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【書籍化決定】我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~  作者: エノキスルメ
第二章 拡大する版図

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第六十三話 新年の祝祭①

 エドウィンが予想していた通り、王家の戦士団の規模拡大はすぐに叶った。これまで自ら志願して戦争に参加し、王や戦士たちの注目を得ようと奮戦してきた者たちや、戦士団の中に身内を置いて伝手を築きたい村長や顔役や農場主が送り込んできた人材を迎え入れ、本格的な冬が始まる前には総勢で百人をやや上回る常備兵力が揃った。


 全体の四割近くを占めることとなった素人同然の新米戦士たちの訓練が急務となったが、冬の間に最低限使い物になるよう鍛え上げるとジェラルドが宣言してくれたので、その点に関してはエドウィンは特に心配していない。有能で忠実な最側近ならば、必ずや有言実行してくれると確信している。


 新参者を含む戦士団は数に質を伴わせるための訓練に日々励み、一方で周辺の人里から労働力を集めての家屋建設など都の規模拡大も進められ、そうして平穏で淡々とした日々が続いた末に、リンダム王国は新年を迎えた。

 毎年最初の一日には、無事に新たな一年を迎えられたことを神々に感謝し、皆で喜び合う祝祭の宴が開かれるのが創天教の習わし。統一暦四一三年の一月一日にも、例年通り各人里で新年が盛大に祝われる。王の膝元たる都の宴は、特に賑やかなものとなる。


「飲み足りない奴はいるかぁー!? 酒も料理も全部が国王陛下の奢りなんだからなぁ! 満足せずに家に帰ることは許されねえぞお前らぁ! 飲んで飲んで飲んで陛下への敬意を示せぇ!」

「「「うおおぉぉっ!」」」


 大量の料理と酒が並んでいる都の広場。新たに運ばれて開けられたエールの樽の横で、テーブルの上に立ってオズワルドが叫ぶ。それに、戦士もその他の住民も、ただ飯とただ酒を目当てに周辺の人里からやってきた者たちまで、大勢が拳を突き上げて応える。御用鍛冶職人のデリックが「樽ごと儂に寄越せぇ!」などと吠え、筆頭船乗りのギルベルタが「独り占めする気かクソ爺!」などと怒鳴りながらデリックの輝かしい頭を引っぱたく。


「あはは、皆ずっと飲み続けてるのに、まだまだ元気ですねぇ」

「まったくです。いつものことながら、オズワルドがあれだけ酔っぱらってもテーブルから落ちないのが不思議ですよ」


 誰が見ても派手に酔っ払っていると分かる愉快な集団の様を横目に、何十と並ぶテーブルについて賑やかに、あるいは和やかに語らう者たちもいる。広場の北側、王の館の近くに置かれたテーブルのひとつでは、祭司長フィオナとレオフリックが呆れ交じりに笑いながら言葉を交わす。

 レオフリックの隣には彼の妹のアンナが、そしてフィオナの隣にはオズワルドの弟である若手文官ウィトレッドと、御用木工職人トマスが座っている。


「トマスさん、どうしてそんなに身を縮めてるんですか?」

「……いや、今デリックさんに見つかったら、絶対に絡まれてあの騒ぎの中に連れていかれると思って。俺、ああいうのは苦手なんで」


 アンナが尋ねると、ウィトレッドの陰に隠れるように座っているトマスは広場中央の騒ぎを窺いながら答える。アンナはその返答に納得した様子で「なるほどです」と返しながら苦笑を零し、一方でウィトレッドは「大変ですね」と同情を示しつつ、どちらかと言えば華奢な身体でトマスの目隠しになってやろうと背筋を伸ばす。クロスボウの製造や整備を担う有能な木工職人が、一個人としては大人しい性格であることは、リンダム王家家臣の皆が知っている。


「……あらあら、また若い女の子たちが兄さんの横顔に熱い視線を送ってるわよ」


 アンナに言われて振り返ったレオフリックは、居心地の悪そうな表情になり、すぐに顔を正面に戻して酒の杯に視線を落とす。滅多なことでは動じない兄が今ばかりは弱っている様を見て、アンナはフィオナと楽しそうに笑い合う。

 オズワルドと違って未だ独身のレオフリックは、常日頃から都や周辺の人里の若い女性たちの注目を集めている。長身の優男で、おまけに王の若き側近ともなれば、優良物件と見なされるのは必然だった。


「候補は選り取り見取りなんだから、そろそろ相手を決めればいいじゃない。顔の良さでも実家の太さでも、何でも好きな条件を重視して」

「それは……結婚した方がいいってことは俺も分かってるさ。父さんにも孫の顔を見せてやりたいからな。だから、まあ……近いうちに本腰を入れて考えるよ」

「もう長いことそう言ってるけど、それならもっと積極的に行動しないと駄目じゃない? まったく、オズワルドさんはもうすぐ子供も生まれるっていうのに……はあ、このままだと私の方が先に結婚しちゃいそう」


 兄の煮え切らない返答に、アンナはため息を吐きながらやれやれと首を横に振った。アロナ島に渡ったときはまだ十三歳だったアンナは、十七歳になった今では随分と大人びた。


「アンナさんは、どんな相手と結婚したいんですかぁ?」

「私ですか? 私は偉くて立派な人と結婚したいです。できれば、この国の歴史に名前が残るような人と」


 フィオナに問われたアンナは、迷いなくそう答えた。


「あっ、別に私も偉くなって贅沢な暮らしがしたいっていうわけじゃなくて。何て言えばいいんだろう……私って父さんや兄さんと違って、国王陛下を側近としてお支えできるような才覚も能力もない普通の人間で。そんな私だけど、歴史の片隅にほんのちょっとでもいいから、名前が残って後世の人たちに知られたいなぁ、なんて夢を見てて。その夢を叶えるとしたら、歴史に名前が残るくらい偉くて立派な人との結婚を目指すのがいいかなって思って」

「なるほどぉ、そんな夢があったんですねぇ。素敵ですねぇ」


 フィオナが柔和な笑みを浮かべて返すと、アンナは内心を上手く言葉にすることができたと思ったのか、安堵の表情を浮かべた。

 そのとき、王の館の扉が開き、ジェラルドが外に出てきた。館からほど近いテーブルについていたアンナたちは、すぐにそれに気づく。


「父さん、国王陛下の御準備は終わったのか?」

「……ああ、終わった。また毎年恒例の騒ぎが始まるぞ」


 レオフリックが尋ねると、ジェラルドは何とも言えない微妙な表情で頷き、広場の方へ進み出ていく。そして、未だ騒いでいる酔っ払いたちや、テーブルについて思い思いに語らっている者たちに向けて口を開く。


「お前たち注目しろ! お召し替えした国王陛下の御成りだぞ!」

「よぉーっ! 待ってましたぁ!」


 戦士長の言葉を受け、まだテーブルの上にいるオズワルドが両の拳を突き上げて叫ぶ。

 それから間もなく。王の館から、今度はこの宴の主催者であるエドウィン当人が登場する。クレアのものである上質な女性用チュニックを着て、首飾りや髪留めといった装飾を身につけて、顔には化粧も施して。


「諸君、年に一度の女王降臨だ! さあ喜び讃えるがいい!」


 エドウィンが両手を広げて高らかに言うと、一同は歓声を上げたり拍手をしたり口笛を吹いたりと、好き勝手な反応を返す。


 エドウィンは自他共に認める中性的な顔立ちをしており、その容姿を活かし、傭兵時代から宴の席などで時おり異性装を披露してきた。一見すると本当に美女に見えるほど完成度の高いその装束は、傭兵団の仲間から好評を博してきた。

 建国を成して王となってからも、毎年こうして新年の祝祭で異性装を披露することが恒例となっている。家臣や民は「一月一日だけリンダム王国は女王を戴く」などと言いながら、王妃にも負けず劣らず見目麗しい王の姿を楽しんでいる。


「女王陛下ぁ! 今年もなんてお美しい! ぜひ俺を婿にしてください!」

「まあ、オズワルドさんったら! 陛下は私のものですよ! 譲ってあげませんよ!」


 オズワルドの調子に乗った発言に対して、伴侶と同じく豪奢な装いの王妃クレアがわざとらしく頬を膨らませながらエドウィンの腕を抱き、その茶番じみたやり取りに皆が笑う。


「ちちうえ、かわいい! まいにちそのかっこうでいてほしい!」

「ありがとう我が息子よ! だが、毎日この格好というのは勘弁してくれ! これではいざというときに戦いづらくて仕方がない!」


 家令のドーラやジェラルドの妻、オズワルドの母などが集まっているテーブルで面倒を見られていた王子エゼルウルフが言うと、エドウィンが妻と同じようなわざとらしさで嘆いてみせ、再び皆から爆笑が巻き起こる。


「やっぱり陛下すごい、私より可愛い……」

「そんな、アンナさんだって可愛いですよぉ」

「そうだよ、自信持ちなよ」


 王の美貌を目の当たりにしながらアンナが呟くと、フィオナとウィトレッドが励ましの言葉を送る。しかし、そのあまりにも無難な言葉選びは、当人にはあまり響かないようだった。


「いやぁ、毎年のことながら、女性の装束をお召しになった陛下は見目麗しいですねぇ。王子殿下の仰るように、いつもあのような装いでもこちらとしては大歓迎です」


 そう語りながらアンナたちのテーブルに歩み寄ってきたのは、ワインの杯を手にした御用商人のロイドだった。王の有様を眺めながらにんまりと笑っている彼の言葉はあながち冗談でもなさそうで、アンナとフィオナとウィトレッド、さらにはレオフリックとトマスまでもが少々強張った愛想笑いを返す。


「あの首飾りはつい先月に王家にお納めしたものですが、王妃殿下ではなく国王陛下がお召しになっているところを最初に見ることになるとは……」


 ロイドと並びながらそう言ったのは、王家の御用金細工職人であるキネグラスだった。生まれついて他者とは大きく異なる顔立ちを隠すために仮面をつけている彼だが、表情は見えずとも微苦笑を浮かべていることは、口調だけで他の皆に伝わった。


「キネグラスさん、今は国王陛下じゃなくて女王陛下ですよぉ」

「ああ、そうでした。これは失敬」


 フィオナの指摘を受けてキネグラスは頭をかきながら言い、その反応を受けてテーブルが笑いに包まれる。

 都に来た当初は人との関りを極力避けている様子だったキネグラスは、しかし王の庇護と周囲からの敬意を受けるにつれて、ある程度は人付き合いを持ち、こうした行事の場にも姿を見せるようになった。人前で仮面を取ることはないので料理には手をつけていない彼だが、植物の茎で作られた管を仮面の下側から口元に差し込むことで、飲酒については皆と同じように楽しんでいる。

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