6-4 エロ漫画野郎と新米魔導士 話、聞いてくれて
第一区画へ来た俺たちは、リアさんを中心に探索を始めた。
星海の邪神が起こした事であり、自分にも大いに責任があると言って、リアさんが直々に先頭に立って探してくれているのだ。
もちろん、俺たちも甘えてばかりはいられないし、自分たちにも大きく関わってくる事なので、それぞれにできる方法で一緒に探している。
バラバラになって探さないのは、俺はともかくとして、エルフィだといざという時に邪神に対応できないからだ。ヴォーバン邸でメイプルとセイジュさんが、前述の理由で、今回はチームで一塊になって探索するようにと決めている。
それにしても、俺とエルフィはそれぞれ、顔立ちと種族的特徴で目立ってしまっているな。リアさんは頭からマントを被っているが、神気と謎の威圧感が放たれているせいである意味目立っているし、何なら正体が破壊神だってバレてた。
おかげで、変に絡まれるようなこともないだろうが、落ち着かないな。
「ふむ、この辺りにはないようだ」
「こっちもですね。エルフィ、どうだ?」
振り返ると、エルフィは明後日の方角を見て、ぼーっとしていた。
「エルフィ、どうした?」
「え? あっ、城壁でかいなーって。ごめんなさい、こっちも見当たらなかったです」
ぺこりと頭を下げて、探索魔法を展開しているが、心ここに有らずって感じだった。
これは、もしかしなくても、ジャンヌさんの事で引きずってるんだろう。
リアさんにアイコンタクトを取ると、好きにしろと頷かれた。
このままだと、何かあった時に彼女も危ないし、もしもの見落としがあっても怖い。
時間も少しもらえたし、やれるだけやろう。
「エルフィ、ちょっとだけ、いいか?」
「え?」
エルフィの意識をこっちに向けた瞬間、ハイ・スリープを俺と彼女にかける。
エルフで、元ダンジョンマスターで、超越者で、メイプルとミレニアという二大魔法使いの愛弟子である彼女がこれを余裕でレジストできることは予想できるというか、普通にやってくるだろうという確信と信頼があったので、目を合わせた瞬間にもハイ・スリープが発動するようにしておいた。
ダメ押しにタスラムに彼女の後ろに回ってもらって、付与したハイ・スリープを当ててもらうこともした。もちろん、当てる時はダメージがないように。
その結果、いつも訓練に使っている岩場に数メートルを置いて向かい合っている彼女に、思いっきり睨みつけられた。
「あの、一体どーいうつもりなんですか?」
「すまん、こうでもせんと、危ないと思ってな」
「それは…………でも、全部レジストしたって思ったんやけど……」
彼女の言う通り、真正面から使った二つはしっかりレジストされていた。
本当に凄い。
だが、隠蔽魔法付与状態のタスラムを避けることはできずに、夢の世界へと落ちてくれたようだ。
「どんな手、使ったんですか?」
「それは秘密。それよりも、ちょいと話さなあかんことがあんな」
自分とエルフィの隣にそれぞれ丸椅子を用意して、それぞれ腰かけたところで、本題を切り出した。
「あんまり集中できてないようやったから、ちょっと休憩を挟んでもらおうかと思ってな」
「……すみません」
素直に彼女は頭を下げていた。若干目を逸らしているのは、自分でもわかっていたからだろう。
俺も、まったく別の事だが、覚えはある。誰にだってあるだろう。
問題は、今回の事件が、冗談抜きで下手すりゃ彼女自身も、そして果ては人間どころかこの星の全生命体がヤバいことになる可能性がある、と言う事だ。
つまり、何かあった時、リカバリーが効かないと本気でヤバい。
「悩みあんねやったら、話してみ? すっきりするで?」
「別に悩みって訳やないですよ」
エルフィはそう言って、俯いて、しばらく黙っていた。
それから、五分くらいが過ぎただろうか。現実世界ではゼロコンマ一秒も過ぎていない。リアさんもいるし、何ならタスラムがいる。
俺は、エルフィが何か話してくれるまで、待つことにしていた。
その甲斐あってか、それともこの夢の世界から出られなかったのか、エルフィが口を開いて、ぽつりと言ってくれた。
「ジャンヌさんに、言い過ぎました」
「言い過ぎた?」
「はい。あの子が私に対抗意識みたいなのを持ってたのは何となくわかったし、ちょっと悔しかったんです。だから、ちょっと、意地悪になって、しもうたんです」
内心、驚いた。
前から、素直な子だとは思っていたが、ここまで素直に、自分の本音を晒してくれるとは思わなかった。
メイプルやミレニア相手だとそうでもないが……俺も、彼女たちみたいに信頼され始めたってこと、なのだろうか。今はそれどころじゃない。
折角、彼女が本音を聞かせてくれたのだから、それと向き合おう。
「そうなのか?」
「はい。途中で、あ、この子、多分、何も知らんのやなぁとは思おたんですけど、止められませんでした。うぅん、止まらんかったんです」
「そうやったんか」
「ちょっと仲良くっていうか……なれるかなぁって、エルナちゃんとかメイプルちゃん見て思ったんですけど、それもアカンくなってもうて」
「そんな風に感じたんやな」
「ノディアーが来んかったら、もっと酷い結果になっとったと思います」
「メイプルたちが止めたかもしれへん」
「でも、下手したら、ジャンヌさんと私だけ仲悪いまま、進んどった。今も、そう変わりませんけど」
エルフィは言い終わると、苦笑いして、幻の空を仰いだ。天候は雲一つない晴れ。涼しい秋の風をイメージしたそよ風が吹いてきた。
「今頃、泣いとるんかなぁって。エルナちゃんが多分、慰めとるんやろーなって」
「気づいてたのか?」
「そりゃもう。昨日までと全然違いましたもん」
エルフィは上を向いたまま、力なく笑った。
「私は、悪いことは何一つしとらんつもりです。けど、言い過ぎた。ムキになり過ぎた。そこだけは、謝ろうと思います。後、セバスティアンさんが隠しとった事、話さなあかんようになったんも、セバスティアンさんに謝ります」
「そうか。んじゃ、俺も着いて行こう」
「一人で行きますって」
「別に何も口出しはせぇへん。ただ、見届け人みたいな事するだけや。ジャンヌさんは多分、エルナかルネさんがおるやろし、セバスティアンさんにしても、保護者っぽい奴が一緒におった方が色々と気楽やと思う」
「そんなもんですか?」
あれだ。一緒に謝りに行ってやるから、って奴だ。
「後、さっき、不意打ちハイ・スリープした詫びも兼ねてる」
「それは方法を教えてくれれば」
「黙秘するぜ」
使い方は間違っているだろうが、俺は絶対に教えないという意思を表明しておいた。
それに、近いうちに彼女も気が付く。
その時に、改めて対策方法を練ってほしい。
エルフィはふっと息を吐いて、背伸びをした。その顔は、先ほどよりは、明るさを取り戻していた。
「晴樹さんって、何や、意地悪やなぁって」
「自分の手札を全部見せないことは意地悪にはならないんだぜ」
「わかりましたー。でも、さっき言った事、忘れんといてくださいよ?」
「おう」
それぞれ立ち上がって、現実に戻る準備をする。
「ありがとうございます。話、聞いてくれて」
「気にすんな。また何かあれば、俺かメイプルにでも相談してくれ」
「はい」
そして、現実世界へと帰還したところで、エルフィが近づいてきて、俺とリアさんと並ぶようにして立った。
「お待たせしました」
「うむ、行こうか」
リアさんは何も言わずに先頭を歩き出した。
俺とエルフィはその少し後ろを、並んで追いながら、それぞれ探知で異常がないか探っていく。
「こっちの範囲は異常なし」
「私の方も見当たりません」
「よし、次へ行くぞ」
そうして、二時間程探し回ったが、何も見つからなった。
第二区画東門に約束通り向かい、皆と合流したが、結局、誰も何も見つけられなかったという結果に終わった。
何もなくてよかったと言いたいところだが……なら、奴らがさっき攻撃してきた本当の目的は、威力偵察だけだったのか……?
お読みいただき、ありがとうございます。




