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【書籍化決定】我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~  作者: エノキスルメ
第二章 拡大する版図

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第七十八話 寛大な処遇②/葬送

「……我々はエドウィン王より寛大な処遇を受けたことを、そして神々より幸運を与えられたことを感謝しなければなりませんね。私は属州キドウェルの総督として、エドウィン・リンダム国王陛下に降伏いたします。賠償を為し、リンダム王国貴族となって王家に臣従し、義務を果たしてまいります。私の息子の一人を、人質として王家にお預けいたします」


 沈黙を破って最初に発言したのは、ディラン総督だった。

 バーデン領とファーマス王国が滅亡した理由は、究極的には、ただエドウィンの支配域の隣にあったため。そのためにダグラスとロドリはエドウィンと積極的に敵対することになり、敗北して命までをも失った。一方で他の五人が命のみならず地位をも安堵されるのは、その支配域がエドウィンの拠点から遠いため。ディランが己を幸運と語ったのは、この身も蓋もない事実を正しく理解しているが故のことか。


 もはや選択の余地なし。そう考えていることが明らかな表情で、声に諦念を滲ませながら語ったディランに、エドウィンは喜色を浮かべて鷹揚な態度で答える。


「ディラン総督、君の降伏を受け入れる。今日より君は我がリンダム王国の貴族だ。私は善き王として君臨し、君の地位と財産を庇護しよう。そして、君が王家に忠実であり続けることを期待している。互いが義務を果たし続ける限り、神々の祝福のもとで私たちの絆は続くだろう」


 そのやり取りが起点となり、他の四人も次々にリンダム王家への従属を誓う。

 その全てを受け入れたエドウィンは、大仰に手を広げ、わざとらしく尊大な態度で語る。


「諸君の全員が従属の意思を示してくれたこと、王として心から感謝しよう。これは誠に素晴らしいことだ……では、会談を終えた後には各自の拠点に伝令を送り、人質となる子弟をこの館に連れてきてもらいたい。人質を受け取り次第、諸君と正式に主従の契りを交わし、諸君を我がリンダム王国の貴族として迎えよう。その上で、諸君には新たな称号を与えよう」


 怪訝な顔に、あるいは少し驚いた顔になる五人に対して、なおも王の説明は続く。


「王、総督、族長、首領、領主。それぞれ己の称号に理由や愛着はあるだろうが、貴族たちの称号がばらばらでは不便が多い。また、王という称号に関しては、当然ながら国内で私以外の者が名乗ることは許容できない。なので、これから諸君には『伯』を名乗ってもらう。知っている者もいるだろうが、これはアロナ島にかつて存在した小王国群において、王家の下で各地を治める長を意味していた言葉だそうだ」


 エドウィンがこの言葉を知ったのは、祭司長フィオナより借りたアロナ島の歴史書を読んでいたときのこと。ロドニア帝国に征服される以前のアロナ人は文字を持たなかったが、大まかな歴史は口頭で語り伝えられており、その一部は帝国支配の後に書物にまとめられている。


「諸君の家は伯家と呼び、諸君の支配域は伯領あるいは単に領地と呼ぶことにしよう。また、各家の武門の家臣団については、戦士団という呼び方にこれも統一させてもらいたい。王家の下に伯家が、その下に戦士階級をはじめとした家臣たちが、さらに下に民が並ぶかたちで、リンダム王国の階級社会を成したい。慣れるまで多少の時間はかかるだろうが、諸君の理解を求める」

「……承知いたしました。国王陛下の御意のままに」


 またもやディランが最初に発言し、それに他の四人が続いた。すっかり素直になった彼らの様を受けて、エドウィンは上機嫌に笑んだ。


「よろしい。諸君の……いや、諸卿の協力的な態度に感謝する。キドウェル伯、コールフォード伯、グローサー伯、アルフォス伯、エルメン伯。リンダム王国の支配者層として、私と共に力を合わせて社会を治めていこう」


・・・・・・


 会談を終え、貴族となる五人が退室していった後。重要な仕事を終えた安堵で息を吐き、エドウィンは傍らの側近たちを見やる。


「……さて、彼らの反応をどう見る?」

「リンダム王家による支配を喜んでいるわけではないでしょう。ただ単純に、逆らえないから従おうと考えているのは想像に難くありません」

「同感ですぅ。あくまでも、諦めて従属を決めたって感じでしょうねぇ」


 ジェラルドとフィオナの見解を聞き、若き王は楽しそうに笑った。


「はははっ! 君たちにもそう見えたか……まあ構わないさ。戦って敗けたからといって、いきなり僕への忠誠心を抱いてくれるとは端から思っていない。最初は諦念を理由にした従属で十分だ」


 エドウィンは言いながら足を組み、椅子にふんぞり返る。


「内心で飼い主を好いている牛も、嫌っている牛も、手綱を引かれて言うことを聞くのであれば等しく役に立つ。理由がどうであれ従属には変わりない。やるべきことはこれまでと同じだ。僕に従っていればより良い将来が待っていることを、支配者としての実績をもって彼らに解らせ、偉大な王として貴族たちの忠誠を獲得してみせようじゃないか」


 エドウィン王は強く聡明で、自分では敵わない偉大な支配者。逆らうのではなく従うのが、唯一かつ最良の選択肢。支配下の皆にそう思わせることができれば、王国社会が崩れることはない。

 簡単なことではないが、それを成し遂げることが覇道を歩み続ける最善手だと、自分が選んだ生き方だとエドウィンは考えている。


・・・・・・


 翌日の正午。ファーマス王家の拠点だった村の広場で、ダグラス・バーデンと彼の嫡男ケネス、そしてファーマス王家の三人の葬儀が行われていた。


 葬儀の場にはエドウィンと戦士たち、ダグラスの娘パトリシア、ダグラスの死んだ従士たちの家族、ファーマス王家の家臣だった者たちのほか、この村や周辺の人里の住民も集められて立ち会っている。民にとっては決して悪しき支配者ではなかったロドリたちのために、盛大な葬儀を挙げてみせることで、彼らファーマス王国民からの心証を良くして今後の支配を円滑なものとする。エドウィンがこの葬儀を開く背景には、そのような意図も目的の一端としてある。

 そして、リンダム王国貴族となるディランたち五人も、会談に続いて葬儀にも参列している。彼らは神妙な表情で、戦列を並べて共闘した戦友たちを見送っている。


 葬儀の進行を担うのは、リンダム王国の祭司長フィオナ。彼女が厳かな態度で唱える聖句を聞きながら、大勢が祈りを捧げることで、葬儀の場には厳粛な空気が生まれている。リンダム王国への侵攻を企てた主犯たちは、その大胆さと勇敢さへの敬意として、リンダム王家の主催のもとで立派な葬送を受けている。


「諸卿、よく見ておくがいい。そして彼らに深く感謝するがいい。我が国に害を為した者が本来辿るべき末路を、彼らはこの死に様をもって諸卿に教えてくれたのだから……私は一度赦した罪を蒸し返すことはしないが、忘れることも決してない。卿らの中に再び同じ過ちを犯す者がいれば、その者は彼らと同じ末路を迎えることになる」


 粛々と進む葬儀を見送りながら、エドウィンは冷えた声で五人の貴族たちに語った。


 この葬儀は、リンダム王家の打倒を企んだ者がどうなるか、貴族となった者たちへと示すための見せしめでもある。二度目の慈悲はない、という王の意思を示す警告である。エドウィンがそのように伝えていることを、その臣下となる五人は全員が理解した。

 彼ら五人は敗者であり、敗者は勝者に従わなければならない。物言わぬ墓標と遺品は、しかし百の脅迫よりも雄弁に、その事実を語っていた。


・・・・・・


 それから間もなく葬儀は終わり、参列者たちは解散する。戦士たちは軍務に戻り、その他の者たちも徐々に広場を去っていく。

 最後まで残ったのは、エドウィンと側近たち。そして、パトリシア・バーデン。


「ダグラス殿とケネス殿の遺品のうち、欲しいものがあれば持っておくといい。それ以外はリンダム王家がもらい受けるか、旧バーデン領にある彼らの墓に収めよう」

「……分かりました」


 エドウィンの言葉に頷いたパトリシアは、武具と共に葬儀の場に置かれていた幾つかの装飾品から、ダグラスとケネスがそれぞれ持っていた揃いの見た目の指輪を手に取る。よく見ると、パトリシアの指にも同じ見た目の指輪があり、それから察するにどうやら家族で揃いの指輪を身につけていたようだった。


「それで、パトリシア嬢。祭司として生きていく心の準備はできたか?」

「……はい。十分に時間をいただいたので、しっかりと覚悟できました」


 問われたパトリシアは、エドウィンを真っすぐに見据え、しっかりと頷く。その目に迷いは微塵も見えない。


「その上で、もし許されるのであれば、ひとつお願いをさせていただきたいと思っています……国王陛下、あなたの歩みが見える場所にいたいです」


 その言葉を受けて、エドウィンは小さく片眉を上げる。


「社会から遠く離れた辺境の神殿に置かれるのではなくて、エドウィン王の歩む覇道を、あなたの為していく偉業を、身近に知ることのできる場所で祭司として務めたいです。私は……私は、父に勝利したあなたが、何をしてどこへ向かうのかを、この目で見ながら生きていきたい」

「……いいだろう。気に入った」


 語るパトリシアの心の中を見透かすように、彼女の瞳をじっと見つめていたエドウィンは、喜色を浮かべて言った。


「パトリシア、君の願いを叶えてやろう。君はこれから祭司見習いとして、我が国の祭司長フィオナに仕えるといい。彼女の部下として生きれば、私の歩みの全てを見ることが叶うだろう。あのダグラス殿の娘で、それだけしっかりと自分の言葉で語ることができるなら、きっと優秀な人材になる。君のこれからの成長が楽しみだ」


 若き王の言葉に、今度はパトリシアが驚きを表情に示す。


「……そこまで良く扱っていただいていいんですか? 私、あなたの敵の娘なのに……」


 王家に仕える祭司長の部下。それはどうやら予想以上の厚遇だったようで、だからこそ困惑した様子の彼女に、エドウィンは笑いかけた。


「偉大な敵の忘れ形見への贔屓だ。こうした贔屓を許されるのは、王という絶対権力者の役得さ」


 冗談めかして言うと、パトリシアは目を丸くした後、思わずといった様子で小さく笑った。

 そして表情を整え、丁寧な所作で一礼する。


「寛大な処遇に心より感謝いたします、エドウィン・リンダム国王陛下。祭司見習いとして、これから懸命に務めます」

「よろしい。君のはたらきに期待している。これからよろしく頼む」


 王の言葉に頷いたパトリシアは、静かに息を吐き、そして不意に表情を歪める。両手で口元を押さえ、それでも堪えきれなかったようで、その目からは涙が流れ落ちる。


「……父さんと兄さんが生きててくれたらそれでよかった」


 声を震わせながら、口元を押さえる手の隙間から零すようにして、彼女は言った。


「バーデン家が偉くならなくても、贅沢な暮らしができなくても、二人が傍にいてくれたらそれだけでよかったのに……」


 そして、彼女は声を抑えながら泣き出した。顔を伏せ、その場に座り込み、とめどなく溢れる涙が雫となって地面に落ちていく。

 エドウィンが視線を向けると、フィオナが頷き、これから自身の部下となる少女のもとへ歩み寄る。彼女が優しい表情でパトリシアに語りかける様を認め、エドウィンは場を離れる。


 彼女を慰めるべきは、彼女から家族を奪った自分ではないと、エドウィンは理解している。

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