プロローグ
「春。それは新たな命の芽吹く季節」
春一番と言うべき強い風が彼女へ吹付け通り抜ける。
「春。それは別れの季節」
その風に乗ってきた鮮やかな色の桜が、彼女の髪の毛に舞い降りる。さながら髪飾りのようである。
「春。それは出会いの季節」
風で乱れた髪をかきあげながら整えた彼女は、
「そして春……」
静かに顔を上げた。
「野球の季節だぁぁぁぁぁぁ。祝、ペナントレース開幕」
「近江にとって『野球の季節』じゃない季節ってなんだろうな」
曰く春は、ペナントレース開幕で野球の季節らしい。
曰く夏は、甲子園大会やオールスターで野球の季節らしい。
曰く秋は、ペナントレースも佳境、そして日本シリーズにドラフト会議と野球の季節らしい。
曰く冬は、ストーブリーグで野球の季節らしい。
よって春馬の問いに答えるならば、「そんな季節はない」というものが正しい。
「そっちのキャプテンは元気だねぇ」
「元気すぎて大変だけどなぁ」
今いる場所は蛍が丘高校にある講堂のすぐ外。
本日、晴れて新入生を迎えた蛍が丘。これから行われようとしているのは、入学式直後の部活紹介である。
基本的には各部活、キャプテンによる紹介が行われるのだが、そこでひとつ問題が起こったのは野球部。キャプテンが行うべきか、監督が行うべきか、部内で議論になったのである。
部員一同はしっかり者の新田春馬監督を推薦。
しかし春馬自身は「面倒くさい」、近江キャプテンは「やりたい」と立候補。
最終的には春馬自身の意見を尊重して近江に決定したのである。
「じゃあ、頑張ってな」
「頑張る」
春馬は彼女に別れを告げて講堂内へ。新しく入った1年生たちが前方半分に詰めて座っており、後方半分には各部活の副キャプテンや顧問などが座っている。春馬はその中で最上を見つけ、彼の横へと腰かけた。
「近江、どうだった?」
「さぁ?」
上手くやるからできないかは微妙なところである。




