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蛍が丘高校野球部の再挑戦 ~悪夢の舞台『甲子園』へ~  作者: 日下田 弘谷
第3章 関ヶ原の戦い in 出雲 開戦  ~最上義光 VS 立花道雪 ~
30/122

第8話 次なる戦い

「終わった……な」


「だな」


 あれだけの試合も終わると、残るのは燃え上がった後の残りかすとでも言うべきか。次の試合に向けて頑張ろうという気持ちもあるのだが、ここから再びやる気を出そうとするのは難しくも感じる状況だ。


 クーラーの効いた車の中で涼んでいる春馬と最上。他のメンバーは荷物の片付け中であり、2人も手伝う気でいたのだが、猿政の「ピッチャー陣は疲れておろうし、休んでおれ」との鶴の一声ならぬ猿の一声により、休憩中と言うわけである。


「で、新田。これからどうするよ」


「練習はする気ないだろ? どうせ、学校のグラウンドは使えないし。たしか、サッカー部が今日は練習試合をやるとか」


「帰ろうか。もしくは信英館にでも行くか?」


「信英館……か。父さん。信英館ってここからどのくらい?」


「信英館か?」


 運転席に座って、今大会の冊子を読んでいた春馬の父は、カーナビを操作して学校名を探ってみる。


「えっと、信英館って、正式名称はなんだっけ?」


「信英館学院大学附属高等学校」


「ふんふん……検索っと……ここから車で30分くらいの所かな。でも春馬、試合後だってのに練習してるわけないんじゃないか?」


「いや、割とやっているみたい。表向きは自主練だけど」


 一応これでも監督。いろいろな方面に人脈があり、そちらから情報が入ってくる。その7割とほとんどは大野山南からなのだが、細かいことは気にする必要もないだろう。


「なぁ、みんな。これから用事ある奴いるか?」


 車の窓を開け、そこから顔を出して全員に問いかける。するとそれを聞いていた大崎が、作業をしている全員の方へと伝達する。


「ねぇ、みんなぁ。新田君が、これから用事ある奴いるか。って」 


 それから20秒ほど。何やらしゃべっている声が聞こえたのち、大崎は春馬の方へと向き直った。


「猿政君が腹減っただって」


「他には?」


「用事ある人はいないって。どうしたの?」


「これから信英館に行くぞ。保護者に許可取ってもらえる? 車出してもらわないといけないだろうし」


「分かった。任せてよ」


 おそらくは先に昼食を済ませる事になりそうだが、次なる試合に備えて信英館へと行くことが決定。練習から分かることなど、それほど多くはないだろう。しかし、まったくもって得られる物が無いわけではない。場合によってその「わずかに得られる物」で勝敗が決することもある。


「新田。勝つ気だな」


「もちろん。信英館にも、大野山南にも、天陽永禄にも松江水産にも。すべて勝つつもり。まったくもって不可能ではないだろうよ」


 首をひっこめ、窓を閉めながら答える。


「本気で?」


「本気で。野球に関わらずどんなスポーツにも言えることだが、点を取られない限り、負けることはあり得ない。つまり、相手を0点に抑えこんでいればいずれ勝てる」


「今日は3失点したけどな」


「最上がシャットダウンすれば勝てるさ」


 今日の試合。結果として最上は1失点を喫している。しかし今年度に入っての最上の初失点がそれなのだ。


 春の練習試合、大野山南高校戦は無失点。春季大会1回戦、石見高校戦は7回を無失点。続く浜田工業高校戦は6回を無失点。いずれも無失点であり、今日の試合が初失点なのだ。去年度も含めると『死に霊の悪夢』のせいで防御率が跳ね上がってしまうが、今年度単体なら未だ防御率は0点台の好投手なのだ。


「完封しろと? 無茶言うなよ。そこまでスタミナ無いし」


「それだったら、できるだけ点を取って、最上で行けるところまで行って、僕で逃げ切るしかないんだよな」


 選手層が厚ければ、もっと楽な采配ができるはず。ただ、今の蛍が丘高校野球部にその余裕はない。今更、他のクラブからの転部も考えにくく、新規加入はまずない。つまり今年1年は、いずれにせよ9人ピッタリで戦い抜く必要性があるのだ。


「どうしたものかなぁ」


「悩みどころだなぁ、新田。そう言えば今日の試合を戦ってみて1つ提案があるんだがな」


「提案? なに?」


「ウチってさぁ、ピッチャーが――ん?」


 何かを言おうとした最上だが気付く。因幡が車の所までやってくると、窓を軽くノック。どうしたんだと思いながら、春馬は扉を開ける。


「詰み込み終了? 早いな」


「違う。監督にお客さん」


「お客さん。ここで?」


 頷く因幡。とりあえず春馬は父親に一言入れると、帽子を被って車の外へ。最上も表向きは副キャプテンとして、本音は興味本位で一緒に出ていく。


「お客さんって誰?」


「あれ」


 因幡が開いた手で示した先にいたのは、


「あ、総合鈴征の……」


 パッと見、学生服姿の一同は誰かが分からなかった。しかし、中にエースの佐伯、立花兄弟や、三藤先輩の姿を見つけて、総合鈴征の選手たちだと理解した。


「新田監督。今日はありがとうございました」


「いえ。こちらこそ」


 その中にいた、推定40くらいの大人。総合鈴征の監督は春馬と握手を交わす。


「それで、何かありましたか?」


「えっと、それはキャプテンから」


「キャプテン、って確か……大友(おおとも)さん。でしたよね。5番でショートだった」


 具体的に誰だったかは試合前に会っていたはず、さらに言えば、選手整列の時に正面にいたはずなのだが思い出せず。


「あ、覚えてくれていたんですね」


 だがそこは、名前や打順、守備位置をしっかり覚えていたことで、相手方には「覚えていた」と解釈してもらえたようで。キャプテンの大友が姿を現す。


「はい。それで用件とは?」


「えぇ。僕らの夏はこれで終わりです。ですから、その代り、蛍が丘高校には甲子園を目指して頑張ってほしいと伝えに来ました」


「そう……ですか」


 試合前に比べ元気がないのはそれとなく分かる。また、キャプテンの大友、そして後ろにいる何人かは、泣いたような跡が見受けられる。何よりも春馬にとって心に残ったのは、夏で相手を下したのは初めてであるから。そして、最終学年となる来年は我が身であるからであろうか。


「負けた高校、全てが応援しています。僕らのため。と言うといらぬプレッシャーをかけるかもしれませんが、頑張ってください」


「はい。3年生のみなさんもお疲れ様でした。みなさんの悔しさも背負って、頑張ります」


 軽く礼をして、これで終わりか。そう思ってはいたが、


「大友。ついでに新田君に次のキャプテンを紹介しておけばいいんじゃない? お互いに知っておけば、練習試合の相手をしてもらえるかもしれないし」


「お、そうだな。そこに気付くとはさすが副キャプ」


 三藤はいつも通りだが、大友は悲しいのをごまかすように、わざとらしいほどに元気な声。


「三藤さんって副キャプテンだったんですか?」


「言ってなかったっけ?」


「聞いてないです。聞く機会もなかったですけど」


 旧先輩後輩で一言二言交わしたくらいで、大友が話を元に戻す。


「えっと、いいかな。総合鈴征の次期キャプテンは、立花道雪。知ってるかな?」


「4番でキャッチャーですよね」


「そ。道雪」


 旧キャプテンに呼ばれ、集団の中から堂々と出てくる新キャプテン。


「直接会って話すのは多分初めて、ですね。立花道雪です」


「別にタメ語でいいけど。どうせ同い年だし」


 握手をする両名。するとそれに気を許した道雪は、軽く深呼吸。その上で春馬の目を見据えた。


「それじゃあ、タメ語で言いたいことを言います。この試合、散々卑怯な事をされましたけど、今度は打ち破ってやります」


 思いもよらぬ宣言に、その場が凍てつく。負けた側が勝った側に「卑怯」と言ったのだからそれは当然。もちろん、監督や大友、さらに三藤が止めようとするのだが、


「卑怯上等。だってルールブックにだめって書いてないし」


「隠し球なんて本当にせこいですよ」


「引っかかる奴が悪い。隠し球だって、ボールから目を離さなければいいだけ。野球の基本を守っていれば、引っかからないはずだけど?」


 満面の笑みを浮かべる春馬に、こちらも満面の笑みの道雪。


「この野郎、卑怯者」


「ははは。この野郎、正直者」


 お互いに一発ずつ引っ叩き合う。これを両校の選手が止めようとするが、お互いに制して事なきを得る。


「覚えていおいてよ。今度は負けないから」


「じゃあ、代わりに覚えておけよ。今度も勝つから」


「もちろん」


 険悪な流れかと思わせてからの、仲良くなってしまう展開。表面上の主義・主張は水と油なのだが、芯の性格は親和性が高いのだろう。


 もっとも、やりすぎな道雪は先輩から軽く殴られているが。


「じゃ、新田君。次の試合、信英館は強いけど頑張って」


「はい。ありがとうございました」


 三藤にも礼をひとつ。


 それが交わした最後の言葉。


 蛍が丘高校、総合鈴征学院出雲共和高校の悔しさを背負い、信英館と激突する。決戦の舞台は今日と同じ球場、試合は今週金曜日である。


―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――


 1試合目が早く終わったことで、2試合目が前倒し。結果として昼を跨いだため、ひとまず先に昼食を取ることに。


 球場近くのうどん屋へ9人+保護者で行ったところ、ガラの悪い兄ちゃん姉ちゃんたちが、


「新田ぁぁ。よくやった。昼くれぇ俺らが奢ってやるよ」


 と、豪快な事を言ってくれ、昼代は浮くことに。もっとも猿政が大食漢であるのは予想通りだが、近江、寺越、因幡、最上と他にも隠れ大食漢がいたようで。兄ちゃん姉ちゃんたちの財布は予想外に悲鳴を上げた。笑いながらであるが「お前ら、遠慮しろよ」と春馬に話していたのはちょっとした小話だ。


 そんなことはさておき、昼を済ませた一同は、30分ほどかけて信英館のグラウンドへ。


「うわぁ。いつ見ても凄い施設だね」


 最初に声を上げたのは近江。


 野球用のグラウンドが全部で2面。サッカーコート2つ分程度の多目的広場が1面。室内練習場が1棟。さらに寮と思わしき建物が1棟。さりげなく中を見ると、食堂やトレーニングジムも入っている。


 さらに設備も大したものなのだが、おそらくはOBや、新聞記者、プロや大学、社会人のスカウトと思わしき人たち、さらには他校の学生も目に入る。


「いつ見ても、って、近江は来た事あんの?」


「オープンスクールで来たぁ。春馬君は?」


「信英館野球部のセレクションでな」


「ふへ? 春馬君も受けたの?」


「まぁ、2次で打撃が悪いって落とされたけど……待て、近江。『も』って言ったな。近江も受けたのか?」


「受けたよ。書類選考で落ちたぁ」


「だろうな」


 それはセレクションを受けたに入るのかはさておき、近江の事である。無謀にも強豪校へと挑んでいても不思議ではなかった。


「因みに僕も受けたぜ。1次で落ちたけど」


 そしてかっこつける1次落選の最上は無視しておく。


 春馬はあたりを見回し、信英館の制服を着た女子生徒を見つける。


「ちょっと話して来る」


「ナンパ?」


「しばくぞ。この場所に女子って言うと、マネージャーか、野球部のおっかけか。いずれにしても詳しいだろうよ」


「選手かもしれないよ?」


「信英館は多分、女子はセレクションで切るからいない」


 春馬の推定。近江が書類選考で切られた理由は「女子だから」である。むしろそれ以外に書類選考で切る理由が無い。だとすると、いくら高校野球が女子参加を認めたと言っても、信英館に女子選手がいる可能性は限りなく低いと言える。


「すみません」


「は~い。なんでしょう?」


 声をかけられた女子生徒と、会話をする春馬。それらを遠目に見ながらしばし待っていると、1分弱くらいで駆け足で帰ってくる。


「さっきのマネージャーさんだとよ。それで主力選手は基本的には、2グループに分かれて球場にいるって」


「じゃあ、春馬くん? あれは?」


 楓音が首をかしげ問いかける。指さす先にいるのは、多目的広場で練習している大勢の部員達。


「あれはベンチ外選手だとよ」


「ベ、ベンチ外? あんな凄い打球を飛ばしてるのに?」


 ある選手のロングティーバッティング。推定飛距離100メートルの弾丸ライナーが、コンスタントに飛んでいく。


「主力はそれ以上ってことじゃないか? 単純に言えばな」


 今秋からの事を想定すれば、めぼしい選手を調査しておくべきであるが、今回の目的は今夏の主力選手。今週末にぶつかることになるであろうベンチ入り選手だ。


 一同は女子マネージャーから聞いた通り、主力選手の練習している球場へ。球場と言っても地区予選を行ったものではなく、芝生の外野スタンドとベンチを設置し、周りをフェンスで囲ったような、大野山南を彷彿とさせるようなものだ。それでも野球専用のグラウンドが、多目的広場と合わせて3面あるのは、蛍が丘高校からしてみれば十分に豪華だが。


 第2球場とフェンスに看板の掛けてある球場まで来ると、数人の選手がフリーバッティングを行っているところだった。今打席に入っているのは、肌の黒い選手である。


「あれがエヴァン=ジェンキンス。日本で言う小学校くらいまでアメリカにいた選手で、ポジションは外野で打順が4番」


「さっきからポンポンとスタンドに入れちゃうね……」


「体格からして僕らと違うわな」


 豪快なバッティングに絶句してしまう楓音に、さらに追い打ちを掛けるような言葉を吐く春馬。


 さらに横のバッティングゲージでも打っている他の選手も、時折打ち損じるも、かなり鋭い打球を外野の奥深くまで飛ばしてしまう。


「ねぇ、新田君。ふと思ったんだけど、今投げてるのがピッチャーかな?」


「いや、背番号が無いところを見るに、ベンチ外の打撃投手だろうな。マネージャーさん曰く、投手陣はブルペンで練習中ってことだし」


「あ、あれがベンチ外?」


 大崎が驚くのも訳ない。ボールはパッと見で130キロ前後。それがベンチ外の選手と言うのだから、それ以上の選手がベンチ入り選手とするのが普通である。ところが春馬はそうは考えない様子。


「でもまぁ、リリーフ陣も同じようなもんだぞ。エースは1回戦に見た通り規格外だけど」


「そうなの?」


「140キロくらいのストレートを軸に、フォークやカーブでピッチングを組み立てる本格派。それが東山だな」


「140で本格派?」


「日野さんは忘れる事」


 日野啓二(あれ)は本格的に規格外である。なにせMAX142キロの『変化球投手』だ。


「ただ、コントロールや変化球、さらにピンチでのマウンド度胸に関してはベンチ入り選手に一日の長があるみたい。むしろこのあたりのレベルまで来ると、球速みたいなところより、そうした技術面で――」


 と、そこまで話した時だった。後方にある球場から金属音が響き、直後に、


「「「あぶなぁぁぁぁい」」」


 との警告の声。条件反射で振り返った蛍が丘のナインは、自分たちに向かってボールが飛んでくることに気付き、1人を除いて全員が回避。そして唯一逃げなかった春馬は、


「ナイスバッティン」


 右手をポケットに突っ込んだまま、何食わぬ顔で片手キャッチ。上手くボールの勢いを殺すような捕り方をしたとはいえ、鋭い打球となった硬球を素手で捕るのは、尋常ではなく痛いはずだが。


「だ、大丈夫ですか」


 捕球したとは言っても、部外の人間を危険にさらしたことで、顔を真っ青にして慌てた表情で駆けてくる選手2名。見た目からすればかなり体格はいいが、態度から言えば1年生か2年生か。いずれにしても最高学年には見えない。


「大丈夫、大丈夫。ほら」


 左の選手にボールをトスして渡す。


「あのさ、ちょっと質問なんだけど、ぶっちゃけ、この選手は一番エグイって誰?」


「あ、そ、それは……多分、ジェンキンスさんと東山さんかと。ジェンキンスさんはバットコントロールもパワーも凄いですし、東山さんのフォークと、長打力は……はい」


 怪我はしてないにせよ、ボールを当てた相手。話さないわけにもいかず、しっかりと要注意選手を教えてくれる。こうした情報に関する危機意識がないことも、あまり学年的な経験がないことの裏付けにもなる。


「そっか。ありがとう」


 お礼を伝えた春馬。その2人が去っていくのを確認してから、口角を吊り上げる。


「だとよ、最上。信英館打線はジェンキンスと東山が要注意だそうだ。気を付けろよ」


「お、おぅ。それはいいけど、お前、手は大丈夫かよ」


「余裕」


 手を見せる春馬。少し赤くはなっているものの、腫れている様子も、出血している様子もない。


「怪我がないならいいけどよぉ、あんまり変なことすんなよ。近江が頬を膨らませて怒ってるし、楓音は救急キットを探しだしたし」


「ま、ほどほどにしとくさ。で、他にチェックしたいところはあるか?」


「新田殿。ピッチャーはブルペンだったかの?」


「そう。ブルペンだけど」


「それで春馬。ブルペンってどこ?」


「あっちらしい」


 猿政、寺越の質問に立て続けに答え、ピッチャーを見ようとブルペンの方へと向かう。


「それにしても、全部、さっきの女子マネさんに聞いたんだろ?」


「そうだけど? セレクションを受けにきたとは言え、さすがにそんな昔のことは覚えてないし」


「よくまぁ、そんなペラペラ話してくれたなぁ」


 怪しがるように目を向ける寺越に、春馬はそこまで説明がいるか? と、ため息を漏らす。


「そりゃあ、信英館はいろいろな人間。それもプロのスカウトみたいな人も来るからな。細かい選手情報は滅多に話さないにしても、場所くらいは正直に答えるだろうよ。ネットを見る限りだと、今後の練習試合や公式戦の日程も事細かに書いていたし」


「で、その滅多に話さない細かい選手情報をさっき聞きだしたと」


「細かいって言っても、せいぜい内部の人間から見た要注意人物ってくらい。欠点も、特徴も、それほど掴めなかったけどな」


 ただ、外部から見てこいつは凄いという選手は、それこそ雑誌やネット、噂などの世間評価を見れば分かる。しかし内部からの評価はそれと異なることもある。例えば、レギュラー選手に隠れてはいるが、控えにえげつない奴がいる。と言った場合だ。そして今回の場合。もちろん、たかだか1人の意見ですべてを判断するのは早計だが、あくまでも参考程度にとどめておけば、要注意人物はエースと4番の2人。それに勝る、もしくは匹敵するレベルの要注意人物は、存在しないと取ることができる。


 さて、いろいろと雑談をしながらブルペンまで来て見るが、さすがと言うべきか。その周辺には多くの人が集まっていた。プロ野球のキャンプは言いすぎだが、それに近しいほどの集まり具合だ。


「野球の勝敗は投手力が8割って言うだけあるよな。注目度がすごいな」


「新田、それは分からねぇぞ。その8割の投手力を生かすために、2割の要素の方が大事だったりするもんだ」


「今季防御率0点台のピッチャーが何言ってんだか」


「僕だって蛍が丘みたいな堅守のチームじゃなけりゃ、せいぜい打撃投手だ。きっと、打球が面白いように外野に抜けるぜ。僕がエースたりえているのは、野手陣(おまえら)のおかげだよ。特にどこぞの二遊間が、とち狂った守備力を持っているせいでな」


 少し照れを隠すように、ブルペンの中へと視線を向けながらつぶやく。


「誰の事だか」


「ねぇ、私の事? それって私の事?」


 当然、新田・近江の二遊間の事である。


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