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【書籍化決定】我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~  作者: エノキスルメ
第三章 諸国群立の時代

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第九十五話 ガレア王国軍迎撃④

「我が息子たち! 目の前の敵を殺せ! 敵の戦列の向こうには栄光が待っている!」


 自軍の盾の壁の中央で、イゾルデは戦斧を振りかざしながら叫ぶ。

 それに応えて奮戦するのは、ガレア王家に仕える戦士の中でも精鋭の顔ぶれ。このように戦列の中央先頭に精鋭を配置し、その猛攻をもって敵軍の戦列を打ち破る中央突破の戦術が、これまでイゾルデの切り札だった。


 これまでの征服行に伴う戦いの多くを、イゾルデはこの戦術をもって勝ち抜いてきた。大陸で傭兵として実戦経験を積み、アロナ島に渡ってからは財力を増したイゾルデによって上質な鉄製装備を与えられてきた精鋭戦士たちが猛攻を為せば、打ち破れない戦列はなかった。地道な訓練を重ねた戦士たちが互いの練度を信頼して強固な戦列を組むからこそ、ガレア王家の戦士団はアロナ島中央部における最強の軍勢としてあらゆる敵を撃滅してきた。


 この戦いでも、彼らはイゾルデの期待通りの勇戦を見せる。最前列の戦士たちは、左右の仲間と円盾を重ね合わせて堅い守りを築きながら、戦斧や剣や槌を鋭く振るい、あるいは槍を鋭く突き出し、目の前の敵に強烈な一撃を見舞う。二列目の戦士たちは最前列の仲間を後ろから支えつつ、その頭越しに攻撃をくり出し、敵を牽制する。それぞれが練度の高さを存分に発揮し、敵の盾の壁を破壊するべく壮絶な戦いをくり広げる。


 これまで、この猛攻を受けて敵軍はそう長く持ちこたえられなかった。アロナ島の各勢力が保有する常備兵力は、所詮は力自慢の農民上がりが多少鍛えただけの集団。なかには元帝国軍人や傭兵や用心棒という者もいるが、その数は多くない。だからこそ、イゾルデが従える精鋭戦士たちが全力で攻撃を仕掛ければ、敵の戦列はさして時間もかからず崩壊した。

 しかし、今回は様子が違った。精鋭戦士たちはこれまでと変わらない勇戦を――むしろ、かつてない大戦に臨んでいることへの興奮でこれまで以上の奮戦を示しているにもかかわらず、敵の盾の壁は崩れない。イゾルデの正面に立つ敵もなかなか倒れず、盾で攻撃を受け止め、盾を突破した攻撃は兜や鎖帷子によってその威力を軽減させ、持ちこたえる。敵側から鋭い反撃が迫ってきて、イゾルデの方が防戦を強いられる場面もある。


「ちっ、馬鹿みたいに堅いわね」


 敵が振り下ろした戦斧を盾で受け流しながら、イゾルデは悪態をつく。


 敵軍の戦列中央、そのさらに中央先頭でイゾルデたちと対峙する敵集団は、装備の面ではこちらと同程度に整っている。そしてどうやら練度の面でも、こちらに引けを取らない。

 堅牢な盾の壁を維持しながら苛烈な戦いに臨む敵側からは「エドウィン王万歳」「ブレドリック王に栄光あれ」といったかけ声が発せられている。それから察するに、奴らはエドウィン・リンダムとブレドリック・ベルノニアの子飼いの戦士たち。リンダム王国とベルノニア王国の兵力の中でも最精鋭。エドウィンはこちらと同じ大陸の傭兵上がりで、ブレドリックは帝国軍の元士官という話なので、彼らの育てた手勢が精鋭揃いというのは頷ける話。


 イゾルデとしては、この位置にはファーガス・アクルード国王とその手勢が並んでいると思っていた。アクルード王家の家臣団であればそう手強くはないはずで、だからこそ中央突破もさして困難なく達成できると思っていたが、どうやら当てが外れたらしかった。

 こうなると、こちらの精鋭戦力と敵側の精鋭戦力のどちらがより強いか、という単純な実力勝負が軍勢全体の勝敗を左右することになる。


「力比べに持ち込めただけ幸いね……戦神ダノンよ照覧あれ! ガレアは偉大なり!」

「「「ガレアは偉大なり!」」」


 肉薄する前に敵両翼からの小細工で無念の後退を強いられることなく、こうして真正面からの白兵戦で結着をつけられるのであれば、鍛えた精鋭たちに全力を発揮させる機会があるだけまし。後は、実力で敵側を上回ってみせるのみ。そう考えながらイゾルデが上げた叫びに、頼もしき精鋭たちの声が続く。


・・・・・・


「予想通り、中央突破を狙ってくるか」

「ここに精鋭を置いて正解でしたね」


 盾の壁を築いて肉薄してきた敵主力の職業軍人たちと、激戦をくり広げる最中。正面の敵との間合いが開いた僅かな隙にエドウィンが呟くと、隣に並ぶジェラルドが未だ余裕のある声で返す。


 話によると、イゾルデ・ガレア女王は過去の戦いにおいて、精鋭を前衛の中心に据えての中央突破戦術を好んで使っている。おそらく彼女はこの戦場においても、こちらの戦列中央の突破を狙ってくる。もし自分が彼女の立場であればそのような戦術をとる。

 そう考えたエドウィンは、同じ推測に至ったというブレドリックと共に、自家の家臣たちを前衛の中心に据えることを決断した。


 連合軍における最精鋭の戦力は、リンダム王家の戦士団と、ベルノニア王家の軍団。両王家の常備兵力である彼らは元傭兵や元帝国軍人を中核とし、それ以外の者も、職業軍人と共に長く訓練を重ねてきた古参の者たちに関しては、十分以上の能力を誇る。総合的な練度の高さは貴族たちの家臣団に勝り、アクルード王家の常備兵力をも上回っている。敵軍による中央突破を受け止めることができるのは、おそらく両王家が誇るこの精鋭たちだけだとエドウィンたちは考えた。


 最も重要な位置の防衛を援軍に頼ることをファーガス・アクルード国王が受け入れてくれるかが問題だったが、彼は柔軟な思考ができる人物だった。彼はエドウィンたちの申し出を受け入れ、戦場における最大の主役の座を譲ってくれた。

 その結果、こうして連合軍はガレア王国軍による中央突破を阻むことができている。エドウィンたちが対峙する敵集団は、強さを見ても装備を見ても精鋭揃いであることは疑いようがなく、やはり中央突破を狙うのが敵側の戦術であることは確かであるようだが、その企みは防がれている。


 リンダム王家に仕える古参戦士たちは、敵の攻撃を着実に受け止め、あるいは受け流し、反撃をくり出す。彼らの練度の高さに、円盾と鉄製兜と鎖帷子による堅い防御が合わせられることで、戦列は凄まじい打たれ強さを実現する。

 正しく構えられた円盾は敵の攻撃を面で防ぐ広範囲の防御を成し、力の込められた強烈な一撃が戦士たちの身体に達する確率を激減させる。その防御を突破してきた攻撃に関しては、兜や鎖帷子が逸らし、あるいは威力を軽減させ、戦士たちが致命傷や重傷を負う確率をやはり激減させる。結果、猛攻を受けながらも死傷者は抑えられ、盾の壁は維持され、戦列は揺るがない。


 己と指揮下の戦士たちが勇戦する隣では、ブレドリックと彼の「軍団」も上手く持ちこたえているはずだとエドウィンは考える。エドウィンの身長では自分たちの持ち場の外はまったく見えず、対峙している敵も精鋭なのでそもそも正面以外に視線を向ける余裕もないが、時おりベルノニア軍団の方を向いて状況を確認しているジェラルドが何も言わないので、少なくともブレドリックたちがしくじって戦列を崩しているということはない。


 連合軍の最精鋭とガレア王国軍の最精鋭は、双方の能力と重装備を頼りにせめぎ合い、互いに押し込まれることはない。その最精鋭集団のさらに左右に並んでいる者たちも、戦列を維持しながら一進一退の攻防をくり広げる。職業軍人を中核とした精強な戦力を最前面に並べ、一定以上の厚みも有する軍勢は、そう簡単には崩れたりしない。


 硬直する戦況の中で、エドウィンは不敵な笑みを浮かべる。


「さて、後はレオフリックたちの戦果を待とう」

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