第三話 お姉様のもの、一口ちょうだい?
さすがに、一度だけは言った。
結婚式の一週間前、私は妹の部屋を訪ね、調査書の写しを机に置いた。
借金の額、女の名前、高利貸しの名前、母親と姉の証言。
すべて、事実だけを。
「アンヌ。これを読んで。それでも結婚したいなら、私はもう何も言わない」
妹は書類を一瞥もしなかった。
ただ、私を見て、にっこり笑った。
「お姉様。そんなに悔しいの?」
「……悔しいわ」
「かわいそうなお姉様。でも仕方ないの。だってお姉様のものは、いつだって私のものになるんだもの」
そして妹が書類を暖炉に投げ入れると、私は深く一礼して部屋を出た。
扉を閉めたとき、私は心の底から、清々しい気持ちになった。
私は警告した。
彼女は燃やした。
これでもう、私の良心は一片も痛まない。
「こちらこそ、ごちそうさま」
結婚式の翌日、私はいつものように手紙を書いた。
『Kへ。妹が結婚しました。私はたぶん、あなたが思っているよりずっと性格が悪いのです』
『窓辺の読者へ。知っています。五年前からずっと、あなたの手紙を読んできたのですから。
あなたが性格の悪い人だと思ったことは一度もない。ただ、あなたはずっと、齧られない場所を探し続けている人だと思っていました。
——そろそろ、名乗ってもよいでしょうか』
震える手で手紙を読み進めると、二枚目にはこう書かれていた。
『ライオス・ヴァレンシュタイン。公爵家の嫡男です。
十三の年、療養で領地に籠っていた私にとって、あなたの手紙だけが世界への窓でした。
五年間、私はあなたに会いに行きたいと何度も思い、そのたびにやめました。あなたの手紙に、「大切なものは見えないところに置く」と書いてあったからです。私はあなたの、見えない場所でいたかった。
けれど、もういいでしょう。あなたの家には、あなたから何かを奪う人間はもういない。
ティナ・アーデンフェルト伯爵令嬢。——お名前も、とうに存じ上げております。
三年前、あなたが何気なく書いた領地の収穫祭と、お父上の狩猟会の日付から、調べれば分かってしまいました。
勝手なことをして申し訳ありません。
どうか、私と会っていただけませんか』
一週間後、王立図書館の閲覧室で、私は初めて彼に会った。
背の高い、黒髪の、驚くほど静かな目をした人。
派手ではない。夜会で十人の令嬢が振り返る顔ではない。
けれど彼は私を見た瞬間に、五年分の距離を一気に飛び越えてこう言った。
「窓辺の読者。三年前の秋、あなたが送ってきた手紙の四枚目、下から三行目。あの一文は、私の人生を変えました」
涙が頬を伝う。
今度は、演技ではなかった。
さて、妹の結婚生活の話をしよう。
私は詳しく知らない。
知らないのだが、なぜか噂だけは毎週、風に乗って私の耳に届いてきた。
世の中とは不思議なものである。
新婚一週間目、ジェラルドは、妹が庭師に「おはよう」と言ったという理由で激昂し、その庭師を解雇させた。
妹は「情熱的だわ」と言ったという。
一か月目、ジェラルドの母君が同居を開始。
妹は毎朝、義母の靴を磨くことになった。
「嫁の務めよ」と言われて。
二か月目、ジェラルドの姉、アンネリーゼが「弟が寂しがるから」と、夫を残して実家に居座り始めた。
夫婦の寝室の隣の部屋に。
三か月目、妹の持参金が消えた。
高利貸し三軒への返済に充てられた。
妹が父に泣きついたが、父はすでに一度目の追加援助をしていたため、応じなかった。
四か月目、妹は、ジェラルドの浮気相手の一人に、夜会で頬を打たれた。
周囲は誰も助けなかった。
妹が過去に恋人を奪った令嬢たちが、扇の陰で微笑んでいた。
六か月目、妹の髪が切られた。
義姉アンネリーゼによって。
「弟より目立つ髪の色は生意気だから」
十か月目、妹は実家に帰ろうとしたけれど、門前払いだった。
「お前が選んだ男だろう」
十八年間、妹の言うことなら何でも聞いてきた父の、はじめての正論だった。
ブックマーク、★★★★★、リアクション
よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ





