5-1 サキュバス一行と白金の女王 よく連れてきてくれたわね
ヴォーバン別邸に招待された翌日、温かく素敵なモーニングを楽しんだ俺たちは、セバスティアンさんとジャンヌさんに連れられて、そこに来ていた。
大広間、人間や魔族の入り混じる重鎮らしき人たちが左右に立ち並ぶカーペットの上で膝をつく、セイジュさんとリアさん以外のメンバーである俺たちに、声がかけられる。
「おぉ、よくぞ来た勇者とその仲間たちよ。面を上げてよいぞ」
言われて顔を上げると、そこにいたのは、豪奢な椅子に腰かけた、麦畑のように輝く金色の髪と、誰もが振り向くだろう美貌を持った少女だ。
年は十代後半くらいだが、纏っているオーラと魔力がとんでもない。
来ている白色のドレスも、とても質の良い素材を使っていることがわかる。
そりゃそうだ、彼女の頭上に輝く冠が彼女の立場を嫌でも教えてくれる。
「初めましての者もおるな。私こそ、このエリスの王、シャルロットである」
ついでに、元魔王でダンジョンマスターである。
それにしても、彼女からはセイジュさんのような不思議なカリスマ性を感じられる。
女神様の要望で王様になったらしいが、街と彼女の様子を見る限り、しっかりと役割を果たしているらしい。周囲の偉い人たちも尊敬の目を向けているし。
と言うか、そもそも何故俺たちが王様の前にいるのかと言うと、ナターシャさんの啓示を受けた後、セバスティアンさんが王様に勇者とそのパーティーが来ると報告したからだ。
なら、そのパーティーに一目会いたいと王様が言ったので、この謁見が成立したらしい。
一か月前ルール、ないのかな……仕事とか色々忙しいだろうにわざわざ……。
「この度は私の我が儘で、わざわざ来てもらって悪かったな。さて、ココロやセイジュ殿とも久々に語り合いたいことであるし、すまぬが皆、席をはずしてもらえるか?」
えっ、何言ってるんだこの王様?!
いくら自分が元魔王だからって、勇者と悪い事絶対許さない破壊神がいるからって、家臣を全員部屋の外に出すのか? ほら、うさ耳の獣人の女性の家臣さんがこっそりため息ついてるよ。
って、隠密部隊らしき人たちも皆綺麗さっぱり撤退していった。気配もそうだし、索敵魔法で見ても、完全に撤退していた。
いいのか、おい……って、王様の後ろにメイドが一人だけ残った。気配は……ない。結構手練れだな。目を瞑り顔を少し俯かせ、玉座の影に隠れるように控えている。
「これで、お互い腹を割って話せるな」
シャルロット王は俺たちを見渡した後、すぅと息を吸って、
「待ちくたびれたわセバス~~~~!! よく連れてきてくれたわね~~~~~~!」
突然、喜色満面の笑顔と、大きく広げて掲げた両手の、テンションマックス状態でそう叫んだ。
アレ、シャルロット王?
「ココロとセイジュも久しぶりね~! あ、二人とも、また背が伸びたんじゃない?」
「そうでしょうか?」
「そうよ! うんうん、いいわね。ヴァーヴァリアス様も久しぶりですね。またいらしていただけて光栄です」
「全てが終わったらな」
「はい、その時は存分に楽しんでいただければ」
華やかな笑顔と雰囲気で談笑する様子に、あぁ、これが彼女の素の一つなのかと納得した。
だから、家臣たちを下がらせたと。いや、あの人たち絶対知ってそうだ。うさ耳の家臣さんのため息って、そう言う事だよな。
ココロたちも彼女の豹変に驚いていないし、つまり、これはいつもの光景って奴なんだろう。
度肝を抜かれたが、変に気張ってないのは助かる。俺とエルフィが。
そのエルフィは、シャルロット王の変わりように目を丸くして固まっている。
あ、王様がこっち見た。
もう目がメッチャキラキラしてるよ……色は琥珀色って奴だな。綺麗だ。とても純粋に俺たちへ興味を抱いていることが伺えた。
「アンタたちがココロの仲間ね! ようこそ、エリスへ! ほら、もう立って、楽にして話しましょう!」
それはどうなんだろうとも思ったが、セバスティアンさんが頷いてくれたので、全員立ち上がった。
そうすると、シャルロット王の頭が、俺の鼻くらいの位置になった。ふわりと、薔薇の香がした。
「ふぅん?」
と、シャルロット王が俺たちを見渡した後、顎に手を当てて、意味深にほほ笑んだ。
「サキュバス、ドワーフ、それに、貴方、オークね」
マジかこの人。
シャールさんはともかく、気配を隠して変装しているメイプルとブロードの正体を見破ったぞ。
流石は元魔王、と舌を巻いた。
ブロードは目を丸くし、エルフィも絶句している。
そして、ずっと静かだったメイプルはと言うと、
「あら、思ってたより早くばれたわね」
皮を被る事なく、素の状態で話し始めた。
こいつ、一国の王様相手にため口で対応してやがる……いや、神様たち相手にもこの調子だから、今更なんだが。
そして、シャルロット王はメイプルの態度に機嫌を悪くすることなく、むしろ嬉しそうに口端を釣り上げた。
「これでもエリス様相手に話すこともあるし、力を隠した実力者を見抜くくらい、朝飯前よ」
つまり、神様のような超存在を相手にしてるから、力を感じられるようになっている、と。
とんでもねぇなこの人、いや元魔王。
「薄桃色の髪の、魔王を凌駕する魔力を隠したサキュバスの幼子……なるほど、貴女が噂の『神殺し』ね」
「あら、その名前を知ってるの?」
「エリス様から前に聞いたことがあるのよ。ロキって神様や巨人たちを退けた勇者だってね!」
あ、だめだ。
この人、メイプルのヒミツ、メッチャエリス様から聞いてる。
メイプルの目が面白そうに笑い、シャルロット王を見上げた。
「あら、勇者だなんて。それに、あれは私だけの功績じゃないわ」
そう言ってメイプルはまだ固まっているブロードの肩を抱いて引き寄せた。
これには流石に我に返ったらしく、ブロードは真っ赤になって慌てだした。
「うわっ、メイプルちゃん?!」
「この子や、仲間たちがいたからできたことよ。勇者って言うなら、この子も勇者よ」
「へぇ、確かに、中々いい目をしているわね」
「ち、近いですっ!」
シャルロット王に至近距離で見つめられたブロードが上半身を仰け反らせ、メイプルがそれを支えてやっていた。
なんとも微笑ましいが、一人、目を白黒させている人物が一人いた。
ジャンヌさんだった。
「あ、あの、恐れ入りますが陛下、発言をよろしいでしょうか」
「ジャンヌ、そんな固いしゃべり方しなくていいわよ。ほら、シャルロットって呼んでくれていいから、ね? あ、いや? ちぇっ……んで、何かしら?」
「メイプルちゃんの話は……まぁ、色々とツッコミたいところはありますが、その、ブロードちゃんが、オークと仰せになりましたか?」
「えぇ、言ったわよ」
ジャンヌさんの目が、メイプルとシャルロット王にからかわれて茹蛸状態のブロードに向けられる。
「……魔力があることはわかりますが、その、オークと言うには、その、あまりにかわいらしいのでは? それに、オークは冥府の門番。地上に姿を現すことはないはず……」
「オークでも子どもってそんなものよ。それと、この子、男の子よ」
「え?」
ブロードを見て、シャルロット王を見て、またブロードを見て、
「女の子ではないのですかッ?!!」
「体つきとか本当に女の子っぽいけれど、確かに男の子よ。違うかしら?」
「えぇ、ブロードは男の子よ」
「……ウソ……」
「後、ブロードはちょっと事情があって地上に来てるのよ。もちろん、親公認でね」
メイプルとシャルロット王の言葉に、ついにジャンヌさんも笑顔になり、
「ブロードちゃん」
「ううう……え? あ、はい?」
「正直に答えて。貴女は、いえ、貴方は男の子で、オークなの?」
「はい、そうです」
ようやく男と認めてもらえたのが嬉しかったのか、はにかむブロードを、慈しむような目を向けた。
いや、違う、何かもうどこか遠くを見るようになってる!
エルナたちみたいに、この人も色々と限界を超えたようだ。
「忙しない奴らめ」
「ジャンヌも、まだまだ学ぶことは多くありますな」
そんな俺たちの様子を見て、リアさんとセバスティアンさんが微笑んでいた。
いや、何、このカオス空間。
こうして、俺たちは謁見、もといシャルロット王との邂逅を果たしたのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
ココロ「……」←確かに、ブロードちゃんは……驚くわね、と兜の下で困った笑顔
ルネ「……」←驚いたがすぐ冷静になり、ブロードの今夜の着替えを男性者にするか検討中
メイド「……」←徹頭徹尾無言で、冷静にブロードの愛くるしい姿を記憶に刻み付けている
シャルロット「いや、何やってるのよ貴女は」




