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【書籍化決定】我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~  作者: エノキスルメ
第二章 拡大する版図

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第七十七話 寛大な要求①

 ファーマス王国を制圧したエドウィンが、残る五勢力の支配者あるいはその家族に向けて送ったのは、終戦に向けた会談への参加要請だった。


 エドウィンが王として五勢力の支配者たちに求めるのは、此度の戦争における降伏と賠償、そしてリンダム王家への従属。これらの要求を受け入れた者は、リンダム王国において王よりも下位の為政者、すなわち貴族として迎えられる。王家に対して幾つかの義務を負う以外は、これまでと概ね変わらない支配者としての生活を保障され、その地位は子々孫々まで受け継がれる。

 ただしこのような待遇を受けられるのは、要請に応じて期日までに会談の場に到着した支配者のみ。応じなかった場合はその者の拠点を襲撃し、家族も含めて相応の代償を支払わせる。また、リンダム王国軍の捕虜となっている支配者当人やその家族、家臣たちは即座に処刑する。そうして滅亡した勢力の支配域は、王と貴族たちで山分けする。

 これは決して脅しではない。実際に、侵攻を主導したファーマス王家は既に滅亡させた。対話に応じなければ確実に同じ目に遭わせる。


 使者たちを介して五勢力の支配者や家族にそう伝えると、果たして五勢力全てから代表者が指定した日時に会談の場へやってきた。支配者が捕らえられたコールフォード領とグローサー王国からは、嫡子が捕虜の立場を交代するために。その他の三勢力からは支配者当人が。ファーマス王家の拠点だった館に、それぞれ少数の護衛のみを伴って来訪した。


「連合軍の支配者諸君、まずは、我が要請に応じてくれたことへの礼を言わせてほしい。皆よく来てくれた」


 館の広間に五人の支配者たちを迎えたエドウィンは、仰々しく手を広げながら笑顔を浮かべて言った。その後ろには側近のジェラルドとフィオナが控え、そして広間の左右の壁際には戦士たちが並んでいる。

 各勢力の支配者たちは、それぞれ立派な身なりをしていた。武器は取り上げられているものの、上質な衣服を纏い、金や銀や宝石で飾り、己が一廉の人物であることを誇示していた。


「……恐縮です、エドウィン王。私たちとしても、こうして会談の機会をもらったことに感謝しています」


 会談の主催者である若き王に対して、最初に口を開いたのは属州キドウェルの総督ディランだった。為政者であると同時に祭司でもあるという彼が、聖職者らしい柔和な態度で言うと、他の四人も軽く頭を下げたり、頷いたり、礼らしき言葉を呟いたりと、ひとまず穏当な反応を見せた。


 その反応の裏に隠された彼らの本音は、エドウィンにも推測できる。


 会談に赴かなければ、多くを失うのは間違いない。まず、捕虜にされている身内や家臣が殺されるのは確実。自分と家族は逃亡すれば生き長らえるとしても、何年もかけて築き上げた地位は全て奪われる。

 もし逃亡に失敗すれば、家族のうち成人は皆殺しにされ、子供たちにも孤独で過酷な将来が待っていることは想像に難くない。また、支配者としての責任を放り捨てて逃亡しようとすれば、その後にリンダム王国軍の襲撃を受けてろくな目に遭わないであろう家臣たちや、捕虜となっている家臣たちの家族に見限られ、彼らが敵に回る可能性もある。

 リンダム王国軍と再戦しようにも自家の勢力単独では勝利は難しく、しかし他の勢力と再び共闘しようにも、その支配者たちがリンダム王家の側についてこちらの支配域を奪おうと考える可能性が相当程度ある以上、信用するのは難しい。支配者当人やその家族を捕虜とされている勢力は特に信用できない。


 このような状況で己や家族の命と財産、地位を保ちたければ、あるいは拘束された家族や家臣を助けたければ、会談の場で手のひらを返される危険があることを承知の上で、エドウィン王の求めに応じるしかない。おそらく彼ら五人は、そのように考えた末にこの場にいる。


 一人二人くらいは逃亡を試みるのではないかと思っていたが、独力で一勢力を築き上げた者やその継嗣となれば、さすが度胸があると評するべきか。あるいは揃って地位への執着が強いのか。表情には出さず、エドウィンはそのように考える。


「それでは諸君、ひとまず座ってくれ。酒を囲みながら会談に臨むとしよう」


 言いながら、エドウィンは広間の中央に置かれたテーブルの奥側、最上座に置かれた立派な椅子に腰を下ろす。五勢力の支配者たちも席につくと、全員の前に杯が置かれ、同じ壺からワインが注がれた。


「まずは、先の戦いで散った者たちのため、祈りを捧げたい。私と諸君は敵同士として激突し、私が勝って諸君が敗けたが、それはこの際関係ない。戦いで死んだ全ての者が、神々の国で安寧を得ていることを願おう」


 エドウィンがワインの杯を掲げると、真っ先にディラン総督が倣い、残る四人も顔を見合わせながら続いた。

 毒など入っていないことを示すように、エドウィンがワインを一口飲んでみせると、五勢力の支配者たちも杯に口をつける。


「さて、早速だが本題に入ろう。私と諸君のこれからの関係について話し合おう」

「……私たちが降伏して賠償を支払い、リンダム王家に従属すれば、私たちを貴族として迎えると聞いているわ。それで間違いなくて?」


 問うてきたのは、エルメン領の領主であるいかにも勝気そうな雰囲気の女性。彼女の問いに、エドウィンは微笑をたたえて頷く。


「いかにも。降伏に関しては言葉の通り、敗北をもって戦争を終えると明言してくれればそれでいい。賠償に関しては、各勢力の人口規模や経済も鑑みた上で委細を決めるとしよう。諸君の生活や統治が破綻しても困る故、そう無茶な要求はしないので安心してくれ」

「……従属に関しては? 俺たちは何をすれば従属したことになる?」


 アルフォス領の首領――元は盗賊だったが、掠奪するよりも貢がせる方が楽だと考え、一地域の支配者にまで成り上がったという強面の男から尋ねられると、エドウィンは微笑を保ったまま再び口を開く。


「従属に関しても、そう難しい話ではない。他国との外交の決定権を王に委ねること。税の一部を……賠償と同じくこちらも諸君の負担になり過ぎない程度だが、王家に上納すること。そして戦時に一定の兵力を集めて軍役を務めること。この三つが王家に従属する貴族の義務となる。ああそれと、王を己の主君と認め、讃えることも大前提として求める」


 そこまで語ったエドウィンは、またワインに口をつけると、さらに説明を続ける。


「それ以外のこと……貴族が各々の支配域内でどのように暮らし、家臣団をどのように従わせ、税をどのように集め、民の犯罪や係争をどのように裁定するかは自由だ。諸君は私に従属する貴族となっても、これまでと何ら変わらない生活を送ることができる。また、理想的な主従関係とはどちらか一方だけが献身を為すものではない。私は王として、貴族たちの地位と財産をあらゆる外敵から庇護しよう。全力をもって庇護者の務めを果たすと神々に誓おう……」


 一同を見回しながら語り、エドウィンは椅子の背にゆったりと身体を預けると、不敵に笑む。


「そして、各家が私への従属を保ち、反乱など起こさないことの証として、兄弟あるいは子女の身柄を我がリンダム王家に預けてもらう。言うなれば人質だ」

「なっ!? それは……」


 人質、という言葉に反応したのは、コールフォード領の族長だった。彼が反発を示しかけたのを手で制しながら、エドウィンはまた語る。


「案ずる必要はない。その者の実家が反乱を起こさない限り、人質の安全は保障される。快適な生活環境を与え、各自の適正に応じて、危険でない軍務か過酷でない家政を担わせよう。人質が子供の場合は、私の子供たちに与えるものと同じ教育を与えよう……各貴族家にとっても、身内を王の傍に置く利点は多いはずだ。その者が真面目に務めを果たせば私の信頼を得られ、いずれは他の者と人質を交代すれば、その信頼を実家に持ち帰ることが叶う。都にいる間、私だけでなく私の子供たちとも信頼関係を築けば、各家の安寧は次代まで保障されるだろう」


 人質を受け取ることで各貴族家が反乱を起こさないよう牽制しつつ、その人質を厚遇して王家への親愛を抱かせる。人質たちが成長し、別の若い身内と立場を代わった後は、王家やその家臣団との個人的な友好関係を活かし、各貴族家における連絡役や調整役を担ってくれると期待できる。もし元人質が家長の座を得れば、王家にとっては最も都合が良い結果と言える。そうした長期的な利益を見込んで、エドウィンはこのような提案をしていた。

 人質の扱いや貴族側の利点を語られた上で、なおも真っ向から反発する者はいなかった。彼らが内心でどのように思っているかは分からないが。


「……しかし、そもそも何故、私たちを貴族に遇するのですか? 貴方はバーデン領を征服して、このファーマス王国も制圧したとのこと。バーデン領とファーマス王国は奪っておいて、私たちの支配域や財産を奪わないのはどうしてですか?」


 代わって問いを発したのは、グローサー王国の女王だった。


「それは我が国に対する連合軍の不当な侵攻において、諸君が従犯の立場だからだ。此度の侵攻の主犯は、ダグラス・バーデン将軍と、彼と手を組んだロドリ・ファーマス国王だった。ダグラス殿は我が国への野蛮な侵攻を企て、ロドリ殿もそれに同調した……諸君は彼らの言葉を受け、私が危険な悪人であると誤解し、リンダム王国への侵攻に加担した。主犯であるダグラス殿とファーマス王家は死によって罪を償ったが、あくまでも従犯である諸君は、過ちを認めてリンダム王家に従属することで、寛大な王より赦しを賜った。それが歴史書に記される真実となる」


 真面目な顔でそこまで語ったエドウィンは、そこで冗談めかして笑む。


「というのは表向きの説明だ。もちろんこれも嘘ではないが、その裏にある本音も語ろう……端的に言えば、ティリス川以南の全てとなると、私が直接統治するには広すぎる。あまりにも手間がかかりすぎて現実的ではない。王の都より遠方については、私の代わりに統治を担う臣下を置いた方が楽だ。各地には既に諸君が支配者として君臨しているのだから、そのまま諸君を貴族に任じて引き続き統治を任せ、税の一部を受け取ったり、戦時の兵力を預かったりする方がいい。ついでに言えば、諸君に赦しを与えれば私の慈悲深さを国内外に示すこともできる」


 自分と同年代かそれより若いかもしれない女王に答えたエドウィンは、そのまま視線を一同に巡らせる。


「私はファーマス王国の征服をもって、ティリス川以南の土地と民のおよそ三分の一を得た。直轄領としては十分な規模だ。諸君はもはや単独では私に敵わず、王家に人質をとられた状況では互いに信用し合って反乱を共謀することもできないだろうからな」


 人里の数や全体の面積において無理なく直接統治でき、なおかつ傘下の各勢力が単独で反乱を起こしても軍事力で圧倒できる規模。エドウィンが直轄領の目標に定めた人口一万人は、この両条件に当てはまるものだった。

 これだけの直轄領を確保した上で各貴族家から人質をとれば、人質の犠牲を厭わないほど野心的で大きな戦力差を覆せると考えるほど自信家な貴族が現れるか、各家が人質一人を見捨ててでも共闘して打ち倒すべき暴君に自分が成り下がらない限りは、反乱など起こり得ない。エドウィンはそう確信している。


「どうだ? これだけ明け透けに本音を語られれば諸君の不安も解消されただろう? もちろん我が要求を拒絶しても構わないが、その場合はファーマス王家と同じ末路を辿ってもらう。私は誇りある王なので、この場で諸君を害するような卑劣な真似はしないが、捕虜を処刑した上で後日に軍勢を差し向けるので再戦といこう。そのときには王国貴族となった者たちも我が方に与して参戦するといい。勝利の後、土地を含む戦利品を山分けするとしよう」


 エドウィンが平然と語ると、五人は沈黙を返した。

 重苦しく黙り込む五人に対して、エドウィンは悠然とした態度で椅子にふんぞり返り、彼らが口を開くのを待つ。元より決して仲が良いわけではない各勢力の支配者たちが、互いへのさらなる疑念を植え付けられ、身内や家臣を捕虜にとられた状況で、要求の拒絶と連合軍の再結成を揃って決断することなど不可能。そう理解しているからこそ、緊張は覚えない。

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― 新着の感想 ―
日本で言うと信長位の家臣団(部下数千規模)いて初めてうまくいくもんで 新米入れた戦士すら3桁行くか行かないかなのに(今回でも結構死んでるし 三万の村々を統治しろは無茶振りなのだ それをやってそうな北…
エドウィン王、正直もほどほどになされよ!wwwwww  前話との対比が鮮烈ですた♪w
現実問題、中世前期の水準では封建制しか手は無いでしょうね。官僚を養成して派遣、なんて人口たった3万の社会では難しいでしょうし。
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