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【書籍化決定】我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~  作者: エノキスルメ
第二章 拡大する版図

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第八十六話 勝利と征服の末に

 王の都の開発、その中でも最重要事項としてエドウィンが昨年より建設を進めさせていた新たな王の館は、ティリス川以南の完全征服からおよそ半年後、統一暦四一四年の秋頃には一応の完成を迎えた。


 木造建築は、建材と人手さえ用意すれば、建設作業に要する時間そのものは短い。建材に関しては昨年末から都の北の大森林で伐採させ、冬から春にかけて職人たちに加工を行わせ、そして作業の人手に関しては王の権限を存分に利用し、労役に臨む民を大量に投じた。

 その結果、建設の決定からおよそ一年ほどで館は完成した。柱や扉を彩る装飾は今後時間をかけて徐々に刻まれていく予定で、倉庫や重臣たちの家屋など付随する建物群の建設はまだこれからだが、館の主屋そのものは王家の居所としてひとまず機能する状態となった。


 その大きさは、元は農場主の館だったこれまでの王の館より一回り以上も大きい。


 縦に長い構造をしているのは変わらないが、館の中心を成す広間は横幅が十メートルを超え、奥行きはそれよりやや長い。天井も広さに相応の高さを誇っている。大きな広間を所有していることが裕福さの証とされる中で、間違いなくリンダム王国で最大を誇るこの広間は、その主であるエドウィンこそが王国社会の頂点に立つ存在であることを誇示している。

 これまでの館は正面の扉がそのまま広間に繋がっていたが、新たな館は正面入口から広間の扉までが短い廊下になっており、その左右には宴に使われるテーブルや長椅子を収める物置と、これまでは広間の隅に置かれていた調理場が専用の一室として置かれている。

 広間の奥はこれまでと同じく王族たちの私的な空間とされているが、その部屋数は大幅に増えている。子供たちが成長し、家庭を持ち、孫が生まれ、そうして王族の人数が増えても各々が私室を持てるように。また、金細工や宝石や貨幣など王家の財産の中でも特に重要なものを収納し守る一室、徴税記録や王家の所有する書物などを保管する一室もある。


 成長したリンダム王国を統治するための拠点として、王の権力の象徴として、申し分ない規模に拡大した館。その中核たる広間には現在、家臣団が集っていた。都で暮らす戦士の大半、文官、そして王家お抱えの職人や商人が、広間の最奥に置かれた玉座を向いて並んでいた。

 そこへ、戦士長ジェラルドが登場する。広間の奥側の壁にある二つの扉、その一方から広間へ入った王の最側近は、自身がその筆頭に立つ家臣団を見回し、声を張る。


「国王陛下の御成りである! 皆、頭を下げろ!」


 戦士長の命令を受けて、百人を優に超える家臣たちは一斉に首を垂れた。


 彼らの礼を受けながら、国王たるエドウィンは先導する戦士長に続いて広間に入る。その後ろには王妃クレアと、自らの足で歩く五歳の王子エゼルウルフ、そして家令のドーラに抱きかかえられた二歳の王女アリスが続く。

 エドウィンは高座に上がり、玉座の前まで歩き進むと、己に首を垂れる家臣たちの方を向く。クレアが王妃の椅子の前に立ち、エゼルウルフが王の傍らに、家令に抱かれたアリスが王妃の傍らに並ぶのを認めた上で、口を開く。


「面を上げよ」


 礼の姿勢をとっていた家臣たちは、許しを受けて顔を上げ、玉座の前に立つ王を見る。全ての視線が、この広間の主であり、王国の主であるエドウィンのもとに集まる。


「……リンダム王国は、我が国は、今では王の都と呼ばれるこの地より始まった。建国より六年が経った。かつては小さな一地域を領有するのみだった我が国は、今やアロナ島南西部の南側、ティリス川以南の全てを支配するに至った」


 家臣たちを睥睨しながら、エドウィンは語り始める。


「何百もの人里が、何万もの民が、今は我が支配下にある。広大な領土が、そこから得られる富が我が手中にある。その事実を以て、神々の祝福のもとに、リンダム王国国王エドウィンの偉大さは証明されている……そして今日、王の偉大さをこの世界に示す証が、また一つ生まれた。それがこの館である。王のために築かれた新たな館である」


 エドウィンの両手が左右に広げられ、広間の全体を示す。


「この新たな館は、その中核たるこの広間は、まさに象徴である。私の権力の強大さを、心の寛大さを、そして存在の偉大さを象徴する場である。これより先、この館を訪れ、広間に足を踏み入れた全ての者が思い知るだろう。エドウィン・リンダムが何者であるかを……忠実なる臣である諸君を証人とし、私は神々と世界に宣言する。今よりこの館が、リンダム王家の居所である。この広間が、我が国の中心である」

「リンダム王家万歳! エドウィン王万歳!」


 王の宣言に続き、傍らのジェラルドが高らかに言った。立ち並ぶ家臣たちがそれに倣い、一斉に復唱した。


 王家と王を讃える声がくり返し響く中で、エドウィンは玉座に腰を下ろす。その隣で、クレアが自身の椅子に座る。

 玉座の背に身体を預け、肘掛けに腕を置き、家臣たちの称賛を浴びながら、エドウィンはここに至るまでの戦いを振り返る。平穏な日々に一時別れを告げ、戦いと征服の怒涛に身を置いたこの二年間に思いを馳せる。


 決して楽な戦いではなかった。易しい歩みではなかった。しかし、自分は勝利した。結果、今ではティリス川以南の全てがリンダム王国領土となった。王と貴族による支配体制が確立され、自分はその頂点に立っている。今では二百人の戦士が自分の命令で動き、戦時には貴族たちの手勢も含めて一千人に届く軍勢が自分の指揮のもとに戦うだろう。これで自分は、誰の目にも一人前の王に見えるはず。


 貴族たちとの関係は安定している。特に、最後に従属したエストラド家とは良好な関係が築かれている。その最大の立役者であるアンナからは二度ほど書簡が届いたが、それによると夫のマーフィン・エストラドとの仲も良く、エストラド家の人々とも打ち解け、幸せに過ごしているという。既に子も身ごもっているそうで、彼女の新たな人生は順調そのものである様子。

 アンナがエストラド家に嫁いだ数か月後には、レオフリックも結婚した。幾人もの女性から熱い好意を向けられていた彼が、伴侶に選んだのは御用鍛冶職人デリックの娘だった。父親とは似ても似つかない美しい女性と結ばれたレオフリックも、妹と同じく幸せそうにしている。


 若き側近の結婚と並んでエドウィンの身近に起きた吉報が、クレアの三度目の懐妊。分かったのはつい二か月ほど前のことで、エゼルウルフやアリスを身ごもったときと同じく、彼女は心の内を幸福に満たされている様子。もちろんエドウィン自身も、大きな喜びを抱いている。


 王としても一個人としても順風満帆の日々を送りながら、時おり思い出すのはダグラス・バーデンのこと。エドウィンと同じように実力で一地域の支配者に成り上がった彼は、強く、勇ましく、偉大な敵だった。競争相手として尊敬を抱かずにはいられないほどに。

 彼の名前は、エドウィンが作り進めている己の伝記に念入りに記した。エドウィンが王として生き抜き、リンダム王国が存続し続ければ、結果としてダグラスの名も後世に知られるだろう。彼はもはやこの世の住人ではないが、おそらく今後も伝記の中でその名に言及することになるだろう。例えば、この先現れる新たな敵と彼を比較する際に。あるいは、彼の忘れ形見であるパトリシアが成長し活躍するようになった後、彼女の偉大な父の存在を振り返る際に。


 ダグラスのことを思い出したついでに、エドウィンはブレドリック・ベルノニアの存在にも思いを馳せてやる。

 東のカレド山脈までの一帯を、どちらが先に征服し終えるか。エドウィンと彼の間で暗黙のうちにくり広げられた競争は、両者同着と言うべき結果に終わった。奴を悔しがらせることができたに違いないと思っていたエドウィンとしては残念だったが、少なくとも敗けはしなかったので良しと思うことにした。おそらくは彼の方も、似たようなことを思っていることだろう。

 それぞれきりの良いところまで征服行を成し遂げ、十分な領土を得てからのエドウィンとブレドリックは、個人の内心は別として、為政者としてはこれまでと変わることなく良好な関係を維持している。互いの国が国内社会の発展に注力する段階に入ったこともあり、協力して交易の活性化を目指すなど、むしろこれまで以上に友好関係意を深めている。


 エドウィンとブレドリックが勝利を重ねた結果、アロナ島南西部はリンダム王国とベルノニア王国によって山分けされた。それと同じように、アロナ島の他の地域においても、より広い支配域と万に届く人口を抱える勢力が徐々に増えているという。

 それら大勢力の支配者の中には、エドウィンがティリス川以南を完全征服したことを知り、使者を送り込んで接触してきた者もいる。現状ではこれ以上の領土拡大を考えていないエドウィンは、基本的にはそうした支配者たちとの友好的な関係構築を目指しつつ、彼らの今後の動向を注視するつもりでいる。今やエドウィンの視野は、ティリス川以南という一地方を越え、アロナ島全体に及ぶようになっている。


 さらなる力と地位を得たことで、エドウィンの世界は広がっていく。各地に新たな時代の支配者が育ち、新たな時代の秩序が築かれつつあるアロナ島において、自分は新時代の秩序を守る支配者の一人として、これからもリンダム王国の統治を為していく。この新たな館を拠点としながら、生涯続く覇道を歩んでいくのだ。

 そう確信しながら、若き王は満足げに息を吐く。


「……良いな。素晴らしい」


 王だけに許された視点から、王のために築かれた真新しい広間を見回しながら、エドウィンの顔には尊大不遜な笑みが浮かぶ。

ここまでが第二章となります。お読みいただきありがとうございます。


本作の書籍化企画も順調に進行中です。近いうちにレーベルや発売日などの情報も解禁されるかと思いますので、引き続きWEB版をお楽しみいただきつつ、今しばらくお待ちいただければ幸いです。


王として力を増しながら覇道を邁進するエドウィンの生き様がお気に召しましたら、ブックマークや星の評価をいただけると大きな励みになります。よろしければ応援のほどお願いいたします。


第三章も、月・水・金の週3回更新していく予定です。引き続き『我が覇道を讃えよ』をよろしくお願いいたします。

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