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蛍が丘高校野球部の再挑戦 ~悪夢の舞台『甲子園』へ~  作者: 日下田 弘谷
第6章 女子野球? ~秋季島根県大会~
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第7話 まさかの快進撃

 相手は春のセンバツ出場。その上、中堅・総合鈴征、名門・信英館を撃破し、夏の甲子園出場校・大野山南と激闘を繰り広げた野球部。九分九厘勝てるとは思っていなかった。それでも少しは試合が成立するのではないかと思っていた。


 しかし現実は……



 琴ヶ浜 0 ― 49 蛍が丘



 蛍が丘高校の演じた『死に霊の悪夢』を再現したかのような結末。男子に打たれて男子に抑え込まれたならまだ納得もいく。だがそう簡単なことではない。女子の楓音にも打たれ、近江に至っては打つだけではなく琴ヶ浜打線を抑え込んだ。同じ女子にすら負けた。


 ほとんど諦めて試合に挑んでいたはずなのに、どこか諦めきれない悔しい思い。矛盾したそれがふつふつと込み上げてくる琴ヶ浜の選手たちであったが、キャプテンの岩井はそれを抑えて自らのやるべき行いを果たす。


 琴ヶ浜女子は野球部新設校。それも女子のみというイロモノ集団である。彼女たちが今後成長していくうえで、練習試合を組んだり情報入手したりする人脈ならぬ『校脈』『部脈』は必須のものとなるだろう。ならばまずは蛍が丘高校野球部のそれが欲しい。


『(蛍が丘高校は私たちと同じ女子生徒もいる。なら、きっと悪くは思わない、はず)』


 いくら世間に認知され始めた女子野球部と言えど、やはり奇異の目では見られる。そうした面を排して一様に見てくれるのは蛍が丘高校くらいのものであろうと、彼女や監督は推測したのである。もっとも近江に苦しめられたことで大野山南も同じような性質を持つのだが、彼女らはそれを知る由もない。


 大会関係者から彼らがどこにいるのかを聞くと、言われた場所へと監督や副キャプテンと共に向かう。そこへと行ってみると早くも帰る準備が終わっているのか、それっぽい大柄の男が軽トラの荷台にシートをかけているところだった。


「す、すみませ~ん」


 早くしないと帰ってしまうと焦ったのだろう。岩井は手を振ってアピールしながら、その男を呼び止める。


「どうかしましたかの?」


「あ、あの、蛍が丘高校野球部の人ですか?」


「確かに。サードを守っておる、猿政泰治と言う」


 一度聞いたら忘れない、クセのあるしゃべり方である。


「監督さんはいらっしゃいますか?」


「新田殿かの? 新田殿の車は……」


 軽く背伸びしながら見回すと、


「ヘ~イ、ヘ~イ、ユー。私と一緒にクモデでバーソーといかない?」


「おい、近江。箱乗りすんな。あぶねぇぞ。てか、クモデって何? バーソーってなんだ?」


「そりゃあ、あれだろ。出雲(いずも)でソバだろ」


 近江家の車付近で騒いでいる監督+箱乗りキャプテン+副キャプテン。


「ふむ。あそこにおるぞ」


「ありがとうございます」


「新田殿、お客さんだの」


「お客さん?」


 箱乗りの近江に説教していた春馬だが、猿政の呼び出しにその場を離れる。


「あ、待って。私も行く~、も、最上君、降ろして~」


 そして彼女もそれを追おうとするが、箱乗りになったはいいものの降りられないようで。最上に支えてもらいながら着地し、彼の後を追っていく。


「誰かと思えば琴ヶ浜の」


「はい。キャプテン、岩井ひなたです」


「改めまして、監督の霧島雛代です」


 出迎えた春馬に、岩井と霧島の2人がそれぞれ会釈。


「で、そちらにいるのが」


「ピッチャーをしていました。副キャプテンの石井陽菜です」


「……一応、面識はあるはずなのかな?」


「どこかで会いましたか?」


「中学が同じ」


 それほど大きい学校ではないし、クラス間の交流がまったくないわけではない。名前くらいは聞いたことがあるものの、お互いにまったくと言っていいほど顔を覚えていない。一度も同じクラスにはならなかったのだから、当然と言えば当然ではある。


「それはそうと、何かありましたか?」


「新田監督。こうして試合をしたのも何かの縁。今後も何かとお付き合いいただければと思いまして」


「お、お付き合い⁉ 春馬君が告白された⁉」


「近江、しゃべるな。馬鹿がばれる」


「もう手遅れだの」


 お付き合いを『野球部間の交流』ではなく『恋愛的交友』と解釈した近江に、春馬は辛辣なツッコみ。近くにいた猿政も呆れながらの冷静な対応。


「すみません。話の腰を折ってしまって。こちらとしても、そのお話をお断りする理由もありません。ぜひ、今後ともよろしくお願いします」


 馬鹿なキャプテンはおいておき監督同士握手を交わす。正直なところ、これほどの弱小校から一年足らずの間に何かを得られるかどうかは怪しいところ。むしろ普通に考えれば付き合うだけの手間があって、まったくリターンなどないと考えるのが妥当だ。


 しかし蛍が丘野球部はおそらく現部員9人が一斉引退する来年夏、大きく戦力が落ち込むか、下手すれば部員0により廃部なんてことにもなりうる。いずれにせよ現在の地位を維持できないであろうだけに、

『弱小校』との繋がりを持っていて間違いない。そしてなにより、


『(普通に考えればリターンはない。普通に考えれば、な)』


 割と『普通』な展開にはならないものである。


 そして霧島監督に続き、手を出してくるのは岩井キャプテン。


「私たちの秋はこれで終わりましたけど、蛍が丘はなんとか勝ち進んでください。応援しています」


「ありがとう。そうだなぁ……」


 出された手を強く握る春馬だが、それだけでは味気ないと思ったのだろう。少し考えてから一言だけ彼女に授ける。


「僕らは初のセンバツ42対0。死に霊の悪夢と言われたあの試合を糧に成長した。だから琴ヶ浜にとって大敗となったこの試合。きっと琴ヶ浜にとってもターニングポイントになると信じてる」


「きっと今度は、今日のようなスコアにはさせません」


「私も、今度はしっかり抑えて見せます」


 キャプテンに続いて手を出す石井副キャプテン。彼女とも握手。その横で「自分も自分も」とアピールする近江は、霧島、岩井と握手を交わす。


「あぁ、それともう1つ」


「はい。なんでしょう?」


 岩井キャプテンが反応するも、春馬は隣の副キャプテンを指さす。


「そっちの石井副キャプテンに」


「私ですか?」


「悪いことは言わない。ピッチャーならヘッドスライディングはやめとけ」


「はい……ごめんなさい」


 別に春馬が謝られるようなことではないが、まさか敵方に怒られるとは思ってなかった石井は反射的に謝罪。


「本当に迷惑かけちゃって。ウチは野球を始めてすぐが多い分、ケガに対する自己防衛ができていないみたいで」


「いえ、野球を始めて10年くらい経つのに、アイシングを知らないヤツがいるんで」


 ピッチャーやキャッチャーとしての経験自体が浅いので分からなくもないが、それでも周りで見ていて必要性は知っているはずなのだが。


「ケガと言えば、僕が送球を当てた子は?」


「桃花――いえ、村雨さんなら、頭を軽く切ったくらいで済みました」


「それはよかった」


 春馬自身は別に自分が悪いとは思っておらず、むしろランナーが悪いと思っているくらい。しかし紛れもなく自分が怪我させた側なのだから、そこのところは気になるところである。


 と、隣の小さなお腹から大きな腹の虫の音。


 遅れて大きな腹からは可愛らしい小さな腹の虫の音。


「ふっ、では、そろそろみんなも腹を空かせて待っていますので」


「そうですね。呼び止めてしまってすみません」


 霧島監督、岩井キャプテン、石井副キャプテンは軽く頭を下げ、頭を挙げるなり春馬と一度視線を合わせてから回れ右。今後の予定を話しつつチームメイトの方へと帰っていった。


 そして彼女なりに空気を読んだのだろう。3人が見えなくなるなり、近江が春馬へと飛びかかる。


「うぅぅ、春馬君、告白されたぁぁ」


「しゃべるな、もう。馬鹿がばれるぞ」


「もう馬鹿と知らない人はいないから、それについては大丈夫だの」


 猿政は意外と毒舌である。


 すると近江はやや上目遣い。唇に右手人差し指を当て、気持ち胸を寄せ――


「春馬君は、私のものだよね?」


「さぁ、みんな帰るぞ~」


「「「へ~い」」」


 疲れているわけで早く帰りたいのである。


―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――


 夏大会では1回戦・総合鈴征、2回戦・信英館、3回戦・大野山南、4回戦・天陽永禄(予想)、決勝戦・松江水産(予想)という超不運な組み合わせであった蛍が丘高校。

しかし秋大会はかなりの幸運な組み合わせ。


 1回戦にて琴ヶ浜女子とぶつかったのを皮切りに、2回戦以降も弱小~中堅やや下あたりの相手が続く展開であった。



2回戦・県立京羅木高校戦


 2回に猿政の先制ホームラン。


 4回に近江がスクイズを決めて追加点。


 さらに6回には寺越の犠牲フライと、上位打線の活躍によって着実に加点。守っては6回まで最上が、7回から春馬が完封リレーを見せて3―0の勝利。



 3回戦・温泉津商業高校戦


 初回から早くもゲームが動き出す。先頭の大崎が内野安打で出塁すると、因幡がライト前に弾き返しノーアウト1・3塁。そこから寺越によるゲッツー崩れの間に先制点を奪うと、さらに猿政が左中間を真っ二つにして追加点。以降も2回戦のようにコンスタントに点を取り続け、最終的には6―0での勝利。



 その結果、あっさり中国地区大会への出場を決める結果に。


「なんかこういっちゃなんだが……余裕だったな」


「そりゃあ、相手が良かったし。僕や新田がいつもより負担は小さかったのもあるだろう」


 学校の朝会前に秋大会の結果を見ながら呆然とする春馬に、机の上へと足を放りだした最上が答える。


 実際のところ、近江を勝戦処理として登板させる機会は思いのほか多かった。その心もとない投手能力に関しても、ショート・最上、セカンドには本職の春馬。この二遊間を武器に乗り切り、予想以上に安定した結果を見せていた。


「それにしても、今期はかなり出場校数が少なくなかった?」


 と、身を乗り出して話に入ってくる楓音。


「ただでさえ島根県は出場校数が少ないのに、3年生が抜けて人数割れ起こしたチームが多発しちゃったからな。連合チームを組んだみたいだけど、少なくなるには変わらないからな」


 チーム数が少なくなっても、倍以上の校数がある広島県と中国地区大会への出場枠は同じというのだから、これは田舎野球部の特権である。その代り交通網(インフラ)や距離の関係上、練習試合の組みやすさでは大きく劣る。さらに言えば日本海側の島根県では、もう数か月で大雪の時期である。単純な頭数では甲子園に出やすい田舎だが、選手層や環境と言った点では一概に戦力的には有利とも言えないのである。


「でもこれでも去年に比べれば出場校数は大きく減ってはいないんだよなぁ」


「女子選手が浸透してきたのもあるんじゃないか?」


 春馬の補足に、最上が彼のカバンから島根県大会の冊子を取り出しつつ返事。


「蛍が丘、琴ヶ浜、大田(おおた)山吹(やまぶき)


「よく覚えてるな、近江。しかしあいにく『おお()やまぶき』じゃなくて『おお()やまぶき』だぞ」


「いや、新田もソラで言えるあたりよく覚えていると思うけど?」


 近江の口にした3校は、今秋大会で女子選手の先発出場があった学校。それ以外の学校も女子選手がいるものの、ずっとベンチ、もしくは終盤で少し出るだけと言ったくらいだったり。主戦力とされている女子選手がいるのはこの3校のみである。


「なぁ、新田。大田山吹ってどんな学校だっけ?」


「ウチと試合をしたことはないかな。正直言えばまったく強くないところ。なんなら去年の蛍が丘でも勝てたんじゃないか?」


「そんなにか?」


「そんなにだ」


 去年の蛍が丘と言えば3年生1人、1年生8人のほぼ1年生集団。それも悪夢の甲子園で身に着けたメンタルを持っていない頃である。


「そもそもが今年の島根県勢は、全体的に小粒らしいからなぁ」


「らしい、って言うのは誰かが言ってたのか?」


「信英館や天陽永禄の監督さんと、秋大の組み合わせ抽選の時に。大野山南の日野さん、信英館の東山さんを筆頭に、大物エースがほとんど引退しちゃったからな。曰く、総合鈴征の立花弟がめぼしいくらいだって」


「立花弟って言えば、蛍が丘戦の終盤で出てきた1年生だろ。あの戦国武将ネーム。つくづくすげぇ名前だよな」


「お前もな」


 立花宗茂と書いて『たちばなかずしげ』もすごいが、最上義光と書いて『さいじょうよしみつ』もなかなかである。


「しかし人口の少ない島根と言えども、それほどまでに人材難とはなぁ」


 後頭部に両手を回しながら天を仰ぐ最上。それに対して春馬は真顔でつぶやく。


「言っても、立花弟が十分な怪物だけどな。あとは……」


 そして今度は目を細め、


「いや、関係ないか」


「何の話だ?」


「僕らには関係ない話だから」


「そうか。じゃあ、いいや。面倒くせぇし」


 思うところもあった春馬であるが、あまり……いや、まったく関係ない話である。とにかく気にすべきは、初めての出場となる中国地方大会。


『(去年の夏は1回戦敗退だったのにな。二十一世紀枠とはいえセンバツ出場、夏では総合鈴征・信英館と言ったレベルの高い学校を破り3回戦進出。そして今度は、気付いたら中国地区大会か)』


 果たしてこの結果は実力か。

それとも死に霊の悪夢と同じ『運』での出場か。


『(僕らの答えはすぐ目の前にある。そうなると行かないといけないな)』


 しっかり開いた目で周りを見据える。


 近江と楓音は秋大会について楽しそうに会話。


 最上は何か物思いにふけるように天井を見つめる。


 そしてここにはいないが、別のクラスにいる愉快な仲間たち。


『(自分たちの真価を問う戦い、か)』

<琴ヶ浜女子 監督・途中出場選手>

霧島(きりしま) 雛代(ひなよ)

朝霧(あさぎり) 唯恋(いこい)

村雨(むらさめ) 桃花(ももか)


もちろん元ネタあり

琴ヶ浜女子の監督・選手の元ネタは共通

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