小夜②
伊千子 小夜
15歳
女
中学生
出発前
2022年7月30日 埼玉 午後2時50分
伊千古 小夜は寝ころんでいた。
「・・・」
私はスマホを片手に、一人部屋で写真を眺めていた。
おじいちゃんが愛用している湯呑みと、その横に置かれた老眼鏡のツーショットだ。
あぁ、いい。この生活感。
使い込まれて茶渋の染みついた、この湯呑みを見るだけで安心する。
「小夜ー、そろそろお茶の時間だけどー?」
一階からおじいちゃんの声が響く。
「今行くー」
私は即座に立ち上がった。私は部屋を出て、気持ち早めに階段を降りていく。
おじいちゃんは、リビングのソファで新聞を広げていた。
白髪混じりの髪、深い目尻の皺、それとは相反する若々しいオーラ。
「おじいちゃん、今日のお茶は?」
「ああ、いい茶葉をもらったんだ。一緒に淹れよう」
「おじいちゃん、そのお茶、私が淹れるよ! 淹れ方、ちゃんと教わったし」
「そうか、頼もしいな」
おじいちゃんが細めるその目尻に、私はじんわりと暖かい気持ちになる。
私はお湯の温度にこだわり、慎重に茶葉を開かせる。
おじいちゃんが「上手いもんだな」と呟いてくれるだけで、私は嬉しかった。
「おじいちゃん、最近、何か面白いことあった?」
「面白いこと、か……そうだな、散歩の途中で面白い形の雲を見たよ。
まるで、おじいちゃんが子供の頃によく遊んだ犬のような形だった」
おじいちゃんの子供時代の話を聞くのが好き。
私はおじいちゃんの言葉を一つも聞き逃すまいと、身を乗り出す。
「犬って、前に行ってたごんべえのこと?」
「そうそう」
私はその風景を脳内で想起する。
きっと悪ガキだったんだろうなと、いろんな話から想像はついている。
おじいちゃんは私のそんな考えにも気づかず、淡々と語る。
その穏やかな語り口調こそが、私の癒しだ。
外はカンカン照りの太陽が照りつけているけれど、
このリビングの中だけは、穏やかな時間が流れている。
世間がどうであれ、この平穏がいつまでも続けばいい。
私はそう願いながら、おじいちゃんとお茶を啜る。
「今日も暑そうだね・・・」
小さく呟いた私の言葉は、おじいちゃんには聞こえていなかった。
おじいちゃんはその場で昼寝を始めてしまった。
ふふっと思わず小さく笑い、私はクッションをお爺ちゃんの頭に敷いた。
伊千子 小夜
15歳
女
中学生
会場未到着




