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我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~  作者: エノキスルメ
第一章 我は王である

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第十一話 儀式の作り方

 ロドニア帝国の国教は、創天教と呼ばれる多神教。今より三百年ほど前に帝国に征服されたキラケス地方出身のエドウィンたちも、二百年ほど前に征服されたアロナ島の住民たちも、皆この創天教を信仰している。

 帝国南部の帝都周辺では、皇帝の戴冠式などが行われる巨大な神殿があり、一定の政治的発言力を持つ上位聖職者もいるという。しかし、それ以外の地域の社会においては、聖職者たる祭司たちに具体的な影響力はほとんどない。彼らは人々の結婚式や葬式、新年や収穫期の祝祭などで重要な役割を担い、社会から一定の敬意を払われるが、それ以上の存在ではない。


 大陸の帝国北部と同じく、アロナ島にも各地に小さな神殿が点在しているという。祭司たちは神殿を管理し、神殿の傍らの農地で自分たちの日々の糧を作り、神々に祈りを捧げる生活を送っている。神殿同士の連帯は緩やかで、人材の育成や交流などは行われるものの、強固な組織があるわけではない。その連帯も、帝国軍が撤退して社会が混乱してからはほぼ止まっているという。

 アイヴァー川下流域の西側にも、小さな木造の神殿が三つある。そのうち一つは、エドウィンたちが拠点を置く農場のすぐ近くにあり、周辺の人里に対して宗教的な機能を提供してきた。

 三つの村の代表者たちに服従を誓わせた数日後。エドウィンはこの神殿を一人で管理している祭司を館に招いた。もとい、呼びつけた。


 やってきた祭司は、おっとりとした雰囲気の若い女性だった。


「建国と即位の儀式、ですかぁ……」


 フィオナと名乗った彼女は、館の広間でエドウィンと向かい合ってテーブルにつき、相談を持ちかけられると、少々困惑した様子で言った。


「そう、儀式だ。このアロナ島には、もう二百年も王なんて存在しなかった。小王国時代の王たちがどんな儀式をしていたか知っている人間はもうこの世にいないし、その時代のアロナ人たちは文字を持たなかったから記録もない。となると、僕は建国を成して王になるために、一から新しい儀式を作らなければならない。誰もが説得力を覚え、ここに国が建ち王が誕生したのだと納得するような儀式をだ。そこで、君の力を借りたいんだ」


 おっとりとした雰囲気に似合う間延びした話し方が特徴的なフィオナを前に、エドウィンは微笑を浮かべて語る。

 三つの村の代表者たちにそうしたように、エドウィンがまずは昼食を共にしながら己の身の上や考えを語ったおかげで、彼女の緊張も幾分か和らいだ様子。こうして説明を受けたことで、自分が呼ばれた理由にも納得したようだった。


「なるほどぉ。確かに、儀式に説得力を持たせる上で神々の存在を絡めるというのも、祭司である私が儀式に関わるというのも、とても効果的でしょうねぇ」

「そう! まさに僕はそう考えているんだ。さすが、若くして優秀で真面目な祭司だとクレアや農場の住民たちが評する人物だね。なかなか話が分かる」


 エドウィンの称賛に、フィオナは微妙な笑顔を返してくる。彼女は数年前に病で世を去った老祭司に代わって農場の近くの神殿を管理するようになり、今では周辺の住民たちからも慕われているという。


「それで、具体的にどんな風に儀式に創天教を織り交ぜるか、お考えはございますかぁ?」

「一応、素人なりに考えてはいるよ……さすがに、僕が神々から王になる権利を授けられたと自称するのはまずいだろう。そこまで言うと信心深い者たちの反感を買うだろうし、僕自身、神々の罰が当たるのが怖い」


 古来より、帝国軍人や傭兵など戦いに従事する人間は、普通よりも死が身近にある生活を送るため、信心深い者が多い。エドウィンもその例に漏れず、神々を心から信じている。その神々より王権を授かったなどと勝手に称するのはあまりにも畏れ多いと思っている。


「だから、僕が神々に誓うかたちをとりたいと思っているんだ。僕は王を名乗る上で、僕に服従する者たちを正しく支配し、全力で庇護する。そのことを神々に誓い、神々の加護を求める。こうすれば、僕が王として皆に語った約束に、説得力を持たせるかたちで儀式が機能するはずだ」

「なるほどぉ、それは素晴らしいお考えだと私も思いますぅ。では、それに加えて、民がエドウィン様への服従を神々に誓う、というかたちをとるのはいかがでしょうかぁ? エドウィン様は良き王として君臨することを皆の前で誓って、民はエドウィン様に跪くことで服従を誓って……両者が互いに誓い合って、その誓約を神々に捧げるかたちで儀式を組み立てれば、より儀式の説得力が強まりますし、民にも誓いを立てさせればエドウィン様にとっても得が大きくなるんじゃないかと思いましたぁ」

「おお、それはとても良い考えだ! なるほど、僕だけでなく民の誓いも盛り込むのか……フィオナ祭司、君は素晴らしい。気に入ったよ。間もなく王の館となるこの館からほど近い神殿に、君のような祭司が務めていることは、僕にとって本当に幸運なことだ」


 上機嫌に語るエドウィンの言葉は、本心からのものだった。

 このフィオナは、クレアたちからの評判を聞くに、聖職者としての人格面では何ら問題なく信用できる。それでいて、信仰に頑ななわけではないようで、エドウィンがこの地の世俗的な支配者となることを理解し受け入れた上で、その統治に聖職者としての立場から積極的に協力する態度を示している。

 おっとりとした話し方のために第一印象では頼りなげにも見えたが、その印象に反してなかなか聡明で、おまけに予想以上にしたたかな性格をしている。今回の発案も非常に有用なもので、彼女が今後、王の助言役としても使える人材になり得ることを示している。

 このような人材にも恵まれるとは、つくづく自分は運が良い。やはり神々の導きの結果としてこの地に来たのだ。そう考えながら、エドウィンの笑みはますます深まる。


「それじゃあ、そのようなかたちで儀式の具体的な流れと、詳細な文言も考えてもらいたい。僕が考えるよりも、聖職者として日常的に聖典に触れている君の方が、きっと説得力のある儀式を組み立てられるだろう。頼まれてくれるかい?」

「それは……とっても責任重大な役目ですねぇ。私みたいなしがない祭司に、本当にお任せいただいていいんですかぁ?」


 荷が重い。そう思っていることが表情から分かるフィオナに、エドウィンは笑顔のまま頷く。


「君ならば上手くやってくれると信じているよ。君がこの仕事をやり遂げてくれた暁には、僕が王として君を祭司たちの長に任じよう。君は僕の国の創天教をまとめ上げる立場となり、今後も王の助言役を務めるんだ。僕の国の創天教信仰を守り支えるために多大な貢献を成した君の名前は、偉大な聖職者として歴史に残るだろう」


 エドウィンの提案を受けたフィオナは――満更でもなさそうな顔になった。


「……祭司として世の中にたくさん貢献することで歴史に名前が残るっていうのは、神々に仕える身としてはいちばん幸せなことですねぇ。分かりました、これからもエドウィン様に重用していただけるように、頑張って役割を果たして能力を証明しますぅ」

「頼もしい言葉だ。君の成す仕事に大いに期待しているよ」


 両手をぐっと握って意気込みを示す若き祭司の返答に満足しながら、エドウィンはそう言葉をかけた。

 彼女は真面目な祭司である一方で、聖職者として社会への貢献を讃えられることについては、野心というべき感情があるようだった。何と人間らしくて付き合いやすそうな人物だろうとエドウィンは考え、このフィオナに個人的にも好感を抱く。


「数週間のうちには建国と即位の儀式を行いたいと思っている。急がせて悪いが、一週間後に一度進捗を聞かせてほしい。よろしく頼むよ」


 エドウィンはそう言って、帰宅するフィオナを自ら館の外まで見送った。

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― 新着の感想 ―
なるほど、エドウィン王はここで叔孫通と酈食其…は縁起が悪いか。陸賈を同時に得られたんですねえ。しかし上手いことを考えますね。完全な神権政治ではなくある種の素朴さと民主的な側面もあるのが良いですね
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