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【書籍化決定】我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~  作者: エノキスルメ
第二章 拡大する版図

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第七十一話 連合軍迎撃②

 リンダム王国軍の戦列、その最前に並ぶクロスボウ兵の集団から一斉射が行われた直後、数十の矢がダグラスたちの戦列を襲った。


「怯むな! 盾を構え、神々に祈りながら進め!」


 体感からして矢の過半はダグラスたちの並べる盾の壁に突き立ち、あるいは狙いが外れて手前の地面に落ちるか頭上の中空を通過したが、盾の間隙を抜けた矢を不運にも食らった者もいる。少数が負傷して足を止め、あるいは絶命して倒れ、無事であっても怖気づく者もいる中で、ダグラスは鼓舞の声を上げる。


 前衛を担う各勢力の支配者たちや、彼らの家臣のうち肝の据わっている者たちも、前進を続けるよう口々に命じる。結果、連合軍の戦列は止まることなく足早に敵軍との距離を詰めていく。

 戦列を飛び交う命令の中には、クロスボウによる反撃を指示するものも聞こえる。その命令に従い、盾の壁のすぐ後ろ、二列目に並んでいる連合軍側のクロスボウ兵たちが矢を放つ。前進の開始前に矢を引いておいたクロスボウに矢を番え、最前列の職業軍人たちが並べる盾の間から敵軍目がけて攻撃を為す。


 今より四年前にリンダム王国が北の別勢力との戦いで用いたクロスボウという武器の存在は、六勢力の支配者たちも程度の差はあれど知っていた。ダグラスのように模造品を保有するほど熱心な興味を示していた者はいなかったが、ディラン総督など幾人かの者は、昨年クロスボウによる斉射の威力を痛感したダグラスの訴えを聞き入れ、この半年ほどで製造に臨んでくれた。


 その結果、この決戦の日までに、実戦に耐え得る性能のクロスボウがなんとか数十挺揃った。それらは戦列二列目の民兵たちが装備しており、彼らは斉射を為した後、味方の戦列の間を抜けて最後尾まで移動する。そこで再び射撃準備を行い、側面攻撃の際に味方の援護を務めることになっている。

 また、三勢力の軍勢から成る前衛のすぐ後方には、弓を扱える数十人から成る弓兵部隊も置かれている。彼らは弓を斜め上に構え、放物線を描くように矢を放ち、敵軍に対する牽制を為す。


 前進する連合軍と待ち構えるリンダム王国軍の戦列の間で、矢の応酬がくり広げられる。リンダム王国軍は連合軍の前衛に損害を与え、連合軍はその損害を少しでも減らすために敵側のクロスボウ兵を削る。


 遠距離での攻防が展開された時間はそう長くない。両軍の距離が縮まるのに合わせ、敵側のクロスボウ兵たちは後方へと下がっていく。昨年とは違い、戦列の左右に回り込むようにして下がり、そのまま側面に集まっているようだった。

 おそらくはこちらが側面攻撃に出る可能性を予想し、クロスボウ兵を側面防御に用いるつもりなのか。ダグラスたち連合軍側も敵軍がそのような行動に出ることは予想していた。既に戦いが始まった今となっては、側面攻撃に回る後衛の三勢力が上手く対応することを願うしかない。


「者共、得物を構えろ! 決して怯むな! 目の前の敵を打ち倒せ!」


 ダグラスは吠えながら、円盾を構える手にますます力を込め、そして戦斧を振りかざす。隣に並ぶ嫡男ケネスも、周囲を囲む四人の従士たちも、雄叫びを上げて激突に備える。

 それはダグラスたちの加わっているキドウェル軍全体も、その左右に並んでいる二勢力の軍勢も同じ。連合軍の前衛は、皆が鬨の声を上げながらリンダム王国軍の戦列に襲いかかる。


・・・・・・


「二射目を放った奴は側面に回れ! 急がねえと敵軍が来るぞ!」


 オズワルドが叫ぶ中で、クロスボウ兵たちは移動する。敵側からも少なからぬ数の矢が飛翔する中で、それでも懸命に一人二射を為した彼らは、召集後に何度か行った訓練の通りに戦列の両側面へと向かう。

 まだ二射目を放っていないのに一列目の移動に紛れて側面に逃げる二列目のクロスボウ兵や、訓練での動きに反して二列目の味方の射線上を走り、味方の矢に当たって倒れる一列目のクロスボウ兵なども幾人か見えたが、戦場の混乱の只中ではある程度仕方のないものとしてエドウィンは気にせずにおく。


 連合軍はその数的有利や、複数の軍勢の集合体である点を活かし、一部の兵力がこちらの側面へ回り込んでくる可能性がある。自分がダグラスの立場であれば、昨年の戦いで目の当たりにしたリンダム王国軍の堅い戦列を横腹から突き崩す戦術を選ぶ。エドウィンのそのような考えのもと、クロスボウ兵たちは側面に集まり、連合軍の一部が回り込んできた場合に備える。

 そして、正面から迫りくる敵軍を、戦士と屈強な民兵から成る三列ほどの前衛が受け止める。両軍が並べる盾の壁と、その壁越しに突き出される槍の穂先、振り下ろされる戦斧や剣の刃が凄まじい衝撃を伴いながら激突する。


「その場に踏みとどまれ! 一歩も退くな!」


 声を張りながら、エドウィンは自身も果敢に戦う。目の前の敵の攻撃を、王家の紋章である黒いウロボロスの意匠が描かれた円盾で受け止める。そして戦斧を振るい、敵の盾を鋭く打つ。


 誰かが敵の攻撃を受けて倒れれば、その左右や後ろにいる者が戦列の穴を埋める。敵が盾の壁をこじ開けようと踏み込んでくれば、それを力ずくで押し戻す。壮絶な戦いの中で両軍の盾の壁は激しく揺さぶられ、波打ち、それでも全体としては維持されている。数列の前衛から成る戦列は、どちらもそう簡単には崩れない。一進一退の攻防がくり広げられ、じわじわと死傷者が増える。

 死傷や疲労による脱落者が出ることで、戦列は前後だけでなく左右にも揺れる。エドウィンの正面に立つ敵が盾による体当たりを受けて後ろに転び、そうして生まれた間隙を埋めるために、横から半歩移動してきた新たな敵が立ちはだかる。


「エドウィン・リンダム! 貴様さえ倒せば!」

「……ダグラス殿の嫡男か!」


 殺意を帯びた叫びを受け、円盾越しに敵の顔を確認したエドウィンは、喜色交じりに言う。昨年ダグラスと共に追放された彼の嫡男――ダグラスをそのまま若返らせたような青年の顔は、エドウィンも憶えていた。

 彼の隣にはダグラス当人も並んでおり、エドウィンを一瞬睨みつけた後、己の正面に立つジェラルドとの戦いに臨む。エドウィンはすぐに視線を正面に戻し、口を開く。


「相手として不足はない! いざ尋常に勝負だ!」

「臨むところだ! 大将首はもらうぞ!」


 父親に似た勇ましさを発揮しながら、ダグラスの嫡男は戦斧を振るう。その一撃はなかなか強力で、受け止めた円盾越しに衝撃が伝わり、腕に清々しい痺れが走る。

 エドウィンが反撃を見舞うと、彼は素早く円盾を上げてそれを防ぐ。同時に片足を跳ね上げ、エドウィンの盾を蹴って体勢を崩そうとしてくる。エドウィンは重心を低くして耐え、持ち上がった盾をすぐさま正面に構え直して防御を維持する。


 ウォーレスがエドウィンの肩越しに槌を振り下ろすが、ダグラスの嫡男は冷静に頭を動かして大振りな攻撃を交わし、さらには盾に角度をつけて槌の先端を受け流し、衝撃を軽減させる。そうしながらも目の前の敵への注意を怠ることはなく、一歩踏み込んで盾の角をエドウィンの盾に当て、牽制して隙を塞ぐ。

 元帝国兵だというダグラスから鍛えられたのか、予想以上に戦える。エドウィンは獰猛な笑みを浮かべて戦意をますます滾らせながら、戦斧を高々と振り上げる。


 重い一撃が来ると考えたのか、ダグラスの嫡男は盾を真正面に構えてその後ろに頭を隠して守りを固める。それに対し、エドウィンは半歩踏み込みながら一瞬だけ戦斧の柄を手放し、拳ひとつ分だけ下を握り直す。

 そうして戦斧を振り下ろすと、下側がやや長くなっている刃の角が盾の縁に引っかかる。そのままエドウィンが戦斧を手元に引くと、ダグラスの嫡男の盾は彼のもとから引きはがされる。


 このように柄を握る位置を調整して間合いを変えたり、湾曲した刃の角を敵の盾に引っかけて防御を崩したりすることができるのも、戦斧の利点のひとつ。いずれも熟練の使い手でなければ実戦で瞬時に行うことは難しいが、ジェラルドから鍛えられたエドウィンには十分に可能だった。


「なっ!」


 ダグラスの嫡男は盾を手放すことこそなかったが、守りの要である盾を下げられ、無防備な状態になったことで明らかな動揺を見せる。すぐに盾を傾けて戦斧の刃を外し、再び防御を為そうとするが、その間に見せた数瞬の隙はあまりにも大きすぎた。

 再びエドウィンの肩越しに、ウォーレスが今度は槌を鋭く突き出す。その一撃は盾に守られていないダグラスの嫡男の顔面を直撃し、骨が砕ける鈍い音が響いた。


「ケネス!」


 ダグラスが悲鳴じみた声を上げながら、ケネスという名前らしい嫡男を支える。ケネスは顔の左半分が血にまみれており、人相が分からないほどの有様となっていた。


「将軍閣下とケネス様を守れ!」

「戦列の穴を塞げ! 後ろの奴らも前に出ろ!」


 昨年ダグラスと共に去っていった従士と思しき者たちや、その他の敵職業軍人たちが、叫びながら横に移動し、あるいは二列目以降から前進してくる。人海戦術で埋められた敵の戦列越しに、嫡男を引きずるようにして後退していくダグラスを見送ったエドウィンは、気持ちを切り替えて周囲に呼びかける。


「諸君、このエドウィンと共に奮戦せよ! 我らの勝利は近いぞ!」


 王の鼓舞に対し、並ぶ戦士や民兵たちも力強く応える。エドウィン王万歳、という叫びがいくつも上がり、リンダム王国軍の戦意をさらに燃え上がらせる。

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― 新着の感想 ―
ダグラスさん、殺さず生かしてくれた敵国をそこまで憎まなくても。
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