14.特別扱いはしてしまう
「お待たせ。けっこう混んでて」
買ってきたアイスを美咲さんと松原先輩がテーブルの上に並べる。
「カラフルだね」
美咲さんが自分のとったアイスは、アメリカ人がよく食べていそうな色取りのものだった。どんな味がするのか全く想像もつかない。
「期間限定のやつだよ」
スマホでアイスの写真を撮りながら教えてくれる。
「私のと一緒に撮ろうよ」
「いいですね」
角度などを気にしながら上野さんと写真を撮る姿は、これが「映える」というやつなのかと興味深かった。
気づけば松原先輩も自分のアイスの写真を撮っていた。
自分もガラケーで撮った方がいいのだろうかと思ったが、さすがに止めておくことにした。
しかし、これ撮影が終わるまで食べちゃダメなんだろうな。
「清華ちゃん、一口ちょうだい」
「どうぞ」
写真を撮らない身としては、ようやくという感じで食べ始める。
そういえば普通に美咲さんは、上野さんの隣に座っているな。上野さんの前に自分が座っている。松原先輩の座る場所は、そこでよかったのだろうか。2人の今の関係を思えば間違ってはいないのかもしれないが。
チラリと松原先輩の横顔を見れば、おいしそうにアイスを食べていた。上野さんの近くに座っていないことなど全く気にしていないというように。
「次はゲーセンに行くんだっけ」
上野さんが予定を確認する。
「そうでしたけど買い物に思ったより時間を使っちゃったので」
どうしましょうという顔を美咲さんはする。
「最近はゲーセンも行けてないから、見てみたいはあるんだよね~」
「リズムゲーム好きでしたもんね」
「やりたいんだけどさ、やっぱり忙しくて」
現役アイドルとなれば、毎日をのんべんだらりと過ごしている自分とは違い、放課後や休日の予定はぎっちりと埋まっていそうだった。芸能活動やレッスンと学業の両立もしないとで、すごいなぁとただ尊敬する。
「そういや新しいのが入ったな」
「知ってる。だから1回ぐらいやってみたいんだよ」
ちゃんと付き合っている頃は一緒にゲーセンとかも行ってたんだろうな。ところどころにでるカップルでした感が物悲しく思えてくる。
元々の予定だったし、主役の上野さんもゲーセンに行きたがっているのだから反対する理由はない。
「深山君は、やりたいのある」
到着すると美咲さんが聞いてくれるが、当然ながらゲーセンにも来たことはほとんどない――入ったことはあるがプレイしたことはない――ので首を横に振る。
「荷物番をしてるよ」
なので、そう申し出る。実際、けっこうな荷物量のため持ちながらゲームをするというのはプレイしづらい。
「また見ててもらうのも」
案の定というか美咲さんは難色を示す。
「私達で行ってくるからさ。2人で休んでたら」
上野さんが提案すると、美咲さんは少し驚いたように「それなら、そうしますけど」と応じる。
「行こっか」
「あぁ、あっちの方ぽいな」
仲良さそうに上野さんと松原先輩は連れ立って、リズムゲームの筐体がある場所に向かう。
「朝からあんな感じだったらな」
ぼそりとつぶやくと、「私達も行こ」と荷物の置ける休憩スペースへの移動をうながされる。
「たくさん買ったんだね」
元気のなさそうな美咲さんを見ているのが嫌で、明るい話をと思うのだがコミュ障のため出てこない。黙っていると暗くなる一方なので、とにかく何でもいいと口にしていた。
「あ、あぁ、梨瀬さんが買ってくれたの。似合うよって」
「そうなんだ。アイドルだけあるね」
「アイドルだからって、お金があるわけじゃないよ」
単純にテレビとかにでも出てるんだから、お金もいっぱいもらっているんじゃないのか。
「デビューしたばっかりだし、そりゃ私達みたいな普通の中学生よりは持ってるでしょうけど」
美咲さんを普通の中学生かは微妙な気もするが、金銭面においては自分と大して変わらないか。
「今日は迷惑かけたからって」
「はは、松原先輩と同じこと言ってるね」
迷惑賃はペットボトルのお茶1本だったけど。やっぱりアイドルの方が、普通の高校生よりはお金を持っているのだろう。
「服を見ながらね」
ベンチに腰掛けながら美咲さんは口を開く。話し掛けられているというよりも、独り言に近い感じだった。
「色々と面倒をかけたけど、今日で終わりにするんだって」
アイスを待っている時の上野さんとの会話でも、ちゃんと伝えるのか、自然消滅を図るのかを決めあぐねいるだけで、終わりにするということに迷いはない感じだった。
「松原さんにも、同じようなことをアイスを買ってる時に言われたの。それで、あぁ、私は何をやってるんだろうなって」
高校が別になり、仕事も忙しくなって、距離ができた先輩カップルの仲を取り持とうと、美咲さんは張り切っていた。その結果が、2人の最後のカップルとしてのデートになったのだから落ち込むのは当然だ。
「2人と全く関係ない深山君にも迷惑をかけてさ。本当にごめん」
「気にしなくても……」
「そう言ってくれるけど」
美咲さんの性格からして気にしないですませるというのが無理なのは分かる。
それに「私やアイドルの梨瀬さんと遊べたんだからよかったじゃない。一生の記念だよ」とか言われていたら、少しは迷惑かけたと気にしろよと思っていだろうが。
「そんなに迷惑そうな顔をしてる?」
顔をあげて美咲さんは見てくる。
「3人に迷惑かけたって謝られるから。よっぽど、ひどい顔をしてるのかなって」
「してないよ。いつもより楽しそうなぐらい」
中学、いや小学校高学年の頃から、休日に友達と遊ぶというのはなかった。だから今日は、話しが違うよというのはあったが、友達――と言っていいのかは分からないが――と遊んでいるというのが普通に楽しかった。
迷惑だったなどと微塵も思えない。
「水族館で言った通り、すばらしい1日になったよ」
間違いなかった。
別れることになった――に違いない――2人には申し訳ないけど。
「そっか。私も、2人は残念だったけど、楽しくはあったな」
「知ってる。水族館ものすごく満喫してたし。選んだの美咲さんが行きたっただけなんじゃないの」
クラゲやウミガメ、ペンギンなどを熱心に写真撮影していた姿を思い出す。
「ち、違うよ。本当に穴場で。中は暗いから、顔もあんまり分かんないし。行きたかったっていうのは、その、ほんの少しあるけど」
恐ろしいほど美咲さんはウソをつくのが下手な気がする。
「でも、楽しかったけど、色々と考えちゃうんだよね」
笑顔を引っ込めて美咲さんはため息をつく。
「アイドルになったら、みんなと距離ができるのかなって」
普段から接する人たちがすごい人ばかりになり、普通の生活をするクラスメートとか同世代とは合わなくなるというのは仕方がない気がする。
それが原因で破局するというのは、仲が良かった頃を知っている立場としては複雑なんだろう。
「美咲さんは、別世界で活躍する特別な人だよ」
どういう意味という目になり、まずいと付け加える。
「アイドルだって、ずっと勘違いしてたから」
「同じだと思うけどな。アイドルだって、そうじゃなくたって」
例え美咲さんがアイドルではなかったとしても、自分とは別世界の住人だ。外見や意志の強さ、考え方、どれも自分のような陰キャぼっちとは違う。そしてクラスにもいる陽キャやリア充達とも。
相手に関わらず対等に接し、どのような場所であっても中心になれる特別な人の側にいるのが美咲さんなのだ。
「特別扱いなんかしなくていいのに」
クラスで美咲さんが特別扱いされないのは無理だ。何なら学校全体でも特別扱いされる。望もうが、望まなかろうが。
「深山君みたいに」
いきなり何を言い出しているんだ。
「してるよ。特別扱い」
「どこが」
と改まって聞かれると困る。
「そ、それは……今日、付き合ってることとか」
どうにかひねり出す。
「梨瀬さんのことだよ」
アイドルを特別扱いというのなら、それは上野さんのことだよな。
「私と勘違いするぐらいに、特別扱いしてないじゃない」
「上野さんの前に立てば緊張するし」
「女子と話すのに慣れていないから緊張するやつでしょ」
クラスの女子と話すよりは緊張してるんじゃないかな。
「普通だったら、もっと自分をよく見せようとするよ。クラスの男子が来てたら、きっと張り切ったり、馴れ馴れしくしたりするからね。もしくは一言もしゃべれなくなるか」
しゃべれてはいない気がするけど。
「どうだろう。自分じゃよく分かんないや」
上野さんとの接し方など考えたこともなかった。会話というのも、聞かれたことに応えていただけだった気がするし。
「自分のことは自分じゃ分からないものだよね」
哲学的なことを言って美咲さんは自分の中で納得してくれたようだった。
「できれば、今のまま変わらないでほしいな」
お願いには応えたかった。
「がんばってみるよ。がんばったら変わっちゃうか。難しいな」
「変えた方がいいとこもあるからね」
まぁ、いっぱいあるだろう。
「例えば、どこ?」
「面倒くさがりな所とかじゃない」
笑いながら美咲さんは教えてくれる。
「それは変わんないと思うなぁ」
よほど衝撃的なことが起きない限り、面倒くさがりなのはそのままだと思う。こればっかりはどうしようもない。
「けど深山君が面倒くさがりなおかげで、今日があるわけだからなぁ」
「ガラケーだから誘われたんだしね」
スマホに機種変更をしていたら、美咲さんがおじさんの喫茶店に連れて行ってくれることはなかった。もし誘われていても、上野さんが断って今日はなしになっていたのは間違いない。
「面倒くさがりのままでもいいのかな」
前言撤回のスビートが早すぎる。
「よくはないと思うよ」
顔を見合わせると、美咲さんは「だよね~」と満面の笑みを浮かべてくれた。
自分はきっと幸せそうな顔をしているんだろうなという気がしていた。




