第二話 お姉様、その人、一口ちょうだい?
私はまず最初に、少しだけ仲の良い知合いを作った。
伯爵令息。詩を書く、穏やかな青年。
二か月後、妹は言った。
「お姉様、その人、一口ちょうだい?」
彼は妹に詩を捧げ、二か月で捨てられた。
二人目。子爵令息と食事に出かけた。
地味だが誠実、領地経営に熱心。
「お姉様、その人、一口ちょうだい?」
一か月半と持たなかった。
三人目。男爵令息。
財産なし、そばかす、口下手。
けれど、私の靴を磨いてくれた優しい人だった。
「お姉様、その人、一口ちょうだい?」
三週間。
四人目。もはや貴族ですらない、街の書店の次男。
私が本当に純粋に会話を楽しんでいた相手だ。
「お姉様、その人、一口ちょうだい?」
十日。
私は本気で不思議になった。
この子は、どこまで食べるのだろう。
味を確かめているわけではない。
栄養が欲しいわけでもない。
妹が食べているのは男ではなく、「お姉様のもの」という属性だけなのだ。
だからランクなど関係ない。
私が手に持っていれば、それは自動的に美味しいのだ。
だとしたら……私が世界で一番まずいものを手に持ったら、この子はどうするのだろう?
好奇心が、静かに、意地悪な形に育っていった。
ジェラルド・ボードウィン。男爵家の三男。
見つけたときは、正直、感動すら覚えた。
顔だけは、とんでもなく良かった。
濡れたような黒髪、彫刻のような輪郭、憂いを帯びた灰色の瞳。
夜会にいれば十人の令嬢が振り返る。
神は彼の外見にすべての資源を投入し、中身の予算を完全に忘れたらしい。
私は三か月かけて、彼を調べ上げた。
一、病的な嫉妬深さ。前の恋人が使用人と話したというだけで、その使用人を殴って解雇させた。
二、浮気癖。同時進行で四人。うち一人は既婚者。
三、借金。高利貸し三軒、総額は男爵家の年収の二倍。
四、博打。借金の理由。
五、酒。酔うと物を壊す。
六、マザコン。「母上が認めない女とは結婚できない」が口癖。ボードウィン男爵夫人は、息子の恋人に自分の靴を磨かせる趣味の持ち主。
七、シスコン。姉のアンネリーゼの言うことは絶対。ちなみにアンネリーゼの方はジェラルドを溺愛していて、弟の恋人の髪を切ったことがある。
フルコースである。
前菜からデザートまで一切の隙がない。
私は彼に近づくと、親しくなるのにそう時間はかからなかった。
実に簡単だった。
伯爵令嬢という肩書きは、彼にとって高利貸しから逃れる浮き輪に見えたのだろう。
そして私は、彼を我が家の応接間に座らせた。
三日で妹が食いついた。当然だ。顔だけは絶品なのだから。
「お姉様、その人——」
私は妹の言葉を、はじめて遮った。
「アンヌ。聞いて。私、今度こそ本当の愛を見つけたの」
私は妹の手を両手で握り、真剣な顔で、まっすぐに目を見た。
妹の瞳が、きらりと光った。
「彼と絶対に結婚したいわ。今までの人たちとは違うの。彼だけは——彼だけは、あなたにあげられない」
これは嘘ではない。
私は生涯、この言葉を「嘘をついた」とは認めないつもりだ。
私はただ、事実として、この男を絶対に妹にあげたかった。
三日後、妹は私の部屋の扉を開けて、蜂蜜色の巻き毛を揺らして、少しだけ困ったように、けれど確かに勝ち誇って言った。
「お姉様。ごめんなさい。私、一口食べちゃった」
「どうして……どうしてあなたはいつも……!」
私はその場に崩れ落ちた。
泣いた。本気で泣いた。
生まれてはじめて、妹の前で顔を覆って、肩を震わせて泣いた。
演技だったが、涙は本物だった。
十八年分の在庫があったので、涙には困らなかった。
母が飛んできて、私を叱った。
「みっともない、姉なのに妹に対して」
そして妹は、私の背中を撫でながら、うっとりした声で言ったのだ。
「大丈夫よお姉様。私、ジェラルド様と結婚するから」
私は顔を覆ったまま、床に向かって、声を殺して泣き続けた。
肩が震えていたのは、たぶん、半分は別の理由だった。
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