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蛍が丘高校野球部の再挑戦 ~悪夢の舞台『甲子園』へ~  作者: 日下田 弘谷
第6章 女子野球? ~秋季島根県大会~
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第9話 『ほっこり』しつつ『ヒヤリ』

 焦げたライス、お味噌汁、そしてほぼ楓音が頑張った肉じゃが。その3つで夕食を済ませた後、しばらく自由時間となっていた。


 そして夜8時半。すでに野外活動施設は真っ暗である。


 にも関わらず2年生の全生徒は、山中にあるちょっとした空地に集められていた。


 曰く、これから肝試しをするらしい。


「肝試しって夏の風物詩かと思ったけど、もう秋なんだよなぁ」


「いいじゃねぇの。秋でも冬でも」


 少し眠そうにあくびをする春馬の横で、最上はほんのり楽しそうな表情。


「ふ、ふふ。肝試しなんて子供っぽいイベントだね。私は怖くもなんともないよ」


 そして胸を張る近江。


「だから、こんなことやらずに帰ろう」


 帰りたいらしい。理由は言わずもがな。


 今回の肝試しは野外活動実行委員が噛んでいるわけではなく、2年生教員たちの粋な計らいということらしい。その実行委員の上部組織である生徒会・春馬らも一切の内容を知らされていない。


「えっとルールを再確認すると、1つ、必ず道なりに進むこと。2つ、チェックポイントの各クラス担任から、通過証明のカードをもらうこと。3つ、原則として引き返さないこと。だよね」


「らしいな」


 2年生4クラスが代表を出し合いジャンケンした結果、春馬らのクラスが先陣を切ることに。さらに怖がりの南が「私は大トリを飾るから、新田(あんた)、先行きなさい」と近江ばりの強がりを見せたことで、春馬のグループがさらにその1番となった。本人は大トリと言っているが、4組の後はすぐ1組のため大トリらしい大トリではない。と言うのは言ってはダメである。



 月影のみがその場を明るく照らす山道。


 ノリのいい同級生たちの声を聴きつつ、春馬たちが先陣を切る。


「ふふふ。怖くないし。超余裕だし」


 その同じ班である近江は、相も変わらず強がって見せる。口にしている内容としては、非常に度胸のあるものだが。


「じゃあ、僕から離れろよ。歩きにくい」


「だ、だって、春馬君、怖がりでしょ。手をつないであげてるんだし」


 どう見ても怖がっているのは近江であり、手をつないでいるのではなく、近江が一方的に春馬の腕にしがみついているだけである。


「いや、手をつながなくていいから離れろ」


「つ、強がりはよくないと思う。正直になった方がいいと思う」


 どの口が言うか。


 なおその左後方には、心霊やお化けにめっぽう強いため堂々たる表情を浮かべる最上。そしてその横には、一般的なレベルで怖がりの楓音が不安そうな表情。最上はともかく、楓音はまともな反応ではある。


 と、最上がふと楓音の肩を突っつく。


「ひゃっ」


「な、何事?」


「ぎぁふぁぁぁぁ」


 状況が状況だけに、楓音は身をビクつかせて驚き。前を行く春馬も何事かと振り返り、近江に至っては本気で怖がって春馬へとさらに飛びつく。


「そ、そんなに驚くなって。肩を触っただけなのに……」


「も、最上くん」


「キツネそばぁぁぁ」


「お前さぁ」


 楓音は顔を真っ赤にしつつ、近江は犬歯むき出しで、春馬は呆れ顔。


 三者三様の反応を見せつつも、最上の仕業と分かるなり気を取り直して道を行く。


 そしてしばらく行ったあたりで、最上は声を押し殺しつつ、


「やっぱり楓音も怖いか」


「そ、そりゃあ怖いよ。もぅ」


 ついさっきの事があったせいで、彼女の返事は怒り口調。すると彼は前を指さし、


「手、つないでもらえよ」


「へ?」


「今やってもらわないと、こんなチャンス早々ないぞ?」


 煽るかのような言い様だが、楓音の心境を知る最上が発言者であることを考えると、ただ気をまわしているだけなのか。


 ただチャンスであると気付かされた楓音は、少し緊張気味も素直に頷く。


 やや大きめの歩幅、少し早歩きで春馬の左後方につける。


 そしてゆっくりと手を伸ばし……


 春馬の上着の袖を掴む。手を握る度胸はなかったようである。


 すると彼もさすがに気付かないわけもない。振り返ると、視線を落としてアイコンタクト。そこには開いたり閉じたりする左手。楓音が怖がっていると見た春馬の、彼なりの気遣いであろうか。


 これも素直に受け取る楓音は、さらに緊張気味に右手を伸ばし、手をしっかりと握った。


『(やれやれ。楓音も奥手だなぁ。それとも少しおせっかいすぎだったかな?)』


 甘えん坊で超絶怖がりの近江には右腕へとしがみつかれ、恋心持ちの楓音には左手を握られ、まさしく両手に花状態の春馬。春馬が好かれていることは今更珍しいことではないが、こうして目に見える形として出るのは割と珍しいことでもある。


『(なかなか教員も面白いことするね。ま、これが目的ではないんだろうけど)』


 と、最上はそれらの光景を見ながら微笑みを浮かべる。


「なぁ、最上。そろそろチェックポイントか?」


 そんなことを考えていたあたりで、春馬からの質問。後ろを歩いている最上は両手を後頭部で組みつつ、


「さぁ? コースは道なりとしか聞いてねぇし。長いのか短いのか。そもそも副会長も知らねぇことを、僕が知るわけねぇだろ?」


 妥当な返事。


「ふふ。な、長くても余裕だよ。私、全然怖くないし」


 近江は聞いてもないのに威張るような主張。


 その時である。


 春馬の足が止まる。


「ふひゃ」


「ど、どうしたの?」


「どうした? 新田」


 それに合わせ、近江、楓音、最上の3人も停止。


「なぁ、近江。怖いか?」


「こ、怖くないよ。超余裕」


「そうか……僕は、すげぇ怖い」


 それを真顔で言える春馬の方が怖いところである。


 そんな不自然なことを言う彼に疑問を持った楓音と最上。彼の視線を追い……


「……私も怖い」


「……胸を張っていうけど、僕も怖いな」


 楓音は春馬の左腕にしがみつき、最上も春馬の背後に退避する。後ろの野郎はさておき、春馬にしてみればここは楓音のささやかな胸部の感触も体感できるところ。が、春馬には珍しくそんなことに意識が向かず、その真顔が次第に崩れていく。


「へ、へへん。みんな怖がりだね。私にしてみればこの程度の暗さで怖がるみんなは――」


「じゃあ、近江。あれを見ろ。最上」


 右手を近江、左手を楓音に封じられている春馬に代わり、最上が前方を指さし。


 すると、白い服の人影。しかし足がなく、なんなら「こっちにいらっしゃい」とばかりに手を振っている。


「こ、怖くないんだろ。近江行けよ」


「れ、れ、レディファーストぉぉぉぉ」


「じゃあ、近江ちゃん行けばいいじゃん」


 楓音もレディであるのだが、そこは言いっこなし。ただここは本気で怖い春馬、平気を装っていた近江、こちらも本気で怖がっている楓音と3人で先行の押し付け合い。


「ほら、行け。近江」


「やだぁぁぁぁぁぁ」


「怖くないんでしょ。怖くないなら早く行って」


 ここは春馬も楓音も鬼である。そして近江は必死の抵抗。あれだけ強がってはいたが、本当はこの中で一番怖いようで。


「くっ、仕方あるまいて」


 するとその3人の横に歩み出る者が1人。


「武士の魂。あの程度の者に負けはせぬ」


「よせ、最上。お前は最上(もがみ)義光(よしあき)じゃない。最上(さいじょう)義光(よしみつ)だ」


「そうだよ。最上くん。早まっちゃいけないよ」


「最上君。私の代わりに死んでぇぇぇ」


「ふっ、近江以外、心配してくれてありがとうよ。しかし、男には、そしてサムライには戦わねばならぬ時もあるのよ」


 最上は体勢を低くすると、盗塁のように飛び出した。


「最上義光、いざ参る」


 光のごとき速さで、手を振る謎の存在へと飛び込んでいく最上。


 そして大きな声を発した。


 それは決して死地へと向かう者の声でも、最後の言葉でもなく、


「先生ぇぇぇぇ。チェックポイントのカード、く~ださ~い」


「「「え?」」」


 最上が手にしていた懐中電灯を前に向けたことで、そこにいた幽霊的なモノの姿がはっきり見える。


 黒いジャージに白い上着を羽織った2組の担任であった。


「お、よく来た。じゃあ、これが1枚目な~」


 社会科担当の男性教員は、最上へとチェックポイント通過証明となる、最初のチェックポイントカードを手渡した。


「で、あの3人は?」


「怖がりです」


 堂々とする最上。そんな彼の背後に3人が駆け寄り、


「も~が~みぃぃぃぃぃ?」「「も~が~み~くぅぅぅん?」」


「ははは……何か御用かな? それと僕の名前は『もがみ』じゃない。『さいじょう』だ」


「ど~して、先生だと知っていたのかなぁ?」


 威圧的に問いかける春馬に、最上は自らの目を指さし、


「視力2.0以上、ア~ンド、夜目」


 そう自称する。曰くこれだけの暗闇でかつ遠距離であるにも関わらず、『先生』の姿が見えていたらしい。


「つまり最上は、見えていたってことか?」


「途中からだけどな」


「どこから?」


「近江がレディファーストって騒ぎ出したあたり」


 割と早い段階である。


「なるほど。そこから僕らを騙していたと」


「新田? 怒ってる?」


「いいや。僕は怒ってないし、近江も楓音も怒ってはないと思う。ただな……」


 見る限り、右腕にしがみついている近江は半泣き。左手を握っている楓音は涙目。


「マジで怖かったみたいだぞ」


「……ごめん」


 事の発端は春馬の見間違いであるが、あくまでも彼に過失はない。しかし最上の行動については過失満載である。


―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――


 怖がりの近江・楓音がゆっくりペースで歩いていたためだろうか。それとも春馬自身も内心は恐怖を感じていたのだろうか。推測される距離の割には、かなり時間がかかったように思える。


 しかしなんとかゴールである飯盒炊飯所にたどり着いた4人は、そこで待っていた養護教諭の三刀屋に、5枚のチェックポイントカードを手渡す。


「カードを確認するね。『き』『も』『だ』『め』『し』、はい。5枚そろってます。クリア」


「はうぅ、疲れたぁぁぁ」


「よ、ようやく終わったぁ」


 その場にしゃがみこむ近江と、春馬の手を握ったままで一息つく楓音。


「じゃあ、あそこで軽食の菓子パンとジュースを、1人1ずつ持って行ってね」


「やったぁ。わたし、いちば~ん」


 その三刀屋の一言にこれまで怖がっていたり、帰って来るなりしゃがみこんだりしていた近江が、パンとジュースの置かれた場所に飛び出していく。


「泣きそうだった割に元気だなぁ」


「泣きそうになった原因は最上だけどな」


 春馬のツッコミに最上が目を逸らす。


「なんにせよあれは単細胞だし、この反応は妥当だわな」


 怒った1分後には笑っているような、喜怒哀楽の激しいアホの子である。


「みんなも食べよ~」


 そのアホは早くもジャムパンと牛乳、さらには席までも確保して皆を待つ。


「本当、新田の言うとおり単細胞」


「その点、楓音は……怖かった?」


 振り返る楓音は反応に困りつつ、


「す、少し?」


「ずっと新田に手を握ってもらっていたもんな。多少は怖かったかもしれないけど」


「も、最上くんっ」


 怒った様子をしつつ、手を握っていることを思い出して慌てて手を放す。


「あのなぁ、お前、誰からしら常に煽ってないとダメなのか?」


 先頭の春馬班が着いた時には、もちろんのこと他のグループなどいなかった。それもしばらくすると、2、3分おき程度に次々と後続のグループも帰ってくる。道なりであり、分かれ道ではチェックポイントとして4クラスの担任がいたため、迷うことも危険なことも一切なし。ただただ暗いことで恐怖心をあおる肝試しだったようである。


「ねぇ、新田。隣、いい?」


「悪いが、おめぇが彼女なんてお断りだぞ」


 そして今しがた終わったばかりの南生徒会長が春馬の元へ。イチゴジャムパンと野菜ジュースを片手に隣へと座る。ついでに春馬の返しに拳骨を一発。


「で、なんだよ。また余計な案件でも持ち込む気か?」


「そんな人を疫病神みたいに言わなくても」


「お前の案件で良かったモノなんて一度もないんだが?」


 ごもっともである。


 春馬はアンパンを一口かじり、リンゴジュースで流し込む。南の方を見ずにそっぽを向いてそうしていたため、彼女の神妙な表情に気付かなかった。


「ちょっと私気付いたんだけど……」


「なんだよ」


「今日の肝試し、なんかおかしくなかった?」


 彼女の一言に春馬は虚空を見つめる。


「南の頭でもそれに気付くんだな」


「そ、それくらい」


「ま、今日の夜、テントの中で話してやれや。話題の1つくらいにはなるだろうよ」


 真面目な表情の南に対して、その気のない春馬。ただそれ(・・)に気付いていないわけでもなく、怖がっているわけでもなく、本当にどうでもいいかのような言いようである。


「新田はもしかしてどうやったか分かってるの?」


「さすがに知らねぇ。けど、物理法則を無視するような非科学的な出来事ではないし、いくつか可能性は挙げられる。もちろん、参加者にばれないくらいに現実的な方法でな」


「そう」


「気になるなら主催者に聞いてみろよ。教えてくれるかもな。笑ってごまかされるかもしれないけど」


 なんにせよ今回の肝試し、少し頭を使えば矛盾に気付く本当のホラー。しかしさらに頭を使えば、割と簡単にその矛盾を解ける簡単なもの。ただあたりを見回す限り、それについて話していそうなのは春馬と南くらいのもの。果たして気付いていないのか、それともただの勘違いで済ませているのか。知るのは彼ら彼女ら本人のみである。


因みに今話の元ネタは日下田の体験談です

……はい、分かると意外と怖い話です


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