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【書籍化決定】我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~  作者: エノキスルメ
第二章 拡大する版図

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第七十九話 発展計画

 五勢力の支配者たちを降伏させて以降の戦後処理は、極めて順調に、何らの問題もなく速やかに進んだ。


 会談から二週間のうちには、各勢力の拠点より、人質となる子弟が送られてきた。最年少の者は十歳をようやく過ぎた程度で、最年長の者でも二十代。男が二人と女が三人。エドウィンは各家から人質の身柄を預かることと引き換えに支配者たちを伯に任じ、正式に主従の契りを交わした。また、捕虜となっていた各家の身内や家臣も解放し、主人と共に領地へ帰らせた。

 エドウィンは貴族たちの家族の顔を知っているわけではないので、人質が自分の子女や兄弟であるという彼らの言葉を信じるしかない。が、もし人質が他人による身代わりだと判明すればその貴族家を滅亡に追い込むと事前に警告している上に、貴族たちが身代わりを相手に演技をしているようには見えなかったので、その点は特に心配していない。


 また各家からは、人質と共に、賠償の品も支払われた。武具、装飾品、金貨や銀貨、家畜といった品々が、会談で定められた通りに差し出された。これらは戦士と民兵への褒賞や、軍備増強のために活用されることになる。


 こうした貴族たちとのやり取りと並行して、旧ファーマス王国領土の併合も進められた。各人里を巡っての支配宣言は後日にゆっくりと行うことになるが、支配者が代わったことの布告と新たな税制の説明は、王の使者として駆け巡った戦士たちによって新たな直轄領の全域に伝わった。

 ファーマス王家の家臣たちは野に下り、ダグラスの従士たちの家族に関しては、かつて盗賊団によって荒らされて人口が激減し、未だ復興の途上にある村へ移り住むことが決まった。


 全ての戦後処理を終え、人質と戦利品と共に王の都へ帰還し、愛する妻子と再会を果たし、数日間の休息で戦争の疲れを癒したエドウィンは、王としてさらに歩みを進める。王と貴族による支配体制が確立され、貴族領まで含めればこれまでの数倍に領土が急拡大したリンダム王国を、良く治めるために動き出す。


「それで、人質たちの様子は? 五人とも快適に過ごせているかい?」

「気持ちの上ではまだ居心地の悪さを感じているでしょうが、生活を送る上での不便はないはずです。オズワルドやアンナあたりが上手く相手をしているようなので、あいつらを介して他の家臣たちとの交流も少しずつ進んでいくでしょう」


 王の館を出ながらエドウィンが問うと、傍らに付き従う戦士長ジェラルドが答える。


「それならいい。仕事は男女で分けて割り振るかたちに?」

「男二人に加えて、アルフォス伯から預かった十四歳の娘も戦士団で務めたいと言っているので、その三人を戦士見習いにしようかと思っています。残る二人には、リンダとヘルガの手伝いをさせようかと」

「そうか。ではその三人については、前に言った通りの扱いを頼む。貴族たちの忠誠の結果として差し出された大切な人質だからね」

「御意のままに」


 人質たちをただ遊ばせておくのは彼らにとっても酷なことなので、エドウィンは彼らを重臣として扱いながら、仕事の経験を積ませるつもりでいる。

 とはいえ、戦士団に所属する三人については配慮が必要。訓練はなるべく他の戦士たちと同じように行わせるが、平時は都の中と近辺での軍務に、戦時は都の防衛などに従事させ、できるだけ身に危険が及ばないようにすると決めている。彼らの将来の役割は各々の実家が決めることだが、少なくともエドウィンの庇護下にいる間は、生きていること自体が彼らの務めである故に。


「……さて」


 ジェラルドと話しながらエドウィンがやってきたのは、王の都の北側。広々とした、今はまだ何もない平地。


「この辺りですか」

「ああ。地面はなだらかで、川からも森からも程よい距離にある。この場所は……新たな王の館を建てるのに最適だ」


 平地を見渡しながら、エドウィンは笑みを浮かべる。


 今やリンダム王国の版図はティリス川以南の大半を占めるようになった。今後は、人口一万人に達した王家直轄領からの税収に加えて、各貴族家から上納される税も活用し、都の発展も軍備増強もより一層推し進めることになる。

 となれば、王国の統治拠点としての機能を強化するために、そして広大な領土と万単位の民を支配する王の居所としての威厳を示すために、より大きく立派な館を建ててそこへ移り住むべき。今こそが、地主の館の流用ではない王のための館を築くとき。エドウィンはそう考えた。


「しかし、ここだと都からは少し距離がありますね。間の土地も開発して都に含めますか?」

「ああ、まさにその通りにするつもりだよ。この土地と都の間の空き地、その東側半分には戦士たちとその家族が暮らす家々を増やす。そして西側の半分には、古参農民たちに新しい家を建てさせようと思っている。彼らもそろそろ、今よりも良い家で暮らしたいだろう」


 新しい館の建設予定地から、南にやや離れている王の都を向いたエドウィンは、その間にある何もない平地を手で示しながら語った。


 古参農民、というのは、王の都がまだ農場だった頃からの最古参の住民たちを指す呼び方。元々は小作農だった彼らは、クレアより農場の土地を与えられて自作農となり、古参戦士たちと姻戚関係を結んで政治力的発言力を高め、商品作物を多く栽培して商人たちとも取引を持ち、今や新参戦士よりも強い立場にある。

 そんな彼らは、しかし今のところは小作農だった頃と同じ家屋に住んでいる。農民の家屋はどれも簡素な造りをしているが、やはり裕福な家ほど大きい例が多い。なのでこの機会に、古参農民たちも立場に相応の立派な家に移り住ませたいとエドウィンは考えている。


 彼らが新居に引っ越したことで空き家となる家々には、都に移住してくる労働者たちを住まわせるつもりでいる。各人里であぶれた若者たちが仕事を求めて都に流入してくる現状、家屋はどれだけあっても困らない。十数軒ぶんの余裕ができるのは、この都を膝元とする王家にとって歓迎すべきことだった。


「引き続き広場を都の中心と定め、その北東側には戦士たちの家々が置かれる。北西側には富農たちの家屋と、職人たちの家屋や工房が並ぶ。そして広場より南側には、一般農民たちの家屋が広がる……こうすれば、都は秩序立った発展を遂げていくだろう。北側は王家と支配者層が暮らす区域として治安を安定させられるだろうし、南側はこれから増えていく住民のためにどこまでも市域を広げていける」

「戦士長の立場としてもありがたいですね。戦士の中でも古参の連中ほど館に近い位置に、新参者を南や東の方に住まわせれば、館の傍には信用できる者ばかりが住むことになるので警備もしやすくなります……それで、今の館は神殿として使う予定でしたか」


 ジェラルドの言葉に、エドウィンは首肯を返す。


「ああ。やはりそれが最善だと思う。館のためにもなるし、王の都を真の都市にする上で、どちらにせよ大きな神殿が欲しかったところだ」


 旧帝国本土の都市部では、都市全体に神々の祝福を得るために、市域の中心部に大きな神殿が置かれていた。そうした神殿には何人もの祭司が住んでおり、都市内で聖職者としての務めを果たすための拠点にしていた。

 大きな神殿は都市の証。大陸西部やその周辺地域ではそのような価値観が当然に共有されてきたからこそ、エドウィンはこの王の都にも象徴となる神殿が欲しいと考えていた。王家の居所としての役割を終える今の館は、立地を見ても大きさや威厳を見ても、都への祝福を司る神殿に最適と言える。


 この采配にはクレアも全面的に賛同してくれている。あの館がこの先も人々から敬われ、大切にされるのであれば、館を建てたクレアの祖父も、館で人生を過ごしたクレアの家族も喜んでくれるだろうとエドウィンたちは考えている。


「都全体の発展は徐々に進めていくとして、最優先は新しい館だ。労役の人手はできるだけ館の建設に割き、それが足りなくなったら報酬を提示して人手を集めよう。貴族たちから支払われた賠償や、これから上納される税を建設費用として早速活用するんだ」


 このアロナ島や、エドウィンの生まれた旧帝国北部では、木造建築が一般的。新たに建てる王の館も、これまでの館をより大きく広くしたような造りとなる見込み。

 こうした木造建築では、注ぎ込める労働力がものを言う。材料となる木々の伐採も、それを加工した後の建設作業も、基本的には人手が多ければ多いほど迅速に進む。


 この点で、王という立場は非常に有利だった。王の権力と財力があれば、必要なだけ人手を集めることができる。課した労役の限度を超えて民を働かせたい場合は、穀物やら家畜やら貨幣やらを対価として労働者を募れば、都や周辺の人里の住民のうち、小遣い稼ぎをしたい者が幾らでも集まってくる。暇を持て余しがちになる冬などは特に。

 新しい館が形を成すまで、案外時間はかからないだろうとエドウィンは見込んでいる。


「具体的な計画は都の大工たちに定めさせ、報酬の管理はドーラに任せるが、大規模な作業の監督には戦士たちを充てたい。毎日数十人が働くことになるだろうからね」

「では、責任者として親衛隊戦士を一人、その補佐役としてさらに何人かの戦士を監督に充てるようにします」

「それで十分だ。よろしく頼むよ……気が早いことは承知の上だが、ここに荘厳な館が佇む光景が今から目に浮かぶようだよ」


 忠実な戦士長の言葉に頷きながら、エドウィンは館の建設予定地を見据える。何万もの民の上に君臨する、偉大な王の居所。王国統治の中心。王家の絶対権力の象徴。その完成形を想像しながら悦に入る。

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