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【書籍化決定】我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~  作者: エノキスルメ
第二章 拡大する版図

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第五十三話 王の都

 三年にわたって本格的な戦争を避け、戦士たちによる治安維持に力を入れる。各人里には帝国支配の時代よりも遥かに軽い税を課し、盗賊による襲撃やタイウェルによる圧政のために疲弊した地域の復興支援にも力を入れる。

 そのような統治を続けてきたことが功を奏し、エドウィンはリンダム王国民から広く支持を集めている。善良な支配者かつ有能な庇護者として敬愛されている。


 民の中でも、特に王の都の住民たちからの支持は厚い。都には多くの人や富が集まり、月日が経つほどに社会が便利になり、その恩恵を存分に受けられるからこそ。

 なので、エドウィンが「市井の視察や民との交流」という名目で都の住民たちの前に出ると、彼らは皆が温かく迎えてくれる。


「はははっ、我ながら相変わらず人気者だな。この時間こそ王という仕事の醍醐味だ」

「私もこの時間が大好きです。陛下の偉大さを皆が理解しているんだと実感できます」


 王の参上に気づいてにこやかに挨拶をしてくれる住民たちに笑顔で応え、手を振ってくる子供たちに愛想よく手を振り返しながら、エドウィンは呟くように言った。それに、隣を歩くクレアが誇らしげな表情で返した。


「王の偉大さか……それに加えて、王妃の慈悲深さもね」


 エドウィンが笑みながらクレアの方を向くと、彼女の表情は照れ笑いに変わる。

 優しい王妃であるクレアもまた民からの人気が高く、特に都の最古参の住民である元小作農たちは自分たちに土地をくれた彼女に多大な恩を感じていることもあり、挨拶は王とその妃に等しくかけられる。

 民と言葉を交わしながら広場を抜けるエドウィンとクレアの後ろには、護衛の親衛隊戦士たちが続く。


「それにしても、この地の発展は本当に早いものだね。少し見ないうちにまた家屋が増えて、市域の端が外に広がって……経済も少しずつ形を成し始めているし、この調子なら、ここが名実ともに王の都になる日も近い」

「先祖代々の農場だったこの土地が、いよいよ都市というものになるんですね。とても光栄です」


 王の都は単に人や家屋が増えるだけでなく、人里としての形容そのものが変化している。


 かつてこの地は、規模の面では平均より大きくとも、その内実は平凡な農場に過ぎなかった。しかし、クレアより農地を与えらえて自作農となった古参住民たちは、王の厚い庇護があり、国内各地から大量の食料が集まる都の利点を生かし、より商業的価値の高いもの――布の原料となる亜麻や羊毛、馬の飼料、家畜の中でも特に高価値の牛や豚などの生産に力を入れるようになっている。

 さらに彼らは、王家に仕える戦士たちと交流する機会が最も多い農民として彼らと積極的に姻戚関係を結び、リンダム王国の間接的な支配者層になりつつある。


 また、彼ら古参住民は、王の庇護や割の良い仕事を求めて余所の人里から都に移り住んだ者たちを小作農として使役する立場にもなりつつある。他に、王家の庇護を得て都の西側に集住している職人たちも、雑用や肉体労働をこなす労働者として移住者たちを使っている。

 自作農や職人が作り出す高価値の品々を目当てに、商人たちもこの都に寄り集まる。また、ときには遠方から、他勢力の支配者の遣いとして家臣や商人や祭司が交易品を持参して来訪する。


 結果、人口はようやく三百人に届く程度ながら、王の都は徐々に都市的な役割を果たすようになりつつある。


「ああ。リンダムの地において、ここが最初の都市になるんだ。帝国軍の砦の周りにあったものよりもずっと大きくて、ずっと豊かで、恒久的にこの地の中心となる都市に」


 都市、という概念は、クレアをはじめアロナ島で生きてきた者たちにとってはあまり馴染みがないものだという。


 大陸の帝国本土においても、人口に対する都市住民の比率は低かった。詳細な統計は帝国が衰退するにつれてとられなくなったが、概ね一割に届くかどうかという程度だと言われていた。

 本土と比べて人口も経済規模も小さかったアロナ島においては、都市というものは尚のこと例外的な存在だった。人口数千人規模の都市が存在したのは、大陸との交通や流通の拠点となっていた南東部沿岸の数か所、そして軍事と行政の面で重要な中央部の一か所に限られた。

 それらの都市が現在どうなっているかは時おり噂が流れてくるのみだが、それによると経済崩壊に伴って各都市の人口は激減し、なかには完全に放棄されて荒廃しているものもあるという。


 それ以外の地域においては、主に帝国軍部隊が駐留する砦の周辺が都市的な機能を持っていた。


 砦の周囲には軍人たちの生活の世話や、各種の土木作業を担う現地住民の労働者が集まり、そうした労働者たちが暮らすための長屋や掘っ立て小屋が建てられていた。一部の軍人や労働者は己の家族も連れていたので、砦の内外には女性や子供の姿もあった。

 それだけの人間が生活する場となれば、経済面の需要も大きい。砦にはアロナ島の現地商人たちが、様々な品を売るために訪れた。また、帝国本土出身の軍人たちの需要を見越して、はるばる大陸からやってくる商人もいた。いつしか砦は、現地商人と大陸の商人が取引をする場にもなった。

 こうした来訪者たちの需要を見越し、宿屋や酒場や商店も作られた。さらには古来より人が集まる場において需要の絶えない、娼館も置かれた。


 結果、砦を中心とした小都市のようなものが生まれた。砦は帝国軍によるアロナ島支配の拠点であると同時に、数百年前に帝国の征服で一度は荒廃したアロナ島において、地方経済の新たな中心地となった。


 しかし、それももはや過去の話。帝国軍がアロナ島から撤退して以降、砦の周囲に集まって暮らしていた人々も多くが去り、砦を中心とした小都市は大半が崩壊したという。

 リンダム王国北部、かつてタイウェル・ドゥムノスの領地だった場所にある砦も、今では廃墟に囲まれて荒廃した遺構となり果てている。現在は専ら、石材や木材の供給地として利用されている。


 そうした大小の都市と関わりがあったのは、周辺住民や商人、時おり都市を訪れる各人里の有力者など、ごく一部の者に限られた。アロナ人の大半にとって、都市とは社会においてあくまで例外的で異質で、自分とは無関係の場所だった。

 この地が都市文化とは無縁だったからこそ、王の都を立派な都市に育て上げたい。リンダム王国の政治と軍事と経済の中心として、アロナ島で有数の都市に育て上げてみせたい。目下の計画としては、丸太柵と壕に囲まれた千人規模の都市を築き上げたい。エドウィンはそう考えている。


 クレアと言葉を交わしながらエドウィンが足を運んだのは、アイヴァー川の下流の川岸、都から見て南東側にある船着き場。

 都と合わせてこの船着き場も三年の間に開発が進んでおり、現在は川岸に二本の桟橋が作られている。川から引き上げた船を保管する船小屋や、船着き場の見張り当番の戦士が待機するための小屋も建てられ、リンダム王国の水運の拠点として機能している。

 当初は都からやや離れていたこの場所は、人口増加に伴って市域を拡大し続ける都と徐々に近づいており、いずれは完全に繋がって都の一部となる見込みとなっている。


 船の手入れをしていた王家の傘下の船乗りたちや、新しい船小屋の建設に従事している労働者たちにエドウィンとクレアが労いの言葉をかけて回っていた丁度そのとき。南よりアイヴァー川を遡上して、一隻の船が近づいてきた。


「陛下、あれはロイドさんを乗せた船では?」

「そのようだね。そろそろ帰還する頃だと思っていたが、丁度よかった」


 船着き場に入ってきたのは、かつてエドウィンが大陸よりこのアロナ島へ渡る際に使用し、今も所有している輸送船のうちの一隻だった。

 桟橋に横付けされた輸送船から降り立ったのは、リンダム王家の御用商人であるロイド。エドウィンと知り合った頃と変わらず恰幅の良い中年商人は、少しばかり難儀しながら船を降りると、笑顔を浮かべて揉み手をしながら主君に一礼する。


「国王陛下、王妃殿下、ご機嫌麗しゅうございます。船着き場の御視察中でしたか?」

「ああ。都から船着き場まで視察をして、今は皆の働きを労っていたところだよ。無事に帰ってきてくれて何よりだ、ロイド」

「お帰りなさい、ロイドさん。ご苦労さまでした」


 クレアと共に返事をしたエドウィンは、そしてロイドの後ろへ視線を向ける。


「ギルベルタも、遠方への航海ご苦労だったね」

「どうも、陛下。偶にはこうして航海をした方が腕を磨けるし気持ちも引き締まるんで、仕事をいただけてありがたいですよ」


 ロイドに続いて船を降りたのは、王家に仕える船乗りたちの長であるギルベルタだった。王から労いの言葉をかけられた彼女は、快活な笑顔を見せながら返す。


「ギルベルタさんのおかげで、今回も何ら危ない目に遭うこともなく交易を終えることが叶いました。彼女のような凄腕の船乗りを従えておられる陛下の偉大さをあらためて感じております」

「はははっ、それは何よりだ。有能な御用商人に優秀な船乗り、私が遠方の有力者たちと交易を為す上で、君たちは欠かせない存在だよ」


 露骨な賛辞を語るロイドに、エドウィンは楽しげに笑って答える。一方でギルベルタは、ロイドのこのような言動があまり好きではないらしく、少々辟易とした様子で苦笑を浮かべている。


「それで、鉄は予定通り輸入できたかい?」

「もちろんでございます。この通り、蜂蜜や家畜やリンダム陶器と引き換えに、ご要望いただいた通りの量の鉄を受け取ってまいりました」


 ロイドは答えながら、荷下ろしをする自身の部下と用心棒たちを手で示す。彼は今回、アロナ島南西部の東端辺りに支配域を持つ勢力のもとへ赴き、その勢力の支配者が所有する鉄鉱山から得られた鉄を入手することを務めとしていた。


 アロナ島の各地に小規模な勢力が誕生した現在、小規模かつ物々交換を主体としたものではあるが、商業活動も徐々に復活し始めている。元より活動を続けていた者たちに加え、一時は活動を止めていたアロナ人商人たちも、各勢力の支配域内で、あるいは複数の勢力の支配域をまたぐかたちで、細々とではあるが商売を行っている。


 リンダム王国内でも、王の都を中心に以前よりも多くの商人が活動している。彼らは王の都で製造された余剰の鉄製品やその他の金属製の装飾品、布の原料などを、エドウィンの善政で余裕ができた比較的裕福な農民たちに売り、引き換えに得た農産物を都で売り、その他にも各人里間の商取引の仲介を担い、そうして国内の経済を回してくれている。


 そして御用商人であるロイドは、エドウィンと他勢力の支配者たちとの交易において重要な役割を果たしている。主にアロナ島南西部のティリス川以南を巡っている彼は、効率よく長距離移動を為すために、必要に応じて王家の船を使用することを許されている。


 ギルベルタたち船乗りは、ロイドの一行を運ぶことに加え、王国北部などで徴集された税の運搬や、エドウィンが遠方の勢力の支配者と連絡を取り合う際の書簡や使者の輸送など、様々な仕事を任されている。リンダム王国の発展と比例して、彼女たち船乗りの役割は重要性を増している。


「情報の面でも、良き成果を得られました。このアロナ島南西部はもちろん、中央部や南東部など遠方の新たな噂も仕入れてまいりました」

「それは素晴らしい。さすがはロイドだ……荷下ろしや片付けが一段落したら、ギルベルタも一緒に館に来るといい。酒と食事で君たちの働きを労いつつ、ゆっくりと報告を聞くとしよう」


 ロイドにそう返したエドウィンは、クレアを傍らに寄り添わせ、護衛の親衛隊戦士たちに囲まれながら館へ帰る。

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