37.会うと次に会う予定が決まるのはいいことなのだろうか
テーブルいっぱいに各地の銘菓が並ぶ光景は、思った以上に豪華だった。飲み物も置かれると、芳澤さんが言った通りにちょっとしたパーティーといえた。
当然のように美咲さん達はスマホで撮影を始めた。その様子をボケっと眺めながら、そんなに写真を撮ってどうするんだろうかと思ってしまう。
やはりSNSに投稿するのか。
「芳澤さんもファスタとかやってるの」
隣に座っていたこともあるが、4人の中で一番SNSに興味がなさそうな芳澤さんに聞いてみた。
「やってるよ。そんなに投稿はしてないけど」
あっさりと肯定される。
「学校の友達がやってるからやろって誘われて。DMで連絡とってる友達もいるし」
自分から進んで始めたというわけではないらしい。
「私もこっちだと中学生でスマホは持つものだって、買ってもらって。それでファスタとかやるもんだって登録させられたなぁ」
春に地方から転校してきたということだから、椎名さんのスマホ歴はまだ4カ月ぐらいということか。
「だけど深山さんガラケーだから、みんなが持ってるわけじゃないんだね」
会うのが二度目だからなのか、どこかよそよそしさがあった。呼び方が変わって微妙に丁寧な感じで、距離感を測りかねているのに親近感がわく。
「そりゃ、まぁ。親の教育方針とかで高校までスマホは禁止って人も学校ではいるから、本当に全員が持っているってわけじゃないよ」
理由はさまざまだろうが、スマホを所持していない都内の中学生というのは、少数ではあったがちゃんといる。学校でもクラスでスマホを持っていないのは自分1人だが、学年まで広げれば数人だけどいるみたいだし。
「だったら私も持たなくていいって言ってほしかったなぁ。SNSとかよく分かんないし」
「嫌なの」
スマホを買ってもらうとなれば、喜ぶのが普通というものではないのだろうか。いや、面倒くさいからでガラケーを使い続けている人間が言うことではないが。
「買ってもらった時はうれしかったけど。実際に使い始めると、思ってたのと違うっていうか。転校前のとこは田舎でさ、中1の時は学年の3分の1ぐらいしかスマホは持ってなかったな。その子達もゲームとかはやってたけどSNSはあんまり熱心じゃなくて」
小さく椎名さんはため息をついた。
「正直、ファスタとかSNSってよく分からないんだよね。やらなくていいならアプリごと消したいっていうか。深山さん見てたら、連絡だってメッセージで十分だって分かったし」
スマホを持っていないことを、うらやましがられるという未知の体験にどんな反応をしていいのか分からなかった。
「陽菜と出会えたから私はよかったよ」
ぼそりと高森さんはもらす。
「スマホを買ってくれない親だったら、事務所に来てなくて会えなかった……と思う」
それは嫌だ、と高森さんの目が言っていた。
「そうだよ。陽菜ちゃんと会えないのはダメだよ」
「陽菜とトークするの私は楽しいよ」
高森さんに続いて芳澤さんと美咲さんにも心配するように言われ、椎名さんは慌てて「そういうのじゃないよ」と口にする。
「みんなに会えて友達になれないのは私だって嫌だよ。ただスマホというか、SNSのつながりみたいなのがよく分かんなくて。動画とかも、私は紙の本の方が好きだし」
何となくスマホを手にしたら、椎名さんと似たような感想を抱きそうな気がした。別にガラケーのままでよかったなと。
「みんな見てるよね~、ショート動画。でも、あんまり見ないから話題についていけない時あるんだよ」
暗い空気を吹き飛ばそうと芳澤さんが意図したかどうかでいえば、していないだと思うが、その明るい声は救いだった。
「面白いよって言われて見ても、そうかなって時あるよね。本当に面白いのもあるけど」
自分のせいで悪くなった空気をどうにかしようというのか、椎名さんは努めて明るい声を出しているように感じられた。
「クラスだと、みんなが熱心に見てるって感じはないけどなぁ」
そうだよね、というように美咲さんから視線で同意を求められ「うん」と頷く。
実際、休み時間などにスマホでショート動画を見ているクラスメートは数人しかいない。
それでもクラスで、あの動画がなどと話題になっていることもある。そんなに面白いのかと、自室のパソコンで見たこともあるが興味は抱けず視聴が習慣化することはなかった。
「琴音はどう?」
全員に話題を振るというのが、美咲さんらしかった。
「ゲームのは少し見る」
「琴音ちゃんの学校ってスマホはダメじゃなかったっけ。さすが、お嬢様な学校だよね」
スマホ禁止なのは、お嬢様な学校ではなくて進学校だからではないだろうか。そもそもスマホ禁止というのを何か勘違いしてそうだけど。
というか、お嬢様な学校に通っているのか。
そういえば美咲さん以外の3人が、どの中学に通っているのか知らなかった。
「学校内での使用禁止なだけ。登校したら回収される」
「厳しいんだ」
大したことじゃないというように高森さんは言うが、学校に預けるというのは厳しい。
「私達の学校も、高等部の先輩達が入学した頃は預けてたらしいよ。今は授業中に使わなければいいってことになってるけど」
一応は進学校であるから、スマホの利用については厳しかったのだろう。その代わりに1人1台にタブレットを支給することになったのかもしれない。
「どこの学校も同じ感じじゃないかなぁ」
椎名さんの言う通り、スマホの持ち込みを最初から許していた学校はない気がする。日常生活とスマホが不可分になり、仕方なく認めるようになっていったのだと思う。
「じゃあ琴音ちゃんの学校も、その内に使えるようになるね」
安易な芳澤さんの予想を、高森さんは「無理」と否定する。
「そんなにお嬢様な学校なの」
ありえないレベルの即答に、高森さんはそんな名門校に通っているのかと気になった。
「知らないの。玲泉女子だよ。政治家とか経営者の家の女の子が通う名門。卒業生は色んな分野で活躍してて、将来の日本を動かすような人達がいる学校なんだよ。日本の未来を担う人材の宝庫といっても過言ではないの」
「へぇー、そうなんだ」
つまり高森さんは、すごく優秀ってことなのか。陰キャ寄りのゲーム好きな美少女なだけじゃないんだ。
「過言。信じないで」
感心したのに、高森さんはばっさりと椎名さんの説明を切り捨てた。
「大雑把には間違ってないよ。歴史ある中高一貫の女子校で、有名な卒業生もたくさんいるし」
否定が入らない所からして、日本を動かすまではいかなくても、けっこうな名門の学校であるというのは間違いないみたいだ。
「名門女子校なのに芸能活動じゃないけど、学校外でアイドルみたいなのをやるの許可してるんだ」
アイドルみたいなのをやることを認めなさそうな学校なのに。
「卒業生とか親が芸能界で活躍してる。だから届け出れば認められる」
つまり現役のアイドルとかもいるってことなのか。
「綾瀬さんも同じ学校だったよね」
知らない名前を美咲さんは出す。
「うん。綾瀬さんは本物のお嬢様」
本物の部分に高森さんは力を込める。
「綾瀬結奈さん。バンド組のボーカルやってる。きれいな歌声で、即デビュー間違いなしって評判」
会うことはない部活仲間の紹介を美咲さんはしてくれる。
「でも、すっごい恐いんだよ」
怒られたことでもあるのか芳澤さんは、身体を震わせる。
「話したことないけど恐いよね。庶民とは違うっていうオーラ出てるし。多分、特殊能力を持ってるよ」
また過言な人物評価を椎名さんはしている。
「見た目で決めつけるのはよくないよ。綾瀬さんは普通の人だから」
「普通ではない。歌はレベルが違う。お家はお金持ちで、お父さんも将来の役に立つから仲良くできるならなれって」
どうも椎名さんが思い描いているようなものとは違うが、本当にすごい人みたいだった。
「お家のことは知らないけど、綾瀬さんは真面目に練習してて、頼み事をしてもきちんとやってくれるちゃんとした人だよ」
悪い所をほとんど指摘しない美咲さんの人物評も、椎名さんとは別の意味であまり役に立ちそうになかった。
歌がプロレベルというのは確からしいから、その内に画面越しに見る機会もあるだろう。
「あっ、そうだ」
何となく話題が途切れると、思い出したというように芳澤さんが声をあげた。
「どうしたの」
「日曜日にお祭りがあるんだよ。私の町内で。みんなで行こうよ」
断られるとは思っていない笑顔だが、皆の反応はいまいちよくなかった。
「あー、ごめん。その日は家族で出掛ける予定で」
真っ先に椎名さんが無理と口にする。
「行けたら行く」
続いて高森さんが、それ以上の追及を避けるかのように近くにあったお菓子を手に取り口に放り込む。
「えっと私も……」
「むぅ」
美咲さんまで前向きでない返事をしたため、泣きそうになって「真白君は大丈夫だよね」と言ってくる。
「予定はどうだろ。今の所は大丈夫なような気が、しないでもないけど、ちょっと確認しないと分かんないなぁ。行けるようなら連絡するよ」
特に予定などなかったが、急な用事が当日までに入るかもしれない。
「ないの、予定?」
不思議そうに美咲さんが聞いてくる。
「多分」
現状では「ない」と断言できるが、あるかもしれないを貫く。
「そう」
少し考えるような顔を美咲さんはして、「私は行けるかな」と前言を翻した。
「本当!」
うれしそうな声を芳澤さんはあげる。
「ちょっと確認しないとだけど、大丈夫だと思うよ」
わーいとウキウキに芳澤さんはなっていた。
「とりあえず4人かぁ。陽菜ちゃんがいないのはさみしいけど、家族と出掛けるなら仕方ないか」
「私と深山……さんは行けないって……」
「明日、事務所でも誘ってみよ」
夏休み最後の日曜日を友達とお祭りに行って過ごすことで頭がいっぱいの芳澤さんに、高森さんの声は届いていなかった。




