第1話 来たれ 新入部員
「緊張したぁ」
「確かに『中国地区』を『中学地区』と言い間違えていたもんな。最上は必死で笑いを堪えていたし」
「うぅぅ、ひどい」
どれほど緊張しようと言い間違えようと、彼女なりに真剣にやったのである。それを笑われていたと知ってとてつもなく落ち込んでしまう。
「まぁまぁ、近江は頑張った」
「うん」
これから新1年生を迎えるのに、キャプテンが湿気た顔をしていてはまずかろう。春馬は近江の頭に手を置いて軽く撫でてやる。するといつものように大喜びはしないものの、ほんのり機嫌を良くする。
「鈴木、終わったか?」
講堂前には通路を挟むように並べられた学生机。それぞれの机には部活名が書かれた紙が貼られ、各部のキャプテンや副キャプテンが控えている。
そこへ講堂から戻ってきたのは同じクラスの鈴木。春馬がしれっと兼部しているサッカー部のキャプテンであり、近江の赤点対策部隊の数学第二担当員でもある。
「文化部の話も終わって、ウチの南が最後にしめてるところ。そろそろかな?」
ちょうど向かいの「サッカー部」と書かれた席に腰かける。
「だとよ。近江、準備」
「バッチリ」
入部届は既に配られているそうで、ここで行うのはその回収や名簿への記入。そして質疑応答くらいだろうか。
「はぁ、ほんとうに生徒会長も大変ねぇ」
「副会長は副会長で大変だけどな」
袖に『生徒会』と書かれたワッペンを付けた南が、野球部横の『女子テニス部』の机に。そして愚痴を漏らす南に対して春馬は、自分の制服の上着、右ポケットからこちらも『生徒会』と書かれたワッペンをのぞかせ言い返す。
「そうね。あんたも気を付けなさいよ。一回、疲労で倒れてるんだから」
「なぁに。ひとまず生徒会副会長は5月で退任だからな。それにサッカー部も人数が揃えば、助っ人に頼る必要もないだろ。さらに言えば野球部も、もう1人で背負いこむことはないからな」
「春馬君には私がいる~」
右腕にしがみつく近江へ南が笑みを浮かべる。
「本当、仲がいいのね。近江さんは」
「うん。春馬君、大好きぃ」
しばらくして新入生の声が聞こえ始めると、それまで騒いでいた近江が姿勢を正しなおす。一応は野球部の入り口である。多少はそうしたしっかりした態度も必要であろう。
「ふ~ん。あれが今季の1年か」
先頭にいた3人くらいの集団は、駆け足でサッカー部の元へ。キャプテン鈴木が嬉々として対応に当たる。
「ねぇ、あんたのところはどれくらい来ると思う?」
「さぁな。ただ、今日来なくても焦る必要はないだろ。入部受け入れは通年でやってるし、一般的にはここ1週間は仮入部だ。ここで即決、入部届出すヤツがいてくれれば上出来だ」
「予防線?」
「さぁな。南。お客さん」
「あっ、は~い」
女子テニス部前で声をかけづらそうにしていた女子学生。彼女を見つけた春馬は、すぐさま南に対応を求めた。
「他の部活、いっぱい来てる」
「焦るな。今期は1年生が6クラス。去年よりは希望があるさ」
クラスが増えたのも、蛍が丘ベッドタウンの住民数が増えているゆえ。というより蛍が丘ベッドタウンができて以降、蛍が丘で生まれて蛍が丘で育った世代が高校生になり始めたためか。
と、守備力の優れる春馬はやはり観察眼にも優れているのだろう。
ふと1年生の波の中に見つけた。
「近江。ターゲット。あそこの男子」
指さす先には、春馬のいる机。そこに貼られた硬式野球部と書かれた紙を、遠目にまじまじと見つめる気弱そうな男子生徒。見た感じ体育会系とは言い切れず、いかにも教室の隅でじっとしていそうなタイプ。
「えぇぇ、あの男子ぃ。野球部っぽくない」
「あれが野球部っぽくないなら、ウチにはもっと野球部っぽくないやつがいるけどな」
ちっこい女子高生と、普通の女子高生がいる。ついでに男子についても、頭からキノコが生えそうなジメジメ男子がいるのである。なおその男子は1年生夏まで『図書室の主』とうわさされるほどの本の虫であり、今では蛍が丘守備陣の外野の一翼を担い、そして2番打者でもある。
「近江、確保」
「確保ぉぉぉぉぉぉ。ぎにゃあぁぁぁぁぁぁ」
「あ、流された」
身長160センチ以上はザラな1年生の波。その中に突っ込んだ150センチは、いとも簡単に流されていった。必死で手を振っているが、その手はしばらくして見えなくなった。
「まったく、あいつは……」
呆れつつペン回しをしていると、彼へと黒い影がかかった。
「すみません。野球部ですよね」
顔を上げてみると、そこには1年生の女子生徒。体格は楓音よりもやや小柄だが、近江よりもやや大柄。
「あ? うん。選手での入部希望かな?」
「マネージャーとは言わないんですね?」
「ウチは既に女子部員が2人いるからな。厳密には片方はマネージャーだけど」
選手登録されているマネージャーである。なおそのマネージャーは「たとえ新1年生が入部しても、ライトのポジションは渡さない」らしい。マネージャーとはいったいなんなのか。
「入部届です」
「どうも。1年2組、沖満佳苗かぁ」
名前とクラスだけ確認して、自宅から持ってきたお菓子の缶箱に入れておく。
「はい。ポジションは外野でしたが、ここの近江先輩を見て内野に転向しました」
「そっか」
「この野球部では、近江先輩と二遊間を組みたいです」
「まぁ、頑張れよ。それとここに名前書いといて」
やる気まぁまぁ返事で答えておく。
そしてついでに名簿記入を要請。
新入部員自体はうれしいところだが、その内容自体にはそれほど興味がなかったのである。というより本気にしていないのが正しいか。
そうしていると波に攫われた女子が帰還した。因みに制服も髪型も乱れきっている。
「春馬く~ん。ゲット」
声の主は近江。彼女の左手には男子生徒の手が握られており、そして右手には入部届。因みに連れてこられた彼は、女性慣れしていないのか、彼女の良く通る高い大声で注目を集められて恥ずかしいのか、ほんのり顔を赤めている。
「えっと、これは受理でいいのかな?」
半分、誘拐である。ひとまず近江後方の男子に問いかけると、はっきり分かるくらいには頷き。これをもって正式受理である。
「えっと、1年1組、鍋島直茂か……ん?」
新田春馬、違和感を抱く。
この春馬、意外と博識である。
思えば九州には竜造寺という戦国大名家があったそうな。そしてそこの軍師の名前と言えば……
『鍋島直茂』
春馬の頭に蛍が丘の大エースや、総合鈴征の兄弟バッテリーが思い浮かぶ。
『(ブームか何かかな?)』
最上義光、立花道雪、立花宗茂、鍋島直茂。
島根県に謎の戦国武将集団が集中。もっとも本家戦国武将と『読み』まで一緒なのは鍋島だけであるが。
「それと近江。お前にあこがれてきたんだと」
「お、近江先輩ですよね。これからお世話になります」
近江に対して深々とお辞儀する沖満。少したって顔を上げるが、近江からの反応はない。
「あ、あの、近江先輩?」
ただただじっと彼女の顔を見つめる。そして、
「あぁぁぁぁ。誰かと思ったら、あの時のスパイ」
「ス、スパイじゃないです。見学ですっ」
春馬は何のことかよく分からない反応。
『(知り合いか?)』
とにかく春馬は生徒会活動やら部活会議やらで練習に遅れることが多々ある。そのため知らぬうちに出会っていたのであろうと推測する。
なお彼女は遡ること、蛍が丘が山口工科との試合を近く迎えたある日。高校のグラウンドまで見学に来ていたそうなのだが、『データ野球』に過敏になっていた近江によって、執拗なまでにFBIと言われ続けた健全な見学者である。
春馬はそこに深く入り込まず、そもそも覚えておらず、沖満が名前を書き終わっているのを確認してから、鍋島の前に名簿を突き出す。
「ま、まぁ、鍋島くんもそこに名前を」
「はい」
名前に関する動揺がまだ解けていないためか、珍しく『くん付け』する春馬。すると直後、驚く光景を目にする。鍋島が左手で文字を書き始めたのである。
「まった。鍋島。お前の利き手って」
「ひ、左です」
「ポ、ポジションは?」
「ピッチャーです」
左投げピッチャー降臨
『(な、なんか来たぁぁぁぁぁぁ)』
表には出していないが、沖満の時とは恐ろしいまでの反応の違いである。
蛍が丘はエースに化け狐が君臨しているとはいえ、2番手以降の春馬・近江は質や経験の違いこそあれ、元々投手ではない人間をマウンドに上げているような感じである。その野球部において2番手を担うことができる本格的な投手、それも珍しい左腕が来てくれるとあっては、大きいことこの上ない。仮に短いイニングしか投げられないとしても、その間は春馬がショートに専念できるのはとんでもないメリット。1つぶで2度おいしいどころか、そのおいしさが三ツ星レストラン並みのおいしさである。
ただ、今は入部希望の合同受け入れ中である。
2人への突っ込んだ話はさておき、事務的な話へと進めていく。
「練習は今日から? それとも……」
一応聞いてみると、
「私は今日からです」
「ぼ、僕も今日からです」
2人とも今日から練習に参加するとのことである。
「それじゃあ、2人とも場所は分かる? 分からなかったら近江が案内する――」
「えぇぇ、私、春馬君と一緒に――」
「キャプテンが案内する」
「私が案内する」
胸を張ってキャプテンアピールの近江。
「ぜひお願いします」
「お願いします」
野球部専用のグラウンドがあるわけでもないし、他の運動部と共用の学校グラウンドだって特別広いわけじゃない。それならば鍋島はまだしも、見学に来ていた沖満は案内などいらないはずであるが……
「どこで着替えればいいか。って問題もあるからな。近江、任せた」
「任せられた。さぁいっくよ~」
1年生以上に嬉しそうに跳ねていく近江。先々と脱靴場に向かうが、沖満・鍋島に「先に荷物を……」と言われて1年生の教室へと転進していった。
「あいつは相変わらずだなぁ」
感情のままに生きているような人間だけに、一度彼女のコントロール方法を覚えれば扱いは非常に簡単である。ただそれはかえって理屈で予期できないゆえに、春馬もいろいろと驚かされることもある。それが蛍が丘内では孤高であっても不思議ではない春馬を、孤立から防いでいる一因でもあるのだが。
1人残された春馬は意味もなく入部届に目を通しつつ、そして片方の手では暇つぶしのペン回し。よほどやることがないようである。もっともここにいなければならないのも、おそらくは20分程度であろう。20分経たずとも、もう誰も来なければ受付終了でもいいかもしれない。既に入部先を決めている人はさっさと受付に来るだろうし、迷っている人は明日以降に提出するだろう。そうなるとこの時点で殺到しないあたり、それほど多くの入部は見込めないだろう。
『(結果は試合放棄とはいえ、甲子園出場したんだけど……やっぱり日野さん効果で大野山南に流れたかな? いや、あそこに流れるのは難しいだろうけど)』
夏の甲子園出場かつ、エースのドラ1プロ入り。それだけ大野山南野球部は注目を集める要因があった点では、もちろん新入部員増加は想像できることだ。一方で入部するには高校に合格する必要があるものの、大野山南はスポーツ推薦が存在せず、また高校の受験偏差値もスポーツ科ですら50以上と難易度は高い。野球強豪校ではなく、あくまでも進学校の大野山南高校がそれほど多くの新入部員を確保できるかは、少々厳しいところでもある。
「そろそろ片付けるか」
新入部員が集まっている部活はまだ殺到しているが、それ以外のところは暇になる一方。春馬はもう新入部員は来ないだろうと、名簿やら、入部届入れやら、片付けを始める。するとちょうどそのころである。
「春馬。野球部の入部希望だと~」
「は~い」
すると向かいのサッカー部・鈴木から声をかけられる。顔を上げてみると、身長が軽く鈴木(173)以上はあろうか。非常に体の大きな男子学生が、鈴木に軽く会釈して野球部の入部受付の方に向かってくる。
「すみません。野球部の方が見当たらなくて……」
「あぁ、隣がこれじゃあ、陰にもなるか」
女子テニス部の前には多くの女子学生が殺到。ポンコツ生徒会長こと南が大慌てで捌いているほどで、野球部の受付をちょうど陰にするようになっている。
「大変だな。女テニも。悪いが南。生徒会みたいに手伝ってやれねぇぞ」
「う、うるさい。大丈夫よ。私1人で」
「そうか。まぁ、僕から言えるのは、一緒に頑張ってる副キャプを忘れないでやってくれ」
1人で大丈夫と言ってはいるが、彼女の横では副キャプテンが頑張っているのである。
「えっと、ちょっと待ってくれよ」
片付けてしまった缶を開け、名簿とペンも取り出す。
「じゃあ、入部届いいかな? それとここに名前を書いて」
「はい」
彼は春馬に入部届を手渡すと、名簿へと名前の記入を始める。
『(島沢忠英か。かなりガタイはいいし、もしかしてできるヤツかな?)』
イメージとしては筋肉質で、少し横に広めの寺越だろうか。身体能力は十分に期待できる。それどころか、甲子園出場校に感化された有望株だろうか。
『(左ピッチャーの鍋島に島沢。もしかして、しがない公立高校にしては豊作かな?)』
期待しながら春馬は目を上げる。
「島沢くん。もしかして野球経験、あったりする?」
「あの、高校って野球経験ないと厳しいですか?」
「……初心者かな?」
「はい。子供会や体育のソフトボールくらいならありますけど……」
「できなくはないけど……」
春馬はクラスメイトの女子を思い浮かべる。彼女は野球経験2年目の素人である。ただし野球に関しての知識量については膨大で、特にルールについては野球部内トップであるとか。
「スポーツ経験ってあったりする?」
「はい。小学校の時は1年から3年まで水泳を。4年生から地元のバスケのスポーツクラブに。中学校ではバスケ部がなかったので、1年の時に陸上部。2、3年では転部してテニス部にいました」
「なんとなくだけど中学が分かったなぁ」
このあたりでバスケ部のない中学校と言えば、春馬や総合鈴征・三藤、琴ヶ浜・石井らの出身校くらいのものである。詳しい理由については春馬も知らないが、実際は単純に他の部との兼ね合いである。活動場所が無かったのと、部員が集まらなかったのである。因みに近江の出身中学校はバスケ部の強豪である。
「まぁ、なんだ。それだけスポーツ経験があれば、体力的には十分。あとは技術を付ければ高校からでもなんとかなるだろ」
「はい。では、これからよろしくお願いします」
「あぁ、よろしく」
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これから増える可能性はあるが、ひとまずの初日新入部員は3名。
沖満佳苗 右投げ右打ち 二塁手/遊撃手/外野手
鍋島直茂 左投げ左打ち 投手/外野手
島沢忠英 右投げ右打ち 本格的な野球経験なし
以上である。
ひとまず現部員一同の前で彼らの紹介を済ませたことで、さっそく練習へと入ることに。ただ野球経験のある沖満、鍋島は練習着だが、島沢は学校指定の冬用体操服。彼についてはできることが限られるだろう。
「で、今日の練習だけど、近江」
「なぁに?」
「沖満の担当。練習するときは一緒にな」
「えぇぇぇ、私、春馬君と練習――」
「頼んだぞ。キャプテン」
「頑張る」
キャプテンと言えばだいたいのことは引き受けてくれる。単純な子である。
「近江先輩と一緒に練習できるんですか。嬉しいです」
沖満も喜んでいるようで何より。早めに部活へなじんでくれるのを待つのみだ。
「最上」
「へい」
「鍋島。任せていいか?」
「ひとつ聞きたい。ギャグか?」
「いいや。ポジション一緒だろ?」
「ならOK」
よほど名前の事を気にしているのであろう。
「で、猿政」
「うむ。大方、ワスは島沢殿かのぉ」
「あぁ。任せた」
「うむ。任せよ」
キャプテン・副キャプテンときて誰に任せるか悩んだが、次点でこの手のポジションが似合うのは主砲・猿政か、もしくは皆月であろうか。大崎は悪くないも、指導力に足るかと言われると疑問符。寺越は良きも悪きもなく地味。因幡は論外。
「そういうわけだ。1年は聞きたいことがあったら誰にでも自由にな。まぁ当分は担当の3年生が一緒に練習するから、それに聞けばいいだろうけど」
「「「はい」」」
返事はしっかり大きな声。
「さぁ、練習を始めようか」
ひとまず全員が自分用の道具を揃えてウォーミングアップへ。因みに島沢についてはグローブが古い軟式用しかないとのことで、皆月の持っていた内外野手用のグローブを借りることに。
まずはキャプテン・近江を中心に置いてのストレッチだが、本日の彼女は1年生担当ということで春馬が中心へ。
「まずはストレッチな。前までランニングの方を先にやってたんだが……いきなり走って足を攣らせたヤツがいてなぁ」
因幡が目線を逸らす。ついでに楓音も目線を逸らす。
なんにせよいつも通りストレッチ。2人で組んで行うストレッチとなると、いつもと異なる組み合わせで行う。いつも近江とやっている春馬は、こちらは普段は最上とやっている皆月とである。
「しかし、偶数っていいなぁ」
「なにが?」
春馬の背中を押しながら問いかける皆月。
「だって、ストレッチの時の人数が丁度いいじゃないか」
「そりゃあなぁ」
ただ奇数で困ったのは意外にもキャッチボールくらいである。ストレッチの時は、同じく奇数のサッカー部と協力していたのである。もっとも一緒に部活を行わない土日祝日はどうしようもないが。
それが一通り終わるとランニングとしてグランドを大きく一周してウォーミングアップ終了。
「次はキャッチボールな。皆月、頼むぞ」
「あいよぉ」
今度も普段は組まない組み合わせ……でもなかったりする。一応はリリーフ+キャッチャーの組み合わせだ。近江の捕手兼任で減ったとはいえ、本来はこれがデフォルトである。
「猿政」
「何かの?」
「島沢は初心者らしいからな。頼んだぞ」
「うむ。任されよ」
彼なら大丈夫そうである。
と、言うわけでキャッチボールも開始。
5分くらいであろうか。塁間やや狭めでキャッチボールした後、隣にいる最上へと話しかける。
「最上、鍋島はどうだ?」
「さすがに新田より劣るかな」
「言っても鍋島は初硬式。僕は硬式球握って3年目だからな」
こちらも塁間より狭いくらい。マウンド―ホーム間よりも少し広い、20メートルくらいでキャッチボール。
「さすがに1年はコントロールがボロボロか」
「まぁなっ――っと」
春馬がつぶやいたその時、鍋島の投球がワンバウンド。最上はバウンドが合わず弾いてしまうも、ちょうど春馬の目の前に飛んできたことで彼はベアハンドキャッチ。ついでに皆月からの投球も、こちらはグローブでキャッチ。
「ほんと、すげぇよ。新田は」
「これくらいなら慣れてる。なんなら近江は近江で凄いけどな」
沖満と組んでいる近江の方へ目をやる最上。沖満も硬式球に慣れていないようで投球が逸れ続けるが、それを片っ端から難なく捕球。頭を越す類のものを除けば、暴投だろうがショートバウンドだろうがなんでもござれだ。
ちなみに猿政と島沢は20メートル弱くらいの距離でキャッチボール。「無理にノーバウンドで投げる必要はないからの」ということで、ワンバウンドキャッチボール中である。
以降もほとんどのメンバーは長くて30メートルくらいのキャッチボールをするに留まる。せいぜい大崎と因幡が外野返球を見据えた70メートルキャッチボールを敢行するも、大崎の送球は因幡に届かず。因幡の送球も低く速いものばかりで、届くには届くがすべてワンバウンドからツーバウンド。実践を意識したとすれば中継を想定する大崎、1人で返す因幡、いずれも間違った送球方法ではないと言えるだろう。




