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我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~  作者: エノキスルメ
第一章 我は王である

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第二十一話 鍛冶師と船乗り

 そうして一通りの動きを確認し、この日の集団訓練も終了となった頃。


「陛下! ただいま戻りました!」


 そう言いながら訓練の場にやってきたのは、サベルトの息子オズワルドだった。


「オズワルド! 無事に戻ってきたか、何よりだ!」


 エドウィンは両手を広げ、笑顔で彼を迎える。

 リンダム王国が成立した後、オズワルドは重要な任務を帯び、エルシオン大陸西部の帝国本土に一時帰っていた。

 その任務とは、ある人物にリンダム王国への移住を打診し、承諾を得られた場合は王国領土まで連れてくること。任務が成功したことは、彼の後ろを見ればすぐに分かった。


「エドウィンの旦那、久しいですね! ああっと失礼、今は『国王陛下』でしたか!」

「デリック! 来てくれて嬉しいよ! 相変わらず輝かしい頭だ!」


 オズワルドの後ろから進み出てきたのは、髪を綺麗に剃り上げた頭と、対照的に豊かな口髭が印象的な中年の男。デリックと呼ばれたその男は、エドウィンが大陸で傭兵をしていた頃によく世話になった鍛冶職人だった。

 傭兵団が拠点としていた都市で鍛冶工房を営み、エドウィンにとっては父の代からの付き合いであったデリックは、エドウィンと互いに歩み寄ると、肩を叩き合って再会を喜ぶ。


「大陸を捨ててアロナ島に渡るとなれば、君にとって大きな決断だったことだろう。よくぞ誘いに応じてくれた」


 旧知の仲であるデリックをリンダム王国に移住させ、支配下に抱えようとエドウィンが考えたのは、彼の職人としての能力を見込んでのこと。


 当然ながら、現時点でのリンダム王国の領土内にも鍛冶職人はいる。が、彼らはあくまでも、村や農場の需要に応えて農具や生活用品を作ることを仕事としてきた者たち。斧の刃や槍の穂先などの比較的単純な武器は作ることができるが、より複雑で特殊な技術を要するもの――長剣や鎖帷子などを製造したり修繕したりする技術や知識は持たない。

 そして、アロナ島の鍛冶職人のうち、そのような高度な武具製造の能力を持つ者たちは、帝国軍の砦や要塞の付近に工房を構えていた。彼らのうち少なからぬ者が、帝国軍が大陸へ撤退する際に高給を提示されて付いていったという。

 付いていかなかった職人たちに関しては、帝国軍撤退に伴う社会の混乱の中で行方知れずとなっている。アロナ島の各地で己の支配域を築こうとしている有力者たちの中には、こうした職人を確保できた者もいるのだろうが、少なくとも現時点でのリンダム王国の領土内にはいない。


 すなわち現状のままでは、エドウィンは自身の剣や鎖帷子が壊れても修繕する術がない。戦士たちのためにそうした高度な装備を増やすこともできない。また、戦斧や槍に関しても、武具を専門とする鍛冶職人に作らせる方がより高性能なものができるが、それは叶わない。

 そのような現状をアロナ島に来てから知ったエドウィンは、なので既知の職人であるデリックを勧誘することにした。王家の御用職人として厚遇することをオズワルドを介して伝えたが、彼が海を渡ってアロナ島に移住してくれる確信まではなかった。こうして彼が来てくれたことは本当に幸いだと、心から思っている。


「いやいや、儂にとっては本当にありがたい話でしたよ。まさに渡りに船でした。今の帝国北部の情勢ときたら、そりゃまあ酷いもんでね。今後の身の振り方をどうしようかと思ってたんで」


 デリックの話によると、かつてエドウィンの傭兵団が拠点としていた都市は、エドウィンたちが去ってからの二か月ほどでますます厳しい状況になっているという。

 帝都のある帝国南部やまだしも安全な西部へと逃げ去る商人は日に日に増え、都市は交易拠点としての機能を喪失しつつある。また、異民族ゴドロワ人による襲撃はついに都市近郊にまで及び、その襲撃によって住処を失った難民が城壁に囲まれた都市を安全な逃げ場と見て流入するようになり、都市の内外で治安が目に見えて悪化していく。


 そのような情勢下をどのように生き抜くか、デリックは悩んだ。

 少なくとも都市で今まで通りの暮らしを送ることはできそうもない。武具を作る鍛冶職人というのは幸いにも食いはぐれる心配が少ない職業なので、南部や西部に逃げて仕事を探すという手もあるが、故郷の都市からほとんど出たことがない身で何の伝手もない土地へ行くというのは相当な勇気を要する。南部に関しては、キラケス人の身ではロドニア人だらけの土地で快適に暮らせないだろうという懸念もある。

 いっそ都市に留まり、最悪の場合は己の鍛冶職人としての能力を利用してゴドロワ人の有力者に従属してしまおうとも考えたが、いくら役に立つ技術を持つ職人とはいえ、キラケス人がゴドロワ人の支配下でどのような扱いを受けるかは分からない。それに、侵略者に屈してへこへこと頭を下げながら生き延びるというのは何だか癪に障る。


 どの選択肢もいまいちだと悩んでいたところ、オズワルドがやってきて、エドウィンによるリンダム王国への招待を伝えた。懇意にしてきた若く有能な戦士で、今は己の国を築いているというエドウィンからの勧誘は、デリックにとって他のどの選択肢よりも魅力的に映った。

 さして悩むこともなく誘いを受けることを決断したデリックは、都市の工房をたたみ、妻子や弟子たちを連れ、こうしてリンダム王国にやってきたのだという。


「そうか、我が生まれ故郷はそれほどの惨状になっているのか。もはや再び足を運ぶこともないだろうが、それでもいささかの辛さを覚えるものだね」


 デリックの話を聞いたエドウィンは、そう言って小さく息を吐く。

 祖父が住みつき、父が傭兵団を立ち上げ、自分にとっては生まれたときから多くの時間を過ごした故郷と呼ぶべき都市。その荒廃の報を聞くと、やはり思うところはあった。


「ともかく、君をこの国に招くのが間に合ってよかった。僕が使者を送るのがもう少し遅ければ、君はどこか余所の土地へ去り、再会は叶わなかったかもしれないね」

「国王陛下も儂も、運が良かったですね。これも神々のおかげだと思いましょう」


 デリックの言葉に、エドウィンは深く頷く。


「ああ、神々のおかげだ。このアロナ島に渡ってからというもの、僕はずっと神々の祝福に恵まれているよ……君はこれから王家の御用職人となる。良い生活を送れるよう厚く遇するので安心してほしい。ひとまずの生活の面倒は見るし、その他に何か要望があれば、できる限り叶えるから言ってくれ。我が国が大きくなるほどに、君の待遇も良くなり、暮らしは豊かになるだろう」

「つくづくありがたい話でさぁ。ばりばり働いて恩返しをしますから、これからもどうかよろしく頼みます」


 エドウィンが微笑を浮かべながら語ると、デリックは快活な笑みを見せて答えた。

 そうしてデリックと再会を喜び合った後、エドウィンはオズワルドの後ろに控えていたもう一人の人物――日に焼けた肌と、ややくせの強い栗色の髪が特徴の女性に視線を向ける。


「ギルベルタ、君もご苦労だった」

「なぁに、苦労ってほどの仕事でもありませんでしたよ。最近は漁ばかりしてましたからね。久々の航海を楽しませてもらいました」


 ギルベルタと呼ばれた彼女は、エドウィンの傭兵団が拠点としていた都市で大商人に雇われ、都市周辺の海や河川で物資を運搬する輸送船を扱っていた船乗り。雇い主が情勢の悪化し続ける帝国北部を見限って南部へ逃げたために仕事を失い、今後の身の振り方に悩んでいたところ、エドウィンの勧誘を受けた。


 アロナ島へ渡るために船乗りを探していたエドウィンは、腕の良い船乗りだという評判で、数隻の船団による航海の指揮をとったこともあり、さらには帝国北部とアロナ島を行き来した経験を持つというギルベルタの存在を知った。

 自分が王となった暁には王の船団の指揮官に任命して厚遇するので、自分たちをアロナ島まで運んでその後も仕えてほしい。そう語ったところ、彼女は面白そうだと言って快諾。同じようにエドウィンの話に乗った何人かの船乗りたちをまとめる指揮役として、今では戦士たちと同じように家臣の待遇を与えられている。


 アロナ島へ渡った後はこれといって仕事もなく、ひとまずアイヴァー川から海に出て沿岸部で漁などを行っていたギルベルタたち船乗りにとって、帝国北部と行き来する今回の仕事は、久々の本格的な航海となった。


「それは何よりだ。我が国が大きく育つほどに、君たち船乗りの役割はより重要になり、仕事も増えていくだろう。今しばらく暇を潰しながら、活躍のときを待っていてくれ……さて、役目を果たしてくれた我が家臣たちと、新たに我が傘下に加わった家臣の長旅を労わなければ。皆ひとまずゆっくり休み、そして今宵は王の館で夕食を共にしよう」


 王としての懐の深さや器の大きさを誇示するように、エドウィンは鷹揚な態度で言った。

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