序曲第四部
ナレーション
夕暮れの西日が差し込む、とある街の中央大神殿にて。
「では、決を取る」
神殿中心部に設けられた大規模な教会の天井から下がる、12色の旗の下。
内陣(※1)に置かれた祭壇を背に、初老の男は朗々とした声を発した。
それを発端に、内陣で彼を半円に、一定の間隔ではない位置で囲んだ8人の神官が、一斉に動く。
※1:ミサの際に神官の立つ前方の檀上。教会で最も神聖な場所。サンクチュアリ。
右手を垂直に上げた状態で肘を外側へ曲げ、内側へ向いた掌で、瞼を開いたままの右目を覆い隠す。
左目は、ない。
眼球が取り出された眼窩は暗く、その中には何もない。
声を上げた男も、それを囲む神官たちも、全員左目が存在しない。
男は全員を見渡したのち、ローブが大きくはためくよう、大きな動作で背後の祭壇へ振り返る。
バサッと、白いロープの布が風に打たれる音を出しながら片膝を床につき。
その後ゆっくりと右目を手で隠し、祭壇に向かって顔を上げる。
「この通り、全会一致にございます」
その声に合わせて神官たちも、右目を隠したまま片膝をついた。
恭しい声で報告する男は、だが向かった祭壇に誰もいない。
少なくとも、目にうつる世界には。
しん、と物音1つしない教会ではためく蝋燭の灯が。
風もないのに大きく一度揺らいだ。
そんな「なにか」を聞いた神官たちは一呼吸おいてから右手を下し、立位の状態に戻る。
最後まで膝をついていた祭壇前の男も立ち上がり、再び神官たちへと向き直る。
「・・・空を駆ける者どもに、我らが兄弟。空のミュラーと。時のラハユ。そして今日。地のアルフレッドまでもが。惨たらしい拷問を受けて、死んだ。我らの血肉は。主によってのみ消費されるべきものであり。あれらの様な邪悪に弄ばれて良いものでは。断じて、ない」
男は語る。一節一節を区切りながら。
それらの言葉を、音を、怒りを周囲に染み込ませるように。
「そして供物もまた。あれらに、食い荒らされ続けている。主へ献上するための供物が」
男は先程とは打って変わったようなゆったりとした動きで、神官たちの前を順々に歩きながら語る。
カツン、カツンと清掃の行き届いた清潔な床に、革靴のあたる音。
「そして今。我らが主の許可と。我らが兄弟たちの賛同にて。次なる供物の準備を。始めることとなった」
カツン、と男はそこまで語って足を止める。
そして、青白の旗が下がる位置にいる神官に向かい合う。
「意見を」
短く告げる男に対し、問われた神官は口を開いた。
「主へ献上する予定だった枝に、今も1つだけ熟した果実が生っている」
「委細承知している」
「新たな供物を供えるには、まず祭壇を清掃する必要がある。だが、ただ1つ残った果実は。是非とも主に献上すべき上質なものだ」
「我らがアンダレヴェルトの枝より果実だけをもぎ取ることは出来ぬ。それは主によってのみ行われるべきであれば。我らは枝ごと切り落とし、献上するのみ」
「・・・そしてアンダレヴェルトの枝に1つでも腐った果実が生っている限り、枝ごと切り落とさねば次の枝は生え伸びない」
「腐った果実のついた枝を主に献上することはできぬ」
「承知した」
「いかに」
「腐った果実のつく枝の先に生る、ただ1つの熟した果実。献上出来ないのであれば、我等の明日への糧として、頂戴することとしよう」
「よい。我らが主を奉り、空を駆ける邪悪を打倒し、世界を守らんことを」
「世界に平和があらんことを」
その言葉を聞き届けた男は、再びカツン、カツンと音を立てながら神官たちの前を歩く。
「司祭フランチェスコがその実をもぎ取った後。速やかに祭壇を清めよ。同時に。ケーニヒスグラプよりアーシェを回収する。司祭ジョゼ。司祭アンナ。司祭アラタ。そちらは任せる」
「御意」
男の声に3人の神官が同時に声を上げる。
「次の枝が生え伸びるまで。我らは闘い続ける。我らの敵。世界の脅威」
敵は。空を駆ける者。ワイルドハント。
観客は1名




