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25.ただのバーベキュー好きだよなぁ

 食材を車から運んでくると、佐伯さんがコンロ2つで火起こしをしていた。炭で火を起こす姿はベテランの風格があった。


「佐伯さんってキャンプが趣味なの」


 テーブルの上に食材の入ったクーラーボックスを置きながら、椎名さんに聞いてみる。


「さぁ、初めて会った人だから」


 てっきり普段からレッスンなどで関わりがあると思っていたから、初対面というのは予想外だった。


「素人の動きではないよね」


 手際よく作業する様子と、真剣な目つきの佐伯さんを見て、かなりのバーベキュー経験者であることに賛同してくれた。


「戦場帰り、学生時代はサバイバルをしてたとかかも」


 つぶやきに、どう答えていいか分からなかったので、聞こえなかったことにした。

 高森さんも同じように考えたのか、いつものこととスルーしたのか不明だが、ゲーム機を取り出してプレイを始めた。


 ともあれ荷物運びが2人の助けもあり1回で終わったため、思いつくやることはなくなった。


「あの食材を持ってきたんで、次は何を……」

「遊びに行った子達を呼んできて。こっちは私がやるから」


 指示を佐伯さんに仰げば、こちらを向くことなく火加減に目を凝らしながら告げてきた。


「川の方に行くとか言ってたよな」


 荷物を取りに行く前に、そう芳澤さんと八坂さんを誘っていた。


「どこ行くの」

「美咲さん達を呼びに」


 小首を傾げる仕草がかわいすぎて、椎名さんから目をそらす。


「スマホに連絡すれば」


 当たり前のことを思いつきもしなかった。

 ショートメールでメッセージを美咲さんに送る。


「ガラケーなんだ」


 興味深そうに手に持つガラケーへ、椎名さんは視線を向けている。珍しいかもしれないが、そんなにじっくりと見るようなものではないと思う。


「う、うん、そうだけど。聞いてなかったの」


 ガラケーだから写真を撮られたり、アップされたりすることはないから大丈夫と説明して参加の了承を得たのではなかったのか。


「言ってたかもだけど、覚えてない。聞いたのは、清華の友達が荷物運びとかのために同行するっていうぐらいじゃなかったかな」


 確認を求めるかのように椎名さんは、高森さんの方を見る。

 ゲーム画面から少し顔をあげて、高森さんは「うん、そのぐらいしか聞いてない」と答えた。


 真面目な美咲さんであれば事細かに説明するだろうから、事務所の人から参加が決まったとだけ伝えられたのかもしれない。グループが崩壊寸前なのが正しいなら、メンバーのコミュニケーションがとれていないというのはありそうだし。


「今から戻るって」


 ガラケーが震え、美咲さんからの返信を確認する。


「それで、どうしてガラケーを使ってるの。生き別れの家族の形見とか」


 期待感のこもった熱いまなざしの椎名さんに、「面倒くさいので」と本当のことを言えなくなる。

 勘違いで心配してきた美咲さんには、誤解をとかないと本当に大変なことになりそうだったので、きちんと話さないといけなかった。しかし、二度と会うことのないだろう椎名さんなら適当に思わせぶりな感じにしてもいいか。


「あぁと、じいちゃんから……」


 もらったというのは本当だ。

 生き別れてもいないし、形見でもないけど。


「そうなんだ。謎の暗号とかが残されていたりしない」


 信じられないぐらいに食いついてきた。

 どうしよう。美咲さん以上に本当のことを言わないとやばい人だったみたいだ。このままだと、とても面倒なことになりかねない。


「ど、どうだろうね。そんな細かく中身は見てないから。でも、多分ないんじゃないかな」


 多分どころか、暗号文など間違いなく残されていない。仮にあったとしても本人に内容を聞けばいい。


「ちゃんと調べなきゃダメじゃない」


 なぜか怒られる。


 助けを求めて、高森さんを見る。

 目が合うと、あげていた顔をゲーム画面へと向けて指を動かし始める。面倒だから関わり合いになりたくないという、あからさまなメッセージとしか思えなかった。


「財宝のありかとかだったらどうしよう」


 いつの間にか財宝とか言い出している。暗号が残されているのは、すでに確定しているのが恐ろしい。


「それを狙う組織とかも、やっぱり出てくるよね。そうすると、こっちも何かないと。えーと、武術とか習って――いるわけないか」


 人の身体を見て、急に現実的にならなくてもいいんじゃ。そりゃ武術を習うどころか、運動系の部活にすら入っていないけど。


「あ、秘めた力とかあるかも。清華が襲われて、それで力が解放されるとかすごく王道な感じだよね」


 王道な感じを肯定するのはかまわないが、その秘めた力とやらを解放するのは誰ということになっているんだ。しかも、なぜか美咲さんが襲われることになっているし。


「まーた、変な空想してるの。深山君が困ってるじゃない」


 正しく天の助けだった。

 暴走する椎名さんに、あきれたというように戻って来た美咲さんが声を掛ける。芳澤さんと八坂さんの姿はないが、一緒じゃなかったのか。


「えっ、そんなことないよ。万が一に備えた対策をと」


 いたずらを見つかった子供みたいに椎名さんは弁解をする。


「びっくりしたよね。陽菜は、時々じゃないか、けっこうこんな感じで、おかしな妄想を口にするから。その時は相手しないで聞き流しておけばいいよ」


 まともに相手をした経験からか美咲さんが忠告してくれる。


「陽菜も何を考えても自由だけどね、口に出して人に迷惑をかけたらダメだって言ってるでしょ」

「わ、分かってるよ。えと、深山君、ごめんね」


 ウィンクしながら手を合わせて謝られる。


「だけどさ、財宝辺りまではある感じだよね」

「ないです」


 あまりのかわいさあふれる謝罪に、好きなだけ妄想でも何でもしてくださいとなってしまいそうになったが、どうにか踏みとどまる。


「暗号のとこからないです」


 本当は家族の形見からないのだけど、その辺りは適当に話を合わせておけとなっていた、自分に非もあるのでふれないことにした。


「うぅ、じゃあ、ただのガラケーなの。精霊が宿っているとかもない」

「はい。精霊とか宿っていないし、何か特殊なことできるといったこともありません。ただのガラケーです。」


 大きなため息をついて、「何もないか」とうつむく。

 落ち込みようにかわいそうになり、どうすればと美咲さんを見る。


「気にしないで、いつものことだから。あぁなってるけど、すぐに別の事に興味を持って元気になるからさ」


 高森さんの態度からも、そうなんじゃないかとは思うが、これが「いつものこと」というのもどうなんだ。


「マンガとか小説が好きすぎるっていうか。異世界転生っていうんだっけ、してみたいなぁとかよく言ってるし」

「……大丈夫なの」


 家庭とか学校生活に問題を抱えているんじゃないのかと心配になる。


「深山君の面倒くさいと、だいたい同じだよ」


 一瞬そっか同じかと納得したが、すぐに何がとなる。


「口癖ってこと?」


 同じの意味は、それぐらいしか思いつかなかった。


「別に深山君は、面倒くさいは口癖じゃないでしょ。同じっていうのは、行動する時の理由っていうのかな」


 行動しないじゃなくて、する理由が面倒くさいからと見抜かれているというのは嫌になる。


「陽菜は、何かする時の基準が物語ぽい要素があるかどうかなの。本人が言っているというか、私がそう感じてるって話だけどね」


 分かったような分からないような。

 物語の主人公とか登場人物に憧れているみたいなことでいいのか。


「アイドルよりも漫画家とか小説家を目指した方がいいんじゃ」


 ガラケーを使っているから暗号だ、財宝と言い出すようなレベルだと、創作者の道を歩んだ方がよさそうな気がする。


「絵も文章も、才能がなさすぎてあきらめたって」


 がんばってみればいいのに、と美咲さんは思っているみたいだった。


 まぁ単純に才能というのであれば、トップアイドルといって誰も疑わない外見を最大限に活かすべきということになる。

 そうすると物語のヒロインというのは確かに適役ではある。どうやったらなれるのかは定かではないが。


「清華、何か事件が起きそうな、いわくありげな祠とかなかった?」


 立ち直ったのか椎名さんは、周囲に物語ぽいアイテムがなかったか美咲さんに聞き始めていた。

 ため息をつきながらも、いちいち相手をしている辺りが美咲さんのお人好しなところだと思う。


「あー、もう食べれそうだー。お腹すいたよ~」


 戻って来た芳澤さんは、着々とバーベキューの準備を進める佐伯さんに近づく。


「もう少し待ってね。おいしく焼くには、順番とか色々とあるんだから」


 いつの間にか、食材をテーブルに並べ網に並べるタイミングを計る姿は頼もしくあった。美咲さんのおじさんが下ごしらえをしてくれた食材は、焼いたら絶対に美味しくなるというのを感じさせる。


 気をつけた方がいい、車の前での高森さんの言葉が唐突に浮かぶ。

 あの時は推理小説の空気を感じたが、肉を網に投入する最適なタイミングを見極めようとする佐伯さんの真剣な面持ちに、何に気を付ければいいんだろうとなる。おいしい肉を焼こうとしている、ただのバーベキュー好きにしか見えない。

 そりゃ椎名さんばりの妄想をすれば、毒を入れようとしているから真剣になっているとかはいえる。


 高森さんにからかわれただけな気がしてきた。もしくは、椎名さんと同じ妄想癖があるとか。

 だいたい気をつけろとか言っておきながら、当の高森さんは佐伯さんを見もせずにゲームをしている。

 お腹もすいたし、余計なことは考えずにバーベキューを楽しむことにしよう。


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