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36.久しぶりにあって変わらない態度だとホッとする

 ゲームをする高森さんを眺めるという気まずいながらも、楽しい時間はそんなに長くは続かなかった。


「お待たせ~」


 カランコロンと入店を告げる音が響くのと同時に、芳澤さんのよく通る声が聞こえた。釣られて立ち上がったが、どうすればいいか分からず固まってしまった。


「真白君、久し振りだね。元気にしてた」

「あ、うん、芳澤さんも元気そうで」


 2週間前と変わらない芳澤さんの態度にホッとする。

 少しの間でも会っていないと、どういう態度で接するべきか悩んでしまう。芳澤さんのように友好的だった相手だと特に。親しい感じで声を掛けて、「誰だっけ」とか「そんなに仲良くないだろ」みたいな空気を出されるとしばらく立ち直れない。


「ちょっと沙希、1人で行かないでよ」


 遅れて美咲さんと椎名さんが入店してきた。


「こんにちは深山君。琴音も」

「うん」


 ゲームを止めて高森さんは顔をあげる。


「琴音ちゃん、お土産を持ってきたよ。深山さんもどうも」


 両手に持っている荷物を椎名さんは掲げる。


「ほら沙希、お土産」

「ごめーん、忘れちゃってた」


 美咲さんが手にしているのは、芳澤さんが送迎の車に放置したお土産のようだった。さすがに忘れて飛び出して、持ってきてもらうというのはよくないと思う。


「もう、気をつけてよね」


 その程度で美咲さんが済ますから、芳澤さんの忘れ癖が治らないのでないか。


「ところで、それは何?おじさん旅行とかしてないよね」


 カウンターに積まれた名産品の山に美咲さんは怪訝そうな顔をする。


「それは僕が。好きなのをとってもらえれば」


 人数分はあるが、誰にどれをで買ってきたわけではないため、欲しいのを選んでもらった方がいい。


「お土産の買い方として、それはどうなの」


 色んな種類を買って、好きなのを選んでもらうというお土産購入に美咲さんはあきれていた。


「私もそうしたらよかったかな。とりあえず、おいしい米菓を買ってきたけど。種類もメーカーも本当にいっぱいあるから」


 対照的に椎名さんは、今度からそうしようと感心していた。


「べーか?」


 どうやら芳澤さんは米菓という呼称を知らなかったらしい。


「お米のお菓子だよ。おせんべいとか」

「おせんぺい好きだよ」


 椎名さんの説明に納得し、おせんべいがもらえるものと芳澤さんは喜ぶ。


「お土産はおせんべいじゃないけどね。色んなのがあるんだよ。こっちじゃ売ってないのもあってビックリしたなぁ」


 春に転校してきたという椎名さんは、ほんの少し前のことを懐かしそうに振り返っていた。


「本当においしいから今度、持ってくるね」

「約束だよ」


 おいしいというのに反応して芳澤さんは楽しみにしている。


「あっ、私のお土産はねぇ」


 受け取った紙袋からガサゴソと取り出す。


「じゃーん、リンゴのクッキー」


 思ったより普通のお土産が出てきた。


「このキャラがかわいくてね、すぐに決めたよ」


 リンゴをデフォルメしたゆるキャラらしきものを見せるために、お土産だというのに包装を開けた。

 そして名前も知らないキャラは、芳澤さんがかわいいって言うならかわいいんだろうという見た目だった。


「沙希、お土産、人数分しかないよね」


 後先を考えない行動に、美咲さんはここに来てからだけで何度目か分からないあきれたという顔をする。


「あっ、えと、真白君なら許してくれるよね」


 てへっ、と包装を解いたお土産を押し付けてくる。真っ先に名前があがったのは、それだけ親しくなったと喜んで受け入れることにした。名前が出たのが他の3人の誰かであったとしても、あきれはしても怒りはしないと思うし。


「私の分にして、ここで食べたらいい。家に持って帰っても誰も食べない」


 みんなで食べればいい、と高森さんは提案してくる。

 いい考えだけど、誰も食べないって、要は「私はいらない」と言っているのと同じではないか。

 心配をよそに芳澤さんは「そうだね」と、すばらしい提案だと目を輝かせ、他の人に確認をとることなく封を切っていた。


「どうせだから、他のお菓子も開けようか。深山君のは人数分以上あるし」


 いいよね、というように視線を美咲さんから送られる。

 お土産の分配は好きにしてもらってかまわないが、高森さんの発言は流すのか。人間関係について美咲さんは自分とは比べものにならないほど気をつかうのだから、ここはスルーするというのが正解なんだろうが。


「上野さんの分だけ別にしてもらえれば、後は自由にしてもらっても」


 高森さんの発言について聞くことはできず、そんな当たり障りのないことを口にしてた。

 いや、上野さんのお土産を確保するというのは大事なことだ。間違えて1つも残さずに開封してしまったら、後で何をされるか分かったものではない。


「陽菜ちゃんのも食べようよ。お土産パーティーだよ」

「えっ、う、うん」


 どうやら椎名さんも、高森さんの言葉に引っ掛かっているようだった。いや、それ以上に美咲さんと芳澤さんが、全く気にしていないことに戸惑っているのかもしれない。


「どうかしたの」


 さすがに様子がおかしいと思ったのか、美咲さんが聞いてきた。


「ど、どうもしないですよ。大丈夫です」


 急に敬語になるなど椎名さんは、明らかにどうかしているという態度だった。その様子に、まともな答えは返ってこないと判断したのか、同じくどうかしてそうなこっちを美咲さんは見る。


「あーと、高森さんはクッキーが好きじゃないのかと思って」


 クッキーが嫌いだから、ここで開封してみなで食べるというのに、付き合いの長い美咲さんと芳澤さんはあっさりと同意したのかと考えた。


「嫌いじゃないよ。特に好きでもないけど」


 わざわざ高森さんは答えてくれるが、それは予想が外れたことも意味していた。


「1箱だとお家で、1人で食べるには量が多い」


 何に戸惑っているのか分かったのか、高森さんは説明してくれる。

 両親が亡くなっているのに悪いことを聞いた、と謝りそうになったが、バーベキューの時に父親が事務所のスポンサーとか言っていなかっただろうか。

 ということは少なくとも父親は生きているわけだ。なら、親子仲がとても悪いということか。何しても、あまり触れていい話題ではなさそうだった。


「琴音ちゃんのお父さんもお母さんもパソコンの会社で忙しいんだよ」


 気をつかうというのがバカらしくなるぐらいに、個人情報を芳澤さんが暴露する。というかパソコンの会社って何だ。


「パソコンじゃなくて、データセンター」

「おっきいパソコンでしょ」


 おそらく何度か、そのやり取りは繰り返しているのだろう。「それでいい」と高森さんは、あきらめたように言う。


「とにかく忙しくて、2人ともお家にはあんまり帰ってこない。だからお土産をいっぱいもらっても食べきれない」

「沖縄に家族で旅行って言ってなかった」


 椎名さんが聞くと、「夏とお正月は家族一緒だって、旅行に行くの」と別に行かなくてもいいのにというように高森さんは答えた。


「お土産、マンゴープリン買ってきた。冷やしてもらってるから、持って帰って食べて」


 預けたお土産のことを思い出したのか、忘れないようにと口にした。


「マンゴープリン。絶対においしいやつじゃん。わーい」


 喜ぶ芳澤さんの姿に、高森さんは満足そうな顔をする。


「忙しいなら、清華の家もそう」

「えっ、まぁ、そうね」


 不意に振られて、美咲さんはびっくりしたように頷いた。


「みんなと違って旅行も行ってないし。だから、お土産なくて、もらうばっかりで申し訳ないけど」


 お盆の間は、自宅で引きこもっていたのかと親近感がわいたが、美咲さんがダラダラと日々を過ごすわけがない。勉強とか自主レッスンとかで有意義に時間を使ったに決まっている。


「いつも奢ってもらってるから、返さないとこっちが申し訳ないよ」


 喫茶店でお金を一度も払っていないことに、いいのかと感じていた。芳澤さんのように疑問を抱かずに受けいれることはできず、どうしても奢られる度に気が引けてしまう。


「お世話になりっ放しだからね」


 また迷惑をかけられるというように、芳澤さんも同意してくれる。


「なら八坂……さんが一番いっぱい持ってこないと」


 この場にいない人の名前を高森さんはあげる。


「そういえば八坂さん、今日はいないんだ」

「レッスンもサボ――休んでたよ」


 一応というように、椎名さんは言い直した。


「今日も誘おうとしたんだけど、清華ちゃんが止めておいた方がいいって」


 グループメンバー5人の内4人が集まる場に、1人だけ誘わないというのは美咲さんらしくなかった。


「お土産を買ってくるって時に葵いなかったから。深山君が葵の分も買ってくるのか分からなくて」


 確かに、あの時は八坂さんだけ自宅に送り届けてもらったためいなかった。呼んでおいて、自分のお土産がない方が仲間外れ感は強いか。

 祖父母が無駄にたくさん購入したため、結果的には呼んでも問題はなかったけど。


「それに葵が旅行とかに出掛けたのかも分かんないんだよね」

「あー、そういえば聞いてないね」


 行くなら積極的に話しそうなものだから、芳澤さんまで聞いてないならどこにも出掛けないということなんだろう。


「学校の友達とどこかに行ってるとは思うけど」


 美咲さんと同じく引きこもっている姿は、あまり想像できなかった。夜更かしして、朝に寝て気づいたら夕方だったみたいなのはありそうだったが。


「今日も、『めんどい』ってレッスンには来なかったし」

「お土産、渡そうと思ったんだけどなぁ。いないっていうから家に置いてきちゃったよ」


 意外と律儀に芳澤さんは、友達の分を1人ずつに買ってきていた。


「私は事務所に預けちゃったけど。ほかのグループの人の分もあったし」

「ほかのグループに買ってきたのは私も預けたけど、葵ちゃんにはちゃんと渡したくて」


 やっぱり預けるではなく、渡すというのがコミュニケーション的には重要なのか。預けて持っていってもらうという選択をする椎名さんは、自分と同じ陰キャぼっち寄りの考えなんだなと思ってしまった。


「飲み物は何する。クッキーとかだから温かいのがいいかな」


 注文を美咲さんはとり始め、「深山君はいつものでいいよね」と確認されたので、いつものが何を指すのか分からなかったが頷いていた。

 少しして、あぁアールグレイかと気づいたが。


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