6-5 エロ漫画野郎と城壁の乙女 真実を教えられただけ
ヴォーバン別邸に戻ってから、エルフィと一緒にセバスティアンさんに、ジャンヌさんとの事の次第を報告し、謝罪すると、首を横に振られた。
「いや、私のエゴで隠していたが、この状況なら近いうちに知られていたことだろう。それに、ジャンヌがエルフィ殿に仕掛けたことで得た結果だ。孫娘が失礼な態度を取った上、エルフィ殿には、いらぬ心配もおかけして、すまなかった」
「いや、私はいいんです。でもジャンヌさん、ショック受けてたましたし」
「今はエルナ殿が傍で見守っている。それよりも、お疲れだろう。ゆっくりと体を休めていただきたい」
「えと、はい……」
そして、この話は終了となった。
エルフィはどこかまだ引きずっているようだが、まぁ、問題ないだろうと言って気を紛らわせておいた。
それに多分、セバスティアンさんは、ジャンヌさんが今回の案内で絶対魔法の事を知る可能性だって考えていた……と思う。
本当の事はわからないが、向こうがもういいよって言ってくれているのだから、これ以上は突っ込まないようにした。
さて、問題のジャンヌさんの方だが……夕食の席にも現れず、その後エルフィと一緒に部屋へ向かおうとしたが、エルナに今はそってしておいてあげて欲しいと言われたので、延期となった。
それから数時間後の夜中、目を覚まして部屋を出る。
魔法の灯りが照らす薄暗い廊下を通り、玄関ホールへ向かうと、リアさんが腕組をして待っていた。
「目が覚めたか?」
「ええ。わざわざ俺が来るのを待ってくれていたんですか?」
「そうだな。しかし、よく気が付いたものだ」
気が付いたというか、俺が現在常にリアさんのオーラを纏っているせいか、彼女が大きく動こうとする時、そう、違う次元へと移動しようとすると、わかる。わかったから、目が覚めた。
そのことを伝えると、リアさんは腕組みを解いた。
「そうか……いつからだ?」
「先ほどです」
「それで、察したのか」
「はい」
今夜あたりだと思っていたので、まぁちょうどいいということで。
「向かわれるんですね」
「あぁ。ザタークが仲間を連れて現れた。神々からも私に来て欲しいと要請があった」
姿を見せなかったという邪神が戻ってきた。仲間を連れてくるために、姿を消していたのか。
「神様相手に言うのも変な気もしますが……ご武運を」
「うむ。お主たちも気をつけよ。何か異常があれば私に知らせよ。対応できるかはわからんが、何もないよりはマシなはずだ」
「わかりました」
「では、行ってくる」
リアさんはそう言って、忽然とその姿を消した。
この移動方法は、まったく解析できない上に、習得もできない。
最強の破壊神は俺たち人間の想像もしえない力を持っている。
そんな破壊神と立ち回れる星海の邪神たちの恐ろしさが、この街に向けられている。
彼女がいないというのは少し不安だが、リヴァイアサンの時も、彼女不在だった。
今は俺たちが、この街を守る。
いかんな、夜中に起きて、変なテンションになってるかもしれん。
頭を振り、部屋に戻ろうとして廊下を歩いていると、向こうから誰かが歩いている気配があった。
「ぁ」
「ども」
上着を肩に羽織ったジャンヌさんだった。
頭を軽く下げて、壁際に寄り、通り道を作る。もちろん、視線は彼女から逸らしている。
ジャンヌさんが少し足早に通り過ぎていく。
街の見回りから戻ってきた後、夕食の席に現れなかったが、うん、まぁ、動けるようで何よりだ。
さて、俺も部屋に戻ろうかと思ったが、ジャンヌさんが、俺から数歩離れたところで立ち止まっている事に気が付いた。
「あの」
声もかけられた。
「一つ、いいでしょうか」
「何ですか?」
聞き返すと、彼女は背を向けたまま続ける。
「貴方は、この街の、最後の防衛機構についてご存じだったのですか?」
「……えぇ」
嘘を言たり、濁したりしてもしょうがないと思い、肯定した。
「……貴方は、勇者なのですよね」
「そう言われていますね」
勇者という”システム”という点なら頷けるが、彼女が言っているのはココロみたいな立場の人間の事を言っているので、ついいつもの癖で「俺は違うよ」と言外に含めて答えた。
すると、彼女はゆっくり振り返ってきた。
「貴方は……何故、勇者になれたのですか?」
能面のような、ってこういう事を言うのか。
無表情で俺に向けられた彼女の視線は、なんというか、切れ味凄いなってくらい煌めいていた。魔法の灯りに照らされて、反射しているだけなのに、すっごいなんというか、正の値と負の値の中間地点を微妙に行ったり来たりしているような感じがする。
ちょい待て。
エルナと一緒に居て、ようやくこれなのか。
そんだけ傷ついたというかショックだったんだろうが、えっ、それ俺に来る?
でもエルフィと面と向かってやらせたらひと悶着ありそうだしなぁ……この状態だと。
最悪、魔法で落ち着けるという手もあるが……そういえば、アニメとかで色々と手段ある奴らがこういう場面でそれを使わないのって、何でだろうな……そうしないと面白味や展開がってやつか……いかん、現実逃避し始めた。
どうにか気を現実に戻して、彼女へと向き直る。
答え方を失敗すると、下手すれば彼女が敵に回るエンドに直結するかもしれん……いやそれはないか。現実でそんな展開あってたまるか。だが彼女からは、何か危うい感じがする。
慎重に言葉を探して答えたいが、見つからない。誤魔化すのも危うい。下手して何かの拍子に本当の事がわかった場合、今以上に彼女の心が荒む可能性がある。
正直に答えることにした。
「俺にも、よくわかりません」
「わからない?」
「はい」
「わからないのに、勇者になれたのですか?」
「なれた、のではなく、なってしまった、と言った方が正確ですね」
「なってしまった?」
ジャンヌさんは恐らく、勇者召喚の事を知らない。
だとしたら、俺もココロと同様に、突如として現れ、人々を守るためにダンジョンマスターや魔王と戦う、正義の味方と見られている、のかもしれない。
真実を話すのは、やめておいた方がいいか。
「ジャンヌさん、俺は、勇者になりたくてなった訳ではないんです。守れる力は確かにありますが、それだって、本当は俺の力じゃない。でも、この力を与えてくれた“誰か”が邪神からこの世界を守ってほしいと願ったみたいだから、それから俺の目的のためにも、俺は邪神たちと戦うってだけなんです。
決して、勇者だなんて大それた役目を背負っていいじゃないんですよ」
「何を言って……」
「俺は勇者じゃない。でも、俺は皆と出会って、邪神と戦っている。貴女たちヴォーバンも、そうなんじゃないんですか?」
ジャンヌさんが顔をしかめ、俯いた。
勇者のパーティーに居るのは確かだが、俺が勇者だから、この街の真実を知っている訳じゃない。
この世界を守るために、この街の真実を教えられただけだ。
この子は、わかっている。
勇者だからとかそういう肩書きとかじゃなくて、この街を守るために、その命を懸ける最前線に立って戦う者だから、絶対魔法のヒミツを知っている、と。
そして、自分は……――守る側ではなく、セバスティアンさんにとって、守られる側なのだと。
「――私は、ヴォーバンなんです。この街を守る一族の者です。でも、おじい様にとって私は、守る側の人間だったのです」
ジャンヌさんは頭を下げて来た。
「申し訳ありませんでした。八つ当たりをしてしまいました」
「構いません……ですが、その気持ちを、セバスティアンさんに伝えては?」
「いけませんわ。おじい様に、余計な負担をかけられません。この問題には、私だけで向い合わねば」
そう言うとジャンヌさんは「おやすみなさい」と言って踵を返した。
昔、高校時代の同好会でも見たことがある。
彼女の状態だと、乗り越えることができるかどうか怪しい。
上手く行けばいいが、下手すると潰れる可能性もある。
こうなっちまったら……仕方ない。
魔法通信を使用したら、ちょうどアイツがアクセスしているみたいだったので、声をかけた。
『メイプル、見てるか?』
『えぇ、見てるわよ青春エロ漫画野郎。で、何かしら?』
『ジャンヌさんだが、ちょっと病みかけてるっぽい、注意して見ておいてくれないか?』
『了解。起きたらエルナにも言っておくわ』
『すまん。助かる』
『アンタも見れる時は見とくのよ? あの子、下手したらひと悶着あるかもしれないし』
『リアルであってたまるか、んな展開』
とは言うものの、邪神が迫りつつある現状、何があるかわからない。
俺も見守るという点に関しては、そのつもりだったので、まったく問題ない。
あ、そうだ。
俺もこいつに負担かけまくってんな……。
『メイプル、いつも色々とサポートとか、ありがとう』
『ふんっ、何、ジャンヌに影響されたの? 別に、これくらい何ともないわよ』
メイプルはどや顔が見えそうな声でそう言うと、『お休みなさい』と消えた。
俺も今度こそ寝ようと踵を返す前に、廊下の向こうに消えようとしているジャンヌさんに、風魔法で声を届けた。
「今日は、案内、ありがとうございました」
彼女からの反応はなかった。と思ったら、立ち止まって、こちらを見ているかどうかわかrなあいくらいに頭をこちらへ向けて、小さく会釈してくれた。
翌日、ジャンヌさんは朝食の時に姿を現した。
「ジャンヌさん、昨日は、言い過ぎました」
「いいえ、私の方こそ、大変失礼いたしました」
エルフィとも間近で向き合って、お互いに謝ることができた。
その顔には、まだ無理している様子があったが、少なくとも、夜中に廊下で見た時のような不穏な雰囲気は消えていた。
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