8-3 サキュバスと鋼鉄妖精 行ける、行ける
「晴樹、ロールに連絡して、いつでもティターニアを出撃させられるようにしておいて」
「了解。……ロール、突然すまん。今、いいか?」
晴樹がロールに召喚契約を通しての通信を行っているのを他所に、私は私ができることをしていく。
奴らの情報収集をしようとしても、透視を始めとした魔法が一切通じない。
わかることは、奴らが鉄製の装甲を有している機械で、全高はおおよそ二十メートル強、全長は約二十五メートル、重量は恐らく一千トンは超えていて、六本の脚で時速三百kmでこちらへ急接近しているという事。
武装らしきものは見当たらないけど、あれがもしも、邪神側が用意した起動兵器……それも多脚型の戦車だとしたら、この街の絶対魔法で防げても、何時まで持つかわからない。
「メイプル、後、三分したらティターニアが来るぞ」
「三分か。カップ麺作って漫画読んでたらすぐね」
「そうだな。で、何する気だ?」
「狙撃して、反応を見る」
「こういう場合って、下手に攻撃したらえげつない反応が来るんじゃないか?」
「三分もしないうちに、あいつらが絶対魔法にとりつく。その時に慌てて攻撃して、それこそ色々と連鎖して絶対魔法が破壊されたらやってられない」
私が晴樹に狙撃すると宣言したのは、いざと言うときにフォローしてもらうためだ。
晴樹もそれがわかったのか、いつでも魔法が使えるように準備をしてくれたのが、魔力の流れで分かった。
「いや、フォローは私から離れた場所でしてもらうわ」
「は? 近い方がいいだろ」
「もし私が倒されたら、奴らに対抗できるのは今のところアンタだけなのよ。エルフィはまだ頼りないし、鍛えるのもアンタの役目になるわね」
「お前、アイツの師匠なんだから、そっちはちゃんとしてくれ」
言って、晴樹はブロード君のシールドへと空高く跳躍していった。
「さて……んじゃ、やるわよ」
シャールが作ってくれたマスケットは、射程距離が全然足りていないため、今回は断念。
したがって、何時も移動時にしているように、魔法で狙撃する。
スポッターは、各種魔法で補えるから必要なし。
けれど、いつ何があるかわからないから、今回だけ無理してでも彼女を呼び出した。
<メイプル>
<……どうかしたの?>
心の奥底に呼びかけるように彼女の名前を呼ぶと、眠そうな声と共に、本来のメイプルの意識が浮上してきた。
それから、一秒もしないうちに、彼女は眠っている間の記憶を参照して、現状を理解したように、
<また無理するんだ>
<ごめんなさいね。私以外でこれできそうなメンバーはいないし、晴樹に何かあったら、それこそこっちに来た邪神とか眷属化した奴に対抗できるのがいなくなるし。でも安心なさい、何かあったら、アンタとこの体はちゃんと無事に帰してあげるから>
<だめ!>
強い言葉で否定された。
こういう感じに否定されるのは初めてじゃない。
前はリヴァイアサン戦で神界へ行った時で、その前はヴァーヴァリアス戦、その前はタガネル・ダンジョンでの大食い戦の時だった。
その前にも、何度も同じように言われることがあった。
<お姉ちゃんも、ちゃんと生きて帰るんだから!>
<はいはい、了解。今回もそうなるように努力するわよ>
これは、そうなるように願う儀式でもあり、本当に何かあった時のための彼女への挨拶でもある。
まぁ、今のところ、大丈夫だけど……さて、後二分でティターニアが到着するけど、その前に三十秒もしないうちに奴らが絶対魔法とぶつかるわね。
<んじゃ、いつもみたく、サポートよろしく! 私が見逃してそうな脅威があったら、魔法で対処してくれる?>
<うんっ!>
これでもしもの対策よし。
心置きなく、収納魔法から深紅の愛刀を取り出して構え、周囲に収納魔法をいくつも展開して収納している刀剣類の切っ先を出現させる。
「魔法剣、一斉射撃ッ!」
大量の魔力光線が発射され、絶対魔法をすり抜け、第一区画の最外壁へと残り百メートルを切ろうとしていた起動兵器たちへ到達し、呑み込んだ。
手ごたえは、ダメージ、なし。
それでも、若干なら押しとどめられている様子はあった。
「おら」
残り一分三十秒。
「オラ……オラ……」
イメージしろ。
私の心が燃えるような、熱い展開を想像していく。
こういう時に、圧倒的な物量差をものともせずに押し返す時、等身大の私が、奴らをどうやったら押し返せる?
だから、私はこの魔法を使う時に、好きな漫画の、好きな主人公の、好きな掛け声を口にする。
あんな風に、理不尽をぶっ飛ばせるように、私が強くあれるように、その力をお借りするように。
でも。
「……うぅん」
晴樹は、神様たちから力を借りても、自分のやりたいようにやって、理不尽をはねのけて来た。
最近は私も、”昔みたいに”自由にやっていた。
ならば、今回もそうしよう。これからも、そうしていこう。
私が、メイプルやブロード君の、そして私の背中を見た人たちの、憧れや希望になれるように。
私の好きな、サブカルチャーの登場人物たちのように。
なんて、柄じゃないけど、うん、やろう!
「あら、お急ぎかしら? でももうちょっとゆっくりしてなさいよ」
収納魔法から魔力回復ポーションを取り出して口にし、急激に回復した魔力を別に回して、
もう一発発動させる。
まぁ、あの距離なら、絶対魔法もあるし、街には一切影響ないし、心置きなくやれる。
「大地の力よ、星の血よ。今、そなたの敵を天へ追放しましょう」
狙いは、敵多脚型起動兵器五体。
もしも宇宙にぶっ飛ぶんだったら、上手く行けば太陽にぶち込まれるように角度を調整して。
「ボルカニックゥゥゥゥゥッッ!! ゲイザァァァァァァァァァァァッッ!!」
その瞬間、五つの灼熱の柱が大地から出現し、起動兵器たちを呑み込んだ。
それでも、奴らにダメージを与えられている手ごたえはないけど、一斉射撃と併用する無茶のおかげで、その移動を押しとどめることはできていた。
<残り三十秒!>
メイプルからアナウンスが入る。
ポーションを取り出して飲むという手順が面倒臭くなってきたわね。
よしっと思い切り、頭上に小さく収納魔法を開いて、いざと言う時に頭から被れるように予め蓋を開けておいたポーションを、次々と垂れ流していった。
髪も衣服もびしょ濡れになるけれど、構わない。
自前の魔力回復と合わさって、消費魔力が三分の一を着る前に全快直前まで回復する、と言った感じになり、安定した攻撃手段が完成した。
問題は、ポーションの消費が激しくて、後一分も持たないところだけど、今は十分!
「はぁぁぁぁあぁぁぁああ!!」
気迫を乗せて威力を底上げし、ついに一体を押し返すことに成功した。
その時、
<三分!!>
『メイプルッ、行くぞ!』
メイプルのアナウンスと、晴樹からの魔法通信が同時に頭の中に、天啓のように響き渡った。
「よしっ!」
愛刀と収納魔法を仕舞い込み、ボルカニックゲイザーは効果時間が続くまで発動しておくようにして、私はこちらに飛び降りて来た晴樹を見上げた。
そして、私のすぐ隣に着地したところで、私たちの頭上に、召喚魔法の魔方陣が出現し、その奥から強化鋼線に吊るされた鉄装甲の巨人が姿を現した。
「行くぞっ!」
「えぇっ!」
二人で肩に飛び乗ると、ワイヤーが外れ、魔方陣の奥に引き上げられていくと、魔方陣も消えた。
自然落下を始める巨人に晴樹が魔力を流すと、背中から妖精の羽を思わせるような青白いフレアを噴出させて、巨人ティターニアが空に自立する。
まだ見た目もそこまで変わってないけど、まぁ前よりかはボディが丸みがかってる部分もある。
少し改良を加えられているのか、晴樹の魔力消費も僅かに少ない。
よし、行ける。
「ティターニア、これより、狙撃を行うわ」
「サイレント・ムーヴをかけるぞ!」
収納魔法からマスケットを取り出して構えると、魔力フレアを噴かせて浮かぶティターニアの手に、魔力で構成された巨大マスケットが出現する。
私と同じように構えたティターニアが、銃口を起動兵器たちに向ける。
狙いは、まず、一番先行している奴。
まさか、実戦投入の一発目が、ゴーレムの武器バージョンとはね。
でも、それもいい。
今は、奴らをぶっ飛ばして、邪神の攻撃を食い止める!
晴樹が防音魔法を私と自分、それから上空のブロード君に施したところで、ティターニアに引き金を引かせる。
弾薬はいらない。
魔力ある限り、弾丸が尽きない。
そして、晴樹のサイレント・ムーヴの効果が、その弾丸に施された。
不可視の一撃と化した一撃が、完成する。
「Fire!」
発射された巨大な弾丸は強化された動体視力ですらブレる速度で宙を走り、絶対魔法をすり抜けて、狙いをつけた起動兵器、その右脚部の付け根に着弾。
その瞬間、魔力爆発を起こし、胴体と分断させ、ついでに態勢を崩されさせて、近くにいた起動兵器の一体を巻き込んで転倒させた。
敵側に、こちらの攻撃に対する、カウンターは、物理的にも魔法的にもなし。
サイレント・ムーヴに対応できず、反撃できなかったってところかしら。次はどうかわからないけど、少なくとも、ティターニアの攻撃なら破壊できることがわかったというのは、大きな成果。
行ける。
行ける、行ける。
「次ッ!」
勝てるッ!!!!!
まだ倒れていない奴の足を破壊して同じように転ばしながら、マスケットの側面に着いているレバーで連射モードに切り替える。
そして、数秒としないうちに、敵起動兵器たちは足と胴体を撃ち抜かれ、街道の上に倒れこみ、やがて、大爆発を起こして、残らず鉄塊へと変わった。
お読みいただき、ありがとうございます。
クッタクァ「えぇっ?! あれ、壊されちゃってるじゃなーい?!」
ノディアー「だから、まだ研究段階だって言ってじゃん、逆さの奴」
大食い「ナイスだよあの子たち!!」
ノディアー「(うーん……あの戦車たちを壊したのはゴーレムでも、それだけの実力をもとから秘めていたのは……あのメイプルって子……かぁ」




