6-2 サキュバス一行と城壁の乙女 第一区画を巡るツアー
9月に入りましたので、投稿時間を少し変えていこうと思います。
エリス第一区画を巡るツアーの最中、ジャンヌさんは楽しそうに街の事を教えてくれた。
国民たちが集い、催し物が月に二度行われる大広場。噴水は、ジャンヌさんのお母さんが設計したそうだ。
裏路地と言うものが存在しない、不思議でいて吹き抜ける風のような心地よさも覚えるいくつもの道路は様々な種族の人たちが行き交っている。中央は馬車が通れるようにしていて、左右の道を人が歩く道と定めているそうだ。
いろいろな店がある通りは、冒険者御用達の店舗も多く、また朝市も賑わうらしい。
ジャンヌさんおすすめのカフェも、この近くにあるそうだ。
鐘楼はセバスティアンさんと知り合いの技術者で作り、二十年以上も街に時間を届けている。その下には神殿があって、特に街の守護神であるエリス様を大きく祀っていると聞いた。
今回は、リアさんが、行かなくていいと言ったので、外から見るだけだった。
戦っている神様たちに感謝の気持ちを捧げれば力添えできるのではないかと、ジャンヌさんが言ったら、
「神殿でなくても、神々は本来、お前たちの声を聴き、お前たちの事を見守っている」
リアさんの返答に、ジャンヌさんは呆然とし、それを聞き入れていた。
それからも色々と案内してもらって、おやつ時も過ぎた頃にジャンヌさんが連れてきてくれたのは、第一区画を囲む城壁の真上だ。
普段は関係者以外が入れないように監視やら魔法やら色々と対策をしているらしいが、ジャンヌさんとココロとセイジュさん、それからリアさんは顔パスで、俺たちもパーティーだからと通してもらうことができた。
塔の部分から中に入り、螺旋階段を上った先で待ち受けていたのは、茜色に染まるエリスの街と、城壁外の絶景だった。
「うわぁ、綺麗やなぁ~!」
「お気に召していただけましたか?」
大はしゃぎするエルフィにジャンヌさんが微笑みを浮かべる。
どうやら、この場所はジャンヌさんのお気に入りの場所のようだ。
「後一つ回ろうと思いますが、ここまでで何か防衛面で気になる点はありましたか?」
「うむ、避難経路については、国民たちは把握しているのか?」
セイジュさんの質問に、ジャンヌさんは臆さず頷いた。
「ええ。この国に住まう者は皆、貴族であろうと避難訓練を半年に一度受けていただいております。本番でどこまで耐えうるかはわかりませんが、混乱はある程度、抑えられるかと」
へぇ……?
凄いな、この国。
何もしていないよりはずっといいかもしれない。
「と言う訳よ晴樹」
って今の質問、地球人向けか。
そりゃそうか。
王族で冒険者なセイジュさんが前にこの街に来るなりして、色々と質問していたことは想像に難くない。
わざわざわかっていたことを質問してくれたわけだ。
「避難訓練って、なんか学校みたいですねぇ」
エルフィが外の景色を見ながらそんなことを言っているが、社会人になってからも非難訓練するぞ?
とりあえず、セイジュさんみたいに、気兼ねなく質問すればいいか。
「別の質問いいですか?」
「どうぞ」
「俺たちが今、立っている城壁ですけど、これってどれくらいの攻撃までなら耐えられますか?」
「おじい様とエルフの方々の計算によれば、巨人族の攻撃にも問題なく耐えられるそうです」
「じゃあ、魔王の攻撃には?」
「はい、上級魔王の上級魔法各種にも、二度までは問題なく耐えられるそうです。そして、そのようなことが起きてしまった際は、国民たちは地下施設へ続く、一番近い通路へと非難してもらう手筈になっております」
それは、凄いな。
そしてこの城壁は、今まで見て来た中で、ココロの甲冑に一番近い防御能力を持っているってことか。
っていうか、やっぱりティタン族よりも強いんだな、上級魔王……。
「ですが、それはあくまでここまで来られたら。この街を常に覆っている防御魔法は、その上級魔王の上級魔法をいくら受けても傷一つなく、何年、何十年と耐えられるでしょう」
「防御魔法って、何かあるんですか?」
「ありますが、その説明の前に、エルフィさん、この街の防壁を見た時に、魔力を感じられませんでしたか?」
「え? ハイ・シールドとか、リフレクションとか、何重にも組み込まれてる奴ですか?」
「いいえ。それではありません」
「えぇっ?! な、なんやろ……? グランド・シールドは、ないし……」
惜しいっ。
多分、ジャンヌさんの言っている防御魔法とは、夜中にセバスティアンさんが言っていた、絶対魔法とかいう奴だろう。
「わかりませんか?」
「えと、えぇと、ちょっと待って、えぇと魔力の流れ……」
エルフィの奴、邯鄲の夢システム使わずに考えてるのか?
「降参ですか?」
「ちょちょっ、待って待って!」
『エルフィ、邯鄲の夢システムは使わないのか?』
『使ったらずるじゃないですか! 後、今考え中です!』
魔力通信で脳内に直接話しかけたらメッチャ怒られた。まぁ、当然ちゃ当然か。
ついに何も答えが出なかったエルフィに、ジャンヌさんは不敵な笑みを向けた。
「ふふっ、時間切れですわね」
「ぐぅ……わからないです。一体何があるんですか?」
「それはですね」
ジャンヌさんはあたりを見回し、それから内側と外側、それぞれ手すりを掴んでまで、近くに俺たち以外の者が潜んでいないかを確認した。
いや、まぁ、地表数十メートルのところに普通、誰もおらんがな、と言いたいが、異世界だとそうも言ってられんもんな。
後、ルネさんにも確認を取っているあたり、彼女なりに気を使っているようだ。
おいおい、言っていいのか?
一応、この街最大クラスのヒミツで、最終防御システムだぞ?
そんな心配をしていたが、メイプルとリアさんは興味なさげに適当な方角を見ていたりするので、まぁどうにかなるんだろう。でも、防音魔法使ってないよな? 認識阻害も?
「こほんっ、そう、この城壁を覆っている常時発動の魔法、それは」
「それは?」
メイプルが張っていない。と言うことは……。
「グランド・ウォールです!」
おぉい、ジャンヌさぁん、そこで教えるの、違う奴ではー?
まぁ、別にいいんだが。
ところで、グランド・ウォールってあれか?
城壁に組み込まれてた魔法だよな? 城壁の破損や敵側の情勢を見て発動させる、最後の砦的な奴。
「ぐ、グランド・ウォール? グランド・ウォールって……え、あれ、グランド・ウォール?」
「ご存じではありませんか?」
「知ってますー! 知ってますけど、え、でも……あれは」
エルフィが何かに引っかかっている様子だが、ジャンヌは気にした様子もなく、むしろ、あの魔法使いの頂点であるエルフの一人に勝てた、みたいな感じで上機嫌だった。
……あれ? この子、もしかして……とメイプルを見たら、頷き返された。
「そう、グランド・ウォール一枚では魔王どころか、ティタン族の攻撃にもそう何度も耐えられません! しかし、この第一区画の城壁に仕込まれたグランド・ウォールは他国の城壁の十倍です! 魔力も魔石と、おじい様が構築した運用システムによって、通常の三分の一の魔力だけで使用が可能なのです!」
おい、機密事項だろそれ、いくら俺たちだけしかいないからって外部でペラペラしゃべるなよ。
『あれ、一般人にも広く知れ渡ってることよ』
メイプルから魔力通信が入ってきたと思ったら、呆れ声で教えてくれた。
『ただ、この方法は、彼女も知らないシステムが関わってるから、他国では再現不可能なのよ。今のところね。二十一世紀地球の技術と職人と、あとは設備に、魔法が加われば年数抑えられるでしょうけれど、それでも一か所で一年以上はかかるでしょうねぇ』
『これも、地下施設が関わってるのか』
『そういうことね』
俺たちが脳内会話を続けている間も、ジャンヌさんはテンションが若干高めな様子で解説をしてくれている。
その様子を見れば、セバスティアンさんをどれだけ尊敬しているのかが、よくわかった。
「つまり、この都市は人類最後の砦なのです!!」
『そう、この都市は、ヴォーバンと勇者夫婦が作り上げた、人類の砦の一つ。けれど』
あぁ、そうだな。
確かに凄い。
だがな、ジャンヌさん。
君の目の前にいるのは、この世界のエルフじゃない。この世界のエルフがどれだけ凄いかは実のところよく知らないが、少なくとも、その子は、俺が知っている人類側の中でも、魔法に関してはトップクラスだぞ?
「そうなんかな?」
解説を最後まで聞いたエルフィが、訝しむ。
どうやら、クッタクァとノディアーと戦った時のように、スイッチが入ったようだ。
その目は、魔法について試行錯誤している時のメイプルと同じような輝きを放ち出していた。
お読みいただき、ありがとうございます。




