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我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~  作者: エノキスルメ
第一章 我は王である

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8/11

第八話 建国計画②(アロナ島地図再掲)

挿絵(By みてみん)


アロナ島の面積は、北海道本島よりも少し大きいくらい……とイメージしていただくと分かりやすいかと思います。

 この農場が位置するのは、アロナ島の中央部からやや突き出したようなかたちになっている南西部の、南端の西側の辺り。農場の北西には大きな森が広がり、北から東にかけてはアイヴァー川という、エドウィンたちが遡上してきた川が流れる。アイヴァー川は南の河口に向けて、東へ弧を描くように流れており、すなわちこの農場はアイヴァー川の下流域の西側に位置している。

 この一帯には人里が点在しており、クレアもドーラもアイヴァー川より向こう側へ赴いたことは数えるほどしかないが、そちら側にもやはり村や農場が点在しているという。南や西に進めば当然ながら海に行き当たり、大森林を回り込むように北西に進むと、森と海岸線に挟まれた狭い地形が続いている。そちらの道のりは途中に人里もない上にどうしても遠回りになるため、北へ向かう際はアイヴァー川を越えて大森林の東側を進む道のりを選ぶのが一般的。


 アイヴァー川を上流へと辿っていくと、大森林を抜けた先でもっと大きな川に繋がっている。ティリス川と呼ばれているその大河はアロナ島南西部を南北に二分しており、アイヴァー川はそこから枝分かれして流れる支流ということになる。本流に流れ込むのではなく、本流から枝分かれする支流というのはやや珍しい。

 ティリス川に関しては、二人は直接見たことはなく、知識として知っているのみだという。川までの距離は徒歩で一日強と、元傭兵のエドウィンたちからすれば決して遠すぎるわけではないが、生まれ故郷をほとんど出ずに生涯を過ごす者が大半であることを考えれば、彼女たちが赴いたことがないのも無理のないことだった。むしろ彼女たちは、その立場もあってか、農民にしては故郷の外を知っている方だと言える。


「北から東にかけて流れるアイヴァー川と、北西の大森林、そして西と南の海に囲まれた範囲内には、この農場を含めて七つの人里があります。農村が四つ、農場が二つ、漁村が一つです。その他には、どの人里にも属していない鍛冶師などの職人たちの家が、森の外縁部や小川の傍などに点在しています。それと、祭司の暮らす小規模な神殿が合計で三つあると聞いています」


 ドーラは淀みなく説明しながら、テーブルの上に食器など適当なものを並べて簡単な地図を作り上げていく。彼女の頭の中には、アイヴァー川下流域の西側にある人里のおおよその位置までが知識として記憶されているようだった。


「詳しいね。それに、とても分かりやすい説明だ」

「……恐縮です」


 エドウィンに褒められたドーラは、やはり戸惑い気味に答える。昨日から状況が急変し、今やエドウィンがこの館の主のように振る舞っていることにまだ心が追いついていないらしい彼女の態度は気にせず、エドウィンはテーブルの上の地図を見回しながら思案する。


「アイヴァー川の下流より西に、この農場を除いて他に人里が六つか……ひとまず線を引くなら、やはりここが丁度いいだろうな」


 思考をまとめるように独語すると、顔を上げて皆を見回し、薄く笑む。


「決めた。まずはアイヴァー川下流域の西側にある、他の六つの人里を支配下に置く。その上で建国と即位を宣言し、以降は川の向こう側へと支配域を広げていこう……アイヴァー川下流域西部の王エドウィン、最初の称号としてはなかなか悪くない響きじゃないか」

「素晴らしいとお考えだと思います! 私の生まれ育ったこの土地の周りから、エドウィン様の国が始まるんですね」


 クレアがそう言いながら、またエドウィンの腕に抱きつく。


「……まあ、確かに最初としては丁度いいでしょうね。村が五つに農場が一つ、大まかな場所も分かっているのなら、服従させるのも大した手間にはならない。それだけの数の人里を従わせれば、当面は食うに困ることもなく、ちゃんと一地域の支配者らしくも見える」


 つい昨日に出会ったばかりとは思えないほど仲良さげな主人とその婚約者の様を横目に、ジェラルドが口を開く。他に集っているエドウィンの側近たちも口々に同意する。


「我が側近たちも異論なしか。それじゃあ、ひとまずの方針は僕の言った通りで決定だ……そして我が国の中心は、やはりこの農場が最適だと思う。ここには僕が王として国を治めていく上で、まず最初に必要なものが揃っている。この館を王の館にして、農場はこれから王の都として発展させていきたい。もちろん、元々の持ち主であるクレアがよければの話だけどね」

「私は大歓迎です。私のものは全てエドウィン様のものですし、先祖から受け継いできた土地がエドウィン様のお膝元として栄えていくのなら、喜びしかありません」


 エドウィンの腕に抱きついたまま、クレアは上機嫌で言った。


「それは何よりだよ。おかげで王としての確かな拠点が手に入った……農場の方は年単位で発展させていくとして、この館は建国を宣言するまでに見栄えを整えたい。そうすれば、造りはしっかりしているし部屋も複数あるから、僕の国が小さいうちは王の居所として十分に事足りるだろう」


 クレアの祖父の代に建てられたというこの館は、平均的な農村ひとつ分に匹敵する土地と労働力を丸ごと所有していた地主の住処だけあって、大きさはなかなかのもの。それに加えて、広間とは別で私的な空間として使える部屋があることも利点として大きい。

 こうした木造の住居というのは居間も食堂も寝室も兼ねた単純な一間の造りになっていることが多いが、この館は広間の奥に扉と壁で隔てられた空間があり、そちらはクレアと彼女の兄、そしてドーラが寝起きの場として使っていた大きな部屋と、クレアの父が私室として使っていた小さな部屋に分かれている。このように日中の生活空間と寝室が分けられているのは、平民の住居としてはかなり贅沢なこと。さすがは裕福な地主の館と言える。

 この館でならば、エドウィンとクレアは高貴な人間らしく、夫婦の私室を持って他者の目を気にせずに寝起きできる。大部屋の方には側近たちとその家族を住まわせることができる。機能の面で考えても、ここは王の館としてひとまず十分と言える。


「いずれ僕が偉大な王に……そうだな、広い領土と何千何万の民を抱える王になったら、そのときは新しく館を建てよう。より大きくて、部屋がたくさんある館を。その頃にもこの館は建物としてまだまだ使えるだろうから、王の都となるこの地の、何か重要な施設として使おう」

「おじい様の建てたこの館は、エドウィン様の国が栄えていく様を長く見守っていくんですね。とても素敵です」


 長大な構想を語るエドウィンの顔を見つめながら、クレアはうっとりとした表情を浮かべる。


「この館の見栄えを整えるっていうのは、何か色々と飾りつけるってことですかい?」


 そう尋ねたのはサベルトだった。エドウィンは彼の言葉に頷き、広間の入り口を手で示す。


「そうだよ。ここが普通の館ではなく、王の館であると一目で分かるようにするんだ。まず飾りつけるべきは、館に出入りする誰もが見る入り口の扉だろうね。扉の外側に、僕の意匠を描こう。黒いウロボロスの意匠を」


 黒いウロボロス――己の尾を飲んで環を形作る黒蛇の意匠は、エドウィンが父から受け継ぎ、自身の象徴として使っているもの。荘厳で力強いこの意匠をエドウィンは大変気に入っており、自分が王になった後も己の象徴として、延いては王家の象徴として使おうと考えている。


「併せて、扉の上には僕の意匠を像にしたものを飾ろう。ひとまず木像を作り、いずれは青銅製にしたい。後は、館の窓を塞ぐ鎧戸も、全てに僕の意匠を描くんだ。そうすれば、誰が見てもここが王たる僕の館だと分かるだろう」


 広間の左右に並ぶ窓を手で示しながら、エドウィンの語る声は上機嫌に弾む。


「そして広間の奥側には、玉座を作るんだ。大昔の王たちは自分だけが座れる椅子を持っていたというから、僕もそれに倣おう。床よりも一段高くなった場所を作り、そこに大きくて立派な椅子を置くんだ。その隣には同じく立派な椅子を並べて、王妃だけが座れる席とする」


 そう言いながらエドウィンが得意げな表情を向けると、自分がエドウィンと二人並んで豪華な椅子に座る光景を想像したのか、クレアがにまにまと笑みを浮かべる。


「至るところに記された僕の意匠と、誰が見ても特別な席だと分かる玉座。それらがあれば、王の館の証としては十分だろう」

「完璧な計画だと思います。さすがはエドウィン様です」

「ははは、そうだろう。この計画を一日も早く形にするために、早速動き始めよう……まずは、僕の配下たちに計画を知らせないと」


 クレアの頭を撫でながら彼女に答えたエドウィンは、そして立ち上がる。館を出ていくエドウィンに、ジェラルドたち側近も付き従う。


・・・・・・


 そして、広間にはクレアとドーラの二人が残る。ドーラは広間の隅に作られている炉で夕食の支度を始め、クレアもそれを手伝う。


「ふふふっ、昨日エドウィン様と出会ってから、何もかもが夢みたい。楽しい。嬉しい。神々のお導きって本当にあったのね」


 スープに入れる野菜を切りながら、弾むような声色でクレアは言う。


 この一年で、クレアは支配者のいない社会の怖さを知った。支配者がいないということは、庇護者がいないということ。あらゆることを自分たちで考えなければならず、自分たちの身は自分たちだけで守らなければならないということ。

 そんな生き方は、支配を受ける身分として生きてきたクレアたちにはあまりにも過酷だった。聡明な農場主である父や、勇敢な跡取りである兄でさえ、突然始まった厳しすぎる新時代を生き残ることができなかった。

 そしてクレアは、父や兄以上に無力だった。この世界でどうやって生きていけばいいかまったく分からず、盗賊という脅威から身を守る術も持たず、遂には追い詰められて、絶望に包まれながら死のうとしていた。


 エドウィンが来てくれたことで全てが変わった。何もかもが様変わりした。

 彼はこれから、ずっとこの地にいてくれる。あんなに強くて優しい人が、あんなに素敵で偉大な人が、これから自分たちの王になってくれる。支配者として自分たちを導いて、そして庇護者として守ってくれる。自分たちはもう、厳しすぎる新時代の中で迷子にならなくていいのだ。なんて素晴らしい話だろう。

 それだけじゃない。彼はこの自分を伴侶にしてくれる。自分は王妃になって、これからずっと彼の隣に寄り添うのだ。誰よりも彼に近い居場所をもらって生きていくのだ。

 もう何も心配しなくていい。何も恐れなくていい。これからは彼の寵愛を受けながら生きていけばいい。あまりにも幸せ過ぎる。昨日、全てを諦めて死のうとしていたなんて信じられない。本当に、何もかもが夢のようだ。


 比喩でも、大袈裟な表現でもない。彼は救世主だ。私の人生の全てを変えてくれた救世主だ。

 彼の顔を、声を、触れた体温を、思うと笑みが止まらない。彼とのこれからを想像すると、心の内から無限に高揚が溢れてくる。


「……お嬢様」

「ん? ドーラ、どうしたの?」


 ドーラに呼ばれ、クレアは野菜を切る手を止め、満面の笑みを浮かべたまま振り返る。ドーラは少し逡巡した後に口を開き、しかし「何でもございません」と言っただけだった。


「そう? ふふふっ、変なドーラ」


 クレアは上機嫌に笑うと、手元に視線を戻す。愛しの救世主のために、心を込めて夕食を作る。


 そんな彼女の様を横目に見ながら、ドーラは困惑を覚えていた。

 ドーラの知るクレアは、知的で、真面目で、そして落ち着きのある女性だった。これほどまでに浮かれきった様子を見せることも、人生の全てを誰かに委ねるような言動を見せることも、ドーラが表情に滲ませている困惑や懸念に気づかないことも、これまでの彼女ではあり得なかった。今の彼女は、まるで別人のようだった。


 頼るべき家族や親族を失ってから彼女が抱え続けた心労は、相当なものだったはず。そして、昨日彼女が体感した恐怖と絶望がどれほどのものだったかは想像を絶する。これまでの壮絶な経験の数々が、彼女を別人のように変えてしまったのかもしれない。突然現れて自分を恐怖と絶望から救い出し、不安に苛まれ続けることのない新たな未来を示してくれた相手に心酔してしまうのも、仕方のないことなのかもしれない。

 理屈としてはそのように理解できるが、心から納得するのは難しい。ドーラはますます困惑を深めながら、しかしどうすればいいのか分からないまま、彼女の手は黙々と夕食の支度を続ける。

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― 新着の感想 ―
素直にアイルランドとほぼ同じでいいと思うんだけどw 面積もほぼ同じだし
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