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サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者  作者: 胡桃リリス
第七章 サキュバスとエロ漫画野郎と暁の魔法使い
226/451

6-3 サキュバス一行と城壁の乙女 まだ夢、遠く

大変お待たせしました。

「この城壁のグランド・ウォールやったら……一撃で突破できる」

「…………は?」


 エルフィの言葉に、ジャンヌさんが真顔になる。その目は剣呑な鋭い光を宿していた。

 だがエルフィはそれを真正面から受け止めている。完全にスイッチが入っているな。こうなったら、相手が例え邪神の眷属とかした魔王だろうと退かない。


「この城壁にグランド・ウォールがあることはわかっとった」

「あら、負け惜しみですか?」

「うぅん、本当にわかってた。この城壁に三百。第二区画にも三百。王城の城壁には四百枚。第一区画のグランド・ウォールのうち、常時発動しているものは五枚で、緊急時になったらフル稼働して街を守るって感じやな」

「なっ……?!」


 ジャンヌさんが目を見開いて、本気で驚いていた。その後ろでルネさんも気配を揺らがせていたことから、その数字や条件に関しては機密事項の類だったってことか。


「ど、うして……それを……?」

()うたやん、わかっとったって。この城壁を見た時に、解析終わっとってん」

「見た時……?」

「うん」


 メイプルも見た瞬間に解析終わってるし、流石は彼女の弟子と言ったところか。

 だが、それはこの世界で普通ではないことは明白で、ジャンヌさんは奥歯をぐっと食いしばるように表情を険しくしていた。


「流石は勇者様のパーティー……そしてエルフ、と言うことですか」

「あー……うん、まあ」


 正確にはこの世界のエルフでないし、メイプルすら正体がわからない身体に転生しちまった女子高生なので、エルフィは返答を濁していた。

 もちろん、ジャンヌさんはそんなこと気にも留めずに睨みつけている。


「しかし、いくら貴女でも、おじい様の作り上げたこの城壁と防御魔法を超えることはできません」

「できるよ。今ジャンヌさんが言うたシステムやったら、私でも城壁ごと崩せる」

「不可能ですわ! 上級魔王の攻撃を防ぐのですよ?!」

「ジャンヌさん、今教えてくれたことな、確かに、中級魔王までならいい線いくと思う」

「な――――」


 なおも反論しようとするジャンヌさんの言葉が止まった。

 エルフィはただ、ジャンヌさんを見つめているだけだ。睨むどころか、怒りすら抱いていない。

 ただ、『淡々と解析した事実を再確認して』伝えているだけにしか過ぎない。

 だが忘れてはいけない。

 彼女もまたダンジョンマスターであり、あのメイプルをして『一刻も早く踏破するべきダンジョン』を作り上げた、ある意味ですでに魔王に近い存在となっていたことを。

 つまりところ、彼女が発する言葉には、初対面の相手でも感じられるほどの真実味と凄味がある。


「でもな、この設備で上級魔王の攻撃に耐えるのは無理や。私の知っとる上級魔王やったら、多分、本気出さんでも、二、三発くらいでグランド・ウォールごと城壁を破壊できる」

「なっ?! あのドリューシャですら攻めきれないとエルフが計算して」

「それは多分、このグランド・ウォールやない。きっとそれは」


 エルフィが確信を告げようとしている。

 メイプルがそこで待ったをかけようとして、リアさんに止められているのが見えた。

 リアさん、アンタって神様は……ここで試練を与えるってことか。

 こうなったら、見守るしかない。


 そして、エルフィが次の、決定的な言葉を紡ぐ、その時だった。


『晴樹さん!!』

「ハルキ!!」


 脳内に、ナターシャさんの声が響き、リアさんが俺の名前を呼ぶ声が聞こえて来た。

 そして、俺は自分でもほぼ無意識のうちにタスラムを収納魔法から呼び出しながら、城壁の真上に向かって撃っていた。


 一秒後、空高くでタスラムと何かがぶつかり、鐘楼を超える轟音が響き渡った。


「ルネ、ジャンヌを連れて逃げなさい!」


 メイプルが指示を出すと、ルネさんは何も言わずに、耳をふさいだまま混乱が解けていないジャンヌさんをお姫様抱っこして、出口の方へ向かい始めた。


「ルネ、何を」


 ジャンヌさんが文句を言おうとしていたが、ルネさんが階段の向こうに跳んで行ったので聞こえなくなった。身体強化を使っていたようだが、疾風の様だった。


「神ヴァーヴァリアス、一体何事だ?!」

「邪神の一柱が端末を送り込んできた。真上だ」

「さっきタスラムがぶつかる前に街の方には知られないようにしたわ!」


 さすがはメイプル。敵の存在を感知するのと同時に、オルバイン同様に色々と魔法を使ってくれたようだ。

 報告を聞いて、俺は完全に意識を上空へと向ける。


 巨大な光の繭が生まれていた。

 そう見えるのは、タスラムと敵が超高速で動いている結果だ。

 常時身体強化がかかっているため、常に鍛え続けられている状態の俺でも追いつけない。高いような、低いような音がずっと鳴っているが、ぶつかった時の音が重なって聞こえているって感じか。

 これで周囲どころか真下の俺たちに被害がないのは、メイプルの魔法のおかげか。


「リア、アイツの正体は?」

「ノディアーだ」


 その瞬間、俺はタスラムに向けてヴェスタ・フレイムを装填した魔弾を撃ち込んだ。

 もちろん、狙いは曖昧だったが、タスラム自身が上手に弾丸にぶつかってくれたおかげで、空中に巨大な炎が不死鳥が翼を大きく広げるように展開された。


『あ、これまず』


 ノディアーの、割とのんびりとした声が聞こえてきたが、ヴェスタ・フレイムを纏ったタスラムの攻撃を受けて、途中で残響すらなく消えた。


「逃げられたな」

「ダメか」


 リアさんからの報告に、セイジュさんが警戒態勢を解きながら顔をゆがませた。


「しかし、やられたな。邪神の奴らめ、威力偵察だぞ、アレは」

「私も直前まで察知できなかった。ふむ、神々(我々)の予想を超えて、端末だけでもこちらへ全力を持ってねじ込ませてきたようだ」


 その端末を破壊できなかった。一体、どれだけの情報が奴らにすっぱ抜かれただろうか。


「安心せよ、と言うのはおかしな話だが、邪神どもはこのエリスの事なら知っている。だが、奴らが何も考えずに、わざわざこのような事をするはずもない。となると……」


 リアさんとセイジュさん、そしてココロが街へと振り返る。

 メイプルの魔法によって、邪神との戦いは、街に一切知られていない。

 耳をすませば、夕方に向けてそれぞれ用事をしている人たちの声と生活音が聞こえて来た。


「神ヴァーヴァリアス。私なら、貴女と神々を出し抜ける算段させあれば、ノディアーをおとりにして、街に工作員を忍び込ませるが、どうだろうか」

「あたりだが、それは私が対処した」


 さすがは神。

 俺たちが察知できない敵を、いつの間にか何とかしてくれていた。


「では、奴らの作戦は失敗したのだろうか。いや、何か、今回の事を囮にした狙いが必ずあるはずだ」

「では、それも踏まえて、一度、ヴォーバン家とも話さなければなりませんね」


 セイジュさんたちが話し合う中、シャールさんがぼーっとして真上を見ていることに気が付いた。


「どうしましたか?」

「今のが、皆が言ってた邪神? 姿は見えなかったけれど」

「ええ、そうですね」

「……そっか……」


 シャールさんはつぶやくと、あとは黙りこんでしまった。

 そういえば、この人、邪神とは初遭遇だったな。普通なら、何が起きたのかわからず、戸惑うことだらけになると思うが、やけに冷静というか……何だか地下施設で研究していた時と同じような雰囲気を感じさせられた。


「皆、一度、屋敷へ戻ろう」


 セイジュさんの言葉に頷き、俺たちは屋敷へと戻った。


 屋敷へ戻り、セバスティアンさんに事の次第を報告すると、すでにジャンヌさんからも話を聞いていたらしく、難しい顔をさらに険しくした。


「ついに、この街にも……すぐに王へ報告せねば」

「その前に、セバスティアン殿、絶対魔法を発動させておかないのか?」

「発動させるには、王の力も必要なのです。ヴァーヴァリアス様、敵が次に来るまでに時間はあるのでしょうか?」

「あぁ。今しばらくは、端末の侵入すらないだろう」

「承知いたしました。それでは、一度、失礼いたします」


 セバスティアンさんがシャルロット王への報告に出かけた後、俺たちは応接間に移動した。それからすぐに、ルネさんがティーセットを運んできた。


「ルネ君、ジャンヌ君の様子はどうだい?」


 ルネさんは首を横に振った。

 どうやら、精神ダメージがかなり大きいようだ。


「あの、もしかして、私が言いすぎたせいで……?」


 エルフィが慌てていたが、別にそれだけが原因ではない。

 セイジュさんはエルフィの肩を優しく叩いた。


「別に君のせいだけじゃないさエルフィ君。とりあえず、敵が街に何か仕掛けていないか、調べないといけない」

「えと、メイプルちゃんとリアさんが見つけてないのかな?」

「探ってみたが、特に何も見当たらなった。しかし、こうなった時、奴らに、探してみてなかったから安全、という思い込みは危険だ」

「そうよ。まぁ、実際に街を見回っても、何も見つかりませんでした、本当は安全で大丈夫でした、ってこともあるでしょうけど」


 リアさんとメイプルの意見には賛成だ。

 アイツら、マジでなんでもありだからな……。

 この街の安全のためにも、直接確認してみる必要がある。


 班分けを行い、次のようになった。


・第一区画:俺、エルフィ、リアさん

・第二区画:ココロ、メイプル

・王城:セイジュさん、ブロード


 この組み合わせにエルフィが挙手した。


「えーと、この組み合わせって、どういう意図があるんですか?」

「うむ、良い質問だ。この組み合わせは、各場所で、もしも邪神が出現したり、その先兵がいた場合、応援が駆けつけるまでに耐えることができるであろうメンバーとなっている」


 第一区画と第二区画が敵が一番狙ってきそうという理由で、リアさんとメイプルがそれぞれ配置されている。

 王城は街や国としての本丸であるが、エリス様の加護があるとかで敵も早々手を出せず、さらに本人自体が街の最終兵器的な存在であるシャルロット王がいるため、セイジュさんと、オークの一族であるブロードがいれば、余程の自体でない限りは対処ができるとメイプルとセイジュさんが話し合った結果だ。


「じゃあ、エルナちゃんは? シャールさんはどうするんですか?」

「シャール君はヴォーバン家の客人だし、この後、セバスティアン殿と共にやるべきことがある」

「ごめんねー」

「それとエルナだが……彼女にも、少しやってもらわねばならないことがある」


 セイジュさんが視線を向けた先、ソファに座っていたエルナが、静かに頷いた。

 多分、ジャンヌさん関係、だと思う。昨日と今朝の様子から、二人が知り合いで、ある程度、仲の良い関係であることは伺えていた。

 どうなるかはわからないが、ここは、エルナに任せて、俺たちは俺たちの為すべきことをしよう。


「では、今から二時間後に、第二区画東門で落ち合おう。解散!」


 こうして、俺たちはそれぞれ、担当の区画へと繰り出していったのだった。




           ☆




 セイジュさんたちが玄関へ移動するのを見送ってから、ルネさんに連れられて、ジャンヌの部屋の前まで来た。


 ルネさんはずっと口を開かない。昔から、必要な時以外は喋らない人だった。

 それでも、彼女がジャンヌの事を心配していることは、よくわかっている。

 そんな彼女が口を開くとしたら、彼女の部屋へ立ち入る時か、報告をする時。


 でもルネさんは何も言わずに、扉の前を私に譲るように横へ身を引き、頭を四十五度下げてきた。

 私に、任せてくれる、と言う事らしかった。


「ありがとう」


 私は昔から知っている、年上の執事にお礼を言って、扉をノックした。

 しばらく返事はなかったけど、もう一度ノックしようかと考えたところで、


「ルネ?」


 中からジャンヌの、くぐもった声が聞こえて来た。

 ルネさんは、頭を下げたままだった。


「私よ、エルナよ」

「……ルネはそこにいますの?」

「いるわ」

「……………………はぁ」


 ため息が聞こえた後、すぐに部屋の鍵が開いた。

 部屋に入ると、青さも混じった茜色の部屋の中で、ベッドに腰かけたジャンヌが窓の外を見ていた。


 私は距離を測りながら、彼女へと近づいて行く。

 ベッド近くまで近づいても、彼女は拒絶するような素振りも気配も見せなかった。

 すぐ斜め前に立ってみると、ようやく、ジャンヌが口を開いた。


「ルネに言われたの?」

「自分の意志で来たよ」

「そう……」

「隣、いい?」


 何も言われなかったので、彼女の隣に座る。私の方が背が少し高いし、座高もあるから、彼女の少し伏せた目が、私の口元あたりにある。その視線は、私を見ておらず、窓の外に見える、黄昏の第二区画の城壁を見ていた。


「私、何も知らなったの」


 何も言わず、ただ、彼女の事を聞いて、受け止める。


「おじい様に聞いたら、グランド・ウォールは表向きの防御機構で、本当はもっと大がかりな防御機構があると、教えてくださったわ」


 ぽつり、ぽつりと、ゆっくりとこぼしていく彼女の目には、悲しみと落胆が浮かんでいた。


「私、おじい様に信用されていなかったの。うぅん、きっと、まだ、そんな場所にまでたどり着いていなかったのよ」


 プレストル様は、ジャンヌの事を、巻き込みたくなかったから、何も教えていなかったんだと思う。

 でも、それを今伝えても、彼女を追い詰めるだけだ。

 そんなことは、彼女が一番よく、わかっていると思うから。


「貴女は夢を叶えている途中ですのに……私は、まだ夢を叶える、開始地点にすら立っていなかったの」


 ジャンヌは、ついに目じりから大粒の涙を流したけれど、顔は上げたままだった。


「私は、何もわかっていなかった……知らなかった……ヴォーバンの、おじい様の役に立っていると、一番の弟子だと思っていたのは……勘違いだった……」


 彼女は声を震わせて、嗚咽も漏らし始めたけれど、私にぶつけることも、誰かにぶつけることもなく、一人で涙も声も感情も抱えるように、膝を抱えた。


「まだ夢、遠く……貴女に……偉そうなことを言って……私は……」


 膝に顔を埋めてそれ以上は泣き声になって何も言えなくなった彼女のそばに、私は寄り添った。

 日が暮れて、彼女が泣き止むまで、ずっと傍にいた。

お読みいただき、ありがとうございました。

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