6-6 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 ここは任せて行って来て
おはようございます、サエぼが開始から五周年です
朝食が始まる前に、夜中にリアさんが邪神討伐のために出立したことを皆に伝えると、ヴォーバン陣営の顔つきが厳しいものに変わった。
「そうか……教えてくださり、感謝する。すでに王の準備もできている。この後、最後の点検を行ってから、絶対魔法を発動させる。ジャンヌ、第一区画と第二区画への伝達は任せられるか?」
「問題ありませんわ」
昨晩のような弱気さを微塵も感じさせないジャンヌさんがしっかりと返事をした。
朝食後、セバスティアンさんはルネさんにシャルトット王への言伝を預けて送り出すと、自分も地下へと降りて行った。
ジャンヌさんはと言うと……セバスティアンさんの執務室へと入り、本棚の本をいじって、本棚の奥に隠されていた隠し扉を出現させて見せてくれた。
なるほど、それっぽい。
しかし、それを俺たち全員に見せていいものなのか。
「構いませんわ。メイプルちゃんには知られているでしょうし」
との事だった。メイプルは、そっと目を逸らしていた。わかっていた。
そして、その扉の向こうは、巨大な街の全体地図が正面の壁に大きく貼られ、蓋のついた伝声管がいくつも並ぶ、どこかスチームパンクさを感じさせる小部屋だった。
流石にこれにはメイプルを除く全員がそれぞれ驚きを露わにし、特にエルフィとシャールさんは前のめりになって部屋の中を覗き込んでいた。
「これ、これあれですよね! ラピ〇タで見たことあるアレですよね!!」
「エルフィ、静かにしなさい。伝声管ね」
「その通りです。これでエリス各所に避難警報を送ります。エリスの住民たちには避難訓練で、もしもこれが流れることがあれば、エリスの一大事だと入念に伝えてありますが、冒険者や旅人の中には知らない者や、戸惑う者もいるでしょう。冒険者ギルドを始めとしたいくつかのギルドや衛兵たちが避難誘導を行いますが、多少の混乱が起こり、避難が滞る場所もあるでしょう。そこで、皆様には住民たちの避難誘導を手伝って頂きたいのです」
「わかった。承ろう」
セイジュさん言葉に、俺たちも頷いた。
それから、メイプルと俺で、ジャンヌさんとシャールさん以外のパーティーメンバー全員を邯鄲の夢システムで、何時ものように夢の世界へと招き入れる。
今回の部屋模様はエルフィにも馴染みのあるオルバインの冒険者ギルドの応接間だ。
そして、相談の結果、俺とエルフィで第一区画、セイジュさんとココロで第二区画、メイプルとブロードで空からの支援と遊撃、エルナはジャンヌさんの護衛担当をすることになった。
ジャンヌさんの護衛は、最初、何かあった時に対応できるようにと、エルナはメイプルか俺を推薦していたのだが、絶対魔法やエリス様の加護がある屋敷内部であるし、何より、邪神がまだ何か街に仕掛けていた時に即時対応できる体制にしておかないといけない、と言う理由で却下された。
「だからと言って、私では……」
「エルナ、もしもお前が勇者の力を持っていたとしたら、彼女を守りたいか?」
「もちろんです!」
「なら、問題ないな」
「何が問題ないんですか! 私はココロ様やメイプルたちみたいな力はないんですよ?!」
「だ、そうだが、どうだ?」
「エルナ~寝言は寝ていいなさいよ~?」
いやもう寝てるし何ならメイプルのそれも寝言になるんだが? というツッコミを多分全員が心の中で入れただろうが、メイプルは気にせずに続けた。
「何の考えもなしにアンタをジャンヌの護衛に付ける訳ないじゃない。あ、もちろん戦力不足だとかそういうのもないからね?」
「じゃあ、一体どんな理由があるのよ」
「この前、オルバインでの戦いの時に見せたアンタの奮闘ぶりからね、アンタならジャンヌを守れると思ったのよ。邪神そのものが来なきゃ守れるわ」
「私一人じゃ」
「もちろん、ルネがいるわよね? あの子、滅茶苦茶強いわよ? セバスティアンやシャルロットは色々やることがあるでしょうからあまり当てにはできないでしょうけど。でもね、もう一人、この屋敷にはヤバい子がいるわ」
「え?」
「シャールよ。あの子、あぁ見えて上級冒険者相当の実力持ってるし、もう一丁、改造マスケット持ってるみたいだから、戦闘能力はもう少し上がるわね。
はい、この屋敷だけで戦力が上級冒険者相当が四人で、動けるのは三人。護衛としては心強いったらありゃしないわ」
「上級冒険者相当って……私が?!」
エルナが本気で驚いた後、訝しんでメイプルを睨みつけた。
その肩に手を置いたのは、ココロだ。
「エルナちゃん、メイプルちゃんの言う事は本当だよ。私も、オルバインの時から、エルナちゃんの力は上級冒険者に匹敵すると思ってる」
「ですが、私、まだココロ様たちに」
「勝てないのは、経験の違いだけ。でも、エルナちゃんの経験は、ちょっと普通ではないけれど、それでも中級冒険者の範疇に収まるものではなくなった」
夢の中では兜を外しているため、綺麗なオッドアイが、しっかりとエルナをまっすぐ見つめている様子がよくわかる。その目に、嘘を言っている様子はない。
そして、エルナであれば、俺以上にココロの言っている事の意味を汲み取れる。
エルナは瞳を揺らしていたが、やがて、まっすぐにココロを見つめ返した。
「わかりました」
それから、セイジュさんにも振り返って、
「私が、ジャンヌを守ります!」
「あぁ。だが、お前は一人ではない。メイプル君が言ったように、ルネ君やシャール君がいる。恐らく、セバスティアン殿とシャルロット王もいる。気負わずに、やるべきことをやりなさい」
「はい!」
全員の士気が上がったところで、現実へ戻った。
その時、ふと思ったことがある。
さっき、メイプルは上級冒険者相当が四人と言ったが、戦闘要員はそれだけではない。
元ダンジョンマスターにして魔王であるシャルロット王、そして彼女の傍に控えていたメイド。
この二人が戦力としてカウントされていないはずがない。
この屋敷で真にヤバいのは、あの二人だろう。
そのことも見越して、メイプルとセイジュさんはエルナをジャンヌさんの護衛に選んでいるはずだ。
「あら、それは言わないお約束よ」
メイプルが日本語で茶化すように言って来たので、エルナには何も言わないことにした。
って言うか、エルナ、あの王様たちの事知ってるのか……いや、今はどうでもいいか。
それにエルナなら、きっと大丈夫だ。
王様が元魔王だと知らなかったとしても、一緒に戦う仲間なら、疑うことはない。
これまでの経験と、彼女の持っている『力』があるから。
「わかってるじゃない。何だかんだ、アンタもエルナの事、信頼しているのね」
「いつも信頼しかしてねぇよ。お前だってそうだろ?」
「はっ! ったり前だのクラッカーってね」
二人で笑っていると、意識が現実に戻った。
瞬きしていただけの時間だったが、やることは決まったって感じで、全員の顔が引き締まっている。
「それでは、エルナをジャンヌ君の護衛に付け、残りは街へと出向く」
「承知いたしましたわ。皆様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「あぁ。また後で会おう」
それぞれが部屋を出ていく中と、最後まで残っていたら、ふと視線を感じた。振り返ると、エルナが俺とメイプルを見ていた。
最後の会話を聞いて、彼女の名前を口にしていたから、自分の事を何か話されていると気づかれたな。
もしかして、馬鹿にされてたとか考えてる……? と少し心配になったが、部屋を出る直前に、俺たちへとエルナが近づいてきて、
「ここは任せて行って来て」
そう言って、拳を突き出してきた。
その顔は、何時だったかに見た、頼もしさを感じさせるものだった。
あぁ、そうだ。
この子も、俺とメイプルの事を、最初から信用してくれていて、ずっと信頼してくれているんだった。
少し照れくさくなって、そっと視線を横に向けたら、メイプルが俺を見上げていた。あ、こいつも照れてやがる。
もうこうなったら、笑うしかねぇ。
メイプルも同時に笑い、定位置に飛び乗って浮かび上がった。
そして、一緒に拳を、エルナの拳に軽く当てた。
「おう、行ってくる!」
「アンタもしっかりやんなさいよ!」
「うん!」
夢の中で見た、迷いの表情はない。
今のエルナなら、大丈夫だ。
「シャール。アンタもやる事色々あるんでしょうけど、任せたわ。いざと言うときは、エルナと一緒にジャンヌをお願い」
「うん! お姉ちゃんにどーんと任せなさい!」
シャールさんとも挨拶したメイプルと共に、部屋を飛び出る。
走る中、強化された聴覚に、ジャンヌさんの呼びかける声が届いた。
そして、その声は外からも、大きく増幅されたものが何重も聞こえて来た。
『緊急避難警報。緊急避難警報。
エリスの皆様、セバスティアン・ル・プレストルの代行、ジャンヌ・ラ・プレストルより、避難警報を発令いたします。
これは訓練ではありません。繰り返します。これは訓練ではありません。
住民の皆様、滞在者の皆様は、落ち着いて、衛兵や冒険者の指示に従い、最寄りの地下避難通路へ向かってください。
冒険者ギルドは、直ちに緊急避難警報発令時の対処マニュアルに従って行動を開始してください。
繰り返します。
緊急避難警報。緊急避難警報。
これは訓練ではありません。繰り返します。これは訓練ではありません。
住民の皆様、滞在者の皆様は、落ち着いて、衛兵や冒険者の指示に従い、最寄りの地下避難通路へ向かってください』
この世界に来てから、最大の防衛戦が始まる……!
お読みいただき、ありがとうございます。
サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者、略してサエぼ、開始から五年です。
途中、長く更新しなかった時期があったり、一度終了して一年ほど空きましたが、五年です。
ライダーで言うと、エグゼイド終わってビルド始まったあたりです。
早いですね。
最近、毎日投稿から数日おき投稿になっていますが、それでも読んでくださる方々、待ってくださっている方々、応援していただき、皆様、本当にありがとうございます。
これからもサエぼをよろしくお願いいたします。
今年中に第八章まで書くぞ、おー!




