33.記念に写真は1枚は必要
トラブルもなく無事に美咲さん達の待つバーベキューハウスへと戻れた。何か起きるんじゃないかとの予想が外れホッとしていた。
「沙希。葵も」
2人の姿を見つけると美咲さんは駆け寄って来た。
「よかった」
涙を流さんばかりに安堵しているのは、最悪の事態を予想していたからなのか、佐伯さんに詰められた疲弊からなのかは分からなかった。
「ご、ごめんね。勝手に」
想像以上に心配されていたことに驚いたのか、芳澤さんはシュンとした感じで謝罪する。
「本当よ。全く。心配したんだから」
「葵ちゃんを探したくって。行きたいって言ってた場所を思い出して、つい……」
悪いことをしたと反省しているけど、芳澤さんは同じ様なことが起きたら、また無断で捜しに出るに違いなかった。
「そうだよ。心配かけちゃダメだって」
などと反省の色が全く見えないどころか、どの口で注意するのだという八坂さんに比べれば、芳澤さんの態度はまともだったが。
「葵もね。何で電話とか出ないの。位置情報も切れてるし」
事の元凶でありながら全く反省していない八坂さんに、あきれたように美咲さんは言う。
「気づかなかったよ~。ごめんね」
ここまで堂々と心のこもっていない謝罪ができる八坂さんに尊敬の念すら覚える。
「あのねぇ」
さすがの美咲さんも我慢の限界みたいになってきていた。むしろ、まだ怒鳴っていないことが驚きだという気もするが。
「佐伯……さんが戻って来た」
怒った美咲さんという珍しい姿を見る前に、引率者である佐伯さんの到着を高森さんが告げた。
「おー、2人とも無事で何より」
ニコニコの笑顔で登場した佐伯さんは、電話越しに聞いただけだが美咲さんに対してのあのネチネチとした怒りのぶつけ方をしていたのと同じ人とは思えなかった。大人のこういう変わり身に、どう対すればいいのか戸惑う。
「当たり前じゃないですか~」
豹変した態度などを気にすることもなく、コミュ強の陽キャぶりをいかんなく発揮して調子を合わせる八坂さんは普通にすごかった。
「深山君。沙希と葵を見つけてくれてありがとう」
佐伯さんを避けるように、こっちに来て感謝された。探し出したのであれば誇らしくもなるが、スマホの位置情報の示す先に行っただけにすぎないので、過分なお礼な気がしてならない。
「2人を連れ戻してくれなかったら、まだ怒られてるよ」
チラリと、八坂さんと営業スマイルを顔に貼り付けて談笑している佐伯さんを見る。
「うまく連れて来れたのは高森さんのおかげだから」
拙い説明を理解して、機転を利かせてくれたのは高森さんだった。電話の相手が高森さんでなかったら、大学生達から解放されるのにもっと時間がかかっていたと思う。
「そんなことはない」
声が聞こえていたのか、高森さんは否定する。
「深山……さんだったから上手くいった」
謙虚に、こちらを立ててくれる。
「私だったら説得とか面倒になって途中で止めてた。だから深山……さんがすごい」
予想以上にほめてくる。
「つまり2人ががんばってくれたってことね」
どっちのおかげかで手柄を譲り合う不毛なやり取りが始まると察したのか、美咲さんが強引にまとめる。
不満そうな顔を高森さんはしたが、それ以上は何も言わなかった。芳澤さんが「真白君」と話しに割り込んできたのもあったが。
「向こうはいいの」
「葵ちゃんと楽しそうにしてるから、もういいかなって。一応、謝ったし」
その様子から佐伯さんから怒られたという感じはない。八坂さんに接する姿を見る限りでは、軽く注意を受けたぐらいではないか。
別に説教をしてほしいわけじゃないが、勝手な行動をとって行方が分からなくなったことを、なぁなぁで済ませるのはどうなんだという気はする。引率する大人として、毅然とした対応をとらなくていいのかと心配になる。
「それで真白君に連絡先、教えてもらおうと思って」
何がどうすると、「それで」になるのだろうか。
「美咲さんが知ってるから大丈夫だよ」
「そっか清華ちゃんが知ってるからね」
少し沈黙して芳澤さんは、「て、何が大丈夫なの」とつっこんできた。
「いや、もしも連絡とる用事ができたら美咲さんに頼めばいいかなと」
そもそも芳澤さんから、自分に連絡する用事などあるとも思えない。
「別に伝えてもいいけど。ここで連絡先交換すれば、私を介する必要はないよね」
心底、不思議そうな顔を美咲さんはする。
「そうだよ。だいたい、さっきだって清華ちゃんの連絡先しか知らないから、私が琴音ちゃんに電話したじゃん」
さっきだと芳澤さんの携帯番号を知っていても、あまり変わりはないけども。
「沙希に教えたくないの?」
高森さんまで、芳澤さんの味方をしだす。
別に芳澤さんが迷惑なぐらい連絡をしてくるとか思っているわけじゃない。連絡などすることも、くることもないのだから、交換する必要があると思えなかっただけだ。
「あ、そ、そうなんだ。その無理、言っちゃったね。もう友達だと思ったんだけど。はは、距離感分かんなくてごめん」
しょんぼりどころか、トラウマでも刺激されたかのように芳澤さんは沈んだ空気になる。
「そ、そんなことないよ。えーと、携帯番号でしょ」
あまりの落ち込みように慌ててガラケーを取り出す。
「気にしなくいいよ、沙希。こういう時の深山君は、どーせ面倒くさいとか、どーでもいい理由で言ってるだけだから」
芳澤さんを慰めるにしても、ちょっとひどい言い様ではないか。「なーんだ。そうなのか」と元気に芳澤さんがなったにしてもだ。
「どーでもよくはないと」
「ちゃんとした理由があるなら聞くよ」
「……ないです」
連絡こなさそうだからと言っても、芳澤さんは元気よく「するよ」と答えるだろうし。
「あれ、ガラケーって、どーやって連絡すんの。トークできないよね」
スマホに連絡先交換のためのQRコードを出して、芳澤さんはガラケー相手にはどうすればいいのかなとなっていた。
「電話番号からメッセージ送るんだよ」
ひょこっと顔を椎名さんが出す。
「おばあちゃんガラケーだから、それで連絡とってる」
「ふーん、そうなんだ。メッセージなんて使わないから、どれだろ」
アイコンを探す芳澤さんに、「これだよ」と美咲さんが教えている。
「借りるね」
手に持っていたガラケーを、油断していたこともあって椎名さんにひょいと取り上げられる。
「えっと、おばあちゃんのと一緒だから、これだ電話番号」
暗証番号のロックなどかけていないため、使い方を知っていれば個人情報は勝手に見られてしまう。
「この番号に送ればいいんだよ」
「あ、あの、個人情報保護的なのは……」
抗議の声をあげるが、高森さんの「女子と連絡先交換できるから問題ない」と無茶苦茶な理屈でスルーされた。
「メッセージ送ったからね」
ガラケーを返してもらうと、確かにショートメールが1件届いていた。名前を登録しようとすると、ガラケーが振動し立て続けに2件のショートメールの着信を告げた。
「私達も送っておいたよー」
「登録するように」
どういうわけか椎名さんと高森さんも、スマホからショートメールを送って登録することを求めてきていた。
「……分かったよ」
フルネームで登録したいのに、学校も違う3人の名前は正確な漢字が分からない。かといって、わざわざ漢字を聞くのも恥ずかしいので、とりあえずカタカナで入力しておく。
「そーいえば、ここに来て真白君と写真とか撮ってないよね」
大発見かのように芳澤さんは言うが、カメラ係をしていたのだから写真を一緒に撮れないというのは当たり前だ
「言われてみれば。記念に撮っておこうか」
美咲さんの提案に、まぁ1枚ぐらいは記念写真があってもいいかと思う。アイドル候補な美少女達に囲まれたハーレムな写真なんて、一生で二度と撮る機会があるとは思えないし。
「なーに、してんの」
自分一人が話に加わっていないことに気づいたのか八坂さんが輪に入ってくる。
「深山君と写真を撮ってないなって。それで記念に1枚って。葵も入ってよ」
説明されて、「いいよ~」と気軽に八坂さんは返事をする。
「じゃあ深山君が真ん中ね」
端っこでいいのに、と口にする前に「私、隣ねー」と芳澤さんに腕を組まれる。それだけならまだしも、後ろから椎名さんと高森さんもくっついてくる。
「えっ、あ、あの」
ドギマギしていると「入んないから、もっとくっついて」と美咲さんが、手を伸ばしてスマホの位置を調整する。
「ち、近いというか」
「しようがないじゃない。入んないんだから」
美咲さんまで密着してきて、身動きが全くとれなくなる。
「モテモテじゃん。この写真が流出したら大スキャンダルだよ」
笑いながらの八坂さんの指摘に、ファンにバレたら刺されるかもと恐怖を感じる。
「流出って誰がするのよ」
ここにいる6人――内1人はスマホにするまで預かっておいてもらうだが――でしか共有しないのに、と美咲さんは苦笑する。
「えー、それはー、一番しそうなのは私だね」
自己申告する八坂さんに、「しちゃダメだよー」と珍しくも芳澤さんが注意する。
「次に可能性が高いのは沙希だけどね」
「えぇー、しないってー」
楽しそうに芳澤さんと八坂さんが言い合う。
「実際やるのは陽菜だったりする」
ぼそりと高森さんがもらす。
「わ、私が。うー、言われるとするかも」
急に不安になったのか、椎名さんは「大丈夫かな」とぶつぶつ言う。また、妙な物語を展開してるのかもしれない。
「普通にしてれば流出なんてしないでしょ。というかスキャンダルって誰のよ」
全員がただの中学生なのに流出を警戒してどうするんだと、美咲さんはあきれる。
「決まってるじゃん」
ビシッと八坂さんに指を指される。
「深山君の。そりゃ、まぁ、クラスじゃ大ニュースになるかもだけど」
かもじゃなく、絶対だ。
「そうなったら登校拒否になるから流出しないで」
恥ずかしくて学校に行けなくなる。美咲さんと芳澤さんは、よく分かっていない感じで頷いた。
「おーい、何やってる。そろそろ帰るぞ」
今は佐伯さんが一人になっていることに気づいた。へそを曲げられたら面倒なので、急いで帰る準備をすることにした。
「写真、スマホにしたらね」
そっと美咲さんに耳打ちされ、約束を覚えていてくれていることに笑みがこぼれた。




