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【書籍化決定】我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~  作者: エノキスルメ
第三章 諸国群立の時代

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第九十七話 ガレア王国軍迎撃⑥

 高らかに吹き鳴らされた角笛の音は、連合軍の戦列中央の最先頭で奮戦を続けるエドウィンにもよく聴こえた。


 敵側の何かの合図か。エドウィンがそう思った次の瞬間、対峙しているガレア王国軍の精鋭軍人たちが一斉に一歩踏み込んできた。口々に「押せ!」と叫びながらの不意打ちじみた突進を受けたエドウィンは、しかし後ろに立っているウォーレスに支えられ、さらには自身も精一杯その場に踏ん張り、無様な転倒は避ける。

 エドウィンの左右では、ジェラルドとオズワルドも敵側の突進に耐え抜いていた。さらに周囲に並ぶ精鋭戦士たちも、盾の壁を激しく揺さぶられながらも、戦列を崩すことはなく耐えきった。


 敵側がくり出したこのような一斉攻撃は、相手の戦列を怯ませて押し込むことができるが、その効果は一時的なもの。攻撃を受けた側は、たとえ最前列が押し込まれたとしても、二列目以降に支えられてすぐに態勢を立て直すことができる。そうなると、派手な一斉攻撃によって防御を崩した攻め手の方が、その隙を突かれて反撃を食らい、戦列を崩す結果となりかねない。


 しかし、ガレア王国軍の主力の職業軍人たちは、エドウィンたちが反撃に移る前に次の行動に出ていた。彼らは連合軍の戦列中央の最前列が怯んだ僅かな隙を逃さず――後退し始めた。

 それはただの後退ではなかった。連合軍の戦列中央と対峙するかたちで数列を構成していた彼らは、その全体が、後方に並ぶ民兵たちの間を縫って、あるいは民兵たちを押し退け踏みつけるようにして強引に、逃走を開始していた。


「角笛が鳴る直前に敵側の騎兵部隊が敗走していきました。角笛はそれを受けての後退の合図でしょう」

「……なるほど。こちらの騎馬突撃で全体を崩される前に、重要な戦力を逃がすつもりか」


 可能であれば敵側の騎兵部隊を排除し、敵軍の右側面に突撃を敢行するようエドウィンはレオフリックに命じていた。こちらの騎兵部隊が側面攻撃に成功すれば、敵軍の戦列は大混乱に陥り、攻勢を続けられず敗走する羽目になると期待した上での命令だった。


 身長の高さを活かし、戦場においてよく目立つ敵味方の騎兵部隊の動きを確認していたジェラルドの言葉を聞くに、レオフリックたちはどうやら敵騎兵部隊を排除することに成功した。敵側のこの後退は、おそらくは自軍の騎兵部隊敗走によって右側面ががら空きとなった不利を把握した上でのもの。

 前進の際に前衛の民兵を肉の盾としたように、後退の際には後衛の後ろ側に並べていた残りの民兵たちを囮として職業軍人たちが真っ先に逃げる。そうすることで、貴重な戦力である彼らの損耗をできる限り防ぎ、たとえ勝利を逃すとしても自国の軍事力を維持する。それがイゾルデ女王の狙いだと推測したエドウィンは、感心を覚えながら微苦笑を零した。


「戦士諸君、この機を逃すな! 攻めかかれ!」


 叫びながら飛び出したエドウィンに、周囲の戦士たちも喊声で応えながら続く。

 追撃に出るのはリンダム王家に仕える戦士たちだけではない。隣を守る各伯家の戦士たちも、さらにはベルノニア王国やファーガス王国の職業軍人たちも、次々に前進を開始して追撃に移る。後衛を担う連合軍民兵たちも加わり、戦列中央の全体が果敢に突き進む。


 その追撃の波に飲まれるのは、逃げ足早く後退したガレア王国軍の職業軍人たちではなく、彼らに取り残された民兵たちだった。前に並んで戦っていた職業軍人たちが自分たちを押し退けるようにして下がったために、未だ状況が掴めず混乱している様子の敵民兵の群れに、連合軍の職業軍人たちは容赦なく襲いかかった。


 いきなり目の前に現れた敵軍の戦列を前に、ガレア王国軍の民兵たちは混乱したまま応戦するものの、その戦いぶりはとても勇猛とは言えない。練度も戦意も低い状況で、足並みの揃わない抵抗に大した効果はなく、瞬く間に押し込まれていく。すぐに逃げ腰になり、先に逃げていった職業軍人たちに続いて敗走を開始する。

 ガレア王国軍の戦列の左右も、中央の敗走に続く。最後方を塞いでいた職業軍人たちが中央に合わせて後退したため、誰にも逃走を阻まれなくなった民兵たちも迷いなく逃げ出す。


「ちっ、邪魔だな……この調子だと職業軍人を狩るのは間に合わないか」


 粗末な装備で無謀な抵抗を為す敵民兵の一人と対峙し、数瞬のうちに戦斧で叩き殺した後、エドウィンは眉根を寄せて言った。


 敵民兵をどれだけ殺してもあまり意味はない。平時はただの民であり、戦場から追い払うだけで無力化できる民兵は、獲物としての価値は低い。エドウィンたちが本当に狩りたいのは、イゾルデ女王やその傘下の貴族たちに仕える職業軍人。練度と忠誠心を育て、数を揃えるのに時間がかかる職業軍人を多く殺せば、ガレア王国の軍事力そのものに打撃を与えることができる。さらには、彼らの身につける高価な装備を戦利品として得ることもできる。

 しかし、彼らはこちらの不意を突いて早々に後退していった。そのため、エドウィンたちの前に並ぶのは価値の低い民兵ばかり。この追撃戦自体は連合軍側が圧倒的に優勢で、もはや勝利は揺るがないが、現状では理想的な勝ち方を望めないことが問題だった。


「こうなると、追撃でもレオフリックたちの戦果に期待するしかないか?」

「そうですね……いえ、それも難しいかもしれません。一度退いた敵側の騎兵部隊が、態勢を立て直して戻ってきたようです。レオフリックたちが追撃戦に移るのを邪魔するつもりでしょう」


 自身の傍に控えて死角を守ってくれているジェラルドの言葉を受け、エドウィンは左前方、レオフリックたち騎兵部隊がいるであろう方向へ視線を向ける。


「まともにぶつかれば勝てないとしても、追撃を妨害する程度のことはできるというわけか……」


 乱戦の人波の狭間から騎兵たちの姿を確認しながら、苦々しい呟きが零れる。


 開戦前に確認された状況では、敵側の騎兵部隊の規模はこちらよりも小さかった。正面から激突すればこちらの有利は間違いなく、実際レオフリックたちは見事に敵騎兵部隊を後退せしめたようだった。

 しかし、この追撃の段階になると話はまた変わってくる。逃げ散る敵側の職業軍人たちを各個撃破するとなれば、こちらの騎兵部隊もある程度散開せざるを得ないが、そうして密集陣形を解けば敵騎兵部隊に対する数的有利が損なわれる。そこへまとまった数の敵騎兵の攻撃を受ければ、こちらの騎兵の方が各個撃破されかねない。


 追撃に移る前に敵騎兵部隊をもう一度撃破するのも、おそらく難しい。正面からぶつかるのではなく、こちらの騎兵部隊に散開を躊躇わせるよう圧力をかけつつ距離を保って時間を稼ぐ程度のことは、数的に不利な敵騎兵部隊にも可能なはず。そのような動きをされれば、レオフリックたちはなかなか追撃に移れず、その間に敵側の職業軍人たちは撤退を果たせるだろう。


「陛下、今はひとまず、この場でできることをしましょう」

「……そうだな。あまり欲を出さず、目の前の戦いで勝利を掴むことを優先するべきだ」


 最側近の進言を受け、エドウィンは頷いて追撃戦に戻る。周囲を側近や親衛隊戦士たちに囲まれながら、着実に前進して敵民兵たちを追い払う。


 もはや抵抗する者よりも逃げる者の方が多い敵民兵の群れの中には、しかし多少は知恵と度胸がある者や、後退し損ねて戦場の只中に取り残された敵側の職業軍人などもいる。そうした者たちは周囲の民兵をまとめ上げ、ある程度組織立った動きを見せる。追撃を為す連合軍の側も戦列が崩れて散開しているため、それを隙と見て攻撃を仕掛けてくる。

 エドウィンたちに対しても、襲いかかってくる一団があった。装備からして職業軍人らしき男が率いる十人ほどの民兵集団が、前進を続けるエドウィンたちの側面から奇襲してきた。


「あれは敵の王だ! 絶対に殺すな! 生け捕りにしろ!」


 エドウィンを人質にすることで乱戦の場から生還し、なおかつ褒美も得るつもりなのか、指揮を執る男はそのように叫びながら迫ってくる。こちらを戦利品としか見ていないらしい敵の言葉が気に食わなかったエドウィンは、鼻で笑いながら戦斧を構え、敵の顔面に向けて投擲する。

 さすがは職業軍人と言うべきか、敵は素早く盾を掲げて戦斧を受け止めるが、その隙にエドウィンは剣を抜きつつ踏み出し、敵の無防備になった足に突き込む。左足の腿を貫かれ、そのまま横に切り開かれた敵は、濁った叫び声を上げながら盾を構えていた手を下げてしまい、エドウィンがさらに一閃した剣で喉を切り裂かれる。


 そうしてエドウィンが無礼な敵を殺す周囲では、敵民兵たちが親衛隊戦士たちによって蹴散らされている。混戦の間を抜けてエドウィンの背後に回り込もうとした一人の民兵が、最後の障害――エドウィンの背後を守るウォーレスに向けて飛び蹴りを放つ。


 成人男性一人分の全体重が乗った渾身の飛び蹴りを受け、しかし巨漢の親衛隊戦士はびくともせず、逆に飛び蹴りを放った敵民兵が吹っ飛ばされて無様に転がる。半身を起こしながら、先ほどまでの威勢が嘘のように怯えた表情を見せる敵民兵を前に、エドウィンはウォーレスと顔を見合わせて肩を竦める。

 その仕草を受けて主君の意思を察したらしいウォーレスは、転んでいる敵民兵に止めを刺すのではなく、槌を振り上げて怒気を放つ。


「ぶっ殺すぞてめえ! とっとと消えやがれ!」


 強面の大男に凄まれた敵民兵は、子供のような悲鳴を上げ、武器を放り捨てて逃げる。その他の民兵たちも、その突撃を蹴散らした親衛隊戦士たちが止めを刺す段階に入る前に、多くが逃げ去っていく。


「まったく……まるでこちらが弱い者虐めをしているようじゃないか」


 無理やり動員されてあからさまな捨て駒にされている敵民兵たちに同情を覚えつつ、馬鹿馬鹿しい戦闘の模様に呆れながら、エドウィンは嘆息した。

 それから幾らも進まないうちに、逃げるばかりの敵民兵の密度はどんどん薄くなり、もはや軍勢と呼べる代物ではなくなる。武器を振るう必要もなくただ歩き進むエドウィンは、数騎を引き連れたレオフリックが近づいてきたことに気づく。


「我が頼れる騎兵部隊長! 無事で何よりだ」

「ありがとうございます、陛下……敵の職業軍人どもは完全に撤退しました。それを確認したからか、敵騎兵部隊も退きました。奴らの牽制を受けたために、あまり効果的な追撃はできませんでした。申し訳ございません」


 明るい表情で迎えたエドウィンに、下馬したレオフリックは無念そうな表情で報告する。


「構わない。それだけ敵も優秀だったということだ。敵軍を壊走に追い込んだことは事実なのだから、今はそれで十分だろう……敵軍が下がっていったのは、君たち騎兵部隊が敵騎兵を敗走に追い込んだおかげだ。ご苦労だった」


 レオフリックの肩を叩いて労いの言葉をかけたエドウィンは、追撃の停止を命じる。


 敵の職業軍人たちが後退を果たし、敵民兵たちも散り散りに逃げていったとなれば追撃を続ける意味はもはや薄い。あまり深追いすれば、散開して防御力の薄くなったこちらが敵軍の残存兵力から思わぬ反撃を受け、大損害を負う事態になりかねない。そう考えた上でエドウィンが発した命令は戦士たちによって伝えられ、間もなくリンダム王国各家の戦士たちは前進を止める。

 それと前後して、ベルノニア王国やファーガス王国の軍勢も追撃を終え、戦場の方々から勝鬨が上がる。


 リンダム王国、ベルノニア王国、そしてファーガス王国から成る連合軍は、ガレア王国軍を見事に退け、大勝利を成した。

お知らせです。

『我が覇道を讃えよ』書籍1巻が、2026年11月にオーバーラップノベルス様より発売されます。


オーバーラップ様にお世話になるのは『ひねくれ領主の幸福譚』『フリードリヒの戦場』に続いて3度目となります。ありがたいです……!


イラストは香澄先生に手がけていただきます。

既にキャラクターデザインやいくつかのイラストを拝見していますが、とてつもなくかっこいい仕上がりです……!


これから発売日に向けて、書影や特典内容など徐々に情報が解禁されていきます。

お楽しみにお待ちいただけますと幸いです。

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