第十七話 建国宣言②
太陽が空の天辺に上った頃。館の広間を舞台に、いよいよ建国と即位の儀式が始まる。
普段、広間にはテーブルや椅子などの家具が置かれ、エドウィンとクレア、側近たちとドーラの生活の場となっている。
しかし今は、国と王が誕生する儀式の場へと変貌を遂げている。家具類が片付けられ、普段よりも広々としている。奥側の床は一段高くなり、その上に敷物が敷かれ、玉座が置かれている。
木製の玉座は脚も手すりも太く、背もたれはエドウィンの座高よりも高い。特別な身分にある者が座る特別な椅子だと一目で分かる存在感がある。
儀式を見届けるために広間に集ったのは、まず、エドウィンの伴侶となるクレア。エドウィンの配下たちと、その家族のうち成人済みの者たち。そして使用人ドーラと、この農場に暮らす小作農の顔役たち。さらには、他の六つの人里の代表者たちと、支配域内に住む職人と祭司たち。
大勢が並んだ光景を、エドウィンは玉座の前に立って見渡している。エドウィンの正面には、儀式用の祭服を纏い、首から創天教の象徴である九芒星の飾りをかけたフィオナ祭司が立っている。
「――光の神ラウデズ、大地の神アーレスタ、海の神セイオン、火の神ヘルケラス、知恵の神メーヴェル、理性の神ハロルディオン、愛の神エメレット、戦の神ダノン、そして、天の神にして全ての神々の母パドメ。世界を創りし九神は、我らを照覧し、我らを導く。神々への誓約は絶対の誓約である」
祭司の証である、先端に九芒星の装飾が施されたナラの木の杖を掲げ、フィオナは語る。普段のおっとりとした雰囲気や間延びした話し方からは想像もつかないほど、今の彼女は立派な聖職者然としている。先ほどクレアに聞いたところによると、フィオナは聖職者の務めとして皆の前で言葉を発する際は、このように落ち着いた説得力があるのだという。
エドウィンは右手のひらを胸にあて、無言で彼女の言葉を聞く。並ぶ皆も無言を保ち、広間には彼女の言葉だけが響く。
「神々に仕える者として、九神に代わり問おう。神々の子エドウィン、お前が今ここで立てる誓いは何か」
「王として私の民を支配し、庇護する。民が平和に、そして豊かに暮らせるよう努め、善き王として君臨する。それが私の誓いである」
微笑をたたえ、自信に満ちた声色で、エドウィンは堂々と答える。
「神々の子エドウィン、お前が支配し、庇護する民とは誰か」
「私を王と呼び、讃え、私に服従することを神々に誓う者たち。そのような者たちをこそ、私は民と呼ぼう」
事前の打ち合わせ通りの問答を、フィオナとエドウィンは行う。
己に服従を誓った者に対してのみ、善き王として君臨するという誓いを果たす。王と民がそれぞれ神々に誓いを立て、以て両者の交わす誓約とする。そのような形式を整えるために、これは必要な問答だった。
「神々の子エドウィン。九神は今、確かにお前の誓いを聞き届けた。お前が神々への誓いを守る限り、神々はお前に祝福をもたらし、お前に加護を与えることだろう」
フィオナはそう言って、後ろを振り返る。エドウィン以外の皆の方を向く。
「神々に仕える者として、九神に代わり問おう。この場に集う神々の子たちよ。お前たちが今ここで立てる誓いは何か」
「私たちは皆、エドウィン様を王と呼び、讃え、服従することを誓います」
王妃になる者として着飾ったクレアが、一同を代表して答える。嬉しさを隠しきれない、やや高揚した声色で。
そして彼女は、エドウィンを向いて跪き、首を垂れる。ジェラルドやレオフリック、サベルトやオズワルドといった側近たちが続き、ドーラが続き、他の皆も続く。
「神々の子たちよ。九神は今、確かにお前たちの誓いを聞き届けた。神々の子エドウィンを王と呼び、讃え、服従する者は、彼が神々に誓って支配し庇護する民と認められるだろう……エドウィン様。神々の子の一人として、私もまたあなた様を王と呼び、讃え、服従することを誓います」
祭司としての立場で語る役目を終えたフィオナも、口調をあらためてエドウィンに跪く。
大勢が自分に跪き、首を垂れている。自分は偉いのだと、これ以上ないほどに実感できる素晴らしい光景。エドウィンはこの光景をしばし堪能し、満足した後に口を開く。
「皆、面を上げよ」
エドウィンが命じると、まずはクレアが顔を上げ、立ち上がった。次に側近たちが、そしてドーラとフィオナが立ち上がった。その様を見て、もう立っていいのだと理解した他の皆も続いた。
エドウィンは再び口を開き、皆よりも一段高い位置から語る。
「諸君の誓いの証、確かにこの目で見届けた。私は諸君の王として、神々への誓いを守ろう。命を懸けて誓いを果たそう……神々を介して、私と諸君は誓約を交わした。諸君に認められ、神々の祝福と加護を賜り、私は今ここで王となった!」
エドウィンは手を大きく広げ、高らかに宣言する。
「王が治める地は国と呼ばれる! この地は今日から我が国である! この地の名、リンダムを国の名に定めよう! ここはリンダム王国、私は初代国王エドウィン・リンダムである!」
エドウィンが言いきると、次いでクレアが一歩進み出る。彼女は歓喜に目を潤ませ、頬を赤く染めて笑みを浮かべ、胸の前で手を組みながらエドウィンに熱い視線を向ける。
「偉大なる国王陛下。私たちは皆、あなた様の忠実なる僕です。リンダム王国に永遠の繁栄があらんことを。あなた様に永久の栄光があらんことを。エドウィン王万歳!」
「「「エドウィン王万歳!」」」
興奮した声色でクレアが叫び、最前列に並ぶジェラルドたち側近が一斉に続いた。
クレアたちがそう言ったら、皆で続いて何度も斉唱するように。事前にそう指示されていた他の者たちも次々に口を開く。
エドウィン王万歳。エドウィン王万歳。エドウィン王万歳。
その言葉が何度もくり返され、儀式の空間を満たすのを聞きながら、エドウィンは玉座に腰を下ろす。深く腰かけ、大きな背もたれにゆったりと体重を預ける。両の手すりに腕を置き、己を讃える声を浴びながら、にまにまと笑んで悦に入る。
ああ、何て素晴らしいのだろう。何て心地良いのだろう。
居館はあくまでも仮住まい。まだ王のためだけに一から建てられた館は持っていない。
配下の戦士は四十人。王の軍勢と呼ぶにはまだ少ない。
領土はアイヴァー川下流域の西側だけ。人里は七つ。人口はせいぜい五、六百人程度。国としてはあまりにもささやかな規模。
身を飾るのは銀の装飾品。きらびやかな黄金の品々は未だ持っていない。
だが、それでも、自分は王である。自分が王であると認め讃え服従する者がこれほど大勢いるのだから、神々を介して彼らと誓約を交わしたのだから、自分は確かに国を持つ王である。
エドウィン王万歳。これ以上に甘美な響きがこの世にあるだろうか。
「……最高だ」
王になった。その実感を噛みしめ、多幸感に満たされながら、エドウィンは呟いた。
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毎日更新の第一章はまだまだ続きます。これからエドウィンの覇道が本格的に始まります。
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