表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/32

24.推理小説みたいな始まり方

 キャンプ場への道中の車内の空気は悪いものではなかった。

 楽しそうにしゃべる芳澤さんに相槌を打つ美咲さんと、たまに会話に椎名さんが混ざるという感じだった。八坂さんは寝ていて、高森さんは最後尾で様子は分からなかったが同じく眠っていたのだと思う。


 トイレ休憩もかねてコンビニ寄った時に、お菓子を買うのを美咲さんが止めた以外はトラブルもなかった。

 3時間近くをかけて東京西部まで来ると、大自然が広がっている。これは本当に同じ東京なのかと思ってしまう。


「着いたよ」

 車を止めて佐伯さんが言うと、みんなが外に出る。

 自然が近いからか吹く風は街中よりも涼しく、澄んだ空気もあって30度を超えた気温のはずなのに心地よさを感じた。


「わー、きれいだねー」


 案の定というか芳澤さんははしゃいでいる。


「早く行こうよ」


 放っておくと走り出して行ってしまいそうだ。


「元気すぎー」


 寝ぼけ眼の八坂さんは、あくびをしながら周囲を見回して嫌そうに「虫とか出そうじゃん」とぼやく。

 これだけの自然が広がっているのだから、虫は出るに決まっている。


「暑すぎて、今の時期は日中に虫はあんまりでないらしいよ」


 椎名さんの言葉に、「マジでよかったぁー」と八坂さんは喜ぶ。

 そういえばセミの鳴き声とかは聞こえない。そりゃあ虫達だって暑い時間帯は、日陰など少しでも涼しい場所で休んでいたいよな。こんな暑い中で、仕事だ遊びだと進んで活動する生物は人間ぐらいなのかもしれない。


「場所を先に確認するから、手荷物だけ持って付いて来て」


 そう指示した佐伯さんに、「ちょっと」と呼ばれる。


「飲み物だけ一緒に持ってくからお願いね」

「あっ、はい」


 トランクからペットボトルの入ったクーラーボックスを取り出す。


「手伝おうか」

「大丈夫」


 美咲さんの申し出を遠慮してクーラーボックスを肩に担ぐ。ペットボトル10本分の重さはずしりときたが、両手で袋を持った昨日よりは楽だった。


「コップとかもついでによろしく」


 少し離れた所から佐伯さんから頼まれる。


「いいよ、私が持ってく。深山君は手がふさがってるでしょ」


 いつもであれば手ぶらなのだが、今日は珍しくというか美咲さんから事前に言われていたので荷物があった。


「チェンジは持ってきたけど、こんなとこでやるの」


 ゲーム機のチェンジを持ってきてほしいと昨日の夜にメッセージが送られてきて、バーベキューには使わないだろうと思いながらもバッグにつめた。


「多分、琴音が自由時間にやるから」


 一緒にプレイしてほしいということなのかもしれないが、高森さんとの友好度が低いので無理じゃないかと思う。どんなゲームをやっているのかも分からないし。


「近くで別のゲームをやっているでもいいの。1人にしたくないだけで」

「それならいいけど。椎名さんが傍にいるんじゃないの」


 仲がいいのか、依存しているのかは分からないが、高森さんは朝からずっと椎名さんにくっついている。


「誰もいなかったら陽菜は一緒にいるよ。だけど、それだと陽菜は好きなことできないし。琴音と遊ぶのも楽しいからいいって言うだろうけどさ」


 椎名さんがいいなら、あまり余計なことをしなくてもと思う。


「バーベキューに琴音は最初、来ないって言ってたの。それを陽菜が誘って、渋々だったけど来ることにして。それで責任を感じて、ずっと一緒にいるっていうのもよくないでしょ」


 よくないのかな。人付き合いに関して、どうこう言えるだけの経験も自信はない。リア充コミュ強の美咲さんが言うのだから、世間一般的には正しい意見になるのかもだが。


 第一印象で決めるのはよくないけど、高森さんは自分と同じ陰キャぼっちの側に属している。

 だったら変に世話を焼く必要はない。陰キャぼっちというのは、、放っておけば勝手に楽しむものだ。

 でも、本当はさびしいのに「1人の方が楽しいから大丈夫」と強がるのも陰キャぼっちである。

 タイプによって適切な扱いは違うので、気をつけないといけない面倒くさい存在なのだ。


 いや高森さんは陰キャではあっても、ぼっちではないか。少なくとも椎名さんとは仲良くしているのだから。

 とにかく、そんなに気をつかわずともいい気がする。みんな仲良くが信条の美咲さんには、難しい話なのかもしれないが。


 陰キャぼっちの扱い方を考えていると、バーベキューハウスに着いた。

 夏休みとはいえお盆前の平日だからか、お昼時なのに他の利用客はいなかった。


「貸切ってるから好きなとこを自由に使っていいよ」


 5組ぐらいは使えそうなバーベキューハウスを、10人にも満たない小勢で貸切ったというのか。どうしてそんなことを。


「真ん中にしようよ」


 何一つ疑問を抱いていない感じで芳澤さんは、中央のテーブルを確保する。


「荷物はそこらに置いて」


 佐伯さんの指示に従い、バーベキューの準備に取り掛かる。


「網とか火の準備は私がするから、それまでは近くで遊んでて」


 素人目から見ても、手際がいい感じでバーベキューの準備を佐伯さんは始める。慣れているということもあって、今日の引率を任されたのかもしれない。


「食材とか車から持ってきて」


 荷物運びなどの雑用係として呼ばれているのだから、嫌とかいうこともなくうなずいて車のカギを受け取る。


「車のとこ行くの。じゃあ私も付いて――」


 クーラーボックスから取り出したペットボトルのジュースを注いだコップを飲みながら、どういうわけか芳澤さんが付いてくると言い出す


「ダメダメ、芳澤さんはこの辺りにいてね」


 言い切る前に佐伯さんからのダメだしが入る。


「えー、どうしてですかぁ」


 外に出したら迷子になりかねないからだと思う。


「美咲さん2人のことをちゃんと見てて」


 2人というのが勝手に行動するであろう芳澤さんと八坂さんを指しているのは間違いない。


「は、はい。じゃあ2人共、川の方に行こうか」


 いつものことなのか美咲さんが、2人の面倒を頼まれる。


「深山君、荷物とかお願いね」


 芳澤さんと八坂さんの2人を捕まえて、美咲さんは川の方に向かう。


「じゃあ行ってくるんで」


 バーベキューハウスに残る椎名さんと高森さんに一応、声を掛ける。特に返事はなかったが、気にせずに来たばかりの道を戻る。

 食材はクーラーボックス1つにまとめられていたが、他にも食器やお菓子だのが入った袋があり、荷物を全て運ぶには2往復はしないといけなかった。駐車スペースまでの距離はそこそこあるが、街中と比べれば気温は低いためそんなに苦労せずにすみそうだった。


「貸切ってるなら来るときに全部、持ってくればよかったのにね」

「重いの持ちたくなかった」

「そうかな」

「子供にクーラーボックスを2つも持たせたら印象が悪い。だから1つは持たないとになるから、それが嫌で後で運ぶとか言ったに決まってる」


 火起こしを熱心にしている姿から、ただ楽をしたいというわけではないと思うけど。


「て、どうして」


 駐車スペースまで半分ぐらいの所に来て、椎名さんと高森さんが付いて来ていたことに気づく。

 振り返って椎名さんの顔を見たら、かわいすぎて直視できないのですぐに前を向く。


「手伝おうと思って。荷物の量的に1人だと1回じゃ終わんないでしょ。昨日の買い出し行かなかったし、これぐらいのことはしないと」


 ありがたい申し出なのだが、出発前に一声掛けてくれていれば驚かずにすんだのに。


「それは助かりますけど、黙ってついてこないでも」

「佐伯さんに止められちゃうもの」


 椎名さんが荷物を取りに行くのに付いて行くからといって、いちいち止めはしないんじゃないか。


「男子と一緒で何かあって問題になったらどうするんだって」


 そういう心配をするというのは普通なはずなのに、警戒をしない美咲さん達が当たり前になっていて新鮮な感じがした。


「……あるかもしれないから気をつけた方がいいとは思いますよ」

「問題を起こすような人を清華が連れて来るわけないし」


 さすが美咲さんというべき、すごい信用だ。


「それと聞きたいこともあったから」


 会ったばかりなのに何を。


「答えられることならいいですけど」

「簡単なことだよ」


 そういう場合は、だいたい難しいことだ。


「清華と付き合ってるの?」


 びっくりするぐらいに簡単な質問だった。いや、もしかしたら引っかけ問題かもしれない。


「誰がですか」

「君が」

「なら付き合ってないです」


 10歩ほど進んだところで、「そう、分かった」と椎名さんは口にした。


「じゃあ友達ってこと?」


 今度は少し難しい。

 携帯番号を知っていて、休日に遊んだこともあるのだから、これは友達といってもいい気がする。だけど、用もないのに連絡を取り合うということはない。


 友達と知り合いの中間というのが今の関係だと思うが、それに適した言葉は何になるのだろうか。


「クラスメートっていうのが一番、正確なんじゃないかな」


 今、どんな表情を椎名さんはしているのか確認できなかった。

 そのまま車まで会話はなかった。


 車のロックを解除し、トランクを開ける。食材の入ったクーラーボックスを取り出し、地面に下ろす。


「袋の方は私達で持つよ」

「お願いします」


 食器も紙の皿のため、袋は大きいが重さは大してない。


「琴音ちゃんは、こっちを持って」


 一言も発しないため高森さんがいることを忘れていた。


「ねぇ」


 その高森さんから話し掛けられる。


「な、何、重かった」

「持てる」


 違ったようだ。


「名前、何ていうの?」


 朝、伝えたような気がするけど。あれ、美咲さんが言っただけか。


「ごめん、自己紹介してなかった。深山真白です」

「深山……さん?」


 なぜか疑問形だった。


「同級生だから、さんはなくても」


 ジッと見られ、何か気にさわることをしてしまったのかと不安になる。


「佐伯と、八坂さんには気を付けて」


 理由を聞こうとしたら、椎名さんにくっついていた。


「ど、どうしたの」


 いきなり後ろから抱き着かれ、椎名さんがこちらを少しにらんでくる。どうやら、高森さんに何かしたと思われたらしい。


「深山……さんは、何もしてない。くっつきたかっただけ」

「そうなの、ならいいけど」


 言葉も行動もよく分からなかった。

 気をつけろとは、どういう意味なんだ。これが推理小説の世界だったら、これから殺人事件が起きるといった展開が待っているけど。


 多分そういうことじゃないよな。

 浮世離れしたかわいさの椎名さんと、ミステリアスな言動の高森さんのせいか、アリバイトリックの使われた殺人事件が起きる可能性をどうしても否定できなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ