表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~  作者: エノキスルメ
第一章 エドウィン王万歳!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/64

第四十七話 北の隣人②

 ベルノニア王国国王ブレドリックは、背は高いがどちらかといえば線の細い男だった。

 彼の傍らには、いかにも叩き上げの軍人といった風情の偉丈夫と、正装に身を包み銀製の装飾品で着飾った初老の祭司。偉丈夫の方は軍事面での側近で、祭司の方は、自分が神々より祝福されし正統な支配者だと誇示するために連れているのだろう。考えることはこちらと同じかと、自身はジェラルドとフィオナを侍らせているエドウィンは可笑しみを覚える。


「エドウィン王、我が求めに応じて会談の場に来てくれたことに感謝する。こうして顔を合わせることができて幸いだ……使者としてそちらへ送った我が家臣から聞いているが、貴殿はアロナ人ではないそうだな」

「私も知り合うことができて嬉しく思う、ブレドリック王……貴殿の言う通り、私はアロナ人ではない。大陸で生まれ育ったキラケス人だ。王家に仕える戦士の半数も同じく」


 都に来訪した使者からブレドリック王の経歴を聞いた際、エドウィンは自身の経歴についても話していた。エドウィンがアロナ島の外から来た余所者であることを、ブレドリック王が知っているのは当然のことだった。

 仮にエドウィンが事前に話しておらずとも、彼はこちらがアロナ人ではないと気づいただろうとエドウィンは考える。アロナ人とキラケス人の顔立ちはほとんど変わらず、服飾文化の違いも小さい上に、現在のエドウィンはアロナ風の装飾品を身に着けているが、それでも当事者が見れば、民族の違いというものは放つ雰囲気や言葉の訛りなどで判別できるもの。


「配下を集めてキラケス地方よりこのアロナ島へ渡り、ティリス川下流の南部に国を築き上げた元傭兵団長という話だったな……まだ若い人物だとは聞いていたが、想像以上に若い。それなのにそのような大それたことを成し遂げるとは、見事なものだ」


 エドウィンの顔をまじまじと見ながら、ブレドリックは驚きを表すように片眉を上げる。自分が驚いたときの仕草と似ていて何となく気に入らないと思いながら、エドウィンはそのような内心を決して表情には出さない。

 立場のわりに若いと驚かれることについては、傭兵団長だった三年間と王になってからの一年間で既に慣れきっている。なので、それに関しても特に反応は示さない。


「そう言う貴殿は元帝国軍の士官だそうだが……誰が見てもそうだと分かる装束だな。いや、装束だけの話ではない。佇まいも併せて、貴殿が真にその地位にあった人物だと分かる」


 エドウィンが言うと、ブレドリックはどこか嬉しげな微笑を見せた。おそらくこの笑みは、作ったものではなく素の表情か。


「まさしく。私は元帝国軍士官だ……帝国軍に入隊し、若くして士官となり、今より四年前にはティリス川下流域の北側を統治する砦を任された。アロナ人の帝国軍人としては史上初めて砦の司令官に任命された男として、島内では少しばかり名を知られていた」


 使者が語っていたものよりも詳細なブレドリックの経歴を聞いたエドウィンは、傍らのフィオナに視線をやる。すると、彼女はエドウィンに近づいて耳元に口を寄せる。


「ティリス川の向こうにある砦の司令官は、アロナ人だと噂に聞いたことがありましたぁ」

「……なるほど」


 エドウィンは呟くように言い、視線を正面に戻す。


「砦の司令官か、それはまた凄い。ロドニア人以外を冷遇する帝国軍において、ただ士官になるだけでなく、それほどの昇進を遂げる被征服民は本土でも滅多にいないだろう……心より尊敬する」


 その称賛の言葉は、遺憾ながら本心からのものだった。砦の司令官と言えば、数百人規模の部隊を率いて一地域の防衛と治安維持を任される要職。武断統治が行われていたアロナ島においては、行政面での統括も担う立場。ロドニア人の貴族や高級軍人の家系の出身者が要職の多くを占め、被征服民の士官自体が珍しい帝国軍において、彼は異例の昇進を果たしたと言える。


「称賛の言葉、ありがたく受け取ろう……帝国軍がアロナ島から撤退し、帝国がこの島を捨てることが決まった際、私は帝国軍人ではなくアロナ人として未来を歩むことを決めた。そして、私に付き従うことを決意した部下たちを率い、貴殿と同じように己の国を築いたというわけだ」


 語りながら、ブレドリックは自身の周囲に並ぶ帝国軍装の護衛たちを手で示す。おそらくこれで全員ではないのだろうが、この場にいるのは六人。そのうち半数はアロナ人ではないようで、なかにはロドニア人らしき顔立ちの兵もいる。

 異民族の兵たちにも辺境の島に残ることを決意させるとは、なかなか人望の厚い士官だったらしい。彼ら元帝国軍兵士に視線を巡らせながら、エドウィンはそう考える。


「出自やこれまでの生き方は違えど、我々は同じような成り上がりを果たし、ティリス川の下流を挟んで国を並べることになったというわけだな」

「ああ、そういうことになる……貴殿に会談を申し出たのは、ティリス川下流域の北側一帯を完全に掌握した後、川を挟んだ南の情勢がどうなっているのかを調べたところ、リンダムという名の国が作られていることを知ったからだ。隣人となった貴殿と友好を結ぶため、こうして話し合う場を設けた」


 タイウェルとガレスを打倒し、ティリス川下流域の南側一帯を支配した後、エドウィンも川の北側の情勢を調べた。御用商人ロイドを送り込んで北側の沿岸部の様子を見させたところ、いくつかの人里を支配する小勢力や、どこの勢力にも属さず孤立した人里があるのみだった。大河の向こう側を征服しても統治が面倒だと考えたエドウィンは、それ以上そちらに干渉はしなかった。

 ブレドリックはそれ以降にティリス川下流の北岸までの征服を果たし、リンダム王国について知ったということになる。友好を結ぶために接触してきたということは、彼の方も、大河を渡って征服行を為すのは利点よりも難点の方が大きいと考えたか。


「ベルノニア王国は人口が四千に届くまでに成長したが、私はまだ満足していない。とはいえ、ティリス川のような大河を越えて領土拡大を成すのは困難が大きい。なので今後は東へと領土を広げていくつもりだ。その上で、貴殿とは友好関係を結びたい……貴殿からしても、領土を広げるのであれば地続きの東の方がいいだろう。大河という要害を挟んで領土を並べる我々は、争わずに仲良くしておく方がいい。そう思わないか?」

「……まったくもって同感だ。互いに友好的に関わりながら、共存共栄を為す方がいい」


 やはりこちらの想像通りのことを考えていたらしいブレドリックの問いかけに、エドウィンは薄く笑みながら返した。

 これからしばらく時間をかけて力を蓄えた後、東に領土を拡大していくのであれば、北隣の国と下手に敵対して二正面で戦う事態は避けたい。北の隣人が友好を求めてくるのであれば、エドウィンとしても歓迎すべきことだった。


「同感か、それは何よりだ。我々は互いに、傲慢で横暴な帝国の支配より解放されて己の国を築いた者同士。双方の利益を尊重しながら、貴殿の言う通り共存共栄を為そうではないか」


 ブレドリックの言葉を聞き、エドウィンは僅かに首を傾げながら彼の装束を見やる。


「その言い方から察するに、貴殿はロドニア帝国をあまり快く思っていないのか?」


 ブレドリックの装束は、帝国軍士官そのもの。鎖帷子などの装備はともかく、衣服まで帝国軍のものをそのまま纏い、士官の証たる暗い赤のマントも羽織っている。鎖帷子に取りつけられて輝きを放つブローチは、こうして間近で見ると、帝国軍において階級章や勲章を兼ねている青銅製のものだと分かる。

 帝国軍がこの地を去り、自身も軍を辞めたのであれば好きな格好をしていいはずだが、彼はわざわざ帝国軍士官の完璧な姿を保っている。

 さらに、彼が被っている冠――葉を輪状に連ねたような形の黄金の冠は、ロドニア皇帝がその地位の象徴として戴くという月桂冠を模しているのだとエドウィンは会談の最中に思い至った。


 己の帝国軍時代の経歴を誇らしげに語りながら、装束に加えて権力の証たる冠まで帝国風にしている様は、帝国への未練やら羨望やらの表れであるとしか思えない。にもかかわらず帝国を「傲慢で横暴」とこき下ろし、自身が帝国人でなくなったことを喜ぶ彼の言動は、エドウィンからすれば不可思議な点が多い。


「その通りだ。私は帝国を唾棄している……アロナ人の身で帝国軍士官などという仕事をしていると、帝国の汚さや愚かしさが常に目に入るものだ。既得権益にしがみつきながらいつまでも被征服民を冷遇する支配者層に内側より蝕まれ、辺境の島ひとつを維持することも外敵に対処することも満足にできなくなった死に体の老人のような国を、どうして誇り愛せるというのか。私に言わせれば、帝国などクソ同然だ。いや、あのような国と比べてはクソに失礼か」


 分かりやすく嫌悪の情を顔に出しながら、ブレドリックは語った。エドウィンは彼の話を聞きながら、小さく片眉を上げる。


「……一方で、帝国は偉大だ。巨大な領土を確立し、これまで長きにわたって覇権を維持し、洗練された文化を持つ、歴史に比類なき超大国だ。だからこそ私はこのような装いをしている。偉大な帝国がこの地を去り、見るも無残に衰えて崩れ去ろうとしている今、この地において帝国に代わる偉大な支配者になるという覚悟を示すために」

「……なるほど。クソであることと偉大であることは両立するか。ブレドリック王、貴殿は面白い人物だ」


 エドウィンは少しの間を置いて、そう言いながら微笑を作る。


「そう評してもらえて何より。それでは……リンダム王国の支配者エドウィン王よ。貴殿はベルノニア王国の支配者たる私と、正式に友好を結んでくれるものと考えてよいだろうか? 互いに争わず、交流を持ち、共存共栄を目指すことに同意してもらえるだろうか?」

「無論だ。これから友好国の支配者として、互いを認め合い、尊重し、仲良くしていこう……」


 試すような表情のブレドリックに、エドウィンは微笑のまま頷き、そして自身を囲む戦士たちを見回す。


「賢明で興味深い隣人との邂逅を果たし、友となることができた。何と素晴らしきことか。これもきっと、神々が私を見守り祝福しているからこそだろう。私を偉大な王として愛しているからこそだろう。そう思わないか、戦士諸君!」


 呼びかけを受けた戦士たちは、一斉に「エドウィン王万歳!」と吠える。

 自身の王としての求心力と威容を会談相手に見せつけるため、事前に示し合わせていた反応。それを受けて得意げな表情でエドウィンが正面に向き直ると、今度はブレドリックの方が小さく片眉を上げていた。


「……エドウィン王、貴殿もなかなか面白い人物のようだ。王としてだけでなく、個人的にも興味が湧いた。どうかこれからよろしく頼む」


 そう言うと、ブレドリックは側近の偉丈夫のみを伴って数歩前に出てきた。彼の意図を理解したエドウィンも、ジェラルドのみを従えて歩み寄る。

 そして、二人は同時に手を差し出し、握手を交わす。その後ろでは、相手側の王が剣を抜こうものなら直ちに動けるよう、側近同士が手を剣の柄にさりげなく触れる。二人の王の護衛たちも、乱戦などが起こった場合に備えて殺気を纏う。エドウィンとブレドリックは握手という極めて友好的な行為をしながら、会談の場の緊張感は最大限に高まる。


 幸いにも護衛たちが懸念した事態は起こらず、エドウィンとブレドリックは友好的な態度のまま手を放す。


「さて、エドウィン王。せっかく友好を結んだのだ。些細なものではあるが、もてなしをさせてほしい。椅子と酒を用意するので、よければ互いの国について今少し語らおうではないか」

「それは楽しそうだ。喜んでもてなしを受けよう」


 放つ空気をやや弛緩させて言ったブレドリック王に、エドウィンも頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 いずれは雌雄を決するんだろうけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ