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終焉の幼女エルルと死なずのライザ  作者: 囲味屋かこみ
【第三話 その想い。心から】
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10 世界は天秤。傾く命の皿⑤古の。それは奇しく襲撃者。

【Side:Elulu】




 放たれた大口径のエーテル砲を、わたしはすんでのところで回避しました。


 髪先を掠めていったそれは、遥か後方の壁を轟音と共に粉砕します。


「髪が! 手入れが!」


「え、そこなの?」


 敢えて冗談の一つでも口にしなければ、この戦場を乗り切ることなど、できそうもありませんでした。


 すかさず左右から襲いくる人型のガーディアンを、レーヴァでまとめて斬り裂きます。展開したエーテル刃はガーディアンの装甲を易々と両断しますが、彼等の恐ろしいところはここからでした。支えを失った上半身が、それでもと腕を伸ばし襲いかかってきます。


 人とは違う、機械の身。例え胴を切断されようが、コアと呼ばれる中枢部位が生きている限り、動き続ける。ただひたすら、与えられた命令を遂行する為に——。


 わたしは後ろに飛び退き、追撃を回避しました。


 しかし、それを待ち受けていたかのように、着地地点では既に別のガーディアンが攻撃態勢に入っています。


 リアルタイムで情報を共有できる機械だからこそ可能な、非常に高度な連携。


 ですが、わたしも一人ではありません。心強い味方がいるのです。


「はいさ!」


 セラディスの拳が、ガーディアンを吹っ飛ばしました。そのおかげで、わたしはなんなく着地。セラディスの背後から迫っていたもう一体を、彼と入れ違いざまに斬り伏せ、そのまま回し蹴りの要領で 残った部位を蹴り飛ばします。


 彼等らも彼等で貴重な前時代の遺産ですが、今はそんなことを言っていられません。真面目に命がかかっているので。


 追撃の手が緩んだことを確認すると、セラディスと背中合わせでレーヴァを構え直しました。


「キリがないねー」


「ええ…」


 いまいち緊迫感に欠ける相方の声を聞きながら、呼吸を整えます。


 既にわたし達は包囲されていました。初めは数体を相手にしているだけで済んだのですが、時間が経てば立つほど、増援が集まってくる悪循環。


 いくら稼働遺跡だからといって、これだけの数のガーディアンがいるとは……このままではジリ貧、早急に手を打たねば。


 背中越しに、セラディスへ提案します。


「アミュゼポスタ遺跡のように、今度はわたしが足止めをするというのは?」


「あんまり意味ないんじゃないかな。ほら、相手が機械だし。単純に二分されて付いてきそう。それはそれで悪くないかもだけど、相手の数が分からない以上、より事態が悪化する可能性があるね」  


 真っ当な意見に、わたしはうなりました。となると残された道は、絶えず進軍を続ける一点突破。二人で力を合わせ、突破口を開く。


「セラディス、進みましょう。大技で一気に穴を開けるので、サポートを頼みます」


了解りょーかい。あ、でも、エルルちゃん。やばいかも。緊急事態」  


「どうしました? まさか、どこかに負傷を?」


「いや、さっきから、戦ってるエルルちゃんのワンピースがちらちらめくれて、集中できない」


「……やっぱり作戦変更です。あなたが突っ込んでください。肉欲にまみれた肉壁も、弾除けくらいには役に立つでしょう」


「あらやだ辛辣。ところで今日はベージュピンクなんだね。アクセントの白のフリルが可愛いよ!」


「強過ぎません? あなた」


 レディに対して無敵じゃないですか。全くこたえていないセラディスに嘆息します。


 顔が良くてもこれでは汚物以下です。


 でも、いい感じに緊張がほぐれました。


 さて、行きましょうかと。


 少しでも層の薄い弱所を求めて、敵の包囲を観察します。そしてレーヴァからとある物を取り出そうとして——そこで違和感を覚えました。


「——? なんだかおかしいですね」


 わたし達を包囲するガーディアン達。武装こそ構えてはいるものの、しかし、一向にこちらへ向かってくる気配がないのです。


 まるで——こう着状態を狙っているかのように。


 嫌な予感がしました。


 不本意なことに、悪い直感ほどよく当たるもので。


 その時です。


 一斉にガーディアン達が動き始めました。身構えますが、予想外の動き。返す大波の様子で、彼等は退散していくのです。


 そして——。


 入れ替わるように、ガーディアンの波から滲み出てきた影が一つ。


「な——」


 『それ』を見た瞬間、背筋が縮み上がりました。


 一見すると、普遍的な人型のガーディアンです。2メートル程の体躯。鈍色に輝く装甲は、流れるように美しく。フルフェイスの頭部に入るスリットからは、怪しい緑光が漏れ出ていました。


 外見的には、特異性などなく——されど、不気味な威圧感があるのです。


 佇まい、本物の人間の如く滑らかな稼働。装甲の隙間に覗く、黒いラバースーツに覆われた関節は、まるで人体のような——


『危ない! 主様!』


 相棒の声に、自身に迫る脅威を認識しましたが、時既に遅し。


 油断していたわけではないのに。


 いつの間にか、ガーディアンが眼前まで接近していたのです。


 繰り出される拳は、不可避の絶撃。速さ、威力、共に人を死へと導く絶望の凶拳。


 思考だけが加速していくのに、体が動かない。脳内に流れるイメージ。それは、頭部を砕かれ、力無く倒れるわたし。


「エルルちゃん!」


 わたしの前に躍り出る影がありました。視界に広がるセラディスの背中。ついで、耳をつんざく衝撃音。彼の体ごと、凄まじい勢いで吹き飛ばされ、壁に激突します。骨がきしみ、腰が砕けそうな衝撃でしたが、じっとはしていられません。覆いかぶさるセラディスの大きな体から這い出ます。


 レーヴァから、筒状の煙幕とチャフを取り出し、投擲しました。両方とも空中で炸裂し、辺り一面に煙が広がります。


 ガーディアンが標的を感知する方法は主に二つ。視覚カメラによる認識、そしてエーテル反応による感知です。


 わたしが使用したのは、それらの働きを阻害するデコイ。先程、包囲から抜け出す為に使おうとしたとっておきですが、簡易的なもので効果時間は短く、またそうそう手に入るものでもないので、これが最後です。


 敵の追撃がないことを確認し、今のうちにセラディスの安否を。


 目立った外傷は無し。息はしている。意識は——


「俺から離れて、エルルちゃん……」


 彼に手を伸ばそうとしたその時、突き飛ばされました。途端、セラディスの体が光を放ったかと思うと、鈍色のエーテルが彼を覆い隠してしまいます。


 それは、あたかもまゆの様相。


 どう考えても、敵の攻撃に起因することは明らかでした。無力化を狙った拘束? いえ、それだけで済む保証はどこにもない。


 わたし——のせいで。


『主様、後悔も反省も後じゃ。今はこの場を乗り切らねば』


「……わかっています」


 わたしは、レーヴァを構え直しました。


 敵の正体は不明。ただのガーディアンが持つ戦闘力とはかけ離れた何かを、わたしは感じていました。


 対峙した時に感じた威圧感、そしてその動きから、敵の戦力を暫定的に設定します。


 比較として思い出されるのは、オルセアの街で戦ったあの紳士でした。彼と同等、もしくはそれ以上。


 となれば、勝率は絶望的でしょう。


 ですが、わたしもあれから遊んでいたわけではありません。


 あの時味わった雪辱を。


 相手は違えど、果たしてみせましょう。


 でなければ死ぬ。ただそれだけのこと。


 為すべきことを為せず、助けられるものも見殺しに。


 恐怖に負け、葛藤に殉じ、無力と膝を折るのはもう、飽き飽きでした。


 エルトゥールル・ハウルは、そんな情け無い女ではないはずです。


 レーヴァを握る手が熱く、燃えるように心を奮い立たせます。


「行きますよ、レーヴァ。あなたとなら、地獄のピクニックも楽しめそうです」


『了解じゃ。主様とならどこまでも』


 



 

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