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【書籍化決定】我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~  作者: エノキスルメ
第三章 諸国群立の時代

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第百五話 償いと見せしめ①

 二度の大捕り物でリンダム王家が手に入れた盗賊は七十二人。そのうち生け捕りにされたのは三十三人だった。

 アイヴァー川に侵入して捕らえられた盗賊たちを都に連行し、ウォルフガング率いる騎兵部隊が捕らえた盗賊たちも届けられた翌日。エドウィンは彼ら全員を、都の北西に位置する大森林の傍に連れてきた。


 盗賊たちは後ろ手に縛られた姿で、雑然と集まって座っている。これから自分たちはどうなるのかと不安げな様子で、怯えた顔を見合わせている。その周囲を十数人の親衛隊戦士が取り囲み、睨みを利かせる。

 そのような光景を、エドウィンは館から持ち出された椅子にふんぞり返って見渡す。傍らには戦士長ジェラルドと祭司長フィオナ、直衛のウォーレスを控えさせ、隣にはこちらも館から持ち出された椅子に座っている王妃クレアを寄り添わせながら。


「さて、ノルデン人諸君……まずは文句を聞いてもらおうか。去年の春以来、諸君は随分と好き勝手に暴れてくれているな。おかげで我が国は、いや、このアロナ島に並ぶ諸国の全てが、ひどく迷惑している。そして怒っている」


 椅子の背にもたれ、足を組み、尊大極まりない態度でエドウィンは言い放つ。

 その言葉に嘘はない。ノルデン人盗賊による襲撃の範囲は、アロナ島の東から南へ、そして西へと移っており、北隣のベルノニア王国も対応に追われているとブレドリックから書簡が届いた。噂によると、さらにその北のアクルード王国にも、幾度も盗賊が現れたという。すなわち、今や盗賊の襲来とは無縁でいられる国は皆無となった。


「アロナ島の多くの家々が襲われ、それだけでなく神殿まで襲撃の目標とされた。多くのアロナ人が殺され、攫われ、財産を奪われた。民はもちろん、神々に仕える聖職者まで見境なく……直接の被害だけではない。徴税にこれまで以上の手間をかけることになったり、商人たちが襲撃への備えに労力を割く羽目になったり、さらには大陸との交易にも悪影響が出ている。まったく、大迷惑としか言いようがない。諸君はどうやって償いをするつもりだ?」


 東部では家々や神殿だけでなく、各人里を巡る商人や、各地で税を徴収して支配者の拠点へ運ぶ家臣団が襲われた例もある。昨年のうちにそのような話を聞いたエドウィンは、直轄領の各地での徴税作業にさらなる常備兵力を割いたり、場合によっては民兵を動員したりと、これまでは不要だった負担を強いられている。

 ロイドをはじめとした商人たちも、隊商を組んだり用心棒として追加の人手を雇ったりと、余計な苦労をさせられている。各人里を巡る零細の行商人などはそこまでの対応はできないため、可哀想なことに、ただ盗賊と出くわさないことを神々に祈りながら恐々と商売をしている。


 大陸商人たちは、アロナ島との交易を止めてはいないものの、盗賊による襲撃を防ぐためにやはり複数の商人で集まり、護衛の傭兵も雇って船団を組みながら来訪するようになっている。個々の敵集団の人数が少ないために、今のところ船団が襲われたという話は聞かないが、船団を組む手間や護衛を雇う費用がかかり、護衛を乗せる分だけ商品を積めなくなるという不利益もあるため、彼らがアロナ島を訪れる頻度は減っている。現に、これまでは一か月に一、二度ほどリンダム王国を訪れていた大陸商人が、この秋は一度しか来なかった。

 その大陸商人たちの話では、ノルデン人による襲撃はアロナ島の対岸、大陸西部の北側沿岸部にも及び始めているという。つまりはノルデン人社会の全体で盗賊行為がかつてなく大流行しているようだが、彼らが困窮してそのような行為に及んでいるのか、あるいは逆に余裕が生まれたために外の世界へくり出し始めたのかは分からない。


 商人たちがそのように盗賊への対処を強いられているため、この十年ほどをかけて徐々に再興が進んできたアロナ島における商業は、今のところ再びの衰退まではしていないものの、停滞している状況。


 多様な損害を思って不愉快になりながら、エドウィンが冷ややかな視線で睥睨すると、盗賊たちはますます怯え狼狽える。

 互いに顔を見合わせながらぼそぼそと言葉を交わす彼らが、しかし何と言っているのかはエドウィンにも、隣のクレアにも傍らのジェラルドたちにも分からない。


 ロドニア帝国領土だったエルシオン大陸西部やその周辺地域では、西方語と呼ばれる公用語が用いられている。ロドニア半島で話されているものが標準語とされ、それ以外の地域では征服以前の言語が一部含まれる方言が話されているが、別の地域の出身者同士でも日常的な意思疎通を行う上では全く問題はないとされている。エドウィン個人の経験としても、傭兵時代に南部へ赴いた際にも、このアロナ島へ渡ってからも、言葉で困った記憶はない。帝都などでは北部訛りを馬鹿にされたこともあったが。


 しかし、ノルデン半島で話されている言語は全く別のものである様子。旧帝国領土と交易を行っていた商人などは西方語を話せるのだろうが、少なくとも今回エドウィンたちが捕らえた盗賊の中には、満足に西方語を理解できる者はいないようだった。

 なので、今エドウィンが語った苦言を、彼らの方もまったく理解できていないはず。とはいえこちらが彼らの盗賊行為に怒っていることは表情や態度から伝わっているようで、周囲から頭を下げられながら椅子にふんぞり返っているエドウィンがここで最も偉い人物であることも、察せられているものと思われる。


「ラ、ラーシェ。ヴェクスィール、ハルツェス、ヴィーク、アロナ。ゼーシュク、ヤール、ノラセント、エント、ラーシェ。エント、ラーシェ」


 盗賊の一人がおそるおそるといった様子で、言葉を発する。表情からして文句や暴言を吐いているのではなく、何か弁明じみたことを語っているようだった。アロナ、という固有名詞だけは聞き取れた。

 帝国生まれ帝国育ちだったために西方語以外を聞く機会はほとんどなかったが、馴染みのない言語というのは、何とも不思議な響きに聞こえるものだ。そう思いながら、エドウィンは何度も頷いてみせる。


「なるほど、そうかそうか。さっぱり分からない」


 王の言葉を聞き、戦士たちが一斉に笑った。おそらくは盗賊たちをさらに怖がらせるために、これ見よがしに下品な笑い声を上げ、彼らの狙い通り盗賊たちはますます怯える。


「まあ、彼が何と言ったのだとしても、たとえどれほど巧みな言い訳を語ったのだとしても、諸君に下される罰は変わらない。諸君は……まあ、これまで我が領の民を殺めたり攫ったりしたのは別の者なのかもしれないが、どちらにせよ諸君はノルデン人だ。私は諸君一人ひとりの罪に対してではなく、ノルデン人盗賊そのものの罪に対して、私個人の怒りのみならず、アロナ島の支配者の一人としての義務に依って、諸君に償いを命じる」


 盗賊たちを睥睨するエドウィンの視線はますます冷たく、ますます鋭くなり、比例して盗賊たちの表情はさらに不安げなものになる。


「我が頼れる戦士長、この盗賊集団を率いていた者たちを前に出してくれ」

「御意のままに……そこのお前と、お前、それにお前も。前に並べ」


 エドウィンが視線を向けて言うと、王の命令に頷いたジェラルドは、盗賊たちのうち三人を指し示す。


 ノルデン人盗賊はどうやら、身なりや装備からして裕福な者――おそらくは船の所有者である貴族やら富農やらの若者が男手を集め、自家の船に乗せて西の海へくり出す……というかたちで盗賊行為をはたらいているらしく、各集団は一人から数人の指導者と、それに付き従う者たちで構成されている。リンダム王家が捕らえた二つの集団には一隻当たりに一人、合わせて三人の指導者がおり、鉄製兜や鎖帷子といった高価な装備を纏っていたためか、その全員が生き残っている。


 装備を剥がす際にジェラルドが顔を覚えておいてくれたおかげで、速やかにエドウィンの前へと並べられた三人は、泣いている者もいれば、怯えを隠し切れていないものの気丈に振る舞おうとしている者もいる。先ほど何やら語っていた者もこの三人のうちの一人で、今にも気絶しそうなほど顔を青くしている。

 三人に順番に視線を向け、そのうちめそめそと泣いている一人の情けない様を鼻で笑うと、エドウィンは再び口を開く。


「さて、君たち三人に朗報だ。私は君たちを殺さない。処刑するのはそっちの連中だ」


 言いながら、エドウィンは三人の後ろに並んでいるその他大勢の盗賊たちを指差す。


「その代わりに、諸君には別の重要な役割を果たしてもらう……君たちは故郷へ生還し、我が国を襲ったノルデン人盗賊がどのような末路を辿ったかを伝え広めるんだ。この先我が国を訪れる盗賊は皆同じ目に遭うと知らしめるんだ」


 仲間の惨い末路を目撃した上で故郷へ生還し、リンダム王国領土――アロナ島南西部の南側を襲撃することの危険性を語り広める役割は、発言力も教養もあるであろう富裕層の者たちに担わせる方がいい。盗賊行為を主導した者だけがのうのうと生きて帰ったとなれば、処刑された者たちの遺族は彼らをこそ恨むであろうから、彼らを生還させてもなお苦しめることができる。

 そのような考えのもとでエドウィンが語ると、その言葉の意味を理解できない三人の反応はなかった。


「諸君には全員で一隻の船に乗って帰ってもらうが、船を動かす上でもう幾らか人手が要るだろう……ジェラルド、残りの盗賊たちの中から四人選んでくれ。騎兵部隊が捕らえた集団と、私たちが捕らえた集団からそれぞれ二人ずつだ。若そうな者を生かしてやろう」


 王の指示を受けて、ジェラルドは盗賊たちの方へ歩み寄っていく。言われた通り若そうな者を選び、彼に指差された者を戦士たちがエドウィンの前に引きずり出そうとする。

 盗賊行為を主導した者たちの方へ引っ張られたためか、これから殺されると勘違いしたらしい若者たちは泣き叫んで抵抗し、しかし後ろ手に縛られた状態では何もできず、殴られて黙らされ、三人の指導者たちの方へ運ばれる。選ばれなかった者たちの中には、これから殺されるのは自分ではないと勘違いしたらしく、安堵の表情を浮かべる哀れな者もいた。


 順当に若そうな者が四人選ばれると、先に助命を約束された三人と共に並べられる。エドウィンは彼ら七人に、処刑される二十六人の方を向かせ、不敵に笑う。


「さて、幸運な諸君。これから仲間が死んでいく様を、目を逸らすことも瞑ることもなく見届けるんだ。全てをその目で見て、故郷に帰った後は周囲に語り広めることが諸君に課された義務だ。処刑をしっかりと見届けないようであれば、そのときは向こうに並んでいる誰かと立場を代わらせるので、死にたくなければ義務を果たしたまえ……フィオナ祭司長、伝えてくれ」

「かしこまりましたぁ……えっと皆さん、オレアク、ベヴェネン、ルドゥーシャ」


 エドウィンに促され、フィオナがおずおずと進み出ると、仲間たちの方を向いている七人に向けて語る。

 いずれもノルデン語の単語で、見る、帰る、伝える、を意味している。商人や祭司の中からノルデン語を少しでも知っている者をかき集めたり、ノルデン人について記述のある書物を探したりしたことで、ノルデン語でこれら三つの意味を表す単語が判明した。


「オレアク、ベヴェネン、ルドゥーシャ、ですぅ。オレアク、ベヴェネン、ルドゥーシャ」

「エント? ラーシェ、マレ、ベヴェネン?」

「ルドゥーシャ? ウェズ、ロンセ?」


 処刑される二十六人を指差しながらフィオナはくり返し、それを受けて生還させられる者たちは困惑した様子だった。しかしそのうちの一人、三人の指導者たちのうち怯えをこらえて気丈に振る舞おうとしていた若者が、ハッとした表情でエドウィンの方を振り返る。これから何が始まり、自分たちが何を求められているのか察したらしく、顔を強張らせる。


「そうだ、生きて帰り、仲間の死に様を語り広めろ……戦士諸君、始めてくれ」


 処刑される盗賊たちを囲む親衛隊戦士たちへ向けて手を掲げながら、エドウィンは凶悪な笑みを浮かべる。

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