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21.これは本当にグループ崩壊寸前だと思う

 バスの冷房はきちんと効いていたのだと、熱風を肌に受けると理解させられた。


「ふぇー暑いよぉ」


 芳澤さんはバスを降りた途端に暑さに敗北していた。

 暑さから逃れるように、目的地であり、待ち合わせ場所でもあるショッピングセンターへと急ぐ。


「うーん、涼しい」


 入店すると屋外より10度は低い空間が広がっており、汗が引いていくのが分かった。


「まだ、来てないみたい」


 冷房を満喫している間に、美咲さんはきちんと連絡をとっていた。


「じゃあゲーセン行こうよ。ゲーセン」


 元気を回復した芳澤さんの提案を受け、ゲーセンで待つことにする。


「買うのって、ここでいいの」


 少し疑問に思い聞くと、美咲さんは「そうだよ」と答える。


「どうして?」

「バーベキューの食材って、もっと専門的な所で買うのかなって思ったから」


 一般的なスーパーとかでも手には入るだろうけど、きちんとしたものは専門店的な所で売っているイメージがあった。


「食材っていうか、飲み物とかお菓子を買うのが今日はメインだから」


 肉とか野菜を買うのではないらしい。確かに、バーベキューに必要な具材を全て買い揃えるのであれば、荷物持ちが男子――それも体力があるとはいえない――1人というのは心もとない。


「お肉とかはおじさんが用意してくれて、下ごしらえもやってくれるの」


 軽食もメニューにある喫茶店の店主だけあって、その辺りはお手の物に違いなかった。


「私も手伝うって言ったのに、一人でやった方が早いからいいって断られたけど」


 真面目な美咲さんは、全てをやってもらうことに納得していないようだった。


「やっぱりプロだから自分だけでやりたいんじゃないの」

「私を甘やかしたいだけだよ。お返しをしようとしても、『楽しめばいいから』とかしか言わないし」


 これが芳澤さんだったら素直に甘えている気がするけど、美咲さんの性格だと難しいのだろう。


「じゃあ楽しんでいる写真を見せないとだね」


 買い出しもふくめて、バーベキューは楽しい中学校時代の部活の思い出作りのためにやるのだ。その光景を写真に収めることになっている。


「そっか。じゃあ、いい写真を撮ってもらわないとだ」


 まるで僕が撮るかのような言い方だった。


「今日は深山君が撮らなかった誰もやってくれないでしょ」


 事務所の人が引率してくれるバーベキューと違って、買い出しで撮影をしてくれる人はいない。


「でもカメラないよ」

「スマホで撮るに決まってるじゃない。お店の中で、カメラで写真を撮ってたら注意されると思うし」


 ガラケーだから、スマホを持っていないので変わらない。


「撮る時は貸してあげるって。使い方も教えるよ」


 簡単に言うが、写真を撮るためとはいえ男子に愛用のスマホを手渡して大丈夫なのか。勝手に中を見られたら困るんじゃないのか。見方は分からないけど。


「使い方って言っても、シャッターボタンを押すだけだけど」

「がんばるよ」


 どうせ断ることはできないとあきらめる。


「そういえば沙希は」


 いつの間にか芳澤さんの姿が見えなくなっていた。


「ゲーセンにもう行ってるんじゃないの」


 予想の通りにゲーセンから芳澤さんが出てきた。向かう時の元気さは欠片もなく、ひどくションボリしている。


「ど、どうしたの」


 泣きそうな感じになっているのに慌てて聞く。


「クレーンゲームで取れなかったんでしょ


 図星だったのか、芳澤さんは「うぐぅ」とうめき声をもらす。


「深山君、取ってとか言い出しても放っておいていいからね。というか、絶対にやったらダメ」


 えらく念押しするところからして、これは過去にやらかしているに違いなかった。


「かわいい猫がいてそれで。今月のお小遣いがぁ」


 時間的にそんなにプレイできなかったと思うけど、すでにお小遣いが大変なことになっているのにやってしまったのかもしれない。


「はいはい」

「清華ちゃんだって見たら絶対にほしくなるからぁ」

「はいはい」


 あまりの相手にされなさっぷりに芳澤さんがかわいそうになってしまう。


「お盆でお小遣いもらえるんじゃないですか」


 助け舟というわけでもないが、臨時収入の可能性を指摘してみる。


「あっ、そうだよ。おじいちゃんとおばぁちゃんからもらえるよ。わーい」


 まだもらっていないのに、ここまで喜べるというのは才能な気がする。あげる方も、こんなに喜んでくれれば満足するに違いない。


「もらってもすぐに無駄づかいして、なくなったぁしちゃダメだからね」

「しないよ~。多分」


 きっとすると確信させてくれる。


「やっほ~、お待たせー。元気してた」


 Tシャツに短パン、サングラスをかけたショートカットの美少女が、いきなり登場した。


「葵ちゃんだぁ。おはよー」

「おはよー、沙希」


 朝じゃないのにと思ったが2人は通じ合っていた。


「清華ちゃんも、いぇーい」


 意味不明なテンションに美咲さんは、天井を向いてため息をついている。


「おっ、で、この冴えない感じのおっさんな服装のが雑用係?よろしくね。八坂葵だよ~」

「あっ、はい、よろしくお願いします」


 こちらのあいさつなど見ておらず、芳澤さんに絡んでいた。


「ちょっと葵、失礼でしょ」


 怒る美咲さんに、「何が」という顔を八坂さんは返している。


「もう、いいから。ごめんね、深山君」

「気にしてないよ」


 そんな失礼なことを言われてもいないし。


「早く買いに行こうって」


 芳澤さんと肩を組んで八坂さんは、さっさと歩き出す。美咲さんは「もう」とつぶやきながら、仕方なさそうに後を追う。

 崩壊寸前というのが、八坂さんの登場でようやく実感できた。美咲さんと八坂さんの実際の仲がどうかは分からないが、一緒に活動する上での相性は悪いだろうなと察せられた。


「好きなお菓子買っていいんでしょ」


 まるで、お菓子が買えるから来たというようだった。


「そうだけど、みんなで食べられるのにしてよ。メインはバーベキューだから、あんまりたくさん買って余らせるのもよくないし」

「でもさぁ余ったら事務所で食べればいいじゃん」


 自分の物にするではないため、「そうだけど」と美咲さんも強く言い返せない。


「そっかぁ。じゃあ、みんなの分も買っちゃおうか」

「余った分はいいけど、わざわざ買うのは違うでしょ」


 わいわい言いながら、お菓子売り場へと向かう。

 その間、女子3人の会話に混ざることなどできず、後ろから黙ってついて行くことしかできなかった。


「あっ、これ好きなんだぁ」

「こっちもおいしいよねー」

「みんなで食べるから」


 三者三様にお菓子を選んでいく。

 荷物持ちということで買い物カートを押していたが、お菓子売り場につくと手持無沙汰になった。


「そうだ美咲さん」


 役割を思い出して美咲さんに声をかける。


「写真を撮らないとだ」

「あぁ、そうだった」


 美咲さんはスマホを取り出して、「このボタンを押したら撮れるから」と本当に簡単に使い方を説明してくれる。


「えーと、こんな感じでいいの」


 芳澤さんと八坂さんを画面に収めながらボタンを押す。カシャっという音ともに写真が撮れる。


「顔が映って、商品名は入らない方がいいかな」


 とはいえ普通に選んでいる所を撮ると、棚の方を向いているので顔は映らない。


「2人とも、少しいい」


 呼び掛けて美咲さんは立ち位置を調整する。


「やらせじゃない、これだと」


 八坂さんの言う通りだ。


「保険で撮っておくんだよ」


 素人――スマホを使っての写真撮影など初めての――に任せっきりにして、使える写真が1枚もありませんでしたというのもまずい。


「だけどさぁ、これだとバーベキューっていう感じしなくない?」

「珍しくちゃんとしたこと言うねぇ、沙希」


 バーベキューの食材をみんなで買いに来たという風には見えないよな。


「どうせ、やらせなら、お肉のとこでも撮っちゃおうよ」

「えぇ、それは……」


 同じやらせにしても、買わない物を買ってるように撮るのはどうなんだと美咲さんは感じているみたいだった。


「それこそ保険だって」


 気にしすぎと八坂さんは笑い飛ばす。


「雑用係も好きなの入れたらぁ」


 美咲さんのスマホを手に所在なさげに立っていると声を掛けられた。


「その呼び方は。あぁ、深山君も入れていいよ」

「だってさ、真白君は何が好きなの」


 微妙な空気を吹き飛ばす芳澤さんの明るさがありがたかった。


「あんまり、お菓子は食べないから分かんないな」

「そうなの。人生かなり損してるよ。じゃあ私のお勧めを教えてあげるよ」


 言うと自分の食べたいお菓子を手に取って、説明をした後に買い物かごに「深山君の分ね」と投げていく。おそらく芳澤さんの分のお菓子になるだろう。

 お菓子を選び終わると、バーベキュー用の肉のコーナーで「保険」で撮影をする。その後にジュースやお茶のペットボトルを10本ほど買い物かごに入れる。


「さすがに重い」


 店内だから、まだいいが外に出て炎天下の中で喫茶店まで持ち運ばないといけない。やはり荷物持ちというなら、もっと体力のある運動部の人間を呼んでくるべきじゃないのか。


「がんばって」


 ペットボトルで両手が塞がっていることもあり、お菓子は美咲さんと芳澤さんが持ってくれている。


「じゃっ私はこれで」

「葵ちゃん帰っちゃうの」


 一緒に行こうよと、芳澤さんは誘う。


「帰んないよ。この後は友達とカラオケ。沙希も来る?」


 別の友達と遊ぶ前に、八坂さんは付き合ってくれたらしい。


「おもしろそうだけど……」


 チラリと美咲さんの方を芳澤さんは見る。


「行ってもいいよ。荷物は深山君と運んでおくから」


 許可を出したが、「明日の朝、寝坊しないことが条件だけど」と釘を刺すのは忘れなかった。


「しても車の中で寝ればいいから大丈夫でしょ」


 大丈夫じゃないと思ったけど、八坂さんなら問題ないのかという気もする。


「うーん、今日は行かないよ。2人に荷物を持たせるのも悪いし」

「そぉ、残念」


 残念さはあまり伝わってこない。


「そんじゃあーね。2人とも、また明日~」


 ナチュラルにカウントされていないが、この短時間で八坂さんだから仕方ないと既に思えるようになっていた。


「またね~」


 ぶんぶんと手を振って芳澤さんは別れを惜しんでいる。


「私達も行こっか」


 八坂さんの姿が雑踏に消えると、美咲さんに促される。


「深山君、無理そうだったら言ってね。私達も持つから」

「分かってる。だけど任せてよ」


 荷物持ち係の仕事はまっとうさせてもらう。

 その決意はバス停に向かうため、冷房のない世界に出た途端にくじけそうになってしまったけど。


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