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蛍が丘高校野球部の再挑戦 ~悪夢の舞台『甲子園』へ~  作者: 日下田 弘谷
第5章 春のセンバツ出場校 VS 夏の甲子園出場候補
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第5話 日野啓二VS近江美優

 最上から始まった8回表の攻撃。次の回は外野にて温存中の日野が再登板することがたやすく想像できるため、なんとしてでも追いついておきたいところ。


 しかし……


「ストライクバッターアウト」


 先頭の最上が空振り三振。


「デッドボール。テークワンベース」


 俊足の大崎がデッドボールで1塁を得るも……


「くっ、詰まらされた……」


 因幡はインコースを詰まらされてセカンドフライ。それをセカンドがわざと落球し、俊足の大崎を2塁にて封殺。


「バッターアウト、チェンジ」


 2アウトで1塁に因幡と代わって3番の寺越。ここも空振り三振に切って取られて無得点。


「さすが大野山南。次世代への備えもバッチリ、か」


 マウンドを降りる2年生・屋島を睨みつけながら、ベンチから出る最上。春馬は一杯だけスポーツドリンクを口にして彼の背を追うように出ていく。


「日野さん、白柳さんを除けばせいぜい野球部は中堅クラスの進学校かと思ったけど」


「なかなかどうして。十分県下上位校だぜ」


 そんな学校相手に接戦を繰り広げている蛍が丘も異常ではあるが、この2校については圧倒的な違いがある。

蛍が丘は春馬の優れた正攻法指揮力、最上の奇襲指揮力と言ったベクトルの異なる2つの統率力。そして春馬―近江の鉄壁二遊間。それを生かすゴロピッチャーたる最上の存在。これらが噛み合ってこれだけの成績を残している。


 が、大野山南は総合力で蛍が丘を上回っている。


 相乗効果の蛍が丘。地力の大野山南。果たしてその違いがいかに出るかというと……


『(野球はチームプレーとはいえ、所詮、攻撃時は個人プレー。攻撃力の差で押し切られかねないぞ)』


 春馬はチームを指揮していたからこそ分かる。


 野球は基本的に攻撃側1:守備9。言ってしまえば守備はチームプレーだが、打撃は個人の力に寄るところが大きいのである。つまるところが蛍が丘の持つ相乗効果は、守備のみで攻撃にはまったく生かされない。


『(強いて言うなら僕がいかに的確な指示を出せるかだけど……結局のところ結果を出すのはバッター。どっちにせよ個人の力がものを言う。マズイぞ。このままだと)』


 蛍が丘打線はとにかく小粒。個人で突破力を持つ者など……


『(いや、まだ可能性はある)』


「新田殿、いかがしたか?」


 マウンドを気にし続け、なかなか投球練習を始めない春馬。彼を気に掛けるのは、蛍が丘のる主砲・猿政。そして、


「どうしたのぉ。キャッチャー、私の方がい~い?」


 超主砲・近江。


 この2人が単独での突破力を持つ数少ない選手。


「いや、大丈夫。ちょっとマウンドが合わなかっただけ」


 足場なんて気にしない春馬にしては、言い訳ぐるしい返事。しかし猿政は彼が大丈夫と言う以上はあえてふれず、アホの子はそれに騙されて納得。


『(次の回は猿政、近江に回る。きっと可能性はある。そのためにも――)』


 春馬はマウンドを慣らしてからようやく顔を上げると、目線を皆月のミットではなく相手のベンチの方へとやる。


『(この回は無失点で抑えないと……きっと最後の師弟対決です。日野さん)』


―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――


『8回の裏、大野山南高校の攻撃は、3番、ライト、日野くん』


 ひげを蓄えてイメージチェンジした日野が左バッターボックス。担いでいたバットを跳ね上げるようにして立てると、腕を伸ばして8時5分。


『(やっぱり日野さん、あの人をイメージしてるよなぁ。てか、大野山南はあのひげに何も言わないのかな? 校則とか)』


 不良生徒がはびこっており、それどころか生徒会副会長までもがその一員である蛍が丘がそれを言う権利はないだろう。ただ実際のところ大野山南の校則運用自体は厳しいものの、校則自体はそれほど厳しくないところがある。島根県トップクラスのエリート校・大野山南の特徴でもある。


 春馬は両足をプレートにかけて皆月とサイン交換。ノーワインドアップモーションから初球。


「ストライーク」


『(ほぉ、ど真ん中ストレートかいな。これまた思い切った投球や。ワイが初球から打ってけぇへんと見たか、それともただのコントロールミスか。いずれにせよ、次は逃がさんで)』


 強打者・日野を前に初球でストライクを奪えたのは大きいように思える。しかしそれだけにストライクを取るのが難しいわけで、そのストライクをあと2つも奪わなくてはならない。そう考えるにそれほど大きなものではないのかもしれない。


『(日野さん。僕らもここで負けるわけにはいかないんです)』


 それほどのバッター。しかしここで負けるわけにはいかない。


 蛍が丘の目指すべき舞台は――そう、逆襲の舞台・甲子園。


「ボール」


 力んだ投球は高めに外れるストレート。


 この緊迫した場面。本職内野手の選手に緊張するなという方が無理な話だ。


『(春馬。ここは当てる気でこい。それくらいじゃないとこの人は抑え込めない)』


『(分かった。皆月のそのキャッチャー勘に賭ける)』


 ノーアウトのランナーを出したくはないが、そのくらいのリスクは負わなければならない。


 決意のもとに春馬の3球目。


「ボ、ボール、ツー」


 インコース低めから日野の足元に落ちるスライダー。鋭く沈んだその球に、日野は飛び跳ねるように回避。


『(っと。今の新田くんは当てる気やったな。それだけの強気な投球――いや、それとも強気なリードやろか)』


 日野が目を向けるのは皆月。日野視点で考えれば、彼はストレートしか投げられないエースと、ストレートとスライダーだけのリリーフをリードし、総合鈴征・信英館を撃破し、大野山南を苦しめた好捕手である。


『(意外とこのチームのキーマンは皆月くんやもしれへん)』


 日野株式市場における皆月株の予期せぬ高騰である。


「ボールスリー」


 4球目がアウトコースいっぱいに外れてスリーボール。


「今のが入っていないか」


『(今のがボールかいな。ホンマ助かったで)』


 日野にしてみれば裏をかかれた一投。追い込まれたとも思ったが、球審の判定はボール。マウンドの春馬も小声ながら不満を口にする。


『(くそっ。皆月。どうする。いくら次でフォアボールとはいえ、甘いところには放れないぞ)』


『(歩かせる覚悟で)』


『(仕方ないか)』


 日野ならば次に甘い球を放ればスタンドまで持っていく。それは次の回、エース・日野を相手することになるであろう蛍が丘にしてみれば、息の根を止められる一撃にも匹敵する。無理はしない。


「ボール、フォアボール」


「くぅ、外れたか」


「フォアボールかいな。打てそうやったんやけどなぁ」


 3―1からの5球目が外れてフォアボール。春馬・日野共に悔しそうな反応。日野にしてみれば師弟対決をフォアボールで逃げられたわけだが、春馬にしてみれば鈍足とはいえ先頭バッターを塁に出してしまったのである。


『4番、キャッチャー、白柳君』


 このチャンスで打順は前の打席、勝ち越しとなるタイムリーツーベースを放っている白柳。


『(次の回の蛍が丘は4番から。つまり打順は5番の近江に回る)』


 打席に入りながらじっくりと状況を整理。


『(仮に……最悪、ケイがランナーを1人ためて近江に一発を浴びれば2点。だが、おそらくそれが蛍が丘の取れる最高得点。なら――)』


 マウンド上の春馬を見据えながらバットを構えた。


『(3点差、ここでホームランを打てば試合が100%決まるっ)』


 野球経験1年半の女子を含む人数9人ピッタリ。そして全員が2年生と絵に描いたような弱小校だが、21世紀枠とは言え甲子園に出場。地元中堅クラスの総合鈴征、古豪の信英館を突破した蛍が丘高校を油断はできない。


『(日野さんは……リードが恐ろしく小さい。これなら牽制の必要もない)』


 春馬のずば抜けた牽制の上手さを警戒し、気持ち程度のリードしかしていない日野。これならば実質的にバッター集中できると、春馬は余裕を持って投球モーションへ。


「ストライーク」


 インコース低めへとストレート。白柳は初球から果敢に攻めていくも、ここは空振りワンストライク。


『(よし。まずはストライクひとつ目)』


 4番を相手に優位に立てたのは大きいが、問題はここからいかに打ち取るか。打席の白柳としても、堅守の蛍が丘をいかに崩すかが問題だが……


『(ショート近江の網に掛かれば、ゲッツーは免れない。だったら仕方ない)』


 ゆっくり足を上げる春馬の投球モーション。するとここまで右手くっつけていた左手をバットの芯へとスライド。


『(バ、バントっ)』


「な、なにっ」


『(シラナン、本気かいな?)』


 春馬だけではない。一応『ノーサイン』としていた監督も、ランナー・日野も驚き。大野山南は日野を温存している。ならば2点差は九分九厘勝ち決定なわけで、その確実な2点目を狙いに来た。


『(どうせ、蛍が丘から連打は無理。だったら4番の意地を捨ててやる)』


 あまりバントの得意ではない白柳。しかし彼なりにバットを軽く引いて工夫し、打球を殺した送りバント。教科書通りの送りバントであり、これ以上のものはない。だがしかし、


『(あかん、シラナン。このバントはあかんっ)』


 日野は焦るのみ。その理由は言うまでもない。


「ふん。ボールセカンっ」


 ピッチャーの春馬。勢いがない打球を素手で拾い上げた彼は、ホーム側にジャンプしながら2塁へサイドスロー。


「あい、一塁(ひとつ)~」


 受けた近江は日野より先に2塁を踏みながら1塁へ転送。


「アウトっ」


 1塁も封殺。


「う、うそぉ。今のをダブられんのか?」


「アカン……アカンのや。シラナン。蛍が丘相手に不用意なバントは危険なんや」


 守備の堅牢な蛍が丘、特にピッチャーが春馬の時にはバントは決して安全策ではない。もちろん成功することもあるにはあるが、少なくとも他校相手に比べると成功率は極めて低いのである。


 せっかく作ったノーアウト1塁のチャンス。しかしそれを軽率な安全策によって喪失した大野山南高校。次なる5番がヒットで出塁するも、6番がセカンドゴロに倒れて無得点に終わった。


「仕方ない、か。日野」


「マウンドやな。任せとき」


 2点以上の余裕があるならば、このまま屋島を続投させて日野を温存する手を打つつもりだった。だがここで1点差である以上、一発のある猿政・近江に回る打線からの追撃を断つには、少したりとも手を抜くことはできない。


「いくで、蛍が丘高校。最後の勝負やで」


―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――


『大野山南高校、選手の交代です』


『(日野さんをマウンドに戻すか……)』


 春馬はマウンドからベンチに戻るなり、逆にベンチからマウンドに向かう日野へと目を向ける。


「むっ。せめてワスの後で代わってほしかったところだのぉ」


 猿政はここまで3打数ノーヒット。それほどのバッターに大エースをぶつけてくるのだから、大野山南も本気の構えである。


「猿政」


「新田殿、いかがした?」


「なんでもいいから塁に出ろ。出れば……追いつくどころか試合がひっくり返る可能性がある」


 春馬はヘルメットをかぶって自らも打席に向かう準備。しかし彼の前にはあの獣王・日野啓二をも委縮させるメス虎が控える。もしも彼女の前にランナーをためることができたなら、『大きな1点差』は『たかが1点差』にもなりうるのだ。


「難しい話だのぉ。相手はあの投手であるぞ?」


「じゃあ、近江みたいに一発狙ってくるか?」


「……むしろその方が可能性ありそうだの」


「なんでもいいから頼んだ。ここは、猿政。任せる」


 春馬からの指示を受けた猿政が投球練習中のボックス付近に駆けていく。そしてネクストバッターサークルでは、


「大丈夫、この勝負……私が決める」


 弱気な猿政に対し、強気な近江が素振りを開始。


 アマチュア最強左腕相手にこれほど勝気な性格を維持できるのは、果たしてアホなのか。それとも日野に負けず劣らない野球の天才ゆえか。


『9回の表、蛍が丘高校の攻撃は、4番、サード、猿政くん』


 投球練習が終わるなり猿政はバッターボックスへ。


 近江もネクストバッターサークルにしゃがみ込んで試合の成り行きを静かに見守る。


「……新田。正直この回、得点を期待できるのは――」


「言うな、最上。分かってる。正統派で言えば猿政の打撃力はチーム1だ。けど、あの日野さんに勝つには猿政級の正統派では難しい」


「……」


「だからこそ異端に賭ける。いや、正統派にも賭ける。野球には決して――」


 初球がボール、そして2球目ストライクと取られての3球目。


「――0%はあり得ない」


 日野の3球目はインコース低めに沈みこむ伝家の宝刀・ジャイロボールことスライダー。それを猿政はすくいあげるように弾き返した。手当たりは最高。痛烈な一撃を放った猿政は、バットを放り投げながら1塁へ走り出す。


「ウソやん」


 思いっきり引っ張った打球はポール際へ。強烈な回転のボールは、ポール手前でフックがかかり、


「ファール、ファール」


 ポールわずか2メートル左をかすめる。


「いける。猿政なら、日野さんを打ち砕け――」


「ストライク、バッターアウト」


「いっちょあがりや。そう二度も会心打、打たせるかいな」


「……仕方ないか」


 日野の力投を前に主砲・猿政も空振り三振。


 蛍が丘高校の夏が終わるまであとアウト2つ。


 そして、日野にとっておそらく最後のライバルとの勝負。


『5番、ショート、近江さん』


 1点を追う展開で一発のある5番・近江。


「すまぬ、近江殿」


「ドンマイ。まだあきらめるのは早いよ。まだ試合は終わってない」


 チーム一か弱い女子っぽい風貌で、チーム一力強く男らしいことを口にする近江。


「やれ、近江」


「最上君や春馬君が守り抜いた9イニング。絶対に無駄にはしない」


「近江、かっこいいぞ」


 9回裏がまだであるため、8イニングであることはあえてツッコまない。


 気分高揚中の近江が右バッターボックスへ。彼女を敬遠すれば、今日は当たっていない春馬・楓音・皆月と打席が回るため、まず勝負は決まる。しかしベンチのサインは――


『(最後の夏。好きにやってこい。それがエースの権利だ)』


 勝負一択。


「さぁ、啓二(ケイ)。お前の夏の最高潮場面(クライマックス)だ。近江。全力で行くぞっ」


 キャッチャー・白柳も近江へと宣戦布告し気合いを入れてミットを構える。


「日野。迷うな。お前の最高のボールを放れっ」


「お前が打たれたなら仕方ない」


「日野先輩。打たせるならこっちに打たせてください」


「意地でも捕ってやります」


 後ろを守る野手からの声もとめどない。


 そして案の定、


「しゃあぁぁぁ。こぉぉぉぉい」


 高校2年生の女子らしい高い声で、女子高生らしくない気合いを入れた近江も気迫十分。


『(ま、どうせランナーもいねぇし、僕から出す指示なんてねぇよ。とにかく自分のバッティングしてこい)』


 蛍が丘高校・監督の春馬も好きに打て。の指示。


 今ここに、高校野球最強左腕・日野啓二 VS 女子野球界最強スラッガー・近江美優


 男女の垣根を越えた全力勝負の最終ラウンドが幕を開ける。


 マウンド上の日野啓二。白柳の構えたミットを見つめながら、ワインドアップモーション。一方の近江は日野が足を上げるのに合わせてこちらも一本足。


『(ボール球なんてないで。すべて狙うはストライクゾーン。ま、外れたらすまん――なっ)』


「ストライーク」


『141㎞/h』


 インコース高めストレートを空振り。


 夏の大会3戦目。そしてその試合も既に9回。疲労が蓄積されているにも関わらず、最高速近いストレートが記録される。なにせ日野にとってはここが最も興奮する舞台。仮に甲子園大会決勝まで行っても、これ以上の興奮はないと確信できる。


『(速いっ)』


 気持ちのいいほどのフルスイングで空振りした近江は、終盤にして記録した日野のストレートに驚き、他方で闘争心を高ぶらせる。


『(さすが近江君や。急に投げられたストレートにもタイミングが合っとる。もしボールが2つ分低けりゃスタンドやったで)』


『(ケイ。曲げるか?)』


『(せやな。ワイの得意球は変化球。何もストレート勝負だけが真剣勝負やない)』


 第2球目のサインに頷きワインドアップ。振りかぶった状態で近江と鋭い視線をぶつけ合い、お互いの闘志を確認しての投球。日野の放った変化球は、


『(フロントドアのジャイロボール。反応できるもんならしてみぃや)』


 一見すればアウトコースにはっきり外れる緩い球。ところが鋭い変化を見せる日野の魔球はここからストライクゾーンへと飛び込んでくる。その球は普通のバッターならば反応はできない。そう、普通のバッターなら。


「チッ」


 日野は投球動作後の勢いで振り上げていた足を降ろすと、振り返らずに天を仰いで舌打ち。


 狙いすましたかのような近江のフルスイングは、アウトコース低めに飛び込むスライダーを捉えてライトへの痛烈な会心打。流し打ちと思えぬ飛距離を見せた打球は文句なしと言うべきもの。


「ファール、ファール」


「って、ファールかいな」


 だが打球はライトポールの右、わずか30センチをかすめるファールボール。


 その判定に不満と言うわけではないが、釈然としない近江。走りかけていた1塁から戻りつつバットの芯を握って拾うと、空中で一回転させてグリップをキャッチ。


「何やってんだ。あいつ」


 ネクストの春馬はその曲芸に疑問符。


 ただそんなことをする余裕があるほど彼女には心理的な余裕があるとも言える。


『(ケイ。前の猿政と同じ、三振前のバカ当たりだ。有終の美を飾りに行くぞ)』


『(近江君、ホームランの打ち直しをしそうで怖いんよなぁ)』


 先のファールを楽観的に捉える白柳と、反して悲観的な日野。


 そのどちらの予想に答えるのか、近江に向けたラストボール。


『(ケイ、お前の最後は――)』


『(もちろんアレやな)』


 得意球ジャイロボール一択。


『(きっと近江君も予想してるやろ。わざわざ相手の待ち球を投げるなんて普通なら愚行や)』


 最後となるのか。この打席3回目のワインドアップ。


『(ワイのジャイロは分かっていても打てへん球。しかし――)』


 2人が同時に足を上げる。


『(近江君は分かれへんでも打てるバッター。この矛盾勝負の最終決着を付けようや)』


 日野の左腕がボールを弾く。


『(蛍が丘の強打者・打てるもんなら打ってみぃやぁぁぁぁぁ)』


 直後、日野は気持ちの区切りがついたように一呼吸を置く。


『(やっぱり、そう簡単に抑え込めるバッターちゃうな。近江君は)』


 彼はバックスクリーンにたたきつけられる弾丸ライナーに振り返りすらしなかった。



 9回表 終了

 蛍が丘高校 2 ― 2 大野山南



 近江の同点弾により試合は振り出し。


 試合は9回裏へと突入する。


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