、太陽にだって負けないような目を覆いたくなるような強烈な光を持っている。


「今は……今だけは……君がヒヨコであることは忘れなさい……何も知らないからこそ、新たな道が拓けることはよくあることよ」


「新しい……道……」


「とりあえずさ、今の話は誉め言葉として受け取っておいてほしいのよ」


 オレがその言葉に首を傾げたその時、レナが動いた。

 硬直が解けたことで持ち前の素早さによって、ゴーレムの拳をバックステップで避けると、衝撃で瓦礫が吹き飛ばされるのも意に介さない様子でかわしながら、レイピア剣技お得意の突きの構えへと移行。

 そして、限界まで集められた光が持つ強大なエネルギーの恐ろしさを……オレはこの目で見ることとなる。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 黄色を最早通り越し純白へとその色を変えていたレナの剣が閃くと、ジュワッと刃が通ったとは思えないような音が周囲にこだまする。

 その一撃でゴーレムの右脚の三割が瞬時に灼熱の液体と化して噴き出した。


「こんなものじゃないわよ……光の恐ろしさはっ!」


 振り抜いたレイピアの光は衰えることなく、下から刃を跳ね上げさせて溶岩の中を通過させる。すると、再びゴーレムの脚から溶岩が噴き出して、残った黒石が自重に耐えかね崩れていく……

 両脚を失ったことで残った左腕だけでなんとか倒れずに支えるゴーレム。するとレイピアに煌々と熱を上げ続けたまま、レナの視線がゴーレムの頭部へと向けられていく……


「これくらいの硬さなら余力がある……だったら……」


 右手にはめられた指貫の施された茶色の革グローブがジリジリと焦げ付いているのが、暗視スキルなどを利用した強化視覚に確認できる……どうやら必死に熱に耐えているようだ。

 しかし、レナは光を弱めることなく目を細めているだけで、


「このまま頭も溶かしてあげるわ!」


 力強く戦場に響いた言葉を耳にした瞬間、フレリアの表情が一変した。


「私の言ったこと守りなさいよっ!」


 舌打ち混じりの言葉と共に、すぐにセイリアの後頭部を軽く叩いて他の誰にも聞こえないように、そっとセイリアにその時の訪れを伝えた。


「すぐにレナが頭を攻撃する前に残った左腕を落としなさい! あのまま頭部を壊されたら、ゴーレムに蓄積されたマナが暴発して周囲を火の海に変えるわよ!」


「なにっ!?」


 セイリアの顔から血の気が引き、息が荒くなる。

 隣で聞いていたエレノアも「レナっち止めないと!」とダッシュ体勢に入ったところで、レナが残った左腕から頭まで登り始めた。


「これじゃ間に合わないにゃっ! レナっち! すぐに攻撃を中止……」


 汗をこぼしてレナへと警告の言葉を発するその時、一陣の風が駆け抜けた。

 エレノアは「にゃんだ!?」とのけ反り、その正体を知ることで目を見開いた。


「セッ……セイリア君!?」


 突きの構えで剣を持つセイリアが、ゴーレムまでの距離百メートルはあろうかという石畳を駆け抜けた。

 レベルによるアシストはそこまで大きくはないとはいえ、元サッカー部で足に自信があったセイリアからしたら、アシストの効果で十秒は要らない距離だろう。


「そんなんじゃ間に合わ……」


 エレノアがレナを止めるべく、高速移動系の攻撃スキルを発動させようとしたとき、彼の剣に起こった異変に気が付いた。


 ――セイリア君の剣に風が?


 構えられた剣に緑色の風が集まっていく……それは剣技でも、魔法のそれでもなかった……

 次第に形創られるものは三日月に纏められた風の奔流だった。濃密に圧縮させられたそれは、風属性魔法の中にも似たようなものが存在したが、エレノアの頭にはそれを否定するしかなかった。


「剣技と魔法の同時発動なんてできないのが、このゲームの仕様のはずにゃ……武器を直接魔法の発動点にすることは可能でも、セイリア君にここまでの強力な……」


 そんな呟きをよそに、セイリアの左腕に力がこもる……


「これが……オレの答えだぁっ!!」


 絞りきるような叫びを上げて一気に剣を突き出した。

 刀身に集められた濃厚な風の刃が高速で飛び出し、空を切り裂き飛翔する。

 そして、それはレナがゴーレムの肩に達するよりも先に肩に食い込み、見事に真っ二つにしてしまった。


「きゃっ!? 何よ!」


 唯一全体重を支えていた黒色の腕が奪われたことで、ゴーレムの胴体が石畳の上に崩れ落ちたのだ。

 それと同時にレナはバランスを崩し、頭を撃ち抜く前に地面へと追いやられた。これによってフレリアが危惧していた頭を先に消し飛ばしてしまうことによるマナの暴発を阻止することができた。


「完璧よ! セイリア君、よくやったわ!」


 両手を上げてセイリアの元に駆け寄るフレリアに対して、セイリアの放った規格外の威力が(こも)る新技を見ていたエレノアは、コートの裾を強く握りしめていた。


「なっ、何なのにゃ……あの切れ味は? レベル三十を越えたばかりのプレイヤーが扱えるようなものに見えないのにどうしてにゃ!?」


 そんな言葉を口にしていたエレノアも、無事に役割を果たしたセイリアの元に急いで走っていった。


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