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【書籍化決定】我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~  作者: エノキスルメ
第一章 エドウィン王万歳!

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第十二話 決して断れない提案

 フィオナ祭司と会談した翌日。エドウィンは二十人の配下を連れて農場を発った。

 向かうのは、先日のエドウィンとの話し合いに人を寄越さなかった三つの人里のひとつ。エドウィンの支配について「島の外から来た見ず知らずの不気味な男に、従わされたり何かを強いられたりするのは御免だ」と語っていたという村。

 エドウィンは自分が偉く見えるよう、農場にいる馬の中で最も見栄えの良いもの――元々はクレアの父が長距離の移動や荷物の運搬に使っていたものだという――に乗っている。騎乗して視点を高くしたエドウィンに、ジェラルドをはじめとした配下たちが徒歩で続く。


 そうして進んだ道のりは、農場から一時間ほど。襲撃と誤解されて抵抗を受けないよう、出発の直前に先触れは出しておいたが、武装した集団の到来を受けた村は大変な騒ぎになった。

 その反応を気にすることなく、エドウィンは騎乗したまま二十人の配下を連れて村に入る。家々の並ぶ中を通過し、村の中央、井戸のある広場で停止して周囲を見回す。

 事前の報告によると、人口は七十人ほど。家屋の数を見ても、報告はおおよそ正しいものと思われる。住民の多く、特に女性や子供は家の中に逃げ込んでしまい、一部の男性住民が家の前から遠巻きにこちらを見ている。

 そして、広場には村の顔役らしき男たちが数人、立っていた。エドウィンは彼らに笑顔を向け、手を掲げる。


「やあ諸君! 先触れを送ったから、僕が誰なのかは諸君も理解しているだろう。僕こそが、もうすぐ王となってこのアイヴァー川下流域の西側を治める男、エドウィンだ……さて、諸君は僕の訪問を歓迎してくれるだろうか?」


 エドウィンが語る間に、配下たちがエドウィンの左右を囲むように広がって立つ。その様が村の顔役たちにさらなる威圧感を与えたことは間違いなかった。


「……あ、あの、ようこそ、お越しくださいました」


 笑顔のエドウィンとは反対に、鋭い視線で刺してくる二十人の武装した男たちを見回した顔役の一人が、分かりやすく怯えた表情でそう言った。エドウィンは笑みを深めて頷き、下馬する。


「歓迎に感謝するよ。さて、早速だが僕が村を訪れた用件を話そう。先日の話し合いに、この村の代表者が来なかった件についてだ」


 エドウィンの言葉に、顔役たちは揃って顔を引きつらせる。


「この村の隣にある村は、僕の求めに応じて代表者を寄越してくれてね。彼らの話によると、諸君はこう語っていたそうじゃないか。島の外から来た見ず知らずの不気味な男に、従わされたり何かを強いられたりするのは御免だと」


 エドウィンがそう続けると、顔役たちの表情がさらに硬くなる。最も若そうな一人など、泣きそうな顔になり、腰が引けてしまっている。

 まさかこんな大変な事態になるとは。彼らがそう思っていることは、エドウィンとしても想像に難くなかった。

 おそらく彼らは、自分たちが生まれる遥か前から平和が続く村に暮らし、先の盗賊団騒動でも直接的な被害を受けることがなかったために「武装した集団が村に踏み入ってくる」というのがどういうことか正しく想像できなかったのだろう。だからこそ、二百年もの長きにわたって支配者として君臨した帝国軍ならばともかく、ある日いきなり大陸から渡ってきて王になると言い出した得体の知れないキラケス人に服従することは受け入れ難いと反感を覚え、どのような結果が訪れるかをよく考えずにこちらの要求を無視したのだろう。

 危機を想像すらできないというのは不幸なことだと、エドウィンは彼らに同情を覚える。


「そう怯えなくていい。僕はただ、諸君とあらためて話がしたいだけだ……先日は代表者を送るよう求めたが、この村が僕に反感を抱いているのであれば、住民たち皆と直接話をした方がいいだろう。全ての住民をこの広場に集めてくれ」

「そ、それは……ど、どうか女や子供にはご容赦を……」


 何を勘違いしたのか、先ほど歓迎の言葉をくれた顔役がそう言いながら頭を下げる。


「はははっ、どうやらまだ誤解があるようだ。僕は皆と話をしたいだけだと言っただろう。女性にも子供にも、もちろん男たちにも決して危害は加えないと約束しよう……ただし、僕がこの約束を守るのは、言葉で語って君たちに通じる間だけだ。どれほど言葉で頼んでも諸君が対話を拒絶するのであれば、頼み方を変えなければならなくなる」


 エドウィンのその言葉に合わせて、傍らのジェラルドやレオフリック、そして周囲を固める配下たちが腰のベルトに下げた武器に手を触れ、あるいは手に持っている槍を動かす。


「ひっ! わ、分かりました。直ちに、直ちに皆を集めます」

「ありがとう。ああ、寝ている赤ん坊や、老齢や病気のせいで動けない者はそのまま家に置いていて構わない……僕は建国準備で忙しいところ、君たちと話すためにこうして赴いていてね。あまり時間もないから、できるだけ急いでくれると助かる」


 エドウィンの言葉に頷き、顔役たちは急ぎ家々に走る。彼らと村の住民たちの話す声が――中には多少揉めるような声も――あちこちから聞こえ、いずれの会話でも顔役たちの説得が成功したらしく、間もなく村の住民たちが広場に集まる。


「さて、諸君! あらためて自己紹介をさせてもらおう。僕の名はエドウィン。このアイヴァー川下流域の西側を統べる王に、すなわち君たちの王になる男だ!」


 彼らを前にエドウィンはあらためて笑顔を作り、両手を広げながら言う。


「未来の王として、僕は諸君を穏便なかたちで支配下に置こうとした。話し合いの場を設け、諸君の代表者をそこへ招き、お互いに納得した上で良き関係を築こうと努力した。諸君は僕を新たな支配者と認め、讃え、忠誠を誓って服従する。僕は諸君の忠誠に応え、諸君を庇護する。そんな関係をね……だが、諸君は僕の求めに応えなかった。話し合いの場に誰も寄越さなかった」


 住民たちがざわめく。やはり報復として、何か酷い目に遭わされるのではないか。そんな警戒と怯えの入り混じった空気が彼らの間に漂う中で、エドウィンはあくまで穏やかに話し続ける。


「僕としては悲しかったが、諸君の気持ちも分かる。諸君はおそらく、状況がよく分かっていなかっただけなのだろう。だからこうして、諸君に状況を理解してもらうために僕自身が来た。配下たちを連れて」


 その言葉で、住民たちはエドウィンの周囲に並ぶ配下たちへを視線を向け、鋭い視線を返されて怖くなったのか、すぐに目を逸らす。


「ここにいるのは我が配下の半数だ。僕には傭兵として実戦経験を積んできた四十人の戦士たちがついている。彼らは僕を主と認め、僕の命令に従って戦う……これが僕の力だ。それを諸君に見せた上で言おう。僕を新たな支配者と認め、讃え、服従してほしい。もし断るのであれば、諸君は僕が作る国の秩序を乱す存在、王に仇を成す存在、僕が配下たちを使って排除すべき存在となる……さあ、どうするか選ぶんだ」


 言いながら、彼らがどう答えるかエドウィンは既に分かっていた。


 エドウィンは極めて高価な装備である鎖帷子を纏い、腰には短剣の他、製造に多くの鉄と専門技術を要するためにこちらも高価な装備である剣を携えている。側近であるジェラルドも、同じく鎖帷子と剣を身につけている。

 その他の配下たちも、全員が質の良い戦斧や槍を持ち、円盾も装備している。そして全員、攻撃的な気迫を放っている。平穏な世界で生きてきた者には決して放てない気迫を。

 そんな、一目で戦いを生業とする人間だと分かる精強な戦士が総勢で二十人。この場にいない者がさらに二十人。帝国軍が去った今、これほど強力な武装集団が、果たしてアロナ島にどれだけいることか。


 今回、エドウィンは提案のかたちをとらず、求める服従の内容――すなわち税の詳細なども説明せず、武力による威圧のみで村の住民たちを服従させにかかる。彼らが話し合いの機会を放棄した以上「未来の王が提示した条件を民が承諾し、互いに納得した上で服従と庇護の誓約を交わす」などという形式は与えない。

 村の住民たちは、エドウィンの予想通りの結論に至ったようだった。この贅沢な戦力と、それを率いる一際豪華な装備の人物を前にして、戦いを知らない農民たちが抵抗の意思を持ち続けられるはずもなく、村の顔役たちは間もなく首を垂れた。他の住民たちもそれに倣った。


「この村の全員、あなた様の民となり、あなた様に服従いたします。なので、どうか先のご無礼をお許しください。お慈悲をお与えください」

「そうか、民となってくれるか。それはよかった……大切なのは過去ではなく未来だ。諸君が僕の求めを無視した一件は、これで忘れよう。先に僕への服従を誓った者たちと同じ待遇を、諸君にも与えよう。諸君が善き民でいてくれる限り、僕も諸君の善き王となることを約束しよう」


 そう語った後、エドウィンは支配者として彼らに求める服従の具体的な内容――要求する税の詳細をようやく語る。帝国が彼らに課していたよりも遥かに軽い税を要求した上で、己がアロナ人女性と結婚し、彼女を王妃にするつもりであることも語る。

 すると、それを聞いた住民たちの表情は、まず驚きへ、そして次第に安堵へと変わっていく。


「言っただろう。僕は諸君の善き王になると。僕はこの約束を本気で果たすつもりだ。こうして僕の要求や考えを聞くと、僕の民になるというのは案外悪くない話だと思えるだろう?」

「……はい。あぁ、その……とてもありがたいお話と存じます」


 その返答を受け、エドウィンは満足げな表情を浮かべる。


「諸君がそう思ったのであれば幸いだ。では、今日はこれで帰るとしよう。近いうちに、僕の国を建て、僕が王に即位する儀式を執り行う。詳細は追って伝えるので、儀式には代表者を送るよう頼む……今度こそ、僕の求めに応じて代表者を送ってくれると信じているよ」


 エドウィンはそう言い残して再び騎乗し、配下たちを引き連れて去る。村の住民たちはただ立ち尽くし、エドウィンたちを見送った。


「はははっ、まったく、笑ってしまうほど簡単だったね」

「全くです。あれなら最初から素直に服従しておけばよかったものを」


 上機嫌に言うエドウィンに対して、傍らを歩くジェラルドは微妙な表情を浮かべてため息交じりに答える。無駄に抵抗の意思を見せたわりに、いざ対面するとあまりにも簡単に屈した村の住民たちの態度を見て、半ば呆れている様子だった。


「まあいいさ。状況を理解していなかったが故の過ちだ。許すことで僕の寛大さを示す機会を得たのだから悪くない……さて、この調子で残る二つの人里も、早いところ従えようじゃないか」


 語りながら、エドウィンは不敵な笑みを浮かべた。

中世ファンタジーの鎧の定番と言えば板金鎧プレートメイルだと思いますが、この板金鎧が普及したのは中世でもかなり終盤(14~15世紀ごろ)のことです。


古代末期から中世盛期にかけて約1000年もの間、鎧の主流は鎖帷子チェインメイルでした。中世初期の時代感をイメージしている本作でも、主に鎖帷子が登場します。

この鎖帷子ですが、中世初期には極めて高価な装備で、王や貴族や精鋭軍人などのエリート層を表すシンボルでもあったそうです。以降、技術や経済が発展していくにつれて量産が進み、広く普及していきます。


また、中世ヨーロッパの代表的な武器である剣も、中世初期には一部のエリート層しか持てない高価で貴重な装備でした(刃が長く大きいので槍や斧よりも多くの鉄を使う上に、鋭く頑丈な剣の製造には高度な技術と長い時間が必要だったので、必然的に高級品になりました)。

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― 新着の感想 ―
作成もメンテも恐ろしく手間のかかる鉄器を身に纏っている時点でその辺の蛮族とは一線を画すヤベー奴が来たんだと戦慄したでしょうねえ。純然たる戦士階級が知恵も身につけて大度を示してきた…割とこの地域の民たち…
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