表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まほろば  作者: 雨音かえる
刹之段

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/36

第拾壱話 異国の風と骸評定(むくろひょうじょう)

 ――街道、団子屋。



 団子屋は相変わらず、旅ゆく客で賑わっていた。

 縁台の端で茶をすすっていた紅梅は、黙ったまま耳を澄ませていた。

 背後からそっと近づいた葵が、串団子を乗せた皿を差し出し、小声でささやく。


 

「近々、赤坂領と白岩領で戦が始まるようです。今はにらみ合いですが、火蓋が切られるのも時間の問題かと」

「戦までにえらく時間を要しておるの。今まで戦が起きなんだのが逆に奇跡じゃわい。じゃが、この戦。先が見えておるのぉ」


 

 紅梅はゆっくりと湯呑みを口へ運んだ。


 

「えぇ、恐らく赤坂の圧勝かと。白岩には今『軍師』が不在とのこと。その噂が確かならば、白岩に勝ち目はないでしょうね。白岩の勢力は知れていますからね。兵法で今まで乗り越えてきていますから」

「して、場所は」

「赤坂、白岩の国境。雲井谷の河川敷です」


 

 葵の情報に、紅梅は視線を交わすことなく、そっと告げる。


 

「ふん。やはりただの噂好きではないの?団子屋にしては、ちと情報が濃ゆいのう?」

「まぁ、それはお互い様ということで」


 

 葵はにこりと意味深な笑みを浮かべると、すっと暖簾の奥に姿を隠した。

 湯気がゆらりと揺れ、茶の表面に夕陽が滲む。

 団子をパクリと頂き、噂と囁きを胸の奥へ沈めるように、静かに茶を飲み干す。

 

 夕風に、炭の匂いが薄く流れたころ——庵では。



 

 スパーンッ!

 

 

「ばぁちゃーんっ! 帰ったよー!」


 

 藍之助(あいのすけ)が庵の戸口を、勢いよく開けた。

 ふわりと、(すす)と薬草と味噌の混じったぬくい匂いが外気を押し返した。


 

「おわっ! びっくりした! なんだ!? 直太朗(なおたろう)と藍之助!?」


 

 いきなり戸口の開く音に、玄瑞は驚いた拍子に酒を零した。



「あれ? ばぁちゃんは?」

「ばあさんなら街道の団子屋だろ。あーあ。酒がもったいねぇ」


 

 玄瑞は袴で酒を拭き取りながら、二人の顔を見る。

「入れ違いかぁ……」と直太朗が肩を落とす。


 

「もうじき帰るだろうから、とりあえずその荷物下ろしてこいや」



  

 二人はそのまま、疲れを引きずりながら離れへと向かった。

 離れの広間では、火緒と火弦が桶の修繕をしていた。


 

「ただいまぁー」



 藍之助は、力無く二人に挨拶をする。


 

「あれ? 藍、帰ったんか? おかえり! 直は?」


 

 火緒が顔を上げた。

 火弦も手を止めて、短く「おかえり」と言った。

 藍之助は荷を背負ったまま土間にどさりと座り込んだ。

 その拍子に、藍之助の荷に括りつけてあった琵琶がくぐもった音を鳴らす。


 

「僕、もう歩けないー……腰が死ぬー……」

 ずるずる這う様に広間に上がり、床に突っ伏す。


 

「藍ちゃん、荷物片づけてから!」


 

 直太朗が呆れた顔で戸口に立つ。

「はいは~い」と顔を畳に埋めたままの返事。


 

「直、お帰りッ! 今回帰ってくんの、ちょい早いんとちゃう? まだ冬なってへんで?」

「まぁ、とにかく早よ上がり」


 

 火緒と火弦は作業の手を止め、二人の荷物を持ってやった。

 そのとき、朔が離れに駆け込んできた。


 

「火緒ー! 火弦ー! これも直してって、なにこれ? なんか甘い匂いがする。あ! 直と藍! 帰ってたのか! おかえり!」


 

 朔は離れに飛び込んでくるなり、早速何かの匂いを嗅ぎつける。


 

「ほんまや! なんかほのかに甘い香りがする気が……。朔に言われるまで気ぃ付かへんかったわ」

「ほんまや、言われてみれば。朔、鼻よすぎへんか?」


 

 三人でくんくんと匂いを嗅ぎ、行き着いた先は直太朗の荷物だった。

「やれやれ」といった様子で直太朗が荷を解き、取り出した木箱の蓋を開けると、さらにふわりと甘い香りが濃く広がる。


 

「なに!? この黄色いの! 食べ物だよね!?」

「めっちゃええ匂いするー。ヨダレが出てきてまうー」


 

 朔と火緒はその四角い食べ物に釘付けになった。

 火弦もごくりと唾を飲み込む。


 

「南蛮菓子──カステイラだ」


 

 直太朗は得意げに、三人に見せた。

 火緒と朔が目を輝かせる。


 

「みたらし団子とは、また違う甘さの匂いやな」


 

 火弦が匂いをしっかりと観察する。


 

「早めに食べちゃってよね。腐るから」


 

 藍之助がぱたぱたと手だけ降った。


 

「二人は食べないの?」


 

 朔が聞くと、直は「うん」と頷いた。


 

「旅先で、結構食べてきたからさ。これは、みんなにお土産。日持ちはするらしいけど、風味は少し落ちてるかも。ごめんね」


 

 三人は我慢できずに小さくちぎって口に放り込んだ。


 

「うわ! ふわっふわや!」

「甘っ!」

「もう一口!」


 

 三人は、今まで食べたこともない味の虜になる。

 直太朗が慌てて止める。


 

「こらこら、みんなで分けるんだからな!全部食べたらダメだぞ!」


 

 三人は口をもごもごさせたまま、渋々頷いた。

 そこへ臭いを嗅ぎつけたよすがが、朔の懐から顔を出す。

 それを見た藍之助が、「ぎゃっ」っと声を上げ、後ずさる。



「ね、ねずみっ!」

「違うよ、藍ちゃん。これは、ももんがだよ。ね? 朔」

「うん。かわいいでしょ」



 朔がよすがを手に取り、藍之助の顔の前へ突き出すと、藍之助はあわてて直太朗の影に隠れ盾にする。



「無理、無理、無理っ! ぼく、そういうの無理だからっ!」

「大丈夫だよ。ねぇ? よすが。何もしないよね?」

「しゅー」

「可愛いのにねぇ?」

 

 

 朔は、よすがを肩へと乗せると、もう一口だけカステラを頬張った。



「あっ! 朔、ずるっ!」

「ほんなら、俺も」



 結局三人は、自分たちの割り当て分のカステイラを食べてしまった。



「やれやれ」



 ため息をつく直太朗の背の影で、藍之助はじっとよすがを見つめていた。


  

 

 ――やがて広間の囲炉裏を囲んで皆が腰を落ち着けると、自然と視線が直太朗と藍之助に集まった。

 直太朗は、荷物から笛を取り出した。


 

「今回は青陽の港まで足を延ばしたんだ。いつものように、俺が笛を吹いて、藍ちゃんが舞を舞ったんだけどさ」


 

 直太朗は笛を手ぬぐいで拭き、口元に当てる。

 柔らかな音が、広間に響き渡る。

 三人はその音に聴き入りながら目を閉じる。


 

「こうして旅をしながら芸をしてると、いろんな景色や物や人に出会えるんだよねぇ。カステイラもそのひとつ」


 

 藍之助は、横着して仰向けに寝転がったまま、続けて話す。


 

「旅は大変だけど、気楽でいいよぉ。色んな景色も見られるし、美味しいものにもありつけるしねぇ。君たちは、相変わらず働いてるのぉ?」


 

 藍之助は起き上がると直太朗の笛に合わせ、袖をひらりと振り、にやりと笑った。

 亜麻色の透き通る、さらりとした長い髪が揺れる。

 その整った所作と妖艶さは、仲間ですら一瞬で目を惹かれる。

 直太朗の笛の音が止み、藍之助が話し始める。


 

「ぼくたちさ、南蛮商人の目に留まっちゃって、船にまで招かれたんだよぉ?」

「船に!? すごいっ!」


 

 朔が目を輝かせ、身を乗りだす。

 ――だが、にぎやかだった藍之助の声が急に重くなった。


 

「実はさ。そこでね、“赤喰い”を見かけちゃったのさ――あの腹黒い武器商人だよ。火縄銃を二千丁も仕入れてた。どう考えても、ただの商いじゃないよねぇ。二千丁だよ?」


 

 直太朗が真顔で言葉を継ぐ。


 

「青陽に店を構え、今は赤坂領と主に商売しているらしい。噂ぐらい、聞いた事あるだろ? 今回も赤坂に武器を流すなら……戦は避けられないかもしれない。それに、そうなったら赤坂の圧勝だろうな」

「なんで二千丁ってわかったの?」


 

 朔が藍之助に尋ねる。


 

「じつは……。商人が話してるの盗み聞きしちゃったっ」


 

 てへっと藍之助が笑う。


 

「抜け目ないなぁ」


 

 朔は呆れながら笑った。

 だが、その横でいつもならはしゃぐ双子が、神妙な面持ちで話を聞いていた。


  

「赤喰い……」


 

 火緒と火弦が一瞬だけ表情を動かした。

 けれど、その変化に気づく者はいなかった。


 

「ところで、刹と梓は?」


 

 直太朗が二人の部屋の方を見る。


 

「あぁ、あの二人……。今は関わらん方がええよ」

「エライ事なっとるから」


 

 双子が喧嘩している様子を、身振り手振りで伝えた。


 

「へー、そうなんだぁ。ま、喧嘩するほど仲がいいってね」


 

 藍之助は、再び大の字に寝転がった。


 

「でもさ、喧嘩の原因って、なに? どうせたわいもない事でしょ?」


 

 藍之助は意地悪な目線だけ朔にやる。


 

「まぁね。大半は梓のやきもち」

「へー、夫婦喧嘩は、犬も食わないってね?」


 

 藍之助はニヤッと笑うと、ごろりと横向きになった。


 

「藍ちゃん、先に荷物片付けようね。昼寝は自分の部屋でしなよ」

「へいへい」


 

「じゃあ、また後で」と言うと、直太朗と藍之助は荷物を抱えて自室に行ってしまった。


 

「あの二人も、相変わらずみたいだね」

「ほんまやな。藍のあのだらしなさ。刹と直と同い年とは思われへん」

「いちいち付き合う直も直やけどな」


 

 朔と火緒と火弦は、三人で顔を見合わせ苦笑いをした。



 

 ――その夜。

 囲炉裏を囲んで甘い香りと笑い声が広がる。

 

 

 木箱のカステイラはあっという間になくなり、玄瑞は「なんじゃこりゃ!? うまっ!」と膝を叩いて喜び、酒を飲む。

 刹は黙ってカステイラを一切れ口に運び、その味に感動した。梓は紅梅の隣で静かに味わう。

 双子と朔は、その様子に涎を垂らして眺めている。

 そのとき、杖がドンッと床を打った。

 囲炉裏の煙が、その衝撃に揺れる。


 

「こらぁああ! お前ら、 食っとる場合か!」


 

 紅梅の怒鳴り声に、笑いが一瞬で消える。

 全員が背筋を伸ばし、正座に座り直した。

 紅梅の目が鋭く光り、皆を見回す。直太朗と藍之助に目が留まった。


 

「これで全員揃ったの。直太朗、藍之助。息災であったか?」



「はい」と二人は短く答えた。

 紅梅は「うむ」と頷くと、声を落とし話し出す。


 

「昼間、団子屋で噂を聞いた。やはり、赤坂と白岩の国境(くにざかい)で戦が近い。そこでじゃ! 今回ワシらはその戦の後、漁りに入る! 使えるものは何でも拾え! 金になりそうな物は全て持ち帰れ! ここいらでしっかり稼いでおかねば、暫く飯は薄い雑炊のみじゃ!」

「え? 薄い雑炊って。ばぁちゃん、ぼくたち今日売上渡した……」



 すかさず直太朗が、藍之助を羽交い絞めにし、口を塞いだ。



「藍ちゃん。余計なこと言わなくていいから。みんなやる気無くすでしょ」



 耳打ちする直太朗に藍之助はうんうんと頷き、直太朗の拘束から解放される。

「ぷはぁ」と息をすると、真顔の直太朗の顔をみて、「ごめん」っと手を合わせた。

 みんなは首を傾げ、直太朗は何事もなかったように座り直す。


 

 「おほん」と咳ばらいをすると、紅梅は再び低い声で話始めた。

 そして、皆をひと睨みする。


 

「今回の戦は、規模がそこまで大きくはないと見ている。だが、それなりの物資は出るはずじゃ。今回は、武具はなしじゃ。食料、着物、それから、旗は絶対に忘れるな。包帯になる。あとは、”唐渡(からわたり)”があれば、必ず持ち帰れ。よいな」

「唐渡?」

「胡椒のことだよ。薬になるんだ。結構お金にもなるんだよ」



 またもや首をかしげる朔に対して、今度は梓が応えた。


 

 紅梅も再び「おほん」と咳払いをし、話を続けた。


 

「さて、おぬしら。最近はしばらく廃村を中心に漁っておったが、此度(こたび)は戦じゃ。何が起こるかわからぬ。玄瑞を同行させようと思う。」

「玄瑞?」


 朔は驚いて玄瑞を見ると、にやりと笑いながら、手をひらひらと振っている。

 意外な同行者に、一同は驚いた。



「大丈夫なん? 玄瑞酒飲むか、ふらっとどっか行って、ふらっと帰ってくるだけのオッサンやで?」

「せやなぁ。こないだ赤坂の城下町で()うた時も、何しとるんかようわからんかったわ」



 双子は茶化すように、紅梅に訴える。


 

「大丈夫じゃ。こう見えても玄瑞は我が里でもかなり優秀な上忍じゃった。やる時はちゃんとやる」

「こう見えてもは余計じゃねぇのか?」



 玄瑞はむすっとした顔で紅梅の発言を訂正する。



「お前は、やる気が出るまで時間を要するのがいかんところじゃ。さっさと動けば、なお優秀なんじゃが」



 玄瑞は口をへの字に曲げて、顎を突き出し、まるで子供のように反抗して見せる。

 

 

 「まぁよい。ここで、皆には気を引き締めてもらわねばならんからの。庵の"五之守と理(ごのまもりとことわり)"もう一度叩き込むがよい」

 庵の長押(ながおし)に立てかけてある木板を杖で指す。


 

 

五之守(ごのまもり)

 一、(いつわ)りを()さず

 二、(あざむ)くこと無く

 三、(まが)ひを飾らず

 四、(はづかし)めを加へず

 五、(たちま)ちに()せず

 

 五之理(ごのことわり)

 一、命奪はず

 二、盗み取らず

 三、欲を捨つり

 四、我がに走らず

 五、(たがひ)(しん)を置くべし』

 

 

 

「庵の五の守。『騙すな、嘘つくな、誤魔化すな、(おとし)めるな、背を向けるな』。そして、五の理。『殺すな、盗むな、欲を捨てよ、自分勝手になるな、信頼しろ』これじゃの。心してかかれよ。漁りは協力があってこそ、成り立つものじゃ」


 

 皆、木版を見て頷くも、納得いかないようだった。


 

「なんじゃ? おぬしら。そんな不服そうな顔を並べよって」

 

 

「だってさ」と藍之助が口火を切る。

「『欲を捨てろ?』ばあさんが一番欲の塊だよなぁ」「うん」と刹と朔。

「信頼は大事だな」と直太朗。

「盗みとらずて……漁りは盗みとちゃうんかい」と火緒。

「自分勝手なぁ……」と火弦は火緒を見る。

「嘘……つくな」梓は、ぎゅっと拳を握りしめた。


 

「なんじゃその態度は!? ワシがせっかくいいことを言うて閉めたのにから!」


 

 紅梅が怒りのあまり、ドンドンと杖を床に突く。


 

 「なんか、結局みんな守れてないよなぁって」


 

 朔が苦笑いを浮かべると、皆同様に苦笑いをする。


 

「はぁ……。情けないのう。まぁよいわ。じゃが、これだけは正させてもらうぞいっ! "盗む"のではない。"頂く"のじゃ!」

 

 

 紅梅は子供が駄々を捏ね、言い訳をするかのように言う。


 

「何が違うねん」


 

 火緒がぼやいた。


 

「とにかくじゃ。 直太朗、藍之助。明朝一番に赤坂から、白岩との国境へ入れ。戦場を探り、情報を持ち帰れ」

「えー! 帰ったばっかりなのに……」

「一日ぐらい休みくれてもいいと思うけど」


 

 藍之助が口を尖らせる。

 直太朗もがっくりと肩を落とした。

 杖が再び床を杖で叩く。


 

「ええい! わかった、わかった。なら、玄瑞。お前、ひとあし先に偵察して来い。その後、二人が追いかけて合流。それでよいか?」

「うんっ!」

「玄瑞……すまぬが、頼むぞ」

「へーい。これは仕事ってことでいいんだろ?」

「…………。しっかりしとるの」



 藍之助と玄瑞は満面の笑みを浮かべ、紅梅は「やれやれ」と落胆する。


 

「お前らが一番世間慣れしとる。周りを見る目があるという事じゃ。頼りにしとるでの」


 

 紅梅の言葉に藍之助と直太朗は照れくさそうに顔を赤らめ、他の者達はあからさまに不服そうな顔をする。


 

「俺らかて、ちょっと前に赤坂行ってきたやんな!」

「せや、ちゃんと行ってきたし」


 

 双子が憤慨して文句を垂れる。


 

「刹はともかく、お前らはまだまだ世間を知らん。そのうち、外に出て学んでくるがよい。そうすればわかる」


 

 紅梅はふんっとその場に座り、茶を啜った。

 そして、残された者をチラリと見ると、残りの者に仕事の割り当てを言い渡す。


 

「朔、火弦、火緒。お前ら三人は火器、荷車の整備に着け。足回り、逃げ道をしっかり作らねば、いつ何時、何が起こるか分からんからの。戦場とはそういう所であろう?」

「へいへーい」


 

 火緒は気の抜けた返事をし、火弦と朔は頷いた。


 

「刹は、闇衣の仕立て直しを。前回までの"漁り"でかなり傷んでおる。火の粉で穴も空いておったしの。お主は起用じゃから、早く済むじゃろ」


 

 刹は静かに頷く。


 

「やっぱ、"漁り"って言っとるやんなぁ」


 

 火弦、火緒、朔は紅梅に聞こえないように、こそこそと顔を見合わせた。


 

「梓は、薬の準備……と言ってもこの間作ったばかりじゃったな。では、持ち出すものを選別せよ。あと、()()()の吹き矢も忘れずにな」


 

「はい」と、梓は静かに応える。


 

「では、各々明朝より持ち場にかかれ。手を抜くでないぞ。解散!」



 紅梅は、手元にあったカステイラにばくりとかぶりつく。



「……旨いのぉ」


 

 目を丸くする紅梅に、囲炉裏の火が応えるようにぱちっと弾けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ